設立の手続き

個人事業主が海外移住するとき、納税管理人と出国前の確定申告はどう決まる?

結論

納税管理人を出国の日までに税務署へ届け出れば、その年の確定申告は翌年2月16日〜3月15日に納税管理人を通じて行えます。届け出ずに出国する場合は、1月1日から出国までの所得を「出国の時まで」に準確定申告しなければなりません。住民税は1月1日に住所がある市区町村が前年の所得に課すので、出国の翌年度分は原則かかりませんが、出国した年度の残りと、前年の所得に対する事業税は出国後も納める必要があります。

  • 納税管理人の選任届出書の提出時期は「定めたとき又は出国の日まで」。法人でも個人でもなれる(国税庁 No.1923・手続案内)
  • 売上1,200万・経費200万・東京23区・単身なら、出国前年の所得に対する住民税は年77.7万円、個人事業税は35.5万円(当サイトの計算エンジン)
  • 自分の会社から海外在住のまま役員報酬を受け取ると、日本国内で生じた所得として20.42%で源泉徴収される(国税庁 No.1929)

海外移住で迷うのは、日本の税金を「いつ・誰が」片付けるかです。答えは、出国の日までに納税管理人を税務署へ届け出るかどうかでほぼ決まります。ここでは個人事業主が年の途中で非居住者になる場合を、所得税・住民税・個人事業税の順に整理し、会社を残して海外から役員報酬を受け取る場合の扱いも確認します。

出国の年の確定申告は、納税管理人の届出で期限が変わる

国税庁 No.1926 は、年の途中で海外に転出する人の申告を2つに分けています。

出国までの手続申告する所得申告・納税の期限
納税管理人を指定して出国1月1日〜出国日の全ての所得+出国翌日〜12月31日の国内源泉所得翌年2月16日〜3月15日(納税管理人を通じて)
納税管理人を指定せずに「出国」1月1日〜出国時の全ての所得出国の時まで(準確定申告)

国税庁は、納税管理人を指定せずに非居住者になることをかぎ括弧付きで「出国」と呼んでいます。この場合、引っ越し準備と並行して、出国日までに1年の途中までの帳簿を締めて申告と納税を終える必要があります。

さらに、準確定申告を済ませても、出国後に日本国内の不動産の賃料などの国内源泉所得が生じれば、翌年3月15日までに改めて確定申告が要ります(No.1926)。結局は納税管理人が必要になる人が多いのはこのためです。

配偶者控除や扶養控除の判定日も分かれます。納税管理人を指定した場合はその年の12月31日、「出国」の場合は出国の日で判定します(No.1926)。

納税管理人の届出は「出国の日まで」に税務署へ

税務署への届出は「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」で行います。国税庁の手続案内では、提出時期はその納税管理人を定めたとき又は出国の日までです。e-Taxでも書面でも提出できます。

No.1923 が示す要点は次のとおりです。

  • 納税管理人は確定申告書の提出、税務署からの書類の受け取り、納付や還付金の受け取りを代わりに行う人
  • 法人でも個人でもなれる
  • 届出後、税務署の書類は納税管理人あてに届くが、申告書の提出先は本人の納税地の税務署
  • 帰国して居住者に戻ったら、解任の届出を出す

事業をやめるなら廃業の届出も並行する

日本での事業を畳んで移住するなら、廃業の届出も要ります。No.2091 によると、個人事業の開廃業等届出書は事業の廃止があった年分の確定申告期限まで、課税事業者の事業廃止届出書は事由が生じたら速やかに提出します。人を雇っていれば、給与支払事務所等の廃止届出書を廃止の日から1か月以内に出します。

住民税は1月1日の住所で決まり、出国後にも請求が届く

総務省は、個人住民税はその年の1月1日時点で住所がある市区町村が、前年1月〜12月の所得に課すと説明しています。ここから海外移住の住民税は次のように整理できます。

年度課税の基準海外移住した人
出国した年度その年1月1日に住所ありかかる。出国後の分も納める
出国の翌年度翌年1月1日に住所なし原則かからない

出国した年の途中までの所得には、翌年度の住民税がかからないことになります。住民税が前年の所得で1年遅れて届く仕組みは法人化した年に届く住民税と同じです。一方で、出国した年度の住民税(前年の所得に対するもの)は、6月以降の納期が出国後に残ります。

横浜市は、住民税の納税管理人を出国する日の10日前までに届け出るよう求めています。税務署の届出とは別の手続で、提出先は市区町村です。期限は自治体ごとに確認してください。

出国後に届く金額は小さくない

当サイトの計算エンジンで、出国の前年に1年通して事業をした場合の、前年所得に対する住民税と個人事業税を出しました(2026年分の税率で計算・青色申告65万円控除・東京23区・単身・40歳未満)。

売上・経費事業所得(青色控除後)住民税個人事業税
売上800万・経費200万535万円41.4万円15.5万円
売上1,200万・経費200万935万円77.7万円35.5万円

売上1,200万円の場合、出国後に住民税と事業税で合わせて100万円を超える請求が届きます。個人事業税も前年の所得に対して都道府県が課す税なので、納税管理人がいないと納付書を受け取る人がいません。

会社を残して海外から報酬を受け取ると20.42%の源泉徴収

法人化してから移住し、日本の会社の役員として海外から仕事を続けるケースもあります。国税庁 No.1929 は、内国法人の役員が国外で勤務した場合、その報酬は**日本国内で生じたものとして20.42%**で源泉徴収されるとしています。例外は、役員が使用人として常時海外の支店に勤務する場合などに限られます。

一人社長が海外から経営を続ける形はこの例外に当たらないため、20.42%の源泉徴収が前提になります。国内にいたときの給与所得の源泉徴収(月額表)とは計算方法がまったく違います。海外在住者への支払い全般の扱いは海外在住の外注先への源泉徴収で整理しています。

役員報酬の額は、日本に住んでいる前提で社会保険と税金の合計が最小になるよう決めたものかもしれません。住所が変われば前提が崩れるので、移住前に報酬額を見直す価値があります。日本で事業を続ける場合の比較は、判定ツールに自分の売上と経費を入れて確かめてください。

出国までにやることの順番

  1. 納税管理人を決める(家族・税理士など)
  2. 税務署へ所得税・消費税の納税管理人の選任届出書を出す(出国の日まで)
  3. 市区町村へ住民税の納税管理人を届け出る(横浜市は出国の10日前まで)
  4. 事業をやめるなら開廃業等届出書・事業廃止届出書を出す
  5. 会社を残すなら、海外からの役員報酬の源泉徴収(20.42%)を前提に報酬額を見直す

2から先を飛ばして出国すると、その年の申告は出国の時までに済ませる必要があります。

まとめ

  • 納税管理人を出国の日までに届け出れば、出国の年の確定申告は翌年3月15日まで。届け出なければ出国の時までに準確定申告
  • 準確定申告をしても、出国後に国内源泉所得があれば翌年に再度の確定申告が要る
  • 住民税は1月1日の住所で決まる。出国翌年度は原則かからないが、出国した年度の分は出国後も納める
  • 売上1,200万・経費200万の東京23区・単身なら、出国後に住民税77.7万円・個人事業税35.5万円が届く計算
  • 海外から自分の会社の役員報酬を受け取ると20.42%で源泉徴収される

一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で、移住前に何がいくら残るかを確かめてください。

よくある質問

納税管理人は家族でもなれますか?

なれます。国税庁は納税管理人について「法人でも個人でも構いません」としており、親族や税理士を選任する例が一般的です。届出後は税務署からの書類が納税管理人あてに送られます。

出国前に準確定申告をすれば、翌年の確定申告は不要ですか?

出国後に日本の国内源泉所得(国内の不動産の賃料など)がある場合は不要になりません。居住者期間のすべての所得と非居住者期間の国内源泉所得を合計し、翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告します(国税庁 No.1926)。

国の納税管理人を届け出れば、住民税の手続も済みますか?

済みません。所得税・消費税の届出書は税務署への手続で、住民税の納税管理人は市区町村へ別に届け出ます。横浜市は出国の10日前までの提出を求めています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。