社会保険

労働保険の年度更新は2階建て。分割は月給30万円で7人目から

労働保険の年度更新で7月10日に納めるのは、前年度の確定精算と当年度1年分の概算です。延納できるのは概算保険料40万円以上で、月給30万円の従業員なら7人目から。令和8年度の料率で計算しました。

労働保険の年度更新で7月10日までに納めるのは、その年度の保険料だけではありません。前年度の確定精算と、当年度1年分の前払いが、同じ1枚の申告書に乗ります。

しかも分割払い(延納)が使えるのは概算保険料が40万円以上のときで、月給30万円の従業員に換算すると7人目からです。従業員が数人の会社は、1年分を7月10日に一括で納めることになります。

年度更新で納めるのは「前年度の不足額+当年度の概算」

労働保険の保険料は、年度当初に概算で申告・納付し、翌年度の当初に確定申告して精算する仕組みです。そのため事業主は毎年、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付します。これが年度更新で、原則として毎年6月1日から7月10日までの間に行います。石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金も、このときに労働保険料と併せて申告・納付します。

6月1日が土曜日なら6月3日、日曜日なら6月2日から。7月10日が土曜日なら7月12日、日曜日なら7月11日までとなります。令和8年は6月1日が月曜日、7月10日が金曜日なので、この年度は原則どおりの日程です。

従業員1人(月給30万円・賞与なし)を雇っている会社で、前年度に賃金見込額360万円で申告していた場合、翌年7月10日に納める額は次のようになります。node scripts/roudou-hoken-nendo-koushin.mjs koushin で計算しました。

前年度に申告した概算保険料:59,400円(賃金見込額 3,600,000円)

前年度の実際の賃金総額確定保険料精算額当年度の概算保険料一般拠出金7月10日に納める額
見込みどおり(月30万円のまま)/3,600,000円59,400円不足 0円59,400円72円59,472円
昇給と残業で増えた(年420万円)/4,200,000円69,300円不足 9,900円69,300円84円79,284円
賞与を2回出した(年450万円)/4,500,000円74,250円不足 14,850円74,250円90円89,190円
途中で退職して減った(年300万円)/3,000,000円49,500円超過 9,900円49,500円60円49,560円

※ 労災「その他の各種事業」3/1,000・雇用保険「一般の事業」13.5/1,000・一般拠出金0.02/1,000。当年度の賃金も前年度の実績と同額と見込んだ場合。超過分は充当または還付請求となり、表の納付額には入れていない

賃金が増えた年は、増加分が2回効きます。年450万円の行を見ると、前年度の不足額14,850円と、当年度の概算74,250円の両方が上がっています。賃金が90万円増えただけで、7月10日の支払いは59,472円から89,190円へ1.5倍になります。 賃金の増減がそのまま年1回の支払いに集約されるのが、この制度の資金繰り上の特徴です。

賞与を出した年に負担が重くなるのは、賞与も賃金総額に入るためです。厚生労働省が示している令和8年度の計算例も、月20万円×12か月と賞与45万円×2回を合わせた330万円を賃金総額として計算しています。

なお、保険料に1円未満の端数が出たら切り捨てます。このとき労災保険と雇用保険の算定基礎額が同じなら、別々に切り捨てるのではなく、合計の料率を掛けてから切り捨てます。賃金総額333万3,333円で試すと、合計料率で計算した54,999円に対し、別々に切り捨てると54,998円で1円ずれます。

延納の40万円は、当年度の概算保険料だけで判定する

概算保険料額が40万円以上(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円以上)のとき、または労働保険事務組合に労働保険事務を委託しているときは、納付を3回に分割できます。

問題は、この40万円が何で判定されるかです。厚生労働省の年度更新のよくある質問に、確定計算で不足額が出て当年度の概算保険料と合計すると40万円を超えるが、概算保険料だけなら40万円未満という場合が挙がっています。回答は「延納することはできません」。判定に使うのは当年度の概算保険料だけで、前年度の確定不足額は足しません。

月給30万円の従業員を雇った場合、賃金総額と概算保険料は次のようになります。node scripts/roudou-hoken-nendo-koushin.mjs table の出力です。

従業員数年間の賃金総額労働保険料(年)うち本人負担会社の負担一般拠出金延納
1人3,600,000円59,400円18,000円41,400円72円7月10日に一括
2人7,200,000円118,800円36,000円82,800円144円7月10日に一括
3人10,800,000円178,200円54,000円124,200円216円7月10日に一括
4人14,400,000円237,600円72,000円165,600円288円7月10日に一括
5人18,000,000円297,000円90,000円207,000円360円7月10日に一括
6人21,600,000円356,400円108,000円248,400円432円7月10日に一括
7人25,200,000円415,800円126,000円289,800円504円3回に分割できる
8人28,800,000円475,200円144,000円331,200円576円3回に分割できる

※ 月給30万円・賞与なし・労災「その他の各種事業」3/1,000・雇用保険「一般の事業」13.5/1,000(本人5/1,000)・一般拠出金0.02/1,000/令和8年度

概算保険料が40万円ちょうどになる賃金総額は2,424万2,425円です。月給30万円の従業員なら6.73人分にあたるので、7人目を雇って初めて分割できます。分割払いという救済は、支払額が小さい会社ほど使えません。 従業員6人までの会社は、いくら賃金が増えても7月10日に1年分を納めます。

分割できる場合の期別の納期限は、第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が1月31日です。納期限が土曜日ならその翌々日、日曜日ならその翌日になるので、令和8年度は第2期が11月2日(月)、第3期が翌年2月1日(月)です。労働保険事務組合に事務を委託している場合は、第2期が原則11月14日、第3期が原則2月14日と別の日付になります。

10月1日以降に保険関係が成立した事業は延納が認められず、成立した日から3月31日までの保険料を一括で納めます。年度の後半に人を雇い始めた会社は、この点でも分割の対象外です。

分割できない会社が使えるのは口座振替。ただし締切は2月25日

分割できない会社にも、支払いを後ろにずらす方法が1つあります。口座振替です。令和8年度の口座振替納付日は、第1期が9月7日(月)、第2期が11月16日(月)、第3期が翌年2月15日(月)です。

第1期で比べると、口座振替を使わない場合の納期限7月10日に対し、引き落としは9月7日。59日ぶん後ろへ動きます。 分割できない会社にとっては、これが唯一の資金繰りの余地です。

ただし申込締切があります。令和8年度の第1期分の締切は令和8年2月25日(水)で、その年度が始まる前です。第2期は8月14日(金)、第3期は10月13日(火)、第4期は翌年1月7日(木)。6月に申告書が届いてから申し込んでも、その年度の第1期には間に合いません。 前年度のうちに手続きを済ませておく必要があります。

口座振替の対象になるのは、継続事業では前年度の確定保険料の不足額と当年度の概算保険料、それに当年度の一般拠出金です。年度更新の手続期間(6月1日〜7月10日)に申告書を提出しないと、第1期分の口座振替の処理ができない点にも注意します。

なお、口座振替の申込手続きが完了していると、金融機関の窓口では年度更新申告書を提出できません。申告書は労働基準監督署か労働局へ出すことになります。

年度の途中で人を増やしても、多くは翌年まで納めない

年度の途中で事業規模が拡大した場合、増加概算保険料の申告・納付が必要になることがあります。要件は2つあり、両方を満たしたときだけです。

  1. 賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加すること
  2. その賃金総額による概算保険料が、申告済みの概算保険料より13万円以上増加すること

この2つは、会社の規模によって効き方が入れ替わります。node scripts/roudou-hoken-nendo-koushin.mjs zoka で、当初の賃金見込額ごとに必要な増加額を出しました。

当初の賃金見込額2倍超に必要な増加額概算保険料13万円増に必要な増加額実際に必要な増加額先に効く要件
3,600,000円3,600,001円7,878,788円7,878,788円13万円の要件
5,000,000円5,000,001円7,878,788円7,878,788円13万円の要件
7,000,000円7,000,001円7,878,788円7,878,788円13万円の要件
7,878,788円7,878,789円7,878,788円7,878,789円2倍超の要件
9,000,000円9,000,001円7,878,788円9,000,001円2倍超の要件
12,000,000円12,000,001円7,878,788円12,000,001円2倍超の要件
18,000,000円18,000,001円7,878,788円18,000,001円2倍超の要件
24,000,000円24,000,001円7,878,788円24,000,001円2倍超の要件

※ 労災「その他の各種事業」3/1,000・雇用保険「一般の事業」13.5/1,000/令和8年度

入れ替わりは賃金総額787万8,788円です。 これより小さい会社では13万円の要件が、大きい会社では2倍超の要件が先に効きます。「2倍」という言葉のほうが目立ちますが、賃金総額が800万円に満たない会社では、賃金が2倍を超えても13万円の壁で該当しません。

具体的には、賃金見込額360万円で申告した会社が年度の途中で人を増やしても、賃金総額が1,148万円(360万円+788万円)に届くまでは増加概算保険料の申告は生じません。月給30万円の従業員に換算すると、年度の初めから数えて2人分以上を追加で払う規模です。

つまり従業員が数人の会社では、年度の途中で人を増やしても、その増加分は翌年の年度更新で確定保険料としてまとめて精算されます。増えた人件費に対応する保険料の請求は、1年近く遅れてやってきます。 前の表で見たとおり、そこでは確定の不足額と当年度の概算が同時に上がります。

確定保険料が概算保険料を下回った場合は、次年度の保険料等への充当か還付です。還付を受けるときは、申告書の提出と併せて労働保険料・一般拠出金還付請求書を管轄の労働基準監督署または労働局へ提出します。放っておいて自動的に振り込まれるものではありません。

法人化しても、この負担は変わらない

ここまでの金額は、法人か個人事業かで変わりません。労働保険は、常勤・パート・アルバイトなどの名称や雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇っている事業場に成立します。 法人の役員や同居の親族は、一定の場合を除いて労災保険・雇用保険の対象になりません。

そのため、従業員を雇っている個人事業主が法人化しても、労働保険料と年度更新の手続きはそのまま引き継がれます。法人化で変わるのは、社長本人と従業員の健康保険・厚生年金のほうです。この違いは法人化すると社会保険は強制加入になる一人社長が初めて従業員を雇う費用で扱っています。

法人化の判定そのものは、労働保険料の外側で決まります。事業所得別の比較は次のとおりです。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費500万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

従業員1人(月給30万円)の労働保険料は会社負担が年41,400円です。事業所得800万円の実質差額−22.7万円と比べると、判定を動かす大きさではありません。どちらの器を選んでも同額が生じるので、年度更新は法人化の損得ではなく、資金繰りの問題として扱うのが実態に合います。 計算の前提は計算の根拠に置いてあります。

社長本人については、労働者ではないため扱いが変わります。一人社長は雇用保険に入れない役員の労災特別加入を参照してください。ここまでの数字は一般の事業・その他の各種事業を前提とした概算なので、自分の売上と経費、実際の事業の種類で確かめてください。

まとめ

  • 年度更新(6月1日〜7月10日)で納めるのは、前年度の確定保険料の不足額と当年度の概算保険料、それに一般拠出金
  • 延納(3回分割)は概算保険料40万円以上から。判定に前年度の確定不足額は足さず、月給30万円の従業員なら7人目から
  • 分割できない会社は口座振替で第1期を9月7日へずらせるが、令和8年度の申込締切は令和8年2月25日で年度が始まる前
  • 増加概算保険料の2要件は、賃金総額787万8,788円を境に効く順番が入れ替わる。小さい会社では13万円の要件が先に立ちふさがる
  • 労働保険料は法人でも個人事業でも同額。法人化で変わるのは健康保険・厚生年金のほう

よくある質問

従業員がいない一人社長の会社にも年度更新はありますか?

労働保険は労働者を雇っている事業に成立します。法人の役員は一定の場合を除いて労災保険・雇用保険の対象にならないため、役員だけの会社で保険関係が成立していなければ、年度更新の手続きも生じません。

保険料の計算で1円未満の端数が出たらどうしますか?

切り捨てます。ただし労災保険と雇用保険の算定基礎額が同額のときは、別々に切り捨てず、合計の料率を賃金総額に掛けてから切り捨てます。

申告書の提出と保険料の納付は同じ場所でしなければいけませんか?

分けられます。申告書と領収済通知書を切り離し、申告書を労働基準監督署または労働局へ提出し、納付は金融機関で行うことができます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。