設立の手続き
商号変更の登記費用は3万円。インボイス・年金の届出は何から出すか
結論
会社の商号変更登記の登録免許税は、申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一24号(一)ツ)。変更から2週間以内に本店所在地で登記します。税務署には異動届出書を出し、「消費税」欄にレ印を付ければ、インボイスの登載事項変更届出書と消費税の異動届出書は重ねて出す必要がありません。期限がいちばん短いのは年金事務所の適用事業所名称変更届で、事実発生から5日以内です。
- 目的の変更を同じ申請にまとめれば合計3万円のまま。役員の変更を加えると4万円(資本金1億円以下)、管轄内の本店移転を加えると6万円
- 個人事業主が登記した商号(屋号)の変更は6,000円。会社の商号変更は5倍の3万円で、会社の種類の文字(株式会社・合同会社)を必ず入れる
- 当サイトの試算(経費300万・東京・単身)では、その年の固定費が3万円増えると損益分岐の事業所得は1,266万円から1,295万円に上がる
会社名を変えるときにかかる実費は、ほぼ登録免許税の3万円だけです。ただ、商号は登記簿だけでなく、税務署・インボイス・社会保険・労働保険の記録にも載っています。どこへ何を出すかより先に、どの期限がいちばん短いかを知っておくと手戻りがありません。
この記事では、登記の費用を同時に変えるものの組み合わせ別に出し、届出の期限を1枚のカレンダーに並べます。最後に、この3万円が法人化の損益分岐をどれだけ動かすかを計算エンジンで確かめます。
登録免許税は3万円。同時に変える内容で4万円・6万円になる
国税庁の登録免許税の税額表では、会社の「登記事項の変更、消滅または廃止の登記」は申請件数1件につき3万円です。条文では登録免許税法の別表第一24号(一)ツに当たります。法務局の記載例(株式会社変更登記申請書・商号の変更)でも、登録免許税は「金3万円」と記載されています。
課税の単位は変更した項目の数ではなく、区分ごとの申請件数です。そのため、同時に何を変えるかで合計額が変わります。
| 同時に申請する変更 | 課税区分(別表第一24号(一)) | 登録免許税 |
|---|---|---|
| 商号だけを変える | ツ | 30,000円 |
| 商号+目的を同じ申請で変える | ツ | 30,000円 |
| 商号+役員の変更(資本金1億円以下) | ツ+カ | 40,000円 |
| 商号+本店移転(同じ法務局の管轄内) | ツ+ヲ | 60,000円 |
※ node scripts/shogo-henko-touki.mjs cost で再生成。専門家に依頼した場合の報酬は含まない
商号と目的はどちらも区分ツなので、1つの申請書にまとめれば3万円のままです。法務局の合同会社の記載例は、まさに商号と目的を同時に変える申請で、登録免許税は3万円とされています。事業内容が変わって社名も変える場合は、時期をそろえる価値があります。目的変更の決議の方法は定款の目的変更の記事で扱いました。
役員の変更(区分カ)や本店移転(区分ヲ)は別の区分なので、同じ申請書に書いても税額は足し算になります。本店移転が管轄外への移転になる場合の扱いは本店移転の記事にまとめています。
個人事業主の屋号の登記は6,000円
個人事業主も、屋号を商号として登記できます。商法11条2項のとおり登記は任意で、多くの個人事業主はしていません。登記している場合の税額は、別表第一29号(一)の「個人の商業登記」で決まります。
| 個人事業主の商号(屋号)の登記 | 課税区分(別表第一29号(一)) | 登録免許税 |
|---|---|---|
| 商号を新しく登記する | イ | 30,000円 |
| 登記した商号を変更する | ホ | 6,000円 |
会社の商号変更は、個人の商号変更の5倍です。個人のときは屋号を変えても登記がなければ費用はかかりませんでしたが、法人化すると社名を変えるたびに3万円が固定でかかります。
新しい商号の条件と、決議から登記までの書類
使えない商号は意外と少ない
会社法6条2項により、商号には会社の種類を示す「株式会社」または「合同会社」の文字を入れます。同条3項は、他の種類の会社と誤認されるおそれのある文字も禁じています。合同会社が「株式会社」と紛らわしい名前を付けることはできません。
同じ名前の会社があっても、それだけで使えないわけではありません。商業登記法27条が登記を禁じているのは、商号が同一で、かつ本店の所在場所も同一の場合です。法務省は、この確認を「商号調査」と呼び、登記・供託オンライン申請システムの検索で手数料なしにできると案内しています。
ただし登記できることと、自由に使えることは別です。会社法8条は、不正の目的で他の会社と誤認されるおそれのある商号を使うことを禁じ、侵害された会社に差止めの請求を認めています。
決議と添付書類
商号は定款に必ず書く事項です(株式会社は会社法27条2号、合同会社は576条1項2号)。そのため商号変更は定款変更の手続になり、株式会社は株主総会の特別決議、合同会社は原則として総社員の同意で決めます。
法務局の記載例が挙げる添付書類は次のとおりです。
| 会社 | 添付書類 |
|---|---|
| 株式会社 | 株主総会議事録、株主リスト、委任状(代理人に頼む場合) |
| 合同会社 | 総社員の同意書、委任状(代理人に頼む場合) |
申請書には新しい商号のフリガナも書きます。記載例によれば、このフリガナは登記事項証明書には出ませんが、国税庁の法人番号公表サイトで公表されます。読み方を変えたい場合も、この欄で直します。
会社の実印の印影に旧商号が入っていて作り直す場合は、法務局に「印鑑(改印)届書」を出して新しい印鑑を届け出ます。
変更が生じたら、会社法915条により2週間以内に本店所在地で登記します。怠ると会社法976条により、代表者が100万円以下の過料の対象になります。
届出の順番:いちばん短い期限は年金事務所の5日
商号を変えた後の届出は、登記のほかに4つの窓口へ広がります。期限を並べると、登記の2週間がいちばん長いことが分かります。
| 手続 | 期限の定め | 2026年11月2日に変更した場合の期限 |
|---|---|---|
| 商号変更の効力発生(株主総会決議・総社員の同意) | — | 11月2日(月) |
| 健康保険・厚生年金保険 適用事業所名称変更届 | 事実発生から5日以内 | 11月7日(土) |
| 労働保険 名称、所在地等変更届(労働者を雇っている場合) | 変更の翌日から起算して10日以内 | 11月12日(木) |
| 雇用保険 事業主事業所各種変更届(雇用保険の適用事業所の場合) | 変更の翌日から起算して10日以内 | 11月12日(木) |
| 商号変更の登記 | 2週間以内 | 11月16日(月) |
| 税務署 異動届出書(消費税・インボイス欄にもレ印) | 異動後速やかに | 日付の定めなし |
※ node scripts/shogo-henko-touki.mjs calendar で再生成。期間は初日を算入せずに数えた(民法140条)。期限が土日祝日に当たる場合の扱いは各制度による
年金事務所は5日以内、しかも登記簿のコピーが要る
日本年金機構の手続案内では、適用事業所名称変更届は事実発生から5日以内に事業主が出す届出です。法人の名称変更の添付書類は、提出日から90日以内に発行された登記簿謄本のコピーとされています。
ここに順番のねじれがあります。年金事務所の届出は登記より期限が短いのに、添付する登記簿のコピーは登記が終わらないと取れません。登記の期限いっぱいの2週間を使うと、5日はとうに過ぎます。役員報酬を払っている一人会社は社会保険の適用事業所なので、この届出の対象です。決議の当日か翌日に登記を申請し、完了したらすぐ証明書を取る段取りにしておくと、ねじれを最小にできます。
労働者を雇っている会社は、労働保険の名称、所在地等変更届(労働保険徴収法施行規則5条2項)と雇用保険の事業主事業所各種変更届(雇用保険法施行規則142条)も出します。どちらも変更の翌日から10日以内です。社長だけの会社なら、この2つは関係ありません。
税務署・都道府県・市区町村は「速やかに」
国税庁の案内では、商号の変更は異動届出書の対象で、提出時期は「異動等後速やかに」、提出先は納税地の所轄税務署長です。添付書類はなしとされ、内容確認のために定款等の写しを求めることがあるとしています。法人住民税・法人事業税の側でも、都道府県と市区町村に異動の届出をします。様式と期限は各自治体の定めによります。
インボイスの変更届は、異動届出書の1枚で済む
インボイス登録済みの会社が商号を変えると、適格請求書発行事業者登録簿の「名称」が変わります。本来の手続は「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」です(消費税法57条の2第8項)。
ただ、国税庁の異動届出書の案内には次の趣旨の注記があります。異動届出書の「消費税」の欄にレ印を付けて出せば、消費税の異動届出書(第11号様式)と、インボイスの登載事項変更届出書を重ねて出す必要はない。インボイス側の手続案内も、法人の名称や本店所在地の異動を記載した異動届出書を出した場合は、重ねて変更届出書を出す必要はないと明記しています。
| 出す書類 | 法人税 | 消費税 | インボイス登録簿 |
|---|---|---|---|
| 異動届出書(「消費税」欄にレ印) | ○ | ○ | ○ |
| 異動届出書(「消費税」欄にレ印なし) | ○ | 別に届出 | 別に届出 |
1枚で3つの届出を兼ねるかどうかは、このレ印1つで決まります。
さらにインボイス側の案内は、税務当局が名称などの登記事項の変更を把握した場合、公表サイトの公表事項を変更することがあるとしています。もっとも「把握したら直すことがある」という運用で、届出を省いてよいという意味ではありません。
登録番号は変わらない
法人のインボイス登録番号は、Tの後に13桁の法人番号を付けたものです。法人番号は商号を変えても変わらないため、登録番号もそのままです。取引先に伝えるのは新しい商号だけで、番号の差し替えを頼む必要はありません。法人番号が変わらない仕組みは法人番号指定通知書の記事で確かめています。
番号が変わるのは、個人事業主が法人成りする場合です。個人の登録番号は法人に引き継がれず、法人として新しく登録します。この違いは法人成りとインボイス登録番号の記事で扱いました。
個人事業主が屋号を変えた場合
個人事業主のインボイスでは、屋号は希望した場合だけ公表される任意の項目です。屋号を公表していて変えたい場合は、登載事項変更届出書ではなく「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を出します。屋号を公表していなければ、インボイス側の手続はありません。
商号を変えた会社は、銀行口座の名義も旧商号のまま残りがちです。法人税の還付口座で名義が合わないと振込不能になることがあり、還付口座の名義の記事で確認点を整理しています。
3万円は、法人化の損益分岐をどれだけ動かすか
商号変更の登記費用は、個人事業主のままなら(屋号を登記していない限り)発生しません。金額は小さくても、法人化の判定が分岐点の近くにある人には、その年の結論を動かします。
当サイトの計算エンジンで、法人側の固定費(税理士報酬の差)にこの登記費用を上乗せし、損益分岐となる事業所得を出しました。
| その年に増える登記費用 | 想定する場面 | 損益分岐の事業所得(青色申告特別控除前) | 増加 |
|---|---|---|---|
| 0万円 | 変更なし | 1,266万円 | +0万円 |
| 3万円 | 商号だけ、または商号+目的 | 1,295万円 | +29万円 |
| 4万円 | 商号+役員の変更 | 1,305万円 | +39万円 |
| 6万円 | 商号+本店移転(管轄内) | 1,324万円 | +58万円 |
※ node scripts/shogo-henko-touki.mjs breakeven で再生成。経費300万円・東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円に登記費用を法人側の固定費として加算。登録免許税の損金算入による法人税等の減少は反映しない。2026年(令和8年)分基準の概算
3万円の費用で、分岐点は29万円上がります。分岐点の付近では、事業所得が増えても法人化による差の改善はゆっくりなので、固定費の増加はその何倍もの所得で埋め合わせることになります。
もっとも、商号変更は何度もするものではありません。効いてくるのは、設立して数年で社名を変える場合です。屋号のまま法人化するか、最初から別の社名にするかを設立前に決めておけば、この3万円と届出の手間はかかりません。自分の売上と経費では分岐点がどこにあるのか、判定ツールで確かめてください。
まとめ
- 商号変更登記の登録免許税は1件3万円(別表第一24号(一)ツ)。目的の変更と同じ申請なら3万円のまま、役員変更を加えると4万円、管轄内の本店移転を加えると6万円
- 個人の屋号の登記は変更6,000円。会社は5倍の3万円で、商号に「株式会社」「合同会社」の文字が必須。同一商号でも本店の所在場所が違えば登記はできる
- 期限がいちばん短いのは年金事務所の名称変更届(事実発生から5日以内・登記簿のコピー添付)。登記は2週間以内、労働保険・雇用保険は10日以内
- 税務署の異動届出書で「消費税」欄にレ印を付ければ、インボイスの登載事項変更届出書と消費税の異動届出書は不要。登録番号は変わらない
- 3万円の固定費で、試算条件の損益分岐は1,266万円から1,295万円に上がる
よくある質問
商号を変えると、法人番号やインボイスの登録番号も変わりますか?
変わりません。法人のインボイス登録番号はTと13桁の法人番号でできており、法人番号は商号を変更しても同じです。取引先が登録している番号を差し替えてもらう必要はなく、伝えるのは新しい商号です。
同じ名前の会社がすでにあると、その商号には変えられませんか?
商業登記法27条が禁じているのは、同じ商号で、かつ本店の所在場所も同じ場合の登記です。所在場所が違えば登記の上では受け付けられます。ただし会社法8条は、不正の目的で他の会社と誤認されるおそれのある商号を使うことを禁じています。
個人事業主が屋号を変えたときも、インボイスの届出は要りますか?
屋号を公表サイトに載せていなければ、インボイスの手続はありません。屋号を公表している場合は、国税庁の「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」で公表する屋号を変更します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
- e-Gov法令検索 登録免許税法(別表第一 第24号・第29号)
- e-Gov法令検索 会社法(第6条・第8条・第27条・第576条・第915条・第976条)
- e-Gov法令検索 商法(第11条 商号の選定・登記)
- e-Gov法令検索 商業登記法(第27条 同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)
- 法務局 商業・法人登記の申請書様式(株式会社変更登記申請書(商号の変更)、合同会社変更登記申請書(商号の変更及び目的の変更)、印鑑届書)
- 法務省 オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査について
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
- 国税庁 D1-66 適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出手続
- 国税庁 D1-67 適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出手続
- 国税庁 法人番号について(制度・通知・FAQ)
- 日本年金機構 適用事業所の名称・所在地を変更するとき(管轄内の場合)
- e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(第5条)
- e-Gov法令検索 雇用保険法施行規則(第142条)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。