設立の手続き

株の利益で会社を作ると非課税?起業特例は一人会社・法人成りに使えない

結論

起業特例(措置法37条の13の2)は、令和5年4月1日以後に、設立1年未満の特定新規中小企業者に当たる株式会社の設立時の株式を発起人として払込みで取得すると、払込額をその年の株式等の譲渡益から控除できる制度です。譲渡益1,000万円の年に1,000万円を出資すれば、20.315%の税203.2万円が消えます。ただし株式会社に限られ、特定の株主グループで発行済株式の99%超を持つ会社と、自分が営んでいた個人事業の全部を承継させる法人成りは対象外です。一人で全株を持つ一人会社や、個人事業の法人成りでは使えません。

  • 対象は株式会社の設立時の株式だけ。合同会社の持分は対象外で、設立1年未満・販売費及び一般管理費が出資金額の30%超などの要件もある(国税庁 No.1530)
  • 出資者は発起人であることが必要。設立の際に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人とその親族・使用人などは対象外(措置法施行令25条の12の2)
  • 控除した額が20億円以下なら、翌年以後の株式の取得価額の調整は不要。令和8年1月1日以後の払込みからは、控除しきれない額について前年分の所得税の繰戻し還付を請求できる

株式の売却益が出た年に、そのお金で会社を作れば税金がかからない。2023年に始まった起業特例は、そう紹介されることがあります。仕組みとしては正しいのですが、このサイトの読者の多くが想定している「一人で全株を持つ会社」「自分の個人事業を法人成りさせる会社」は、どちらも要件から外れます。

この記事では、起業特例の要件を国税庁の説明と法令で確認し、使える場合に消える税額と、使えない典型パターンを並べます。

起業特例は、出資額を「株式の譲渡益」から引く制度

国税庁 No.1530 は、この制度を「起業特例」と呼んでいます。中身は次のとおりです。

  • 令和5年4月1日以後に
  • 設立の日の属する年において、中小企業等経営強化法6条の特定新規中小企業者に当たる株式会社で、設立1年未満などの要件を満たす会社(特定株式会社)の
  • 設立の際に発行される株式(設立特定株式)を
  • 発起人などの要件を満たす居住者等が払込みで取得した場合
  • その年の一般株式等・上場株式等に係る譲渡所得等の金額から、払込額を控除する

控除は、まず一般株式等の譲渡所得等から、引ききれなければ上場株式等の譲渡所得等から行います。控除の上限はその年の株式等の譲渡所得等の金額です。給与や事業の所得からは引けません。

20億円以下なら、税の繰延べではなく非課税

似た制度のエンジェル税制では、控除した額をあとで株式の取得価額から差し引く調整が入り、将来売ったときに課税される「繰延べ」になります。起業特例は、控除額(適用額)が20億円以下なら取得価額の調整が不要です(国税庁 No.1530)。その範囲では、控除で消えた税はあとから戻ってきません。

ただし、令和8年1月1日以後に払込みで取得した株式を、適用年の翌年中に一定の形で譲渡した場合は、20億円以下の部分についても追加の調整が必要とされています。

使えた場合に消える税

株式等の譲渡所得の税率は、所得税15%(復興特別所得税を含めて15.315%)と住民税5%を合わせた20.315%です(国税庁 No.1463)。起業特例で控除できた額に、この率がそのまま効きます。

その年の株式の譲渡益設立時の出資(払込額)控除される額消える税株式会社にする設立費用の上乗せ差し引き
500万円100万円100.0万円20.3万円15.0万円5.3万円
500万円500万円500.0万円101.6万円15.0万円86.6万円
1000万円300万円300.0万円60.9万円15.0万円45.9万円
1000万円1000万円1000.0万円203.2万円15.0万円188.2万円
3000万円1000万円1000.0万円203.2万円15.0万円188.2万円

※ 税率20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)。設立費用は当サイトの前提(株式会社25万円・合同会社10万円)の差。当サイトのスクリプト(scripts/kigyo-tokurei-jotoeki.mjs)で計算

譲渡益1,000万円の年に1,000万円を出資すれば、203.2万円の税が消えます。合同会社ではなく株式会社にする設立費用の上乗せ15万円を引いても、188.2万円残ります。条件に当てはまるなら、効果は大きい制度です。

ただし出資額を増やすと、資本金が1,000万円に届いて設立1期目から消費税の課税事業者になる問題が出ます。資本準備金を使った調整は資本準備金で資本金を999万円に。出資1,998万円まで消費税の免税を残せるかで扱っています。

使えない典型1:一人で全株を持つ会社

国税庁 No.1530 は、設立特定株式を発行する会社の要件の1つに、特定の株主グループの有する株式の総数が発行済株式総数の100分の99を超える会社でないことを挙げています。

一人で100%を持つ一人会社は、この要件を満たしません。中小企業等経営強化法施行規則8条は、株主グループを「株主の一人並びに当該株主と法人税法施行令第4条第1項に規定する特殊の関係のある個人及び同条第2項に規定する特殊の関係のある法人」と定め、設立の年の12月31日の持株で判定するとしています。特殊の関係のある個人には親族が含まれるため、家族に1%を持ってもらっても、株主グループとしては100%のままです。外部の出資者が実際に株主として入る会社を想定した制度です。

使えない典型2:自分の個人事業を承継させる法人成り

出資者の側にも要件があります。租税特別措置法施行令25条の12の2は、出資者が会社の発起人であることを求めたうえで、次の人を対象から外しています。

  • その会社の設立に際し、自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人(特定事業主であった者)
  • その親族
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にある者
  • その使用人
  • その人から受ける金銭等で生計を維持している人など

個人事業の資産・取引先・従業員をまとめて新しい会社に引き継ぐ法人成りは、典型的な「事業の全部を承継させた」形です。株の利益がある年に法人成りして、その出資で税を消すという使い方は、制度が最初から想定していません。

会社の側の、そのほかの要件

国税庁 No.1530 が挙げる設立特定株式の発行会社の要件は次のとおりです。

要件内容
会社の形中小企業等経営強化法6条の特定新規中小企業者に当たる株式会社
設立からの期間設立の日以後1年未満の中小企業者
支出の割合販売費及び一般管理費の出資金額に対する割合が100分の30を超えることなど
株主構成特定の株主グループで発行済株式の99%超を持つ会社でない
上場上場株式等の発行会社でない
大規模法人大規模法人グループに発行済株式の2分の1超(複数なら3分の2以上)を持たれていない
業種風俗営業・性風俗関連特殊営業に当たる事業を行わない

販売費及び一般管理費の要件は、出資金を寝かせておくだけの会社を外すためのものです。設立1年目から実際に事業に資金を使っている会社でないと満たせません。

令和8年からは、前年の所得税を取り戻す道も

令和8年1月1日以後に払込みで取得した場合、その年の株式の譲渡益より払込額が大きく控除しきれない額(設立特定株式控除未済額)があれば、前年分の所得税のうち対応する部分の還付を請求できます。ただし、前年分の確定申告書に、その年に設立特定株式を取得する見込みである旨などを記載した書類を添付して期限内に出していることが条件です(国税庁 No.1530)。前年の申告の時点で準備が始まっている必要があります。

法人成りを考えている人は、別の物差しで判断する

起業特例は、株式の譲渡益がある人が、外部の出資者を入れた株式会社を新しく立ち上げる場面のための制度です。自分の個人事業を一人会社にする法人成りでは使えないので、法人化の判断は、毎年の税金と社会保険料の差で行うことになります。

株式会社と合同会社のどちらにするかも、起業特例が使えないなら設立費用と運営コストで比べる話になります。違いは合同会社と株式会社、設立費用の差は約15万円。判断が変わる4点で整理しています。まず自分の売上と経費で、法人化した場合の手取りを確かめてください。

まとめ

  • 起業特例は、設立特定株式の払込額をその年の株式等の譲渡益から控除する制度。20億円以下なら取得価額の調整がなく、消えた税は戻ってこない
  • 譲渡益1,000万円の年に1,000万円を出資すれば、20.315%の税203.2万円が消える
  • 対象は株式会社だけで、合同会社は対象外。設立1年未満、販売費及び一般管理費が出資金額の30%超などの要件がある
  • 特定の株主グループで99%超を持つ会社は対象外のため、一人で全株を持つ一人会社では使えない
  • 自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人とその親族等は対象外のため、個人事業の法人成りでも使えない

法人成りを考えているなら、この特例を当てにせず、自分の売上と経費で法人化の手取りの差を確かめてください。

よくある質問

合同会社で設立しても起業特例は使えますか?

使えません。対象は中小企業等経営強化法の特定新規中小企業者に当たる株式会社が設立の際に発行する株式です(国税庁 No.1530)。合同会社の社員の持分は対象外です。

配偶者に1%を持ってもらえば、99%の要件を満たせますか?

満たせません。株主グループは、株主とその親族など法人税法施行令4条1項の特殊の関係のある個人・法人を合わせて数えます(中小企業等経営強化法施行規則8条)。家族だけで株を持つ形では、株主グループとして100%のままです。

控除を受けた株式を翌年に売るとどうなりますか?

令和8年1月1日以後に払込みで取得した株式について、適用年の翌年中に一定の譲渡をすると、控除額が20億円以下でも翌年以後の取得価額を追加で調整する必要があるとされています(国税庁 No.1530)。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。