設立の手続き
遊漁船業の登録は法人成りで引き継げない。会社で新規登録と船・保険の名義
結論
遊漁船業の登録は営業所ごとに都道府県知事から個人が受けたもので、遊漁船業法には事業譲渡による承継の規定がありません。法人成りでは会社が新規に登録を受け(香川県は手数料2万8,000円)、個人は廃業から30日以内に廃業等の届出をし、登録はその時点で効力を失います(10条)。会社の登録には、旅客定員1人あたり5,000万円以上の損害賠償保険と、講習の修了から有効期間内の遊漁船業務主任者が要ります。
- 個人の登録のまま会社に営業させると名義貸し(18条)に当たり、無登録営業と同じ3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金の対象(33条)
- 船が漁船登録なら譲渡で登録が失効し(漁船法18条1項4号)、小型船舶登録なら15日以内に移転登録(小型船舶登録法10条)
- 福井県の基準では遊漁船業は運送業(第1種5%)。東京23区・40〜59歳・経費700万円の試算で損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,369万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
釣り船・遊漁船の登録は、**会社へ引き継ぐ規定がなく、会社で新規に取り直します。**手数料は数万円で済みますが、会社の登録を受けるには、保険、業務主任者、船の名義の3つを会社側でそろえ直す必要があります。
この記事は、自分の船で釣り客を案内している個人事業主を想定しています。承継できない理由、切り替えの日の決め方、会社の登録で引っかかりやすい要件、船の登録の名義変更を順に確認し、最後に個人事業税の区分を踏まえた損益分岐を計算エンジンで出します。
登録は個人に与えられ、承継の条文がない
遊漁船業を営むには、営業所ごとに所在地の都道府県知事の登録を受けます(遊漁船業法3条1項)。登録は5年ごとに更新を受けないと効力を失います(3条2項)。
この法律には、事業を譲り渡したときに譲受人が地位を承継するという条文がありません。代わりにあるのが10条の廃業等の届出です。遊漁船業を廃止した個人は、その日から30日以内に都道府県知事へ届け出て(10条1項5号)、登録はその時点で効力を失います(10条2項)。届出を怠ると50万円以下の過料の対象です(38条1号)。
LPガス販売事業のように、事業の全部を譲れば会社が地位を承継できる許認可もあります。遊漁船業は、個人の登録を閉じて会社が一から登録を受ける型です。許認可ごとの型の違いは法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。
個人の登録で会社が営業すると名義貸しになる
18条は、登録を受けた者が名義を他人に遊漁船業のため利用させること(1項)、事業の貸渡しなどで他人に自分の名で経営させること(2項)を禁じています。会社は個人とは別の人格なので、会社の売上として運航するのに個人の登録番号を使うと、この禁止に触れます。
違反の罰則は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科で、無登録営業と同じ重さです(33条)。「会社の登録が下りるまでの数週間だけ」という運用が最も危ない部分です。
切り替えの日を1日に合わせる
承継がない以上、個人の営業の最終日と会社の登録日の間に空白ができると、その間は誰も営業できません。逆に重なった期間は、個人の事業として営業した分と会社の事業として営業した分を分けて帳簿に付けることになります。
実務上は、次の順で進めると空白を作らずに済みます。
- 会社を設立する(登記事項証明書が登録申請の添付書類になるため)
- 会社名義で損害賠償保険を手配し、船の名義を整える
- 会社が遊漁船業の新規登録を申請する
- 登録の通知を受けた日から会社で営業し、前日で個人の営業を終える
- 個人の廃業等の届出を、廃止の日から30日以内に出す
都道府県によって審査に要する期間が違うので、申請前に窓口へ切り替え日の段取りを相談しておくのが確実です。
会社の登録で添付するもの
会社の申請書には、法人の名称・代表者・役員の氏名、営業所と遊漁船の名称、遊漁船業務主任者の氏名、損害賠償の措置を書きます(4条1項)。添付書類は、欠格事由に当たらない旨の誓約書、業務規程(4条2項)のほか、施行規則4条1項で次のものが求められます。
- 役員の誓約書と住民票の抄本
- 業務主任者の要件を証する書面(小型船舶操縦免許証などの写し、実務経験の証明書、講習の修了証明書の写し)
- 損害賠償の措置が基準に適合することを証する書面
- 遊漁船の船舶検査証書の写し
- 法人の登記事項証明書
登録の欠格事由(6条1項)は、会社だけでなく役員にも及びます(12号)。社長以外に家族を役員に入れる場合も、全員分の誓約書が要ります。
保険と業務主任者は、いまの基準で審査される
会社の登録は新規登録なので、個人の登録を受けた当時ではなく、現在の基準で審査されます。ここで引っかかりやすいのが2つあります。
損害賠償保険は旅客定員1人あたり5,000万円以上
知床遊覧船事故を受けた遊漁船業法の改正(令和5年法律第39号)が令和6年4月1日に施行され、損害賠償の措置の基準も改められました。現行の施行規則9条は、利用者の生命・身体の損害を賠償する保険・共済で、遊漁船の定員1人あたりの塡補限度額が5,000万円以上のものへの加入を求めています。
施行の時点で登録を受けていた事業者には1年の経過措置があり(令和5年農林水産省令第57号附則2条)、静岡県は令和6年4月1日時点で1人3,000万円以上、令和7年4月1日から1人5,000万円以上と案内しています。経過措置の期間はすでに終わっており、会社で新規登録を受ける場合は最初から5,000万円以上の基準です。
保険は会社を契約者とするものを用意します。個人名義の契約のままでは、会社の申請に「措置が基準に適合することを証する書面」として付けられません。
業務主任者の講習には有効期間がある
遊漁船業者は、遊漁船業務主任者を選任しなければ登録を受けられません(6条1項14号)。主任者の要件は施行規則14条1項にあり、次のすべてを満たす人です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 免許 | 海技士(航海)または1級・2級小型船舶操縦士 |
| 経験 | 遊漁船業の実務経験1年以上、または主任者の指導による30日以上の実務研修 |
| 講習 | 主任者養成講習の修了。修了証明書の交付日の翌年1月1日から5年を経過していないこと |
個人で長く営業してきた社長は、免許と実務経験は満たしていても、講習の修了から5年を超えていることがあります。その場合は、会社の申請前に講習を受け直す必要があります。
船の登録と保険の名義も会社へ移す
遊漁船を会社の資産にする場合、船そのものの登録の名義も変わります。船がどちらの制度で登録されているかで手続きが分かれます。
| 船の登録 | 会社へ譲渡したとき | 根拠 |
|---|---|---|
| 漁船登録(漁船法) | 譲渡で登録が失効し、会社が新たに登録を受ける | 漁船法10条1項・18条1項4号 |
| 小型船舶登録(総トン数20トン未満の漁船以外) | 新所有者が15日以内に移転登録を申請 | 小型船舶登録法10条1項 |
小型船舶の所有権の移転は、登録を受けなければ第三者に対抗できません(小型船舶登録法4条)。漁船法上の漁船は小型船舶登録の対象から外れている(同法2条1号)ので、漁業と兼ねて漁船登録をしている船は、都道府県の漁船登録の手続きになります。
船を会社に移さず、個人の所有のまま会社に貸す方法もあります。その場合は船の登録はそのままですが、会社が払う賃借料が個人の所得になり、減価償却も個人側に残ります。資産の移し方による違いは法人成りの資産の引き継ぎもあわせて確認してください。
標識とウェブの公表も新しい登録番号で
17条1項は、登録番号などを記した標識を営業所と遊漁船ごとに掲示し、原則としてインターネットでも公表することを求めています。会社の登録番号は個人のものと別になるので、船の標識と予約サイト・ホームページの表示を、切り替え日に合わせて差し替えます。遊漁船業者以外の者が標識を掲示することは禁じられている(17条2項)ため、個人の登録が失効した後に旧番号を残しておくこともできません。
新規登録の手数料は2万円台
新規登録の手数料は都道府県の条例で決まります。2つの県の例は次のとおりです。
| 県 | 新規登録 | 更新 |
|---|---|---|
| 香川県 | 28,000円 | 17,000円 |
| 静岡県 | 26,100円 | 17,800円 |
会社の登録は更新ではなく新規なので、新規の額がかかります。そのかわり、有効期間は会社の登録日から新たに5年です(3条2項)。個人の登録の満了が近いなら、更新の直前に法人成りすると更新手数料を払わずに済みます。
遊漁船業は運送業として個人事業税がかかる
個人事業税の法定業種に「遊漁船業」という名前はありません。福井県の業種認定基準は、釣り客を釣り場まで運送する遊漁船業は運送業に当たるとしています。運送業は第1種事業で、税率は5%です(地方税法72条の2第8項)。
同じ資料は、総トン数10トン未満の漁船による漁業を「小規模な水産業」として課税対象外にしています。漁師が漁業の延長で釣り客を乗せている場合でも、遊漁船の部分は運送業として扱われる点に注意が要ります。最終的な区分は事業所のある都道府県の判断なので、県税事務所で確認してください。
燃料・餌・船の維持費・保険料などの経費を年700万円、社長を40〜59歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。初年度の列には、香川県の新規登録手数料2万8,000円を含めています。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −46.8万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −31.7万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −22.8万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −17.1万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +13.3万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +53.0万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 700 --business type1 --age 40to64 --fee 28000 --note '運送業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費700万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は運送業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用28,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度は1,369万円です。手数料2万8,000円を除くと初年度は1,341万円で、登録の取り直し自体が判断を左右する額ではありません。
効いているのは個人事業税の区分のほうです。同じ条件で個人事業税がかからない前提(--business exempt)にすると、損益分岐は2年目以降2,277万円まで上がります。運送業の5%がかかることで、法人化で消える税が増え、分岐が1,000万円あまり下がっている計算です。
自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
まとめ
- 遊漁船業法に承継の規定はなく、会社は都道府県知事の新規登録を受ける。個人は廃止から30日以内に廃業等の届出をし、登録は失効する
- 個人の登録で会社に営業させると名義貸し(18条)に当たり、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金の対象
- 会社の登録には、定員1人あたり5,000万円以上の損害賠償保険と、講習修了から有効期間内の業務主任者が要る
- 船は漁船登録なら譲渡で失効して取り直し、小型船舶登録なら15日以内に移転登録。標識とウェブの登録番号も差し替える
- 遊漁船業は運送業(第1種5%)とする県があり、東京23区・40〜59歳・経費700万円の試算で損益分岐は2年目以降1,243万円
よくある質問
会社の登録が下りるまで、個人の登録で営業を続けてもよいですか。
個人が自分の事業として営業を続けることはできますが、会社の事業として個人の登録で営業させることは、名義の利用(18条)に当たります。個人で営業する最終日と会社の登録日を合わせ、個人の廃業等の届出はその日から30日以内に出します。
登録の有効期間は、個人のときの残りを引き継げますか。
引き継げません。会社の登録は新規登録なので、会社の登録日から新たに5年の有効期間が始まります(3条2項)。更新の申請は有効期間満了の30日前までです(施行規則2条)。
遊漁船の社長が漁業もしている場合、個人事業税はどうなりますか。
福井県の基準では、総トン数10トン未満の漁船による漁業は個人事業税の課税対象外ですが、釣り客を釣り場まで運ぶ遊漁船業は運送業として扱われます。同じ船で両方を営む場合の区分は、事業所のある都道府県の県税事務所で確認が要ります。
出典
- e-Gov法令検索 遊漁船業の適正化に関する法律 第3条(登録・有効期間)・第4条(登録の申請)・第6条(登録の拒否)・第7条(変更の届出)・第10条(廃業等の届出)・第12条(遊漁船業務主任者)・第17条(標識の掲示等)・第18条(名義の利用等の禁止)・第33条・第38条(罰則)
- e-Gov法令検索 遊漁船業の適正化に関する法律施行規則 第2条(更新の申請期限)・第4条(添付書類)・第9条(損害賠償措置の基準)・第14条(遊漁船業務主任者の選任の基準)・附則(令和5年農林水産省令第57号)第2条
- e-Gov法令検索 漁船法 第10条(漁船の登録)・第18条(登録の失効)
- e-Gov法令検索 小型船舶の登録等に関する法律 第2条(定義)・第4条(対抗要件)・第10条(移転登録)
- 香川県 遊漁船業の登録(手数料・有効期間)
- 静岡県 遊漁船業の登録(手数料・損害賠償保険の基準)
- 水産庁 遊漁船業の適正化に関する法律について
- 福井県 個人事業税 業種の認定基準について(第二種事業)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:運送業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。