設立の手続き
酒の販売を法人成りすると免許は取り直し。同じ販売場なら審査は軽い
結論
個人で受けた酒類販売業免許は法人に引き継げないため、法人成りでは法人の名義で新たに免許を申請し、個人の販売場の免許の取消申請を同時に提出します。既存の販売場と同じ場所で営業し、人的要件と経営の基礎の要件を満たすなどの条件を満たせば「法人成り等」として扱われ、満たさなければ純然たる新規申請として審査されます(酒税法基本通達)。登録免許税は小売に限る免許で1件3万円、卸売などは9万円、標準処理期間は原則2か月以内です。
- 法人成り等の取扱いの要件は、①取消申請書の同時提出、②人的要件・経営の基礎の要件を満たす、③既存販売場と同じ場所、④既存販売場が休業場でない、の4つ(酒税法基本通達 第9条関係14)
- 仕入の比率が高い酒販では、事業の利益で法人化を判断する。売上5,000万円・仕入等3,900万円(利益1,100万円)でも、2年目以降の実質差額は−8.9万円だった
- 申請には役員全員の履歴書・誓約書、定款、地方税の納税証明書、直近3期分の財務諸表(個人は収支計算書)などが必要
酒屋や酒のネットショップを個人で営んでいる人が法人化するとき、税金の計算とは別に、販売業免許を取り直す手続きが必要になります。免許は「人」に与えられるもので、個人と法人は別の人格だからです。
この記事では、法人成りのときの免許の扱いを国税庁の通達で確認し、手続きの負担と費用を整理します。そのうえで、仕入の比率が高い酒販で、法人化の損得が売上ではなく利益で決まることを計算エンジンで示します。
個人の免許は法人に引き継げない
国税庁の酒類の販売業免許の申請ページによると、酒類の販売業免許を受けようとする人は、販売業を行う前に、販売場の所在地を所轄する税務署へ申請します。手数料はかかりませんが、免許1件につき登録免許税がかかり、標準処理期間は原則として2か月以内です。
法人成りでは、法人の名義で新たに申請します。酒税法基本通達(第9条関係14)は、個人の酒類販売業者が主体となって法人を設立する場合を「法人成り」とし、次の要件を満たせば免許を付与する扱いにしています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 取消申請の同時提出 | 法人の新規申請と一緒に、それまで営業してきた個人の販売場(既存販売場)の免許の取消申請書を出す |
| 人的要件・経営の基礎 | 申請者等に関する人的要件と、経営の基礎が薄弱でないことの要件を満たす |
| 同じ場所 | 既存販売場と同じ場所で営業する |
| 休業場でない | 既存販売場が1年以上販売していない休業場などでない |
同じ通達は、この要件を満たさない申請は純然たる新規の酒類の販売業免許申請として審査するとしています。法人成りと同時に店を移したり、休眠していた免許で法人を作ったりすると、新規と同じ審査になります。
申請までの経緯は聴取される
通達の注記には、法人成り等に伴う新規申請がなされた場合、申請までに至る経緯や内容等について十分に聴取するとあります。法人を作る理由と、事業がそのまま続くことを説明できるよう準備しておく必要があります。
登録免許税は小売3万円、卸売などは9万円
登録免許税法の別表第一によると、酒類の販売業免許の登録免許税は次のとおりです。
| 免許の種類 | 登録免許税 |
|---|---|
| 全品目の販売方法を小売に限る条件付きの販売業免許 | 1件につき3万円 |
| それ以外の販売業、販売代理業、販売媒介業の免許 | 1件につき9万円 |
小売店や通信販売の小売なら3万円、卸売の免許も持っていれば9万円です。個人のときに払った登録免許税は戻らないので、法人成りではもう一度かかります。
申請に必要な書類
国税庁の「酒類販売業免許(法人成り等)申請書チェック表」が挙げる主な添付書類は次のとおりです。
- 販売業免許申請書と次葉(販売場の敷地・配置図、事業の概要、収支の見込み、所要資金、酒類の販売管理の方法)
- 酒類販売業免許の免許要件誓約書(申請者、監査役を含む役員全員など)
- 役員全員の履歴書と、法人の定款の写し
- 土地・建物の賃貸借契約書などの写し、登記事項証明書
- 都道府県と市区町村の地方税の納税証明書(未納がないこと、2年以内に滞納処分を受けていないこと。特別法人事業税を含める)
- 最終事業年度以前3事業年度の財務諸表(個人の場合は収支計算書)
- 個人のときの販売場の所在地・名称・免許年月日・免許条件が分かる書類
チェック表によれば、法人成り等で内容に変更がない次葉は添付を省略でき、過去3年分の確定申告書を税務署に提出していれば財務諸表も省略できます。個人のときの記録がそのまま審査の土台になるということです。
仕入の多い酒販は、売上ではなく利益で判断する
酒の販売は仕入の比率が高く、売上が大きくても利益は小さくなります。法人化の損得を決めるのは利益の側です。計算エンジンで、売上と仕入等の組合せごとに法人化の実質差額を出しました。
| 売上 | 仕入・経費 | 事業の利益 | 最適報酬 | 初年度の実質差額(免許の登録免許税3万円を含む) | 2年目以降の実質差額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3000万円 | 2400万円 | 600.0万円 | 月42万円 | −47.0万円 | −34.0万円 |
| 4000万円 | 3200万円 | 800.0万円 | 月45万円 | −31.9万円 | −18.9万円 |
| 5000万円 | 3900万円 | 1100.0万円 | 月51万円 | −21.9万円 | −8.9万円 |
| 6000万円 | 4600万円 | 1400.0万円 | 月54万円 | +3.0万円 | +16.0万円 |
※ 東京23区・40〜64歳(介護保険あり)・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/shurui-menkyo-houjinnari.mjs)で計算
※ 実質差額は法人化した場合の手取りから個人の手取りを引いた額。初年度は設立費用10万円と免許の登録免許税3万円、毎年は税理士報酬の差を差し引いている。プラスが法人化有利
※ 個人事業税は物品販売業として5%で計算
この条件では、利益1,100万円の売上5,000万円でも、2年目以降の実質差額は−8.9万円です。法人化が有利に転じるのは利益1,400万円の行からでした。売上の大きさだけで法人化を考えると、利益の水準を見誤ります。
仕入の比率が高い業種で分岐点がどこに来るかは、軽貨物ドライバーの法人化はいくらから?売上でなく所得で見る分岐点でも同じ構造を扱っています。業種ごとの許可の出し直しの例としては、一人親方の法人化は売上いくらから?建設国保・労災・許可で変わる4点もあります。
切り替えの日程で気をつけること
- 個人の免許の取消申請と法人の新規申請は同時に出す。法人の登記を先に済ませ、定款・登記事項証明書をそろえる
- 標準処理期間は原則2か月以内なので、法人で販売を始めたい日から逆算して申請する
- 地方税の納税証明書は「未納がない」ことの証明が必要。個人の住民税・個人事業税に未納があると申請の前に止まる
- 酒類販売管理者の選任予定者を、取組計画書に記載する
まとめ
- 個人の酒類販売業免許は法人に引き継げず、法人成りでは法人で新たに申請し、個人の免許の取消申請を同時に出す
- 同じ販売場で、人的要件・経営の基礎の要件を満たすなど4つの要件を満たせば「法人成り等」の扱い。満たさなければ純然たる新規審査
- 登録免許税は小売に限る免許で1件3万円、卸売などは9万円。標準処理期間は原則2か月以内
- 申請には役員全員の誓約書・履歴書、地方税の納税証明書、直近3期分の財務諸表などが必要で、個人のときの記録が土台になる
- 仕入の多い酒販では、売上5,000万円・利益1,100万円でも2年目以降の実質差額は−8.9万円。判断は利益で行う
免許の取り直しには時間と費用がかかります。手続きを始める前に、自分の売上と仕入・経費で、法人化が有利になる利益の水準に届いているかを確かめてください。
よくある質問
法人成りのときに販売場を移転したい場合はどうなりますか?
法人成り等の取扱いは、既存販売場と同じ場所で営業することが要件の1つです。要件を満たさない申請は、純然たる新規の酒類販売業免許申請として審査されます(酒税法基本通達 第9条関係14)。移転と法人成りを同時に行う場合は、審査の重さが変わる点を前提に日程を組む必要があります。
ネットで酒を売っている場合も同じですか?
通信販売酒類小売業免許も酒類の販売業免許の1つで、法人成りでは法人で新たに受ける必要があります。申請の手引は国税庁の「通信販売酒類小売業免許申請の手引」が別に用意されています。
法人成りの申請で、個人のときの決算書は必要ですか?
法人成り等の申請書チェック表では、最終事業年度以前3事業年度の財務諸表(個人の場合は収支計算書)の添付を求めています。過去3年分の確定申告書を税務署に提出している場合は省略できるとされています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。