社会保険

役員報酬から引く社会保険料は前月分。設立月は0円、月末退任は2か月分

結論

健康保険法167条と厚生年金保険法84条により、報酬から控除できる社会保険料は前月の標準報酬月額にかかる分です。このため法人を設立した月の役員報酬からは社会保険料が引かれず、月末日に退任すると最後の報酬から前月分と当月分の2か月分が引かれます。東京・40歳未満・役員報酬月54万円なら、本人負担は月7万5,207円です。

  • 会社が保険料を納めるのは翌月末日まで。10月分の保険料は11月末に納め、11月の報酬から本人負担分を差し引く形で、納付と控除の月がそろう
  • 退任日が3月31日なら資格喪失日は4月1日で3月分の保険料がかかり、最後の報酬から2か月分(月54万円で15万414円)が引かれる。3月30日なら3月分はかからない
  • 設立月の報酬は社会保険料が引かれないぶん手取りが多く見えるが、保険料が免除されたわけではない。翌月以降に1か月ずつ遅れて引かれる

法人を設立して最初の役員報酬を払うと、明細に社会保険料の欄がなく、思ったより手取りが多くなります。逆に、会社を畳む月の最後の報酬からは、2か月分の社会保険料が引かれます。

どちらも計算の誤りではありません。給与から差し引ける社会保険料は「前月分」と法律で決まっているためです。

報酬から引けるのは「前月の標準報酬月額」の保険料

健康保険法167条と厚生年金保険法84条は、どちらも同じ形で書かれています。事業主は、被保険者に報酬を支払う場合、前月の標準報酬月額に係る保険料を報酬から控除できる。被保険者がその事業所に使用されなくなった場合は、前月及びその月の保険料を控除できる。

これが「翌月徴収」と呼ばれる仕組みです。10月分の保険料は11月の報酬から、11月分は12月の報酬から引きます。

会社が年金事務所に保険料を納める期限も、健康保険法164条で翌月末日と決まっています。10月分は11月末日までに納めます。

保険料の月会社が納める期限本人負担分を差し引く報酬
10月分11月30日11月の報酬
11月分12月31日12月の報酬
12月分1月31日1月の報酬

納める月と差し引く月がそろうので、会社は本人から預かった分と会社負担分を合わせて翌月末に納めれば済みます。前月分を引く仕組みは、この納付期限と対になっています。

設立月の役員報酬からは、社会保険料が引かれない

法人の設立日に社長が被保険者の資格を取得すると、保険料はその月から発生します(健康保険法35条、日本年金機構)。ただし設立月の報酬から引けるのは「前月分」で、前月はまだ被保険者ではありません。だから設立月の報酬からは社会保険料が1円も引かれません。

10月1日に設立し、役員報酬を月54万円(毎月25日払い)とした場合の、本人負担分の動きです。月54万円は、事業所得1,000万円で当サイトの計算エンジンが出す最適な役員報酬です(役員報酬は結局いくらが最適か)。

報酬の支払月差し引く保険料本人負担(東京・40歳未満)本人負担(東京・40〜64歳)
10月なし0円0円
11月10月分7万5,207円7万9,500円
12月11月分7万5,207円7万9,500円
以降毎月前月分7万5,207円7万9,500円

※ 当サイトの計算エンジンによる。報酬月額54万円は標準報酬月額53万円(健康保険第31等級・厚生年金第28等級)。厚生年金保険料率は18.3%。健康保険は令和8年度の協会けんぽ東京支部の料率に子ども・子育て支援金を加えたもの。本人負担は労使折半の端数処理後

10月の手取りは、11月以降より7万5,207円多くなります。これは保険料が免除されたのではなく、1か月遅れて引かれているだけです。10月分の保険料は、11月の報酬から引かれ、会社負担分と合わせて11月末に納めます。

設立月の源泉所得税にも影響があります。源泉所得税は社会保険料を引いた後の金額で計算するため、社会保険料が引かれない設立月は源泉所得税もやや多くなります。年末調整で精算されるので、年間の税額は変わりません。

法人成りの月に国民健康保険・国民年金と二重に払うことがないかは、法人成りした月の保険料は国保か社保かで整理しています。

月末に退任すると、最後の報酬から2か月分が引かれる

終わりの側はもう少し複雑です。

健康保険法36条により、資格を失うのは退職・退任した日の翌日です。そして同法156条3項により、前月から引き続き被保険者である人が資格を失った月の保険料は算定しません。厚生年金保険法19条も、被保険者期間を資格喪失月の前月までとしています。

この2つを組み合わせると、退任日が月末かどうかで結果が変わります。

退任日資格喪失日3月分の保険料3月の最後の報酬から引く額(東京・40歳未満)
3月30日3月31日かからない2月分のみ 7万5,207円
3月31日4月1日かかる2月分+3月分 15万414円

※ 役員報酬月54万円・3月25日に最後の報酬を支払う場合の当サイトの計算

3月31日に退任すると、資格喪失日が4月1日になり、3月は丸ごと被保険者だった月として保険料がかかります。そして「使用されなくなった場合は前月及びその月の保険料を控除できる」という規定により、最後の報酬から2か月分を差し引きます。

会社を解散する、役員を退任して個人事業に戻る、といった場面では、この1日の違いで1か月分の保険料が動きます。ただし3月分の健康保険・厚生年金がかからない場合は、その月は国民健康保険・国民年金の対象になります。どちらの制度にも入らない月ができるわけではありません。

当月徴収の会社で起きること

法律の形は翌月徴収ですが、その月の給与からその月の保険料を引く「当月徴収」の運用をしている会社もあります。

当月徴収の会社では、設立月や入社月の給与から保険料が引かれる代わりに、退職月の扱いが翌月徴収とずれます。月の途中で退職した場合、その月の保険料はかからないのに、給与からは引いてしまっていることがあり、返金が必要になります。

一人会社で給与計算ソフトを使う場合も、初期設定でどちらの方式になっているかを一度確認しておくと、設立月と最終月の明細で戸惑いません。

年間の手取りは変わらない。変わるのは月ごとの資金繰り

ここまでの話は、いつ引くかの話です。1年を通して払う保険料の総額は変わりません。当サイトの判定ツールが出す法人化の手取りや損益分岐点も、年額で計算しているため影響を受けません。

効いてくるのは、法人成り直後の月ごとの資金繰りです。設立月は本人の手取りが多く見え、会社側も保険料の納付が翌月末まで来ないため、最初の2か月は現金が残りやすくなります。この見え方に引きずられて資金計画を立てると、3か月目から保険料の納付が毎月続く段階で苦しくなります。1年目の資金繰りの全体像は法人成り1年目の資金繰りで計算しています。

役員報酬の額そのものは、月ごとの控除のタイミングではなく、年間の手取りで決めるものです。自分の売上と経費で、手取りが最大になる報酬額を確かめてください。

まとめ

  • 報酬から差し引ける社会保険料は前月分(健康保険法167条・厚生年金保険法84条)。会社の納付期限が翌月末日なので、納付と控除の月がそろう
  • 法人を設立した月の役員報酬からは社会保険料が引かれない。免除ではなく、翌月以降に1か月ずつ遅れて引かれる
  • 東京・40歳未満・役員報酬月54万円なら、本人負担は月7万5,207円(40〜64歳は7万9,500円)
  • 月末日に退任すると資格喪失日が翌月1日になり、最後の報酬から2か月分(月54万円で15万414円)を引く。前日に退任すれば当月分はかからない
  • 年間の保険料総額は変わらない。変わるのは設立直後と最終月の資金繰り

よくある質問

当月分の社会保険料をその月の給与から引いている会社は違法ですか?

法律が報酬から控除できると定めているのは前月分(退職時は前月分と当月分)です。当月分を先に控除する運用をとる会社もありますが、その場合は退職月に控除しすぎや引き忘れが起きやすくなります。どちらの運用かを給与規程などで決めておくことが大切です。

役員報酬を払わない月がある場合、社会保険料はどう引きますか?

報酬を払わない月は差し引く元がないため、本人負担分は会社が立て替える形になります。役員報酬が0円になると、そもそも被保険者にならない場合があります。

賞与から引く社会保険料も前月分ですか?

違います。賞与からは、その賞与の標準賞与額にかかる保険料を差し引きます。前月分という考え方は毎月の報酬だけのものです。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。