設立の手続き

宅建業の法人成りは免許の取り直し。保証協会の分担金60万円は二重に

結論

宅建業法には免許を承継する規定がなく、法人成りでは法人が新規に免許を受け直します(知事免許の手数料3万3,000円、大臣免許は登録免許税9万円)。保証協会の分担金は主たる事務所60万円を法人として新たに納め、個人の分担金は6か月以上の公告期間の後に返還されるため、その間は合計120万円が預け入れの状態になります。

  • 免許番号は新しい番号になり、5年ごとの更新回数を示す括弧内の数字も(1)から始まる
  • 保証協会に入らない場合の営業保証金は主たる事務所1,000万円。個人の分の取戻しにも6か月以上の公告が要る(宅建業法30条2項)
  • 売上1,500万円・経費300万円の条件では、2年目以降の実質差額は年−6.6万円、初年度は設立費用と知事免許の手数料で−19.9万円

宅建業の法人成りで最初に効いてくるのは、税金よりもお金を預ける順番です。法人の免許と保証協会の加入が済むまで、法人は営業を始められません。一方で個人の分担金は、すぐには戻ってきません。

この記事では、免許と保証のしくみを条文で確認し、取り直しの実費が判定ツールの「実質差額」をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。古物商・建設業・飲食店の許可が法人へ移るかどうかは法人成りで許認可は引き継げるかで扱っています。

宅建業法には、免許を法人へ移す条文がない

宅建業法3条1項は、宅建業を営もうとする者は国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けなければならないと定めています。1つの都道府県内にだけ事務所を置くなら知事免許、2つ以上なら大臣免許です。有効期間は5年です(同条2項)。

同法には、建設業法17条の2のような「譲渡・譲受けの認可で地位を承継する」規定がありません。法律の中で「承継」が出てくるのは、営業保証金の取戻し(30条)と、廃業後の取引の結了(76条)の2か所だけです。免許は個人に対して与えられたもので、法人は別の者として新規に免許を受けます。

個人の側は、宅建業を廃止した日から30日以内に廃業の届出をします(11条1項5号)。届出があると免許は効力を失います(同条2項)。

個人(廃業する側)法人(新規に受ける側)
免許廃業の届出で失効(11条)新規申請(3条1項)
免許証番号返納新しい番号。括弧内の更新回数は(1)から
保証分担金の返還/営業保証金の取戻し分担金の納付/営業保証金の供託
専任の宅建士勤務先の登録を外す事務所ごとに業務従事者5人に1人以上

免許証番号の括弧内の数字は、更新の回数を表します。東京都の手引は、免許換えでも番号が新しくなり、括弧内の更新数字が1に戻ると説明しています。法人成りの新規免許も同じく(1)からです。

取り直しの実費は、知事免許で3万3,000円

免許の申請にかかる実費は、知事免許と大臣免許で根拠が違います。

免許の種類根拠金額
知事免許(新規)地方公共団体の手数料の標準に関する政令3万3,000円(電子申請は2万6,500円)
大臣免許(新規)登録免許税法 別表第一 第147号(一)9万円

知事免許の手数料は、政令が定める標準額をもとに各都道府県が条例で定めます。東京都の手引でも、申請時に3万3,000円を納める扱いです。大臣免許は、新規の免許が登録免許税の対象になり、1件9万円です(宅建業法3条6項)。

このほか保証協会への加入では、分担金とは別に入会金などがかかります。これは協会ごとに定める民間の費用で、法令の金額ではないため、ここでは数字を出しません。

保証協会の分担金は、法人の分と個人の分が並ぶ期間がある

宅建業者は、営業保証金を供託するか、保証協会の社員になって弁済業務保証金分担金を納めるかのどちらかが必要です。

主たる事務所その他の事務所(1か所ごと)根拠
営業保証金(供託)1,000万円500万円施行令2条の4
弁済業務保証金分担金(保証協会)60万円30万円施行令7条

保証協会の社員は、営業保証金を供託しなくてよいとされています(64条の13)。供託した場合は、その届出をした後でなければ事業を始められません(25条5項)。

法人は加入の日までに60万円を納める

宅建業法64条の9第1項1号は、保証協会に加入しようとする宅建業者は、加入しようとする日までに分担金を納付しなければならないと定めています。法人は個人とは別の宅建業者なので、個人で納めた分担金を法人の分に振り替える規定はありません。

個人の60万円は、6か月以上の公告の後に戻る

個人が社員の地位を失うと、保証協会は弁済業務保証金を取り戻し、その額の分担金を返還します(64条の11第1項・2項)。ただし返還の前に、協会は個人と取引した人に向けて、6か月を下らない期間内に申し出るよう公告しなければなりません(同条4項)。返還はその期間が過ぎた後です(同条3項)。

つまり、主たる事務所1か所の業者でも、法人の60万円と個人の60万円、合わせて120万円が同時に預けられた状態が半年以上続きます。支店が1つあれば、それぞれ90万円で合計180万円です。

営業保証金で営業していた場合はさらに大きくなります。個人の営業保証金の取戻しにも6か月を下らない期間の公告が必要です(30条2項)。法人で改めて1,000万円を供託すると、取戻しまでの間は2,000万円が供託所にある計算です。

分担金と営業保証金は、条件を満たせば戻ってくる預け金です。判定ツールの実質差額には入れていません。ただ、設立直後の法人の資金繰りには直接効きます。資本金の額を決めるときに、この分を見込んでおく必要があります。

専任の宅建士は、個人と法人を兼ねられない

事務所には、業務に従事する人の数の5分の1以上の割合で、成年の専任の宅建士を置かなければなりません(31条の3第1項、施行規則15条の5の3)。法人の役員(業務執行社員・取締役など)が宅建士なら、主として業務に従事する事務所の専任の宅建士とみなされます(31条の3第2項)。

社長本人が宅建士なら、合同会社の代表社員や株式会社の代表取締役のまま専任の宅建士を兼ねられます。ここまでは個人のときと変わりません。

つまずくのは移行の期間です。東京都の手引は、新規免許の申請の際、専任の宅建士が資格登録簿に勤務先を登録していない状態であることを求めています。また、その事務所の勤務時間中に他の個人業を営んでいる人は専任に当たらないとしています。

宅建士が社長1人だけの事務所では、個人の免許で営業を続けながら、同じ人を法人の専任の宅建士として申請することができません。個人側で専任を欠いた場合、2週間以内に補充などの措置が要ります(31条の3第3項)。**個人の営業を止める日と法人の免許が下りる日の間に、どちらでも新しい契約を結べない期間が生まれ得ます。**手続きの順序は、申請前に管轄の担当課へ確認してください。

個人で結んだ契約の決済は、個人のまま終えられる

宅建業法76条は、廃業の届出で免許が効力を失った後も、すでに締結した契約に基づく取引を結了する目的の範囲内では、なお宅建業者とみなすと定めています。個人で結んだ売買の決済や引渡しが残っていても、それを終えるために免許を残しておく必要はありません。

取引先との契約そのものを会社へ移すかどうかは、宅建業法とは別の話です。民法の契約上の地位の移転は法人成りで取引先との契約は移らないで扱っています。

免許の実費が、初年度の差額と損益分岐をどれだけ動かすか

宅建業の仲介にあたる周旋業や不動産売買業は、個人事業税の第1種事業で税率5%です。法人化するとこの税はかかりません。一方で法人には社会保険料と税理士報酬の固定費が乗ります。

当サイトの計算エンジンで、売上別の実質差額を出しました。初年度は設立費用に加えて、免許の実費を差し引いています。

売上個人事業税2年目以降初年度(設立費用のみ)初年度(+知事免許)初年度(+大臣免許)
1,000万円20.5万円−31.2万円−41.2万円−44.5万円−50.2万円
1,200万円30.5万円−18.4万円−28.4万円−31.7万円−37.4万円
1,500万円45.5万円−6.6万円−16.6万円−19.9万円−25.6万円
1,800万円60.5万円+23.9万円+13.9万円+10.6万円+4.9万円
2,000万円70.5万円+36.8万円+26.8万円+23.5万円+17.8万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/takken-houjinnari-menkyo.mjs で再生成)で算出。経費300万円、東京都・東京23区、単身・40〜64歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社(設立費用10万円)、個人事業税は第1種(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円の前提。知事免許は3万3,000円、大臣免許は9万円。分担金・営業保証金は戻る預け金のため含めない。2026年(令和8年)分基準の概算

同じ条件で、法人化の差がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。

固定費の前提損益分岐の事業所得
2年目以降(税理士報酬の差のみ)1,266万円
初年度:設立費用10万円1,364万円
初年度:設立費用+知事免許1,396万円
初年度:設立費用+大臣免許1,452万円

知事免許の3万3,000円だけで、初年度の損益分岐は32万円上がります。設立費用と合わせると、2年目以降より130万円高い所得がないと初年度はプラスになりません。

ただし免許の実費は一度きりです。5年後の更新でも手数料はかかりますが、これは個人のままでも同じです。法人成りで増えるのは初年度の取り直し分だけで、2年目以降の判定は変わりません。初年度のマイナスを何年で取り返せるかは、自分の売上と経費で判定ツールを回して確かめてください。法人化そのものの費用の内訳は法人化にかかる費用にまとめています。

まとめ

  • 宅建業法には免許の承継の規定がない。個人は廃業の届出で免許が失効し、法人は新規に免許を受ける。番号は新しくなり、更新回数は(1)から
  • 新規免許の実費は、知事免許が3万3,000円(政令の標準額)、大臣免許が登録免許税9万円
  • 保証協会の分担金は主たる事務所60万円を法人として納め直す。個人の分は6か月以上の公告の後に返還されるため、半年以上は合計120万円が預け入れになる
  • 宅建士が社長1人の事務所では、個人の営業と法人の専任の宅建士を同時に兼ねられず、新しい契約を結べない期間が出得る
  • 売上1,500万円・経費300万円の条件で、実質差額は2年目以降が年−6.6万円、初年度は知事免許の手数料を含めて−19.9万円

よくある質問

法人成りしても、免許証番号を引き継ぐことはできますか。

できません。法人は新しく免許を受ける別の宅建業者なので、免許証番号は新しい番号になり、括弧内の更新回数も(1)から始まります。個人の免許は廃業の届出によって効力を失います。

個人で入っていた保証協会の分担金を、そのまま法人の分に振り替えられますか。

宅建業法には振替の規定がありません。法人は加入しようとする日までに分担金を納付し、個人の分担金は社員の地位を失った後、6か月以上の公告期間が過ぎてから返還されます。協会ごとの実務の扱いは、加入している協会に確認してください。

個人の免許で結んだ売買契約の決済が、廃業の後に残っていても大丈夫ですか。

宅建業法76条により、廃業の届出で免許が効力を失った後も、すでに締結した契約に基づく取引を結了する目的の範囲では、なお宅建業者とみなされます。新しい契約を個人名義で結ぶことはできません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。