設立の手続き
古物商の法人成り|法人許可・在庫・URLの切替手順
結論
個人の古物商許可は新設法人へ名義変更・承継できません。法人は主たる営業所を管轄する警察署へ新規許可を申請し、許可後に仕入れ・販売主体、在庫、古物台帳、標識、ECサイトの名称・URL・許可表示を法人へ切り替えます。最後に個人営業を廃止し、廃止日から10日以内に個人の許可証を返納します。
- 代表者と営業所が同じでも、個人許可を法人の許可として使うことはできない
- 法人申請では役員全員と営業所ごとの管理者が欠格要件等の確認対象になる
- 法人許可後に在庫と取引を移し、個人の許可証は廃止日から10日以内に返納する
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
古物商の法人成りでは、個人事業の屋号を会社名へ変えても許可は移りません。古物商許可を受けた個人と、設立した株式会社・合同会社は別の「人」です。代表者、店舗、管理者が同じでも、法人は法人名義の新規許可を受けるまで古物の仕入れ・販売を業として行えません。
法人化の作業は、許可申請だけでは終わりません。個人で買い取った在庫、古物台帳、営業所の標識、ECモールの出店者、ウェブサイトの許可表示、代金口座を、許可が有効になった日を境に法人へそろえる必要があります。
個人許可は法人へ承継できない
古物営業法3条は、古物商を営もうとする者に公安委員会の許可を求めています。同法には、個人事業の全部を法人へ譲渡したときに古物商の地位が移る規定がありません。個人の氏名変更や法人の商号変更に使う変更届・書換申請で、許可主体そのものを個人から法人へ入れ替えることもできません。
法人化では、法人を申請者として新規許可を受け、個人は営業を廃止した後に許可証を返納します。個人許可の番号を法人の請求書、店舗標識、ウェブサイトへ載せると、法人が許可を受けているように誤認させます。
| 項目 | 個人から法人への扱い |
|---|---|
| 古物商許可 | 承継・名義変更不可。法人が新規申請 |
| 許可証番号 | 個人番号を法人は使用できない |
| 登録した営業所 | 法人の許可申請書へ改めて記載 |
| 営業所管理者 | 法人の営業所ごとに1人を選任 |
| 取扱う古物の区分 | 法人の事業内容に合わせて申請 |
| ECサイトURL | 法人に使用権限があるURLを申請・届出 |
| 個人許可証 | 個人の廃止後10日以内に返納 |
建設業や飲食店など、事業譲渡で許可を承継できる業種もあります。古物商はその型ではありません。違いは法人成りで許認可を引き継げるかで比較できます。
法人を設立してから新規許可を申請する
法人許可の申請には法人の定款と登記事項証明書が必要なので、先に会社を設立します。その後、主たる営業所の所在地を管轄する警察署の防犯係へ申請します。2020年4月1日から許可単位が見直され、営業所のある都道府県ごとではなく、主たる営業所を管轄する公安委員会の許可で全国の営業所を管理する制度です。
東京都の新規許可申請手数料は19,000円です。申請が不許可でも返還されないため、営業所、役員、管理者、URL、取扱品目を警察署へ事前相談します。審査期間や提出部数、予約方法は都道府県警察で異なるので、法人設立日から機械的に営業開始日を決めません。
警視庁が案内する法人申請の主な添付書類は次のとおりです。
- 法人の定款と登記事項証明書
- 役員全員と営業所管理者の略歴書
- 役員全員と管理者の本籍記載の住民票の写し
- 役員全員と管理者の誓約書
- 役員全員と管理者の市区町村発行の身分証明書
- インターネット取引を行う場合、URLの使用権限を疎明する資料
取締役だけでなく、申請書上の役員全員が確認対象です。役員を増やせば必要書類も増えます。古物営業法の欠格事由に該当する役員や管理者がいないか、設立時の役員選定前に確認します。
取扱品目は、美術品、衣類、時計・宝飾品、自動車、二輪車、自転車、写真機、事務機器、機械工具、道具、皮革・ゴム製品、書籍、金券の13区分です。主として扱う区分と、各営業所で扱う区分を、実際の仕入れ・販売計画に合わせて申請します。
営業所と管理者を法人の実態に合わせる
古物商は営業所ごとに、業務を適正に実施する責任者として管理者1人を選任しなければなりません。代表者本人を管理者にすることもできますが、複数営業所を常態的に一人で管理するような名目的選任は避けます。各営業所の営業時間、勤務場所、指導監督の実態を説明できる配置にします。
自宅を法人の営業所にする場合、会社の本店登記があるだけでは十分とは限りません。賃貸借契約・管理規約上の事業利用、商品の保管、古物台帳の管理、来客の有無、管理者の勤務実態を確認します。レンタルオフィスやバーチャルオフィスは、実際に古物営業を管理できる場所かを申請前に所轄警察署へ相談してください。
許可後は営業所の見やすい場所に、法人名義の古物商標識を掲示します。個人時代の標識を、番号だけ隠して流用してはいけません。従業者が行商するときの従業者証、管理者への法令教育、盗品等の疑いがある場合の申告手順も法人用に更新します。
営業所の新設・移転・廃止、主たる営業所の変更、営業所名称の変更は、原則として変更日の3日前までの事前届出です。役員、管理者、取扱区分、URLなどの変更は、変更日から14日以内、登記事項証明書を添付する変更は20日以内という事後届出が基本です。変更内容ごとに様式と提出先を所轄警察署へ確認します。
ECサイトのURLと許可表示を法人へ変える
自社サイト、オークション、フリマアプリ等を利用して古物取引を行う場合、法人が使用できるURLを申請書へ記載し、使用権限を疎明します。個人名義で契約したドメインやモール店舗を使い続けるなら、ドメイン登録者・出店者契約を法人へ変更できるかをサービス提供者へ確認します。
ウェブ上には、法人の正式名称、許可した公安委員会名、法人の許可証番号を表示します。2024年4月施行の改正後も、インターネット取引を行う古物商は「特定古物商」としてウェブサイト上の表示義務の対象です。屋号だけ、個人の氏名だけ、個人許可番号のままでは法人の表示になりません。
表示を変える場所は会社概要ページだけではありません。特定商取引法表示、買取申込画面、利用規約、プライバシーポリシー、注文メール、請求書、領収書、振込口座、返品先、モールの事業者情報を一覧にして、法人の営業開始日に切り替えます。
インターネット買取では、運転免許証の画像を受け取るだけで、古物営業法上の非対面本人確認を満たすとは限りません。法人化を機に買取フローを変更する場合、警視庁等が示す非対面取引の確認方法に合うかを確認します。法人許可が下りても、本人確認手順が不適切なら適法な買取にはなりません。
個人在庫は法人許可後に売買して移す
個人で仕入れた中古品は、会社を設立しただけで法人所有になりません。法人許可が有効になった後、個人から法人への売買または現物出資等で移します。少量の一般在庫なら、品名、管理番号、数量、状態、個人の取得日・取得価額、譲渡日・譲渡価額を一覧にし、事業譲渡契約や売買契約の別紙にします。
法人側から見れば、個人から古物を買い受ける取引です。警視庁は古物商同士の取引でも相手方確認は免除されないと案内しています。個人事業主本人の住所、氏名、職業、年齢を所定の方法で確認し、古物台帳等に記録すべき取引を漏らさないようにします。
在庫の譲渡価額は、個人帳簿の簿価をそのまま使えばよいとは限りません。市場価格、滞留期間、傷み、販売見込みを踏まえて時価を説明できる資料を残します。高額品、車両、貴金属、ブランド品は、評価、名義、担保、真贋、犯罪収益移転防止法の確認も個別に行います。
法人許可前に、法人名義で中古品を買い取り、個人の許可番号を表示して販売することはできません。申請中は個人が個人名義で取引を続け、次のように日を分けます。
- 法人を設立し、営業所・役員・管理者・URLを確定する
- 法人が新規の古物商許可を申請する
- 審査中は個人が個人許可で仕入れ・販売し、法人取引を始めない
- 法人許可後、在庫譲渡日を決めて棚卸しする
- 翌営業日から法人名義で買取・販売し、標識・EC表示・口座を切り替える
- 個人営業を廃止し、廃止日から10日以内に許可証を返納する
この工程なら営業の空白を減らせます。ただし、同じ日に大量の出品名義や決済口座を変更できるか、モールの再審査に時間がかからないかを先に確認します。
古物台帳・本人確認記録を分けて保存する
法人化前の古物台帳は個人許可に基づく記録であり、法人の台帳に書き換えて個人分を消すものではありません。個人の最終取引までの台帳を保存し、法人の営業開始日から法人の新しい台帳を開始します。電子台帳では、許可主体、許可番号、取引日、担当者を後から区別できるようにします。
取引相手の住所・氏名・職業・年齢の確認、品目・数量・特徴、受渡日、相手方確認方法など、法令で必要な項目を法人の買取システムへ設定します。個人時代の顧客情報を法人へ移す場合は、利用目的、第三者提供、事業承継に伴う移転、安全管理、保存期間を個人情報保護法との関係で整理します。
盗品等の疑いがある申込み、シリアル番号の不一致、本人確認資料の不備をどこへ報告するかも法人のマニュアルにします。管理者だけが理解するのではなく、買取担当者、出張買取担当者、EC運営者が同じ基準で対応できるようにします。
貴金属等を扱う古物商は、犯罪収益移転防止法上の特定事業者にもなり得ます。一定の取引における本人特定事項の確認、確認記録・取引記録、疑わしい取引の届出など、古物営業法とは別の義務があるため、取扱品目に応じて追加確認します。
法人成りの採算に許可と在庫移転費用を入れる
標準条件の損益分岐は次のとおりです。npm run calc:table -- breakevenで再現できます。東京都の法人許可申請手数料19,000円、証明書取得、標識、ECモール再審査、在庫評価・契約、管理者人件費はこの表へ自動では入りません。
| 条件 | 損益分岐となる事業所得 |
|---|---|
| 基本(独身・インボイス登録済み) | 1,266万円 |
| 株式会社で設立 | 1,266万円 |
| 配偶者あり(無収入) | 1,016万円 |
| 配偶者あり+扶養1人 | 1,066万円 |
| インボイス未登録 | 1,266万円 |
| 40〜59歳(介護保険あり) | 1,243万円 |
| 大阪市 | 1,283万円 |
| 名古屋市 | 1,270万円 |
| 白色申告 | 793万円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年分
古物商では許可申請手数料より、在庫を法人へ移したときの譲渡損益、消費税、モール休止期間、法人名義の決済審査が採算へ大きく影響することがあります。在庫評価額と切替中の売上減少を追加経費としてシミュレーターへ入れてください。
まとめ
- 個人の古物商許可は法人へ承継できず、法人が新規許可を受ける
- 法人の役員全員と営業所ごとの管理者について必要書類をそろえる
- 2020年以後は主たる営業所を管轄する公安委員会の許可で全国の営業所を管理する
- ECサイトには法人名、公安委員会名、法人の許可証番号を表示する
- 法人許可後に個人在庫を売買等で移し、古物台帳を許可主体ごとに分ける
- 個人営業の廃止日から10日以内に個人の許可証を返納する
まず個人の許可証、営業所一覧、管理者、在庫表、古物台帳、ECサイトとモール契約を一枚にまとめます。そのうえで主たる営業所を管轄する警察署へ法人化の工程を相談し、法人許可日、在庫譲渡日、法人営業開始日、個人廃止日を順に置くことが、無許可営業と名義混在を避ける確実な方法です。
よくある質問
個人の許可番号を法人のECサイトに表示できますか?
できません。法人が販売・買取の主体なら、法人名義の許可を取得し、その法人名、許可した公安委員会名、法人の許可証番号を表示します。
個人で仕入れた在庫を法人が販売できますか?
法人許可後に、個人と法人の売買等によって在庫を移せます。品名、数量、状態、取得価額、譲渡価額、日付を一覧にし、法人側でも古物営業法上必要な相手方確認と帳簿記録を行います。
法人許可を申請したら個人許可を返納してよいですか?
申請中は法人に許可がないため、先に返納すると古物営業を行えない期間が生じます。法人許可後に取引と在庫を切り替え、個人の廃止後10日以内に個人許可証を返納する順序が安全です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。