設立の手続き

内航海運業の法人成り。一杯船主の登録承継と船の名義移転の登録免許税

結論

内航海運業の登録を受けた個人が事業を会社に譲渡すると、会社が内航海運業者の地位を承継し、承継の日から30日以内に届け出ます(内航海運業法13条)。新規登録の登録免許税9万円はかかりません。ただし総トン数100トン未満かつ長さ30m未満の船だけで営む届出事業者には承継の規定がなく、会社が事業開始届を出し直します。費用の中心は許認可ではなく船の名義移転で、売買による所有権移転登記の登録免許税は船舶の価額の1000分の28です。

  • 一杯船主に多いオペレーターへの貸渡し(定期傭船を含む)も内航海運業に当たり、総トン数100トン以上または長さ30m以上の船なら登録の対象(2条2項2号・3条1項)
  • 船の所有権移転登記の登録免許税は、売買なら船舶の価額の1000分の28。相続・法人の合併の1000分の4は個人から会社への移転には使えない
  • 東京23区・40〜64歳・第1種事業(5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は承継なら1,341万円、新規登録なら1,430万円

船1隻を持ち、オペレーターに貸し渡して用船料を受け取る、いわゆる一杯船主の多くは内航海運業の登録事業者です。この登録は、**事業を会社へ譲渡すれば、会社が地位をそのまま承継できます。**取り直しが要る許認可が多いなかで、手続きは軽い側に入ります。

一方で、内航海運業の法人成りには他業種にない費用があります。事業の中心である船そのものの名義を、個人から会社へ移す登記です。この記事では、承継の条文と届出の書類、承継できない届出事業者の扱い、船の名義移転にかかる登録免許税を確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。

一杯船主の貸渡しも「内航海運業」に当たる

内航海運業法2条2項は、内航海運業を次の3つの事業と定めています。

  • 内航運送をする事業(1号)
  • 内航運送の用に供される船舶の貸渡し(定期傭船を含む)をする事業(2号)
  • 内航運送の用に供される船舶の管理をする事業(3号)

自分では荷主と運送契約を結ばず、船をオペレーターに貸し渡す一杯船主も、2号の「船舶の貸渡しをする事業」として内航海運業者です。

登録が要るか届出で足りるかは、船の大きさで分かれます。総トン数100トン以上または長さ30m以上の船舶による内航海運業は国土交通大臣の登録(3条1項)、総トン数100トン未満かつ長さ30m未満の船舶だけなら、事業開始の日から30日以内の届出(3条2項)です。登録を受けずに登録対象の事業を営むと、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象です(33条1号)。

貸渡しだけを行う一杯船主には、安全管理規程の届出や安全統括管理者・運航管理者の選任(11条)はかかりません。これらは「内航運送をする内航海運業者」の義務だからです。自ら運送も行う場合は、会社でも同じ義務を引き継ぐ前提で準備します。

13条:事業を譲渡すれば、会社が地位を承継する

13条1項は、内航海運業者が事業を譲渡したときは、事業を譲り受けた者が内航海運業者の地位を承継すると定めています。個人事業主が自分の会社に内航海運業を譲り渡す法人成りは、この「事業の譲渡」に当たります。事前の認可は求められていません。

承継した会社は、承継の日から30日以内に国土交通大臣に届け出ます(13条2項)。届出をしない、または虚偽の届出をすると、50万円以下の過料の対象です(37条1号)。届出があると、大臣は届出事項を登録簿に登録します(13条3項による7条4項の準用)。

同じように事業の譲渡で地位が移る仕組みは、LPガス販売事業の法人成りにもあります。ただしLPガスの条文が「事業の全部」の譲渡を要件にしているのに対し、内航海運業法13条の文言は「その事業を譲渡し」で、「全部」とは書いていません。一方、事前の認可がないと効力が生じない一般貨物自動車運送事業の法人成りとは型が違います。許認可ごとの型の違いは法人成りで許認可を引き継げるかにまとめています。

承継できないケース

13条1項ただし書は、事業を譲り受けた者が登録拒否事由(6条1項各号)のいずれかに当たるときは承継しないとしています。主なものは次のとおりです。

  • この法律に違反して刑に処せられ、執行を終わった日などから1年を経過しない者(1号)
  • 登録を取り消されて1年を経過しない者(2号)
  • 申請前1年以内に内航海運業に関し不正な行為をした者(3号)
  • 法人で、役員が1〜3号のいずれかに当たるもの(4号)
  • 内航運送または船舶の貸渡しの事業で、総トン数100トン以上または長さ30m以上の船舶を有していないとき(5号、施行規則5条)
  • 資金計画・船員配乗計画などが省令の基準に適合する事業計画を有していないとき(7号)

一杯船主の法人成りで気をつけたいのは5号です。承継する会社自身が、基準を満たす船舶を「有する」ことが求められます。船の名義を個人に残したまま会社に事業だけを移す形を考えている場合は、この号との関係を事前に管轄の地方運輸局に確認しておくのが確実です。

承継届の書類と、新規登録との費用差

承継届出書には、承継人と被承継人の氏名・名称・住所、登録番号、承継の理由、承継した年月日を書きます(施行規則15条1項)。添付書類は次のとおりです(同条2項)。

  • 承継の事実を証する書類(事業譲渡契約書など)
  • 承継人が承継前に内航海運業を営んでいない場合は、資金計画、船員配乗計画、他に営む事業の種類と概要を記載した書類と、法人の書類(既存の法人なら定款・登記事項証明書・最近の事業年度の貸借対照表・役員または社員の名簿)

法人成りで新しく作った会社は「承継前に内航海運業を営んでいない」ので、2つ目の書類も揃えます。新規登録の申請とほぼ同じ計画書類を出すことになりますが、新規登録の審査を受け直すのではなく、届出として扱われます。

新規に登録を受ける場合は、登録免許税が1件につき9万円かかります(登録免許税法別表第一第135号)。承継の届出には登録免許税はかかりません。

移し方根拠登録免許税期限・手続き
事業の譲渡による承継(登録事業者)13条1項・2項なし承継の日から30日以内に届出
新規の登録3条1項9万円登録を受けるまで事業を営めない
届出事業者(100トン未満かつ30m未満)3条2項・16条なし会社が事業開始から30日以内に届出、個人は廃止から30日以内に届出

100トン未満の届出事業者は「承継」ではなく出し直し

13条が対象にしているのは「内航海運業者」、つまり3条1項の登録を受けた者です(7条1項の定義)。3条2項の届出をした事業者には、承継の規定がありません。

そのため、総トン数100トン未満かつ長さ30m未満の船だけで営む個人が法人成りするときは、会社が事業開始の日から30日以内に事業開始届出書を出し(3条2項、施行規則2条)、個人は事業を廃止した日から30日以内に廃止を届け出ます(16条)。どちらも費用はかかりませんが、届出を怠ると50万円以下の過料の対象です(37条1号)。

船の名義移転:登録免許税は船舶の価額の1000分の28

許認可の手続きより大きな費用になりやすいのが、船そのものを会社に移す手続きです。総トン数20トン以上の日本船舶は、所有者が登記をしたうえで、船籍港を管轄する管海官庁の船舶原簿に登録します(船舶法5条1項)。所有者が個人から会社に変われば、所有権の移転登記と、船舶原簿の登録の手続きが要ります。

所有権の移転登記の登録免許税は、登録免許税法別表第一第2号で、原因ごとに税率が違います。課税標準は登記の時における船舶の価額です(同法10条1項)。

移転の原因税率
相続または法人の合併1000分の4
遺贈・贈与その他無償名義1000分の20
その他の原因(売買など)1000分の28

個人から自分の会社へ船を移すのは相続でも法人の合併でもないので、1000分の4は使えません。売買で移すなら1000分の28です。たとえば登記の時の船舶の価額が5,000万円なら、登録免許税は140万円(5,000万円×28/1000)で、新規登録の9万円を大きく上回ります。

船舶の価額をいくらと見るか、売買と現物出資のどちらで移すかは、譲渡所得・消費税にも響きます。会社に資産を移すときの考え方は法人成りの資産引継ぎ、売却したときの譲渡所得と消費税は法人成りで資産を会社に売るときの消費税にまとめています。

書換えまでの間は航行できない

船舶法6条ノ2は、所有者が変わった船舶について、新所有者が船舶国籍証書の書換えを申請するまで航行させてはならないと定めています。例外は、所有者の変更を知るまでの間と、知った日から2週間以内です。登録した事項に変更が生じたときの変更の登録も、事実を知った日から2週間以内です(同法10条)。

傭船契約で船を動かし続けている一杯船主にとって、この2週間は短い期間です。名義移転の日付と、承継届の「承継した年月日」、オペレーターとの傭船契約の名義の切り替えを、同じ日に揃えるように段取りを組むのが現実的です。

総トン数20トン未満の船は登記ではなく小型船舶登録

船舶法の登記・登録の規定は、総トン数20トン未満の船舶には適用されません(船舶法20条)。20トン未満の船は「小型船舶の登録等に関する法律」による登録になり、所有者が変わったら新所有者が15日以内に移転登録を申請します(同法10条1項)。国土交通大臣は、登録の事務を小型船舶検査機構に行わせることができます(同法21条1項)。船舶の登記ではないので、上の表の税率(別表第一第2号)は当てはまりません。

個人事業税と損益分岐

地方税法72条の2第8項は、物品貸付業(3号)と運送業(9号)をどちらも個人事業税の第1種事業に挙げています。下の試算では、船の貸渡しで営む場合も自ら運送する場合も第1種事業として扱いました。税率は5%で、事業主控除290万円を超えた所得に課税されます。業種ごとの税率は個人事業税の業種別の税率で確認できます。法人化すると個人事業税はかからなくなり、代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。

船員の人件費、修繕・検査、保険、減価償却などの経費を年6,000万円、社長を40〜64歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用込み)
600万円月42万円−34.0万円−44.0万円
800万円月45万円−18.9万円−28.9万円
1,000万円月45万円−10.0万円−20.0万円
1,200万円月54万円−4.3万円−14.3万円
1,500万円月54万円+26.1万円+16.1万円
2,000万円月90万円+65.8万円+55.8万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 6000 --business type1 --age 40to64 --note '物品貸付業・運送業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費6,000万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品貸付業・運送業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算

損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円です。初年度は、承継なら1,341万円、新規登録を受け直した場合は登録免許税9万円が加わって1,430万円になります(同じスクリプトに --fee 90000 を付けて算出)。

この表には、船の所有権移転登記の登録免許税を入れていません。船舶の価額で大きく変わるためです。価額5,000万円の船を売買で移せば140万円が初年度に加わり、表の初年度の差額はその分だけ下がります。船の名義をどう移すかで、法人化の初年度の損得が逆転し得ることになります。

自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。

まとめ

  • 一杯船主の貸渡し(定期傭船を含む)も内航海運業で、総トン数100トン以上または長さ30m以上の船なら登録の対象
  • 登録事業者は、事業を会社に譲渡すれば会社が地位を承継し、承継の日から30日以内に届け出る。新規登録の登録免許税9万円はかからない
  • 会社が基準を満たす船舶を有していないなど、登録拒否事由に当たると承継できない。100トン未満かつ30m未満の届出事業者は承継の規定がなく、会社が届出を出し直す
  • 船の所有権移転登記は、売買なら船舶の価額の1000分の28。新所有者は国籍証書の書換えを申請するまで、知った日から2週間を過ぎると航行させられない
  • 東京23区・40〜64歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は承継なら1,341万円(船の登録免許税は別)

よくある質問

承継するのに、事前に国土交通大臣の認可は要りますか。

要りません。内航海運業法13条1項は、事業を譲り受けた者が内航海運業者の地位を承継すると定め、認可を条件にしていません。承継した会社は、承継の日から30日以内に届け出ます(同条2項)。届出をしない、または虚偽の届出をすると50万円以下の過料の対象です(37条1号)。

船を会社に移すとき、登録免許税は相続と同じ1000分の4になりませんか。

なりません。登録免許税法の別表第一で1000分の4が使えるのは相続または法人の合併による移転の登記です。個人から会社へ売買で移すなら「その他の原因による移転の登記」として船舶の価額の1000分の28、贈与など無償名義なら1000分の20です。

総トン数20トン未満の船でも、法務局で登記をしますか。

しません。船舶法の登記・登録の規定は総トン数20トン未満の船舶には適用されず(船舶法20条)、小型船舶の登録等に関する法律の登録になります。所有者が変わったら、新所有者が15日以内に移転登録を申請します(同法10条1項)。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。