税金の基礎
社長が1〜4月に退任すると住民税は最後の報酬から一括徴収
結論
地方税法321条の5第2項により、1月1日〜4月30日に退任して報酬を受けなくなった社長は、5月までの住民税の残りを最後の報酬や退職金から本人の申出なしで一括徴収されます(支払額が残額を超える場合)。6月1日〜12月31日の退任なら、一括徴収は本人が申し出た場合だけで、申し出なければ普通徴収に切り替わります。
- 役員報酬月50万円(東京23区・単身・40歳未満)の住民税は年31万300円。1月末に退任すると、2〜5月分の10万3,200円が最後の報酬から一括で引かれる(当サイト試算)
- 5月に退任した場合は、5月分が通常の最終月分として引かれるだけで、一括徴収は生じない
- 一括徴収は前倒しで、増税ではない。年税額は普通徴収に切り替えても同じ
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
住民税の特別徴収は、6月から翌年5月までの12回に分けて報酬から天引きする仕組みです。途中で報酬が止まると、まだ引いていない月の分が宙に浮きます。それをどう納めるかを決めているのが地方税法321条の5第2項で、退任した月が1〜4月か、6〜12月かで扱いが分かれます。
社長は自分の退任日を自分で決められる立場です。法人をたたんで個人事業に戻る、別の人に代表を譲る、といった場面で、最後の報酬の手取りがいくらになるかを先に知っておくと資金繰りが崩れません。
退任した時期で、残りの住民税の納め方が3通りに分かれる
地方税法321条の5第2項は、給与を受けなくなった人について、会社は翌月以降の月割額を徴収・納入する義務を負わない、と定めています。そのうえで、ただし書きで2つの例外を置いています。
| 報酬を受けなくなった日 | 残りの住民税 | 本人の申出 |
|---|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 申し出れば一括徴収。申し出なければ普通徴収 | 必要 |
| 1月1日〜4月30日 | 5月31日までに支払う報酬・退職金から一括徴収 | 不要 |
| 5月中 | 5月分を最終月分として通常どおり差し引く | — |
東京都主税局と横浜市の案内も同じ区分です。1〜4月の退任では、本人が普通徴収を希望しても一括徴収が原則になります。
ただし、一括徴収には条件があります。5月31日までに支払う給与や退職手当等が、残りの住民税の全額を超える場合に限り、と条文にあります。最後の報酬が残額に届かなければ一括徴収はできず、残りは普通徴収です。東京都の案内は、死亡退職の場合も一括徴収の対象外としています。
役員報酬別の一括徴収額
一括徴収で引かれる額は、月割額 × 残りの月数です。月割額は年税額の12分の1で、端数は6月分に寄せるのが通常の通知の形です(実際の月割額は区市町村の特別徴収税額決定通知書で確認してください)。
前年も同じ報酬だったとして、東京23区・単身・40歳未満の社長の住民税を当サイトの計算エンジンで出すと次のとおりです。
| 役員報酬(月額) | 住民税(年額) | 7月以降の月割額 |
|---|---|---|
| 30万円 | 15万2,400円 | 1万2,700円 |
| 50万円 | 31万300円 | 2万5,800円 |
| 80万円 | 60万5,300円 | 5万400円 |
※東京23区・単身・40歳未満・扶養なし。社会保険料控除は協会けんぽ東京支部の料率で計算。月割額は12分の1の100円未満を切り捨て、端数を6月分に寄せた場合。
この月割額から、月末に退任した場合の一括徴収額を出すと次のようになります。
| 退任月(月末) | 残りの月 | 月30万円 | 月50万円 | 月80万円 |
|---|---|---|---|---|
| 1月 | 2〜5月(4か月) | 5万800円 | 10万3,200円 | 20万1,600円 |
| 2月 | 3〜5月(3か月) | 3万8,100円 | 7万7,400円 | 15万1,200円 |
| 3月 | 4〜5月(2か月) | 2万5,400円 | 5万1,600円 | 10万800円 |
| 4月 | 5月(1か月) | 1万2,700円 | 2万5,800円 | 5万400円 |
最後の月の報酬からは、その月の通常の住民税にこの一括徴収額が上乗せされます。月50万円の社長が1月末に退任すると、1月分2万5,800円と合わせて12万9,000円が住民税として引かれます。
社会保険料の2か月分と重なることがある
月末日に退任すると、資格喪失日が翌月1日になり、最後の報酬から社会保険料が2か月分引かれます。この仕組みは役員報酬から引く社会保険料は前月分で計算しました。1〜4月の月末退任では、住民税の一括徴収と社会保険料の2か月分が同じ最後の報酬に乗るため、手取りが通常月より大きく減ります。
一括徴収額が報酬を上回る場合は、上で見たとおり一括徴収できず普通徴収になります。報酬月30万円で1月末退任なら、住民税5万800円の一括徴収は報酬の範囲に収まります。
6〜12月の退任は、申し出るかどうかで変わる
6〜12月に退任した場合、会社には残りを徴収する義務がありません。本人が申し出なければ、会社は異動届を出し、残りは区市町村から本人に届く納付書で納めます。
月50万円の社長が9月末に退任すると、残りは10月〜翌年5月の8か月分、20万6,400円です。
| 納め方 | 時期 | 金額 |
|---|---|---|
| 一括徴収(本人申出) | 9月の最後の報酬から | 20万6,400円 |
| 普通徴収 | 区市町村が定める納期に分割 | 合計20万6,400円 |
どちらを選んでも合計額は同じです。違うのは、最後の報酬で清算して手元の現金を減らすか、後から納付書で払うかだけです。退任後に個人事業の売上が入るまでの期間が長いなら、手元資金を残す普通徴収の方が資金繰りは楽になります。
退任した年の報酬にかかる住民税は、翌年度にまとめて来る
一括徴収で清算されるのは、前年の所得にかかる今年度の住民税だけです。退任した年に受け取った役員報酬にかかる住民税は、翌年度の6月以降に別に課税されます。
1月末に退任した場合、その年の報酬は1か月分だけなので翌年度の住民税は小さくなります。一方、12月末に退任すると1年分の報酬にかかる住民税が翌年度に来ます。会社からの給与がもう無いので特別徴収はできず、本人あての普通徴収です。個人事業に戻った人にとって、退任の翌年度は役員報酬分の住民税を納付書で払う年になります。
法人化した直後の年に、前年の個人事業の所得にかかる住民税が普通徴収で来るのと、ちょうど逆の形です。こちらは法人成りの翌年の住民税で整理しました。
会社がすること
社長が自分の会社の特別徴収義務者でもある一人会社では、手続きも社長自身が行います。
| 手続き | 期限 | 内容 |
|---|---|---|
| 給与所得者異動届出書 | 退任した日の属する月の翌月10日まで | 一括徴収か普通徴収かを記載して区市町村へ |
| 一括徴収した住民税の納入 | 徴収した月の翌月10日まで | 通常の特別徴収と同じ納入書・eLTAXで |
異動届の期限は東京都の案内によります。会社を解散する場合でも、最後の報酬を払う時点ではまだ特別徴収義務者なので、この届出は省けません。解散の流れ全体は法人を解散・清算する費用を参照してください。
そもそも一人会社は、総従業員数2人以下として普通徴収(普A)を選べる場合があります。その場合は特別徴収をしていないので、この記事の一括徴収は関係しません。普Aの条件は一人社長の住民税は特別徴収?で解説しています。
まとめ
- 1月1日〜4月30日に退任すると、5月までの住民税の残りが最後の報酬・退職金から一括徴収される(地方税法321条の5第2項、申出不要)
- 6月1日〜12月31日の退任では、一括徴収は本人が申し出た場合だけ。申し出なければ普通徴収
- 月50万円(東京23区・単身)なら、1月末退任で一括徴収10万3,200円、9月末退任なら残り20万6,400円(概算)
- 月末退任では社会保険料2か月分と同じ最後の報酬に重なる
- 退任した年の報酬にかかる住民税は、翌年度に普通徴収で別に来る
退任の時期で動くのは住民税を払うタイミングで、税額そのものではありません。法人を続けるか個人に戻るかの損得は、自分の売上と経費で判定ツールにかけて確かめてください。
よくある質問
社長が5月に退任した場合も一括徴収されますか?
されません。特別徴収の年度は6月から翌年5月までなので、5月に退任した場合は5月分を通常の最終月分として差し引けば、その年度の住民税は納め終わります。
最後の報酬が住民税の残りより少ない場合はどうなりますか?
地方税法321条の5第2項の一括徴収は、5月31日までに支払う給与や退職手当等が残額を超える場合に限られます。超えない場合は一括徴収できず、残りは本人が普通徴収で納める形になります。
退任した翌年度の住民税はどう納めますか?
退任した年に受け取った役員報酬にかかる住民税は、翌年度に課税されます。会社から給与を受けていなければ特別徴収はできないので、本人あての納付書で納める普通徴収になります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。