法人化の判断
ライターの法人化試算事例。札幌・年商1,300万円でも年54万円不利
結論
札幌市・35歳・独身のライター(年商1,300万円・経費100万円、個人事業税なし)は、個人のままの手取りが819.7万円、法人化(役員報酬月54万円)で785.7万円です。税理士報酬の差を含めると3期目以降も年54.0万円の不利で、損益分岐は事業所得2,276万円です。
- 同じ所得でも、個人事業税5%がかかる業種なら差は年8.5万円の不利にとどまる。業種区分だけで年45.5万円違う
- 法人化すると、個人のときはゼロだった事業税が法人側で年21.8万円(法人事業税+特別法人事業税)かかる
- 文筆業は個人事業税の法定業種一覧にない。ただし広告の制作や企業からの受注記事は、請負業・広告業とされることがある
このテーマの全体像 個人事業税の業種と計算方法
ほかの試算事例 法人化の試算事例35人を1つの表で比較。損益分岐を動かすのは家族・年齢・業種
この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。
所得が1,200万円あっても、法人化が年54万円の不利になる人がいます。原因は個人事業税がかからないことです。個人のときに払っていない税金は、法人化しても減りません。逆に法人化すると、法人事業税が新しくかかります。
このケースの条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 職種 | フリーライター(自分の名前で書く原稿・書籍の執筆が中心) |
| 年齢・家族 | 35歳・独身 |
| 住所 | 札幌市 |
| 年商(税抜) | 1,300万円 |
| 経費 | 100万円(資料代・取材の交通費・通信費など) |
| 申告 | 青色申告(e-Tax・65万円控除) |
| インボイス | 登録済み(出版社・企業との取引のため) |
| 個人事業税 | かからない(文筆業は法定業種にない) |
個人事業税は、法律で定めた70の業種にだけかかる税金です。東京都主税局が公表している法定業種の一覧に、文筆業は入っていません。このケースは「都道府県から納税通知書が届いていない」状態を前提にしています。
事業所得(売上−経費)は1,200万円です。
個人事業主のまま:手取りは819.7万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 事業所得(売上−経費) | 1,200.0万円 |
| 国民健康保険 | 96.0万円 |
| 国民年金 | 21.5万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 165.1万円 |
| 住民税 | 97.7万円 |
| 個人事業税 | 0円 |
| 手取り | 819.7万円 |
※ 札幌市・35歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・個人事業税なし/2026年(令和8年)分基準
札幌市の国保は賦課限度額の96万円に達しています。所得税と住民税は合わせて262.8万円です。
法人化した場合:事業税が新しくかかる
役員報酬を月5万〜100万円まで試すと、手取り合計が最大になったのは月54万円でした。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 役員報酬(年額) | 648.0万円 |
| 社会保険料・本人負担 | 91.6万円 |
| 所得税 | 18.5万円 |
| 住民税 | 34.2万円 |
| 個人に入る手取り | 503.7万円 |
| 社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む) | 93.9万円 |
| 法人の利益(税引前) | 458.1万円 |
| 法人税・地方法人税・法人住民税(均等割7万円を含む) | 83.7万円 |
| 法人事業税・特別法人事業税 | 21.8万円 |
| 会社に残る額 | 352.6万円 |
| 手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上) | 785.7万円 |
※ 合同会社・北海道(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準
法人事業税は、業種を問わずすべての法人にかかります。個人事業税のような法定業種の限定はありません。個人のときゼロだった事業税が、法人化で年21.8万円になります。
| 1期目 | 2期目 | 3期目以降 | |
|---|---|---|---|
| 手取りの差(法人−個人) | −34.0万円 | −34.0万円 | −34.0万円 |
| 設立費用(合同会社) | −10.0万円 | — | — |
| 税理士報酬の増加 | −20.0万円 | −20.0万円 | −20.0万円 |
| 実質差額 | −64.0万円 | −54.0万円 | −54.0万円 |
手取りの段階ですでに34.0万円少なく、費用を乗せると年54.0万円の不利です。判定ツールの区分は「個人のまま有利」です。
業種区分だけで年45.5万円違う
同じ札幌市・同じ年商・同じ経費で、個人事業税5%がかかる業種(請負業など)だった場合と並べます。
| 個人事業税なし(このケース) | 個人事業税5% | |
|---|---|---|
| 個人の個人事業税 | 0円 | 45.5万円 |
| 個人のままの手取り | 819.7万円 | 774.2万円 |
| 法人化の手取り | 785.7万円 | 785.7万円 |
| 実質差額(3期目以降) | −54.0万円 | −8.5万円 |
| 損益分岐(事業所得) | 2,276万円 | 1,284万円 |
※ 年商1,300万円・経費100万円・札幌市・35歳・独身・青色申告(e-Tax)/2026年(令和8年)分基準
法人化したあとの手取りは、どちらも785.7万円で同じです。違うのは個人のときの手取りだけです。個人事業税がかかる人は、法人化で年45.5万円の税金が消えます。かからない人には、その分がありません。
一般に言われる「所得1,000万〜1,300万円で法人化」という目安は、個人事業税を払っている人を前提にした数字です。業種ごとの分岐点の違いは職種別の法人化の分岐点で比べています。
損益分岐は年商2,400万円前後
個人事業税なしの条件で、年商を上げていくと差は次のように動きます。
| 年商 | 事業所得 | 最適な役員報酬 | 実質差額(3期目以降) |
|---|---|---|---|
| 1,300万円(このケース) | 1,200万円 | 月54万円 | −54.0万円 |
| 1,600万円 | 1,500万円 | 月54万円 | −38.6万円 |
| 2,000万円 | 1,900万円 | 月90万円 | −26.3万円 |
| 2,400万円 | 2,300万円 | 月100万円 | +1.0万円 |
| 2,800万円 | 2,700万円 | 月100万円 | +46.8万円 |
※ 経費100万円・札幌市・35歳・独身・個人事業税なし
損益分岐は事業所得2,276万円でした。個人のときの所得税率が40%の帯に入るあたりで、ようやく法人化が追いつきます。
仕事の中身が変わると、区分も変わりうる
個人事業税がかかるかは、職業名ではなく仕事の中身で都道府県が判断します。同じライターでも次のような場合は判断が分かれます。
| 仕事の形 | 個人事業税の扱いの例 |
|---|---|
| 自分の名前で書く書籍・連載・寄稿 | 文筆業として法定業種に当たらないことが多い |
| 企業の広告・販促物のコピー制作 | 広告業とされることがある |
| 企業から記事を大量に受注して納品 | 請負業とされることがある |
仕事の比率が変わって課税に切り替わると、損益分岐は1,284万円側に近づきます。個人事業税の業種の判断は個人事業税の業種と計算方法にまとめています。
原稿料の源泉徴収は、法人化で止まる
個人に支払う原稿料は、所得税の源泉徴収の対象です。報酬100万円以下の部分に10.21%が天引きされます。法人に支払う原稿料は、原則として源泉徴収の対象になりません。
年間の税額が変わるわけではなく、確定申告で精算されます。ただ年商1,300万円なら、入金時に100万円を超える額が引かれている計算になります。法人化で源泉徴収がなくなる仕組みは法人成りで源泉徴収10.21%が消えるで扱っています。
まとめ
- 札幌市・年商1,300万円・個人事業税のかからないライターは、個人のまま819.7万円、法人化で785.7万円
- 3期目以降も年54.0万円の不利。法人化で事業税が年21.8万円新しくかかる
- 同じ所得でも、個人事業税5%の業種なら不利は年8.5万円。業種区分だけで年45.5万円違う
- 損益分岐は事業所得2,276万円(年商2,400万円前後)
- 仕事の中身で個人事業税の区分は変わりうる。課税されているかは8月の納税通知書で分かる
判定ツールの詳細設定で、個人事業税の業種区分を「法定業種外」に切り替えられます。自分の売上で確かめてください。
よくある質問
ライターは必ず個人事業税がかからないのですか?
必ずではありません。個人事業税がかかるかは、都道府県が実際の仕事の内容で判断します。自分の名前で書いて原稿料を受け取る文筆は法定業種にありませんが、企業の広告や販促物の制作、記事の大量受注などは請負業や広告業とされることがあります。前年に課税されたかどうかは、8月ごろに届く納税通知書の有無で分かります。
個人事業税がかからないなら、いつ法人化を考えればよいですか?
この条件では事業所得2,276万円が損益分岐でした。年商で2,400万円前後です。それより下では、個人事業税がかかる人より法人化のメリットが小さくなります。
法人化すると原稿料の源泉徴収はどうなりますか?
個人に支払う原稿料は源泉徴収の対象ですが、法人に支払う原稿料は原則として対象になりません。年間の手取り額は変わりませんが、入金時に引かれる額がなくなるため資金繰りは楽になります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。