社会保険
配偶者だけを雇う一人会社に労災・雇用保険はない。社保は入る
結論
同居の親族は、原則として労災保険・雇用保険の労働者になりません。例外は、同居の親族とともに一般の労働者を雇い、就労実態や指揮命令などの条件を満たす場合に限られます。配偶者だけを雇う一人会社では例外に当たらず、労働保険は成立しません。一方、健康保険・厚生年金には同居の親族を除く規定がなく、常時使用される配偶者は被保険者になります。
- 労働局は、同居の親族は原則として労働者にならず、同居の親族とともに一般労働者を使用し3つの条件をすべて満たす場合だけ労働者として扱うとしている
- 健康保険・厚生年金には同居の親族を除く規定がない。月給15万円なら配偶者本人の保険料は年25.5万円、会社負担は年26.2万円(東京・40歳未満)
- 健康保険の出産手当金・傷病手当金は出るが、雇用保険の育児休業給付金と失業給付は出ない。月給15万円なら育児休業給付金の最初の180日分は約60万円
法人化して配偶者を従業員にすれば、会社員と同じ保険に入れる——と考えがちです。健康保険と厚生年金については、その理解で合っています。
合っていないのは労災保険と雇用保険です。配偶者だけを雇う一人会社では、どちらも成立しません。原因は法人か個人かではなく、「同居の親族」という立場にあります。
同居の親族は、原則として「労働者」ではない
労働基準法116条2項は、「同居の親族のみを使用する事業」には労働基準法を適用しないとしています。労災保険と雇用保険も、同居の親族を原則として労働者として扱いません。
大阪労働局は、労働保険の対象となる労働者の範囲を次のように説明しています。
事業主と同居している親族は、原則として労働者にはなりません。ただし、法人・個人を問わず、同居の親族とともに一般労働者を使用し、次の3つの条件をすべて満たした場合のみ、労働者として扱います。
3つの条件は次のとおりです。
- 就労の実態が、その事業場のほかの労働者と同様で、賃金もこれに応じて支払われていること
- 始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇や、賃金の決定・計算・支払の方法などが就業規則などで明確に定められ、その管理がほかの労働者と同様であること
- 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
雇用保険はこれに加えて、取締役など事業主と利益を一にする地位にないことが条件になります。
大事なのは、例外の前提です。「同居の親族とともに一般労働者を使用し」とある以上、他人の従業員が1人もいない会社では、3つの条件を検討する段階にすら進みません。配偶者だけを雇う一人会社の配偶者は、どれだけ働いても労災保険・雇用保険の労働者にはなりません。
「法人・個人を問わず」とあるとおり、法人化しても結論は同じです。愛媛労働局は、雇用保険について、法人の代表者と同居している親族も、事業の規模が零細で実質的に代表者の個人事業と同様と認められる場合は、個人事業主と同居の親族の場合と同様に原則として被保険者にならないとしています。
健康保険・厚生年金には、同居の親族を除く規定がない
一方、健康保険と厚生年金は扱いが違います。健康保険法3条は被保険者を「適用事業所に使用される者」とし、除外する者を列挙していますが、同居の親族は含まれていません。
日本年金機構は、適用事業所に常時使用される70歳未満の人は、国籍や性別、年金を受けているかどうかにかかわらず厚生年金の被保険者になるとしています。パートタイムの人は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所の同様の業務の一般社員の4分の3以上であれば被保険者になります。
法人は、社長1人でも健康保険・厚生年金の適用事業所です(法人化すると社会保険は強制加入になる)。そこに常時使用される配偶者は、同居していても被保険者になります。同じ配偶者が、社会保険には入り、労働保険には入らないという組み合わせになります。
配偶者の月給別に、かかる保険料と出ない給付
配偶者を従業員にしたときの保険料と、労働者でないために発生しない保険料・受けられない給付を、月給別に並べると次のとおりです。
| 配偶者の月給 | 社会保険料(本人) | 社会保険料(会社) | 労働者なら発生した労働保険料 | 雇用保険があれば受けられた育児休業給付金(180日) |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 16.7万円 | 17.1万円 | 2.0万円 | 40.2万円 |
| 15万円 | 25.5万円 | 26.2万円 | 3.0万円 | 60.3万円 |
| 20万円 | 34.1万円 | 34.9万円 | 4.0万円 | 80.4万円 |
| 25万円 | 44.3万円 | 45.4万円 | 5.0万円 | 100.5万円 |
※ 社会保険料は計算エンジンによる年額(協会けんぽ東京支部・40歳未満・賞与なし)。会社負担には子ども・子育て拠出金を含む。労働保険料は雇用保険13.5/1,000+労災保険3/1,000(その他の各種事業)の年額。育児休業給付金は雇用保険法61条の7の67%(最初の180日)を「月給×6か月×67%」で概算し、上限額と受給要件(休業前2年間の被保険者期間など)は考慮していない/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/kazoku-jugyoin-roudou-hoken.mjs
労働保険料は月給15万円で年3.0万円と小さく、払わずに済むこと自体は大きな得ではありません。むしろ大きいのは受けられない給付のほうです。
健康保険から出るもの、雇用保険から出ないもの
| 給付 | 制度 | 同居の配偶者(一人会社の従業員) |
|---|---|---|
| 出産手当金 | 健康保険 | 被保険者なら出る |
| 傷病手当金 | 健康保険 | 被保険者なら出る |
| 産前産後休業中の社会保険料の免除 | 健康保険・厚生年金 | 対象 |
| 育児休業給付金 | 雇用保険 | 出ない |
| 失業したときの基本手当 | 雇用保険 | 出ない |
| 仕事中のけがの労災給付 | 労災保険 | 出ない |
健康保険の出産手当金や傷病手当金は、配偶者が被保険者であれば受けられます。仕組みは社長本人の場合と同じで、一人社長の傷病手当金はいくら?で計算しています。
雇用保険の給付は、被保険者でなければ受けられません。育児休業給付金は、雇用保険法61条の7で休業開始から180日までは賃金日額の67%、それ以降は50%です。月給15万円の配偶者が雇用保険の被保険者だった場合、最初の180日だけで約60万円になる計算です。一人会社の配偶者には、この給付がありません。
仕事中のけがは、健康保険の側に回る
労災保険の労働者でない以上、仕事中にけがをしても労災保険の給付は受けられません。健康保険法1条は、給付の対象を労災保険の「業務災害」以外の病気・けがとしています。労災保険の対象にならないけがは、健康保険の被保険者であれば健康保険で扱われる余地があります。その場合の給付は健康保険の範囲(医療費の自己負担は原則3割、休業中は傷病手当金)にとどまり、労災保険のように療養の自己負担がなくなるわけではありません。
社長本人の業務中のけがについては、被保険者5人未満の会社の役員に健康保険の特例があります。労災保険の特別加入という選択肢とあわせて、一人社長は労災に入れる?特別加入できないケースで扱っています。
他人を1人雇うと、配偶者の扱いも変わり得る
一人会社が他人の従業員を雇うと、会社には労働保険が成立します。そのうえで、同居の配偶者がさきほどの3つの条件(雇用保険は4つ)を満たせば、配偶者も労働者として扱われる可能性が出てきます。
福岡労働局は、同居の親族を雇用保険の被保険者として申請するときに、「同居の親族」雇用実態証明書に加えて、労働者名簿・出勤簿・賃金台帳の写しを、親族以外の労働者の同じ期間の分とあわせて提出するよう求めています。同局の簡易判定票の最初の項目は「労働者が、親族のみでないこと(親族以外で常時雇用している労働者がいること)」です。ほかにも、就業規則が同じように適用されていること、税法上の専従者として処理していないこと、持株があるなら議決権を持たないことなどが並んでいます。
同局は、退職時に被保険者の資格がなかったと分かった場合は遡って資格を喪失させるため、雇用保険の給付が受けられないだけでなく、時効にかかった労働保険料の還付もできないと注意しています。大阪労働局も、保険事故が起きたときに要件を満たしていることが書類で明らかでなければ給付を受けられないことがあるとしています。
従業員を雇う場合のコスト全体は一人社長が初めて従業員を雇う費用で計算しています。
役員にするか、従業員にするか、扶養のままにするか
配偶者を会社に関わらせる形は3つあります。
| 形 | 健康保険・厚生年金 | 労災保険・雇用保険 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 扶養のまま(報酬なし) | 社長の被扶養者・第3号被保険者 | なし | 年収130万円未満などの扶養の条件 |
| 従業員として給与を払う | 常時使用なら被保険者 | 同居の親族のみなら対象外 | 税務上のみなし役員の判定 |
| 役員にして役員報酬を払う | 報酬があれば被保険者 | 対象外 | フリーランス新法の対象から外れる |
役員にする場合と従業員にする場合の、税務上とフリーランス新法上の違いは法人化してもフリーランス新法の対象?にまとめています。どの形でも、他人の従業員がいない一人会社である限り、同居の配偶者に労災保険・雇用保険の保障は付かないという点は共通です。
判定ツールの「配偶者あり」は、配偶者が扶養に入る前提で計算しています。配偶者に給与を払う形を考える場合は、まず扶養のままの差額を自分の売上と経費で確かめ、そこから配偶者の社会保険料と受けられない給付を差し引いて比べてください。
まとめ
- 同居の親族は、原則として労災保険・雇用保険の労働者にならない。例外は他人の従業員も雇っている場合に限られる
- 配偶者だけを雇う一人会社には、労災保険・雇用保険が成立しない。法人化しても同じ
- 健康保険・厚生年金には同居の親族を除く規定がなく、常時使用される配偶者は被保険者になる
- 出産手当金・傷病手当金は出るが、育児休業給付金・失業給付・労災給付は出ない(月給15万円で育児休業給付金の180日分は約60万円)
- 他人を雇ったあとで配偶者を労働者として扱うには、出勤簿・賃金台帳などで他の従業員と同じ管理を示す必要がある。資格がないと後で分かれば遡って喪失する
よくある質問
同居していない親族を雇う場合はどうなりますか?
同居していない親族は、ほかの従業員と同じ基準で判断されます。週20時間以上・31日以上の雇用見込みなどの要件を満たせば、雇用保険の被保険者になります。
他人の従業員を1人でも雇えば、配偶者も雇用保険に入れますか?
労働局は、同居の親族とともに一般労働者を使用している場合に、就労の実態が他の労働者と同様で賃金もそれに応じていること、始業・終業の時刻や賃金などが就業規則等で明確に定められ管理が他の労働者と同様であること、事業主の指揮命令に従っていることが明確であることの3つを満たせば労働者として扱うとしています。雇用保険はこれに加えて、取締役など事業主と利益を一にする地位にないことが条件です。
配偶者が仕事中にけがをしたら、どの保険が使えますか?
同居の配偶者が労災保険の労働者に当たらない場合、労災保険の給付は受けられません。健康保険法は労災保険の業務災害以外を給付の対象としているため、健康保険の被保険者であれば健康保険の給付を受けられる場合があります。個別の扱いは協会けんぽに確認してください。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。