インボイス・消費税

簡易課税の届出を出し忘れたら。救済されるのは災害等の2つの場合だけ

結論

簡易課税制度選択届出書を期限までに出せなかった場合に、期限内に出したものとみなしてもらえるのは、天災や火災など自己の責めに帰さない事情で出せなかったとき(消費税法施行令57条の2)と、災害等の被害で簡易課税が必要になったとき(消費税法37条の2)の2つです。単なる出し忘れは列挙された事情に当たらず、その課税期間は原則課税になります。課税売上1,000万円のサービス業で課税仕入れが200万円なら、納税額は50万円から80万円に増えます。

  • やむを得ない事情による承認申請は、その事情がやんだ日から2か月以内(消費税法基本通達13-1-5の2・1-4-17)
  • 災害等の特例は、災害等のやんだ日から2か月以内の申請で、被害を受けた課税期間から簡易課税を選べる。高額な資産を買った後の届出制限もかからない
  • 2割特例・3割特例の翌課税期間に限っては、申告期限までの届出で簡易課税を選べる別の経過措置がある

消費税の簡易課税は、届出書を出した課税期間の翌課税期間から使える制度です。期限を1日でも過ぎると、その年(事業年度)は原則課税で申告することになります。届出の期限と基本的な仕組みは簡易課税のみなし仕入率で扱っているので、この記事は「間に合わなかったとき」に絞ります。

救済は2つの制度しかない

期限後に出した届出を、期限内に出したものとみなしてもらえる制度は2つです。

制度根拠対象になる事情申請の期限
やむを得ない事情がある場合の特例消費税法37条8項、施行令57条の2天災・火災など自己の責任によらない事情で、届出書を期限までに出せなかった事情がやんだ日から2か月以内
災害等があった場合の特例消費税法37条の2災害などで被害を受け、簡易課税の適用が必要になった災害等がやんだ日から2か月以内(課税期間の末日の翌日以後にやんだ場合は申告期限まで)

どちらも、税務署長の承認を受けて初めて効果があります。申請書を出すだけでは足りません。

やむを得ない事情とは何か

施行令57条の2は、やむを得ない事情があって届出書を期限までに出せなかった場合に、税務署長の承認を受ければ、期限内に出したものとみなすとしています。何が「やむを得ない事情」に当たるかは、消費税法基本通達13-1-5の2が1-4-16によるとしています。

1-4-16が挙げるのは次の4つです。

  1. 震災、風水害、雪害、落雷、がけ崩れ、火山の噴火などの天災、または自己の責任によらない火災などの人的災害で、届出書を出せない状態になった
  2. 1に準ずる状況、または事業者の責めに帰することができない状態で、届出書を出せない状態になった
  3. 課税期間の末日前おおむね1か月以内に相続があった
  4. 1から3に準ずる事情で、税務署長がやむを得ないと認めた

どれも「届出書を出せない状態」になったことが前提です。届出を知らなかった、忘れていた、というのはこの列挙に当たりません。出そうと思えば出せた状態だったからです。

申請は、その事情がやんだ日から2か月以内です(基本通達1-4-17)。

災害等の特例は、被害を受けた期間から選べる

もう1つの制度は、消費税法37条の2の災害等の特例です。こちらは「届出を出せなかった」ことではなく、災害で被害を受けたために簡易課税が必要になったことが要件です。

原則課税では、帳簿や請求書から課税仕入れを集計する必要があります。災害で帳簿や請求書を失うと、その集計ができなくなります。この特例を使うと、災害が起きた課税期間から簡易課税を選べます。

  • 対象になる災害は、地震・暴風・豪雨などの自然災害、火災・爆発などの人為による異常な災害、これらに準ずる自己の責めに帰さない事実(基本通達13-1-7)
  • 申請は、災害等がやんだ日から2か月以内。やんだ日が課税期間の末日の翌日以後なら、その課税期間の申告期限まで(同13-1-8)
  • 承認を受ければ、届出書をその課税期間の初日の前日に出したものとみなされる。調整対象固定資産や高額特定資産を買った後の届出の制限(消費税法37条3項)も適用されない(37条の2第1項後段)

出し忘れると、納税額はいくら増えるか

救済を受けられなければ、その課税期間は原則課税です。課税売上高(税抜)1,000万円の事業者で、業種と課税仕入れの額ごとに比べました。

業種区分(みなし仕入率)簡易課税の納付税額原則課税(課税仕入れ100万円)原則課税(課税仕入れ200万円)原則課税(課税仕入れ400万円)
第3種(製造業・建設業など)(70%)30.0万円90.0万円(+60.0万円)80.0万円(+50.0万円)60.0万円(+30.0万円)
第4種(飲食店業など)(60%)40.0万円90.0万円(+50.0万円)80.0万円(+40.0万円)60.0万円(+20.0万円)
第5種(サービス業など)(50%)50.0万円90.0万円(+40.0万円)80.0万円(+30.0万円)60.0万円(+10.0万円)
第6種(不動産業)(40%)60.0万円90.0万円(+30.0万円)80.0万円(+20.0万円)60.0万円(+0.0万円)

※ 課税売上高(税抜)1,000万円、税率10%(地方消費税込み)の概算。括弧内は簡易課税との差(+は出し忘れで増える額)。当サイトで計算(scripts/kani-kazei-todoke-kyusai.mjs)

課税仕入れが少ない事業ほど、出し忘れの損失は大きくなります。外注費の少ないデザイナーやコンサルタント(第5種)で課税仕入れが100万円なら、1年で40万円です。人件費は課税仕入れに入らないため、従業員を雇っている事業でも課税仕入れは意外に少ないことがあります。

逆に、課税仕入れが多い年は原則課税のほうが有利なこともあります。表の第6種・課税仕入れ400万円では差がゼロです。出し忘れに気づいたら、まず原則課税で計算した額を確かめる価値があります。

2割特例・3割特例からの移行は別扱い

インボイス登録をきっかけに課税事業者になり、2割特例を使ってきた事業者には、別の経過措置があります。2割特例の適用期限は、令和8年9月30日を含む課税期間までです。2割特例(個人事業者の令和9年分・令和10年分は3割特例)の適用を受けた課税期間の翌課税期間に簡易課税を使う場合は、その課税期間の申告期限までに届出書を出せば、その課税期間から適用できます。

これは救済ではなく、特例の終了に合わせて用意された移行の措置です。個人事業者が令和8年分で2割特例を終える場合の流れは2割特例の終了で整理しています。

法人成りのときに出し忘れやすい理由

個人事業で出していた簡易課税の届出は、法人には引き継がれません。法人は別の事業者だからです。新設法人は、設立した事業年度中に届出を出せばその事業年度から適用を受けられます(消費税法施行令56条1項の「事業を開始した日の属する課税期間」)。

設立初年度は届出が多く、消費税の届出が後回しになりがちです。第1期の末日を過ぎると、第1期は原則課税、第2期から簡易課税になります。インボイス登録をした新設法人は初年度から納税義務があるため、この1期分の差がそのまま納税額に出ます。インボイス登録済みで法人化した場合の消費税の扱いはインボイス登録と法人化の消費税免税で確認できます。

まとめ

  • 簡易課税の届出を期限後に出しても、原則はその翌課税期間からの適用。出し忘れた期間は原則課税
  • 期限内に出したとみなされるのは、天災など自己の責任によらない事情で出せなかった場合と、災害等の被害で簡易課税が必要になった場合だけ
  • どちらも税務署長の承認が必要で、申請は事情・災害等がやんだ日から2か月以内
  • 課税売上1,000万円・課税仕入れ100万円のサービス業なら、出し忘れで納税額は1年40万円増える
  • 2割特例・3割特例の翌課税期間は、申告期限までの届出で足りる別の経過措置がある

消費税の負担は、法人化の有利不利を左右する大きな要素です。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

期限を1日過ぎて届出書を出した場合、その届出書は無効になりますか

無効にはなりません。提出した日の属する課税期間の翌課税期間から簡易課税が適用されます。出し忘れた課税期間は原則課税ですが、翌課税期間からは簡易課税になります。

税理士に依頼していたのに出されていなかった場合は、やむを得ない事情に当たりますか

消費税法基本通達1-4-16が挙げるのは、天災や火災などで届出書を出せない状態になった場合や、それに準ずる事業者の責めに帰することができない状態です。依頼先の失念がこれに当たるかは列挙からは読み取れず、税務署長の判断になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。