設立の手続き
金属くず商の許可は法人成りで取り直し。銅の買受けは届出も別に
結論
個人の金属くず商許可は会社へ引き継げません。大阪府の条例には承継の規定がなく、営業を廃止すれば許可証を返納します(8条)。会社は新規に許可を申請し、手数料は長野県で8,500円、大阪府で7,500円です。銅のスクラップを買い受けるなら、盗難特定金属製物品処分防止法の届出も会社名義で営業開始の前日までに出し、個人の分は廃止届を出します。
- 特定金属くず買受業の届出は営業所ごと・届け出た者ごと。法律に承継の規定はなく、会社は開始届(定款・登記事項証明書・代表者の住民票の写しを添付)を出し直す
- 法律の本人確認記録・取引記録は3年間保存。大阪府条例の帳簿は1年間で、保存期間が違う
- 経費4,200万円・40〜59歳・物品販売業(第1種5%)の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は長野県の手数料込みで1,349万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
スクラップの買取は、許認可が二重になっている業種です。県の条例による金属くず商の許可と、2026年6月1日に全面施行された盗難特定金属製物品処分防止法(金属盗対策法)による特定金属くず買受業の届出です。法人成りでは、どちらも個人から会社へは移りません。
この記事は、営業所(ヤード)を構えて銅線・真鍮・鉄などのスクラップを買い取り、問屋や製錬所へ売っている個人事業主を想定しています。2つの手続きの承継の有無、会社名義で出し直す順番、記録の保存、損益分岐を順に確認します。
金属くず商の許可は県条例の制度で、県ごとに違う
金属くず商は国の法律ではなく、都道府県の条例の制度です。そのため、許可制か届出制か、手数料、有効期間が県ごとに違います。県内に条例があるかは、営業所を管轄する県警の案内で確認してください。
ここでは、条文と手数料を公式に確認できた長野県と大阪府を例にとります。
| 項目 | 長野県 | 大阪府 |
|---|---|---|
| 条例 | 金属くず商及び金属くず行商に関する条例 | 大阪府金属くず営業条例 |
| 営業所を設ける場合 | 営業所ごとに許可 | 公安委員会の許可(3条) |
| 新規許可の手数料 | 8,500円 | 7,500円(26条) |
| 有効期間 | 3年(更新手数料1,000円) | 定めなし |
| 取引相手の確認・帳簿 | 対価の総額100円以上の取引で義務 | 帳簿は1年間保存(13条2項) |
長野県の許可の標準処理期間は42日です。会社の許可が下りるまでの間、会社名義では営業できない点を日程に織り込む必要があります。
条例に承継の規定はなく、個人の許可は返納する
大阪府条例を読むと、許可を受けた金属くず商が営業を廃止したときは、遅滞なく許可証を公安委員会に返納すると定めています(8条1項)。死亡・解散のときも返納です(同条2項)。事業を譲り受けた者が地位を引き継ぐ、という条文はありません。
個人事業主が設立した会社は、個人とは別の人格です。会社が金属くず業を営むには、会社として3条の許可を受けることになります。無許可で営業すると1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金の対象で(30条1号)、両罰規定で会社にも罰金が科されます(33条)。長野県警の案内にも、承継や法人成りの手続きは載っていません。
同じ「警察の許可・承継の規定なし」の型には、古物商の法人成りがあります。中古品として売れるものは古物、素材としてしか価値がないものは金属くずという線引きで、両方を扱う業者は古物商許可も取り直しになります。
会社の申請で審査が広がる部分
会社で申請すると、審査の対象が個人1人から役員全員に広がります。大阪府条例は、業務を行う役員のうちに欠格事由に当たる者がいる法人を許可しません(4条7号)。長野県の案内でも、法人の申請には登記事項証明書と役員全員の住民票の写しを添えます。
大阪府条例は、営業所ごとに管理者を1人置くことも求めています(11条1項)。社長自身が管理者を兼ねるか、従業員を充てるかを申請前に決めておきます。
特定金属くず買受業の届出も、会社名義で出し直す
金属盗対策法は令和7年6月に公布され、届出などの規定は2026年6月1日に施行されました。法律は、警察が太陽光発電設備を設置する者などへ盗難防止の情報を周知することも定めています(16条)。
この法律は特定金属として銅を挙げています(2条1号)。特定金属くずは、主として特定金属でできた金属くずで、物を作る過程で出る端材と、古物に当たるものを除きます(2条3号)。長野県警は、銅や銅を主とする青銅・真鍮、エアコン室外機などを扱う場合に届出が要ると案内しています。
届出は「届け出た者」ごとで、承継の条文がない
3条1項は、特定金属くず買受業を営もうとする者が、営業所ごとに氏名・住所・営業所の所在地などを公安委員会に届け出ると定めています。届出は届け出た者に結び付いていて、法律にも施行規則にも、事業の譲渡で地位を引き継ぐ規定はありません。
変更届(3条2項)は、届け出た事項(営業所の所在地を除く)が変わったときの手続きです。届け出る者そのものが個人から会社に替わる場合の定めはないため、法人成りでは次の2つを出します。
| 手続き | 誰が | 期限 | 主な添付書類 |
|---|---|---|---|
| 営業開始届出書 | 会社 | 営業を始める日の前日まで(施行規則1条2項) | 定款、登記事項証明書、代表者の住民票の写し、営業所と保管場所の平面図・略図(同条5項) |
| 営業廃止届出書 | 個人 | 廃止の日から14日以内(施行規則2条2項) | — |
届出は営業所を管轄する警察署長を経由して出します。法律に手数料の定めはなく、長野県警の案内でも手数料はかかりません。届出をしないで営業すると、6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象です(23条1号)。条例の罰則より重く、両罰規定で会社にも罰金が科されます(25条)。
施行の際に営業していた業者には、施行日から3か月の猶予がありました(附則2条)。この猶予は既存業者のためのもので、施行後に設立する会社には使えません。
ウェブサイトを作ると、氏名等の公表義務が生じ得る
届け出た者は、営業所ごとに氏名・届出をした公安委員会・届出番号等を見やすい場所に表示します(5条1項)。加えて、ウェブサイトでも公衆の閲覧に供します(同条2項)。ただし、常時使用する従業者が5人以下の場合と、自社が管理するウェブサイトがない場合は除かれます(施行規則3条2項)。
個人のときはサイトがなかった業者でも、法人成りを機に会社のサイトを作り、従業者が6人以上いれば、サイトへの掲載が必要になります。
本人確認と記録は、法律と条例で基準が違う
金属盗対策法では、特定金属くずを買い受けるとき、相手の氏名・住居・生年月日を運転免許証などで確認し(7条1項)、本人確認記録と取引記録を作って、買受けの日から3年間保存します(8条2項・9条2項)。取引記録には、量・特徴・価額・代金の支払方法などを記録します(施行規則10条)。
前に取引した相手から買い受け、代金をその相手の口座へ振り込む場合は、本人確認を省けます(施行規則6条1項1号)。その場合も、同一人であることを確かめた記録を3年間残します(同条2項)。
条例にも似た義務があります。長野県の条例は対価の総額100円以上の金属くずの買受けで相手の確認と帳簿への記載を求め、大阪府条例は帳簿の保存を1年間としています(13条2項)。銅を扱う業者は、法律の3年に合わせて運用しておくと取り違えが起きません。
法人成りの前後で取引の主体が替わるので、個人時代の記録と会社の記録は分けて保管します。常連の持ち込み業者を会社の取引先として扱い始めるときは、会社として最初の本人確認から始める運用が手堅い進め方です。
法人成りの順番
2つの手続きと会社設立を、営業の空白が出ないように並べると次のとおりです。
- 会社を設立し、登記事項証明書と定款をそろえる(手順と実費は会社設立を自分でやる手順)
- 会社名義で金属くず商の許可を申請する(長野県なら標準処理期間42日)
- 許可が下りたら、会社として営業を始める日の前日までに特定金属くず買受業の開始届を出す
- 在庫のスクラップ、重機・トラック、ヤードの賃貸借を会社へ移す
- 個人の金属くず商許可証を返納し、特定金属くず買受業の廃止届を14日以内に出す
許可も届出も、会社のものが整う前に個人の分を止めると、その間は買取ができません。逆に、個人と会社が同じヤードで並行して買い受ける期間は、どちらの名義の取引かを記録で区別します。ほかの許認可の承継の可否は法人成りで許認可は引き継げるかに一覧でまとめています。
廃棄物として処理料金を受け取って回収するものは、金属くず商ではなく産業廃棄物の収集運搬業の許可の領域です。その許可も法人へは承継できません(産廃の収集運搬業の法人成り)。
物品販売業の個人事業税と損益分岐
スクラップを買い取って売る事業は、個人事業税の物品販売業(第1種事業・税率5%)に当たります(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
スクラップ業は仕入れが売上の大半を占めます。仕入れ・重機の燃料・運搬などの経費を年4,200万円、社長を40〜59歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −44.9万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −29.8万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −20.8万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −15.2万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +15.3万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +54.9万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 4200 --business type1 --age 40to64 --fee 8500 --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費4,200万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用8,500円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度は長野県の新規許可手数料8,500円を含めて1,349万円です。手数料を含めない場合の初年度は1,341万円なので、許可の取り直し費用そのものが判断を左右する大きさではありません。地域は他の許認可記事とそろえて東京23区で置いているため、長野県や大阪府の国民健康保険料とは異なります。
数字よりも効くのは、会社の許可が下りるまでの日数です。売上が大きく粗利が薄い業種なので、買取を止める期間の粗利の逸失は、手数料よりはるかに大きくなり得ます。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 金属くず商の許可は県条例の制度で、大阪府条例には承継の規定がなく、営業を廃止すれば許可証を返納する。会社は新規に許可を申請する(長野県8,500円、大阪府7,500円)
- 銅のスクラップを買い受けるなら、金属盗対策法の特定金属くず買受業の届出も会社名義で営業開始の前日までに出し、個人の分は14日以内に廃止届を出す
- 法律の本人確認記録・取引記録は3年間保存。条例の帳簿の保存期間とは違う
- 会社のウェブサイトを作り従業者が6人以上なら、氏名等をサイトにも掲載する
- 経費4,200万円・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は手数料込みで1,349万円
よくある質問
銅を扱わず、鉄スクラップだけを買い取る場合も届出は要りますか。
盗難特定金属製物品処分防止法の届出の対象は「特定金属くず」の買受けで、法律は特定金属として銅を挙げています。長野県警は、銅や銅を主とする青銅・真鍮、エアコン室外機などを扱う場合に届出が要ると案内しています。鉄だけなら法律の届出の対象外になり得ますが、県条例の金属くず商許可は金属くず全般が対象です。
法人成りの前に、個人で出した特定金属くず買受業の届出を変更届で会社名義に直せますか。
変更届は届け出た者の氏名・住所などが変わったときの手続きで、届け出る者そのものが個人から会社に替わる場合の定めはありません。会社は営業開始の前日までに開始届を出し、個人は廃止の日から14日以内に廃止届を出します。
法人成りで会社の役員を増やすと、許可の審査に影響しますか。
大阪府条例では、法人の業務を行う役員のうちに欠格事由に当たる者がいると許可されません(4条7号)。長野県でも法人の申請には役員全員の住民票の写しを添えるので、役員を増やす場合は全員が審査の対象になります。
出典
- e-Gov法令検索 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律 第2条(定義)・第3条(届出)・第5条(氏名等の表示)・第6条(名義貸しの禁止)・第7条(本人確認)・第8条・第9条(記録の保存)・第20条(条例との関係)・第23条・第25条(罰則)・附則第2条(経過措置)
- e-Gov法令検索 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律施行規則 第1条(開始の届出)・第2条(廃止等の届出)・第3条(表示の方法等)・第6条(本人確認を不要とする場合)・第10条(取引記録の記録事項)
- 長野県警察 金属くず商許可申請・金属くず行商の手続
- 長野県警察 特定金属くず買受業の届出等の手続(金属盗対策法)
- 長野県警察 審査基準(金属くず商及び金属くず行商に関する条例第3条 金属くず商の許可)
- 長野県警察 金属くず取引の際は要注意(金属くず商及び金属くず行商に関する条例の規定)
- 大阪府 大阪府金属くず営業条例(第3条・第4条・第8条・第11条・第13条・第26条・第30条)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:物品販売業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。