設立の手続き

酒類製造免許の法人成り。醸造所は「同一の新規免許」で登録免許税15万円

結論

個人の酒類製造者が会社を設立して醸造を続ける場合、会社名義で新規の製造免許を申請し、個人の製造場の免許の取消申請を同時に出します。人的要件と経営の基礎の要件を満たし、製造場を増やさなければ、国税庁の通達により個人のときと同一の新規免許が付与されます。登録免許税は製造免許1件につき15万円です。

  • 法人成り等の扱いは、取消申請の同時提出、人的要件・経営の基礎、製造場を移すなら場所と設備の要件の3つ。満たさなければ純然たる新規申請として審査される(法令解釈通達 第7条第1項関係5)
  • 引き続き同一品目を造り、技術的能力と設備が十分なら期限付免許にならない。永久免許への切替えの3会計年度は、法人成りの前後を通算できる
  • 東京23区・40〜59歳・製造業(第1種5%)の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は登録免許税15万円込みで1,489万円

酒類製造免許は、品目ごと・製造場ごとに、製造場の所在地を所轄する税務署長から受ける免許です(酒税法7条1項)。個人の醸造所を会社に移すと、免許を受けている「人」が変わるため、会社は自分の名義で免許を受け直します。

ただし、国税庁の通達は個人の製造者が会社を作る場合を「法人成り等」として別枠で扱い、要件を満たせば個人のときと同一の新規免許を付与するとしています。この記事は、クラフトビールの醸造所、ワイナリー、シードルや蒸留酒の小規模な製造場を個人で営む人を想定し、その扱いの中身と費用、法人化の損益分岐を確認します。

製造免許は品目別・製造場ごと。最低製造数量がある

製造免許は、製造場で1年間に造る見込数量が品目ごとの最低製造数量に届かないと受けられません(7条2項)。主な品目の数量は次のとおりです。

品目1年間の最低製造見込数量
清酒・合成清酒・連続式蒸留焼酎・ビール60キロリットル
単式蒸留焼酎・みりん10キロリットル
果実酒・甘味果実酒・ウイスキー・ブランデー・発泡酒・その他の醸造酒・スピリッツ・リキュールなど6キロリットル

ビールは60キロリットル、発泡酒は6キロリットルと、10倍の開きがあります。試験のために製造する場合など、この数量が適用されない場合も7条3項に定められています。

法人成りで会社が受けるのも7条1項の製造免許です。このため、個人のときに受けていた品目と数量の前提は、会社の免許でもそのまま問われます。

製造場での直売は販売業免許が要らない

製造者が、製造免許を受けた製造場で、免許を受けたのと同じ品目の酒類を売る場合は、販売業免許が要りません(9条1項ただし書)。醸造所に併設した直売所で自社の酒を売るだけなら、法人成りで切り替えるのは製造免許だけです。

製造場の外に店を出している、他社の酒も仕入れて売っている、という場合は販売業免許も持っているはずです。そちらの切り替えは酒類販売業免許の法人成りで整理しています。

通達の「法人成り等」:同一の新規免許を付与する

国税庁の法令解釈通達(第7条第1項関係5)は、酒類製造者である個人が主体となって法人を設立する場合などを「法人成り等」と定めています。法人成り等によって新たに製造免許の申請があり、次の要件を満たすときは、製造場の増加を伴わないものに限り、法人成り等の直前にその製造場で受けていた免許と同一の新規免許を付与する扱いです。

要件内容
取消申請の同時提出会社の新規申請書と一緒に、それまで製造してきた個人の製造場(既存製造場)の免許の取消申請書を出す
人的要件・経営の基礎通達 第10条の人的要件と、経営の基礎が薄弱でないことの要件を満たす
場所を移す場合既存製造場と異なる場所で製造するなら、その場所が取締り上不適当な場所でなく(10条9号)、設備要件を満たす

同じ通達は、この要件を満たさない申請は純然たる新規の製造免許申請として審査すると注記しています。製造場を増やす場合も、法人成り等の扱いの対象外です。

人的要件には、会社の役員全員が関わります。法人の役員のうちに、免許の取消しを受けて3年を経過しない者や、国税・地方税の法令違反で罰金刑に処せられて3年を経過しない者などがいると、免許を与えないことができます(10条4号)。申請前2年以内に国税・地方税の滞納処分を受けていることも、拒否の理由になります(10条6号)。

税務署長限りで処理される

通達は、製造者でない者に製造免許を付与する場合などは国税局長に上申して処理するとしつつ、法人成り等の場合の製造免許はその対象から外しています。国税庁の製造免許の申請ページは、標準処理期間を原則2か月以内(税務署長限りで処理するものに限る)としています。会社で製造を始めたい日から逆算して申請します。

期限付免許にならず、3年の実績も通算できる

新たに製造免許を受ける人には、品質の保証が十分でないとして、免許に期限が付けられることがあります(7条4項)。通達は、製造者以外の者が新たに免許を受ける場合を期限付きにする場合として挙げる一方、法人成り等で引き続き同一品目を造る場合で、技術的能力と設備が十分と認められるときを除いています。

期限付免許を永久免許へ切り替えるときは、過去3会計年度の品質審査の結果や製造数量が審査されます。通達はここでも、法人成り等で免許者が変わっても、製造場の位置や設備に異動がないなど経営実態に大きな変化がなければ、その期間を通算してよいとしています。期限付免許の途中で法人化しても、個人のときの実績は切り捨てられません。

酒税法19条の「事業譲渡の申告」との関係

酒税法19条は、個人の酒類製造者・販売業者が製造業または販売業の全部を譲渡し、譲受者が引き続きその事業をしようとするときは、遅滞なく税務署長に申告すると定めています。譲受者が欠格事由(10条1号〜3号・6号〜8号)に当たらなければ、事業譲渡の時に譲渡者の免許を受けたものとみなされ、譲渡者の免許は効力を失います(19条2項)。この事業譲渡の部分は、令和2年法律第8号による改正で加わり、2020年4月1日以後の事業譲渡に適用されています(同法附則48条1項)。申告の手続きに手数料はかかりません。

この規定が、新しく作った自分の会社への譲渡に使えるかは、国税庁の公表資料からは確認できませんでした。理由は次の3点です。

  • 通達(第19条第1項関係2)は「引き続きその製造業又は販売業をしようとする」を、譲受人が譲渡者の親族か、その事業に3年以上従事している者で、同じ場所で事業をすることと定めている。新設の会社をこの要件にどう当てはめるかは書かれていない
  • 国税庁のQ&A(Q15)は、事業譲渡を受けて「個人事業として」引き継ぐ場合の手続きとして説明している
  • 国税庁は法人成りについて、上で見た「法人成り等」の新規申請用のチェック表を別に用意している

家業の醸造所を子どもや長く勤めた従業員が個人として継ぐ場面は、19条の申告が想定する典型です。自分の会社へ移す法人成りで19条の申告を使えるかどうかは、申請前に所轄税務署へ確認する必要があります。以下の費用の試算は、国税庁が法人成り用に手続きを示している新規申請の側で置いています。

登録免許税15万円と、法人成り等の申請書類

登録免許税法 別表第一は、酒税法7条1項の酒類製造免許(試験のための製造免許などを除く)について、免許1件につき15万円と定めています。法人成り等でも会社は新たに免許を受けるので、この登録免許税がかかります。製造免許は品目別に受けるものなので、複数の品目の免許を持っている場合に何件として数えるかは、申請先の税務署で確認してください。下の試算は1件で置いています。

国税庁の「酒類製造免許(法人成り等)申請書チェック表」が挙げる主な書類は次のとおりです。

  • 製造免許申請書と次葉1〜6(敷地の状況、建物等の配置図、製造方法、設備の状況、事業の概要・収支の見込み・所要資金、酒類の販売管理の方法に関する取組計画書)
  • 免許要件誓約書、役員全員の履歴書、定款の写し
  • 都道府県と市区町村の地方税の納税証明書(会社は本店所在地のもの。特別法人事業税を含める)
  • 最終事業年度以前3事業年度の財務諸表(個人の場合は収支計算書)
  • 酒類の製造に必要な技術的能力を備えていることを記載した書類
  • 土地・建物の登記事項証明書、個人当時の製造場についての書類(所在地、品目別の免許酒類、免許年月日、期限、条件)
  • 法人成りの契約など、内容が分かる書類の写し

チェック表の注記では、次葉3〜6は法人成り等で変更がなければ省略でき、既存製造場と同じ場所なら賃貸借契約書等の写しも省略できます。過去3年分の確定申告書を税務署に提出していれば、財務諸表も省略できます。設備と製造方法が個人のときと同じであることが、書類の量を減らします。

会社の設立登記を先に済ませないと、定款や会社の納税証明書がそろいません。設立の段取りは会社設立を自分でやる手順にまとめています。許認可ごとに承継できるか取り直しかの違いは、法人成りで許認可は引き継げるかで比較しています。

製造業の個人事業税と損益分岐

酒類の製造は個人事業税の製造業(第1種事業)です(地方税法72条の2第8項5号)。標準税率は5%で(72条の49の17第1項1号)、事業主控除290万円を超えた所得にかかります。法人化すると個人事業税はかからなくなり、代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。

原料・酒税・容器・設備の維持費などの経費を年1,800万円、社長を40〜59歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。初年度には登録免許税15万円を乗せています。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用込み)
600万円月42万円−34.0万円−59.0万円
800万円月45万円−18.9万円−43.9万円
1,000万円月45万円−10.0万円−35.0万円
1,200万円月54万円−4.3万円−29.3万円
1,500万円月54万円+26.1万円+1.1万円
2,000万円月90万円+65.8万円+40.8万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1800 --business type1 --age 40to64 --fee 150000 --note '製造業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費1,800万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は製造業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用150,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算

損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円です。初年度は登録免許税15万円が加わって1,489万円になります。登録免許税を除いて同じ計算をすると初年度は1,341万円なので、免許の取り直しだけで初年度の分岐点が148万円上がります(同じスクリプトから --fee を外して算出)。

この表には、酒税そのものの計算や、消費税の簡易課税などの個別の事情は入っていません。経費の中身や家族構成が違えば結果も動くので、自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 酒類製造免許は品目別・製造場ごとの免許で、会社名義で受け直す。ビールは年60キロリットル、発泡酒・果実酒などは6キロリットルの最低製造数量がある
  • 取消申請の同時提出、人的要件・経営の基礎などを満たし、製造場を増やさなければ、通達により個人のときと同一の新規免許が付与される。満たさなければ純然たる新規審査
  • 法人成り等で同一品目を造り続ける場合は期限付免許の対象から外れ、永久免許への切替えの3会計年度も通算できる
  • 酒税法19条の事業譲渡の申告(2020年4月1日以後の譲渡に適用)は、自分の会社への法人成りに使えるかが公表資料からは確認できない
  • 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は登録免許税15万円込みで1,489万円

よくある質問

法人化と同時に醸造所を別の場所へ移すことはできますか。

通達は、既存の製造場と異なる場所で製造する場合も法人成り等として扱う余地を残していますが、その場所が取締り上不適当な場所でなく(酒税法10条9号)、設備要件を満たすことが条件です。製造場の数を増やす場合は法人成り等の扱いの対象外で、要件を満たさない申請は純然たる新規申請として審査されます。

醸造所の直売所で自社のビールを売るのに、販売業免許は要りますか。

酒税法9条1項ただし書により、製造者がその製造免許を受けた製造場で、免許を受けた品目と同じ品目の酒類を販売する場合は販売業免許が要りません。製造場の外に店を出す、他社の酒も売るといった場合は、別に販売業免許が必要です。

法人成りでも登録免許税はかかりますか。

法人成り等の扱いでも、会社は酒税法7条1項の製造免許を新たに受けるので、登録免許税法 別表第一の「製造免許1件につき15万円」がかかります。個人のときに払った登録免許税は戻りません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。