設立の手続き
計量証明事業の登録は法人成りで承継できる。事業の全部譲渡と変更届
結論
計量証明事業の登録は、事業の全部を会社へ譲渡すれば会社が計量証明事業者の地位を承継します(計量法114条が準用する61条)。新しく登録を受け直す必要はなく、会社は遅滞なく変更を届け出て、承継の事実を証する書面と登記事項証明書を添えます。ただし一部の事業だけを移す場合や、会社の役員に罰金刑から1年を経過しない者がいる場合は承継されません。
- 登録は事業の区分ごと・事業所ごとに都道府県知事が行う(107条)。事業を廃止するか管轄外へ移転すると登録は効力を失う(112条)
- 無登録で計量証明の事業を行うと1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科(170条1号)
- 東京23区・40歳未満・経費500万円の試算で、個人事業税(5%)がかかる場合の損益分岐は1,266万円、かからない場合は2,198万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
個人で受けた許認可は、法人成りで取り直しになるものが大半です。そのなかで計量法の計量証明事業の登録は、事業の全部を会社へ譲渡すれば会社が地位を引き継ぐ、数少ない例外です。
この記事は、濃度・騒音・振動などの環境計量や、貨物の質量・体積の計量証明を請け負っている個人事業主を想定しています。承継の条文の構造、承継が成り立たないケース、承継後の届出を確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
計量証明事業の登録は、事業の区分・事業所ごと
計量法107条は、次の計量証明の事業を行おうとする者に、事業の区分に従い、事業所ごとに、所在地の都道府県知事の登録を求めています。
- 運送・寄託・売買の目的である貨物の積卸し・入出庫に際して行う、長さ・質量・面積・体積・熱量の計量証明
- 濃度、音圧レベルその他政令で定める物象の状態の量の計量証明
事業の区分は施行規則38条の別表第四で定められています。登録の申請書には、使用する特定計量器などの名称・性能・数と、事業の区分に応じた計量士や知識経験者の氏名を書きます(108条)。無登録で計量証明の事業を行うと、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象です(170条1号)。
承継の条文は、別の制度から準用されている
計量証明事業の章(107条〜116条)には、「承継」という見出しの条文がありません。承継の根拠は114条の準用です。
第六十一条、第六十二条及び第六十五条の規定は計量証明事業者に準用する。(114条)
61条はもともと、特殊容器の指定製造者の地位の承継を定めた条文です。これを計量証明事業者に当てはめると、次のようになります。
| 61条(114条で準用)の要件 | 法人成りでの当てはめ |
|---|---|
| 計量証明事業者がその事業の全部を譲渡したとき | 個人が計量証明の事業を丸ごと会社へ譲渡する |
| 事業の全部を譲り受けた者は、計量証明事業者の地位を承継する | 会社が登録を引き継ぐ。新規の登録申請は不要 |
| ただし譲受人が92条1項(1年に読替え)に該当するときは承継しない | 会社や役員に欠格事由があると承継できない |
条文は、承継の前に認可や許可を受けることを求めていません。この点で、事前の認可を要する建設業許可(建設業法17条の2)や、認可まで効力が生じない一般乗用旅客自動車運送事業(道路運送法36条)とも違います。
承継が成り立たないケース
承継が認められないのは、次の場合です。
- **事業の一部だけを移す。**たとえば騒音の計量証明だけを会社に移し、濃度は個人に残すと「全部の譲渡」になりません
- **会社が欠格事由に当たる。**計量法違反で罰金以上の刑から1年を経過しない者、登録取消しから1年を経過しない者、業務を行う役員にこれらの者がいる法人は承継できません(92条1項を1年に読み替えて準用)
- **事業所を管轄外へ移す。**登録をした知事の管轄区域外へ事業所を移転すると、登録は効力を失います(112条)
一部だけを移したい場合や、法人成りと同時に県をまたいで事業所を移す場合は、会社が新しく登録を受けることになります。
承継のあとにする届出
地位を承継した会社は、遅滞なく変更を届け出ます(114条が準用する62条1項)。氏名・名称と住所、代表者の氏名が個人から会社に変わるためです。届出書には登録証を添えて訂正を受けます(施行規則45条)。
承継した者は、承継の事実を証する書面も出します(62条2項)。施行規則は、事業の全部を譲り受けて承継した法人は、所定様式の書面と登記事項証明書を添えると定めています(施行規則49条が準用する31条2項1号)。
| 手続き | 根拠 | 期限 |
|---|---|---|
| 事業の全部の譲渡(契約) | 61条(114条で準用) | 承継の日 |
| 変更の届出(登録証の訂正) | 62条1項・施行規則45条 | 遅滞なく |
| 承継の事実を証する書面・登記事項証明書の提出 | 62条2項・施行規則49条 | 変更の届出に添付 |
| 事業規程の変更の届出(組織などが変わる場合) | 110条1項 | 変更したとき |
事業規程には計量証明を実施する組織に関する事項などを書いています(施行規則43条2項)。事業主個人の組織から会社の組織に変わるので、記載の見直しが要ります。事業規程の届出をしないと20万円以下の罰金の対象です(175条1号)。
計量士は本人の資格のまま
環境計量士・一般計量士は、国の登録を受けた本人の資格です。会社の許認可ではないので、法人成りで資格の名義を変える手続きはありません。社長本人が計量士なら、会社の計量証明事業で計量管理を担う者として、変更の届出に氏名と登録番号を書きます。
計量証明に使う特定計量器の計量証明検査(116条)は、登録を受けた日から政令で定める期間ごとに受けます。承継で登録が続く以上、検査の周期も引き継がれると考えるのが条文の素直な読み方ですが、次回の検査時期は登録をした都道府県に確認しておくと確実です。
承継で浮くのは、取り直しの手間と空白期間
計量証明事業の登録には、登録免許税がかかりません。登録免許税法の別表第一で計量法の項目に挙がっているのは、計量士の登録(1件3万円)、校正事業者の登録と認定特定計量証明事業者の認定(各1件9万円)で、107条の登録は対象外です。登録の申請手数料は都道府県の条例で定められています。
したがって承継の効用は、手数料よりも空白期間が生じないことにあります。新規登録なら、会社の登録が出るまで会社名義の計量証明書は発行できません。承継なら、譲渡の日から会社が計量証明事業者として証明書を出せます。
なお、極めて微量の物象の状態の量を計量証明する特定計量証明事業の認定(121条の2)は別の制度です。認定を受けている場合は、そちらの扱いを別に確認してください。
個人事業税がかかるかで、分岐点が900万円以上動く
計量証明の受託が、個人事業税の法定業種(地方税法72条の2)のどれに当たるかは、事業の実態に応じて都道府県が判断します。ここでは請負業(第1種・5%)に当たる場合と、法定業種に当たらない場合の両方を計算しました。測定機器の償却・校正、試薬、車両などの経費を年500万円と置いています。
まず請負業として課税される場合です。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −37.6万円 | −47.6万円 |
| 800万円 | 月54万円 | −24.1万円 | −34.1万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | −14.7万円 | −24.7万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −6.6万円 | −16.6万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +23.9万円 | +13.9万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +67.3万円 | +57.3万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 500 --business type1 --age under40 --note '請負業(第1種・5%)として試算' で再生成)で算出。経費500万円、東京都・東京23区、単身・40歳未満、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は請負業(第1種・5%)として試算。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐(事業所得・青色申告特別控除の前)を、個人事業税の有無で比べると次のとおりです。
| 個人事業税 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|
| 請負業として課税(5%) | 1,266万円 | 1,364万円 |
| 法定業種に当たらず非課税 | 2,198万円 | 2,416万円 |
※ 上と同じスクリプトで --business exempt に変えて算出
個人事業税は、法人化すると消える税です。個人のままで5%かかっている人は、その分だけ法人化の差額が有利に振れ、分岐点が900万円以上下がります。逆に非課税の人は、法人化で消える税がないぶん分岐点が高くなります。自分の事業がどちらかは、事業所得が事業主控除の290万円を超えている年に、都道府県から個人事業税の納税通知書が届いているかで確かめられます。業種ごとの扱いは個人事業税は業種でいくら変わるかにまとめました。
自分の売上と経費で判定ツールに入れ、業種区分を選んで確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。取り直しになる許認可との違いは法人成りで許認可は引き継げるかで整理しました。
まとめ
- 計量証明事業の登録は、事業の全部を会社へ譲渡すれば会社が地位を承継する(114条が準用する61条)。事前の認可は要らない
- 一部だけの譲渡、会社・役員の欠格事由、管轄外への事業所移転では承継されず、新規の登録が必要
- 承継後は遅滞なく変更を届け出て、承継を証する書面と登記事項証明書を添える。事業規程の見直しも要る
- 計量士は本人の資格のまま。登録免許税はかからず、承継の効用は空白期間が生じないこと
- 東京23区・40歳未満・経費500万円の試算で、損益分岐は個人事業税ありで1,266万円、なしで2,198万円
よくある質問
承継するのに、事前の認可や許可は要りますか。
要りません。計量法61条(114条で準用)は、事業の全部を譲り受けた者がその地位を承継すると定めるだけで、事前の認可を条件にしていません。承継したあと、遅滞なく変更を届け出て、承継の事実を証する書面を添えます。
環境計量士の資格は会社に移す手続きが要りますか。
計量士は国の登録を受けた本人の資格で、会社の許認可ではありません。会社の計量証明事業で計量管理を担う者として、変更の届出で氏名と登録番号を記載します。
事業所を別の都道府県に移すときも承継で済みますか。
済みません。登録をした都道府県知事の管轄区域外に事業所を移転すると、登録は効力を失います(112条)。法人成りと同時に事業所を移す場合は、移転先の知事の登録を新たに受けることになります。
出典
- e-Gov法令検索 計量法 第61条(承継)・第62条(変更の届出等)・第65条(廃止の届出)・第92条(指定の基準)・第107条(計量証明の事業の登録)・第108条(登録の申請)・第109条(登録の基準)・第110条(事業規程)・第112条(登録の失効)・第113条(登録の取消し等)・第114条(準用)・第116条(計量証明検査)・第170条・第175条(罰則)
- e-Gov法令検索 計量法施行規則 第31条(変更の届出等・承継を証する書面)・第38条(事業の区分)・第45条(変更の届出等)・第49条(準用)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一(計量士の登録・認定特定計量証明事業者の認定)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:請負業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。