設立の手続き

保険代理店の法人成りは登録のやり直し。登録免許税1.5万円と募集人の届出

結論

保険業法には特定保険募集人(生命保険募集人・損害保険代理店)の登録を承継する規定がなく、個人と法人は別の登録申請者です。法人成りでは、法人が所属保険会社と委託契約を結び、法人として登録を受け直します。登録免許税は1件1万5,000円で、生保と損保は登録簿が別なので両方扱うなら3万円です。個人の登録は廃業の届出で効力を失います(280条)。

  • 生保は、法人で募集する役員(代表権のある役員を除く)と使用人も一人ずつ生命保険募集人の登録が要り、手数料は1人1,150円。損保は役員・使用人を届け出るだけで、届出日より前は募集させられない
  • 代理店手数料は保険料と違って消費税の課税対象(消費税法基本通達6-3-2)。個人事業税では第1種事業の「代理業」で税率5%
  • 経費300万円・東京23区・40〜64歳・インボイス登録済みでは、損益分岐の事業所得は2年目以降1,243万円。生損保の登録免許税3万円と設立費用を乗せた初年度は1,370万円

保険代理店の登録は、所属保険会社の代理申請で財務局に出すので、自分で手続きをした実感が薄い人が多いはずです。ところが法人成りでは、この登録が法人へ移りません。法人として登録を受け直し、個人の登録は廃業の届出で閉じます。

この記事では、承継の規定がないことを条文で確かめたうえで、生保と損保で手続きが分かれる点を整理します。最後に、登録免許税と代理店手数料の課税が法人化の損益分岐をどう動かすかを、計算エンジンで出します。

保険業法に、代理店の登録を法人へ移す条文はない

保険募集ができるのは、保険業法275条に列挙された者だけです。代理店として募集するには、生命保険募集人・損害保険代理店などの「特定保険募集人」として、内閣総理大臣の登録を受けなければなりません(276条)。実務の窓口は、主たる事務所を管轄する財務局です。

登録の後に起きることを定めているのが280条です。登録事項の変更(1号)、業務の廃止(2号)、個人の死亡(3号)、法人の合併・破産・解散(4〜6号)を届け出ると定め、2〜7号に当たれば登録は効力を失います(同条3項)。**個人の登録を法人に引き継がせる規定は、どこにもありません。**電気工事業法9条のように「事業の全部を譲り受けた者が地位を承継する」と書いた条文がないのです。

個人と法人は、登録簿の上でも別の申請者です。登録申請書の記載事項は商号または氏名・事務所・所属保険会社等で(277条1項)、法人なら役員の氏名と住所を書いた書面を添付します(同条2項2号)。金融庁の監督指針は、生命保険募集人の職種を「個人保険代理店」と「法人保険代理店」に分けて登録させています。

監督指針が変更届出で足りるとしているのは、法人保険代理店が法律上の組織変更を行う場合です。合同会社を株式会社に変えるような、同じ法人格の中での変更を指します。個人から法人への切替えはこれに当たりません。

業種個人の登録・免許は法人へ移るか根拠
保険代理店(特定保険募集人)移らない保険業法に承継の規定なし。個人は280条の廃業の届出
電気工事業(登録電気工事業者)移る電気工事業法9条
宅建業移らない宅建業法に承継の規定なし
建設業許可事前の認可で移る建設業法17条の2

業種ごとの比較は法人成りで許認可は引き継げるか、免許の取り直しで保証金が二重になる例は宅建業の法人成りで扱いました。保険代理店は、保証金のような預け入れがないぶん、宅建業より身軽です。

法人で受け直すときの手順と、空白をつくらない順番

代理店になるには、保険会社と代理店委託契約を結んだうえで財務局に登録します。登録が完了するまで保険販売はできません(日本損害保険協会)。法人成りでも同じで、委託契約の相手が個人から法人に変わるところから始まります。

登録の申請や届出は、所属保険会社を代理人として出せます(284条)。監督指針は、所属保険会社の本社・支社等が代理申請をとりまとめて財務局に提出する運用を前提にしています。法人の登録申請に付ける主な書類は次のとおりです。

書類中身
登録申請書商号・事務所・所属保険会社等・兼業の種類
誓約書法人と役員が登録拒否事由(279条)に当たらないこと
役員の氏名・住所を記載した書面役員一覧で代えられる
特定保険募集人であることを証する書面委託契約書または代理申請書
定款等生保なら生命保険募集、損保なら損害保険代理業を営める旨の記載があるもの

登記事項証明書は財務局が登記情報システムで取るので、添付は要りません(監督指針)。見落としやすいのは定款の目的です。保険代理業の記載がない定款で設立すると、登録の前に目的変更の登記が要ります。

個人の登録は、廃業の届出まで生きている

280条の構造から、個人の登録は廃業の届出の事由に当たるまで効力を失いません。そのため、法人の登録が下りてから法人で募集を始め、そのあとで個人の廃業の届出を出す順にすれば、募集できない日を作らずに済みます。建築士事務所のように、1人の管理建築士が2つの事務所を兼ねられず空白が生じる業種とは違います。

ただし、既存の契約の取扱代理店を法人に切り替える手続き、切替えの日付、手数料の精算は、委託契約を結ぶ所属保険会社の取扱いで決まります。切替えの日は保険会社と先に決めておくのが前提です。

生保と損保で、役員・使用人の扱いが違う

法人成りで分かれるのは、社長以外に募集する人がいる場合です。

生命保険では、法人保険代理店の役員と使用人も、それぞれが生命保険募集人です(2条19項)。監督指針は彼らを「法人保険代理店使用人」として一人ずつ登録させます。ただし、代表権のある役員と監査役等はこの区分から除かれています。社長1人の法人なら、社長が別に登録を受ける必要はありません。家族を代表権のない役員にして募集させるなら、その人の登録が要ります。

損害保険で登録を受けるのは、損害保険代理店(法人)だけです。役員や使用人に募集させるときは、氏名と生年月日を届け出ます(302条)。監督指針は、届出日以降でなければその人を保険募集に従事させられないとしています。

区分法人そのもの募集する役員・使用人1人あたりの国への納付
生命保険法人保険代理店として登録一人ずつ生命保険募集人の登録(代表権のある役員を除く)手数料1,150円(施行令39条の3)
損害保険損害保険代理店として登録302条の届出規定なし

法人の登録には、登録免許税がかかります。登録免許税法の別表第一37号(五)が、保険会社からの委託を受けた特定保険募集人の登録を1件1万5,000円と定めています。生保は生命保険募集人登録簿、損保は損害保険代理店登録簿で、登録簿が別です。

法人の形国への納付額内訳
損保のみ・社長1人15,000円損害保険代理店登録簿に1件
生保のみ・社長1人15,000円生命保険募集人登録簿に法人保険代理店として1件
生損保兼営・社長1人30,000円登録簿が別なので2件
生損保兼営・社長+募集する家族役員1人+使用人1人32,300円生保は2人分の使用人登録、損保は届出

※ scripts/hoken-dairiten-houjinnari.mjs で再生成。登録免許税法 別表第一37号(五)、保険業法施行令39条の3による

損保の募集人は、多くの損害保険会社が損保協会の損保一般試験を使っており、試験は5年の更新制です。資格は人に付くので法人成りで受け直すものではありませんが、法人で届出をする時点で有効期限が切れていないかは確かめておきます。

大規模代理店の新しい義務は、一人法人には遠い

令和7年の保険業法改正で、特定大規模乗合損害保険代理店に体制整備の義務が設けられました(294条の4)。営業所ごとの法令等遵守責任者、本店の統括責任者、苦情処理体制などです。金融庁は令和7年12月19日に関連政令を公布し、施行は令和8年6月1日です。大規模な乗合の生命保険募集人にも同様の義務が課されます。

対象は、2社以上の所属保険会社等を持つ法人で、前の事業年度に受け取った手数料等が施行規則の基準(原則20億円)以上のものです。帳簿書類の備付けが義務になる「規模が大きい特定保険募集人」も、所属保険会社15社以上か、手数料等10億円以上です(施行規則236条の2)。法人成りを考える一人代理店が、この線にかかることはまずありません。

代理店手数料は消費税の課税対象。個人事業税は「代理業」

保険料を対価とする役務の提供は非課税です。一方で、保険代理店が受け取る代理店手数料は課税資産の譲渡等の対価に当たります(消費税法基本通達6-3-2)。保険を扱う事業でも、代理店は消費税の納税義務を負う側です。前々年(基準期間)の手数料が1,000万円を超えれば、インボイス登録の有無にかかわらず課税事業者です。

個人事業税では、代理業は第1種事業の1つです(地方税法72条の2第8項23号)。税率は5%で、事業主控除は年290万円です。東京都行政不服審査会の答申では、保険会社と契約して歩合で報酬を得ていた生命保険外交員の業務まで「代理業」と認めています。事務所を構えて手数料を受け取る代理店は、通常この区分に入ります。法人成りした年の個人事業税は月割の事業主控除で計算し、見込額を経費にできます。その扱いは法人成りした年の個人事業税で扱っています。

登録免許税と消費税が、損益分岐をどれだけ動かすか

経費300万円(事務所・車両・通信など)、東京23区・40〜64歳の条件で、手数料収入ごとの実質差額を出しました。法人化で個人事業税(代理業5%)はなくなります。初年度は設立費用と生損保の登録免許税3万円を差し引いています。

手数料収入収入−経費個人事業税(代理業5%)インボイス登録済み:初年度登録済み:2年目以降未登録のまま法人化:初年度未登録:2年目
800万円500万円10.5万円−59.0万円−46.0万円−50.8万円−37.8万円
1,000万円700万円20.5万円−39.2万円−26.2万円−32.9万円−19.9万円
1,200万円900万円30.5万円−26.2万円−13.2万円+37.9万円+50.9万円
1,400万円1,100万円40.5万円−21.9万円−8.9万円+53.8万円+66.8万円
1,600万円1,300万円50.5万円−7.2万円+5.8万円+80.1万円+93.1万円
1,800万円1,500万円60.5万円+13.1万円+26.1万円+107.1万円+120.1万円
2,000万円1,700万円70.5万円+24.6万円+37.6万円+134.2万円+147.2万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/hoken-dairiten-houjinnari.mjs で再生成)で算出。経費300万円・東京23区・単身・40〜64歳・青色申告(電子申告65万円控除)・合同会社(設立費用10万円)・個人事業税は第1種の代理業(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円の前提。「未登録」は個人・法人ともインボイス未登録・本則課税で、法人の設立1〜2期は消費税の免税を受ける前提。2026年(令和8年)分基準の概算

右の2列が大きく動くのは、手数料が課税売上だからです。手数料1,200万円以上の個人は課税事業者で、新設法人が免税になれば手数料にかかる消費税がその期間まるごと残ります。しかし、インボイス登録をした法人は免税を受けられません。法人の側でインボイス登録が求められるかは、所属保険会社との委託契約の条件しだいです。当サイトでは確認していないので、この2列は「登録しない場合はこれだけ動く」という上限の目安として読んでください。仕組みはインボイス登録済みなら2年間免税は受けられない、免税が崩れるほかの条件は新設法人の2期免税が崩れる条件にまとめています。

インボイス登録済みの条件で、法人化の差がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。

固定費の前提40歳未満40〜64歳
2年目以降(税理士報酬の差のみ)1,266万円1,243万円
初年度:設立費用+登録免許税1.5万円(損保のみ・生保のみ)1,378万円1,356万円
初年度:設立費用+登録免許税3万円(生損保兼営)1,394万円1,370万円

登録免許税が動かす損益分岐は、損保のみと生損保兼営の差で14万円ほどです。**判断を左右するのは登録の費用ではなく、インボイス登録を続けるかどうかと、2年目以降の差額です。**手数料1,400万円・経費300万円でも、登録済みなら2年目以降はまだ年8.9万円のマイナスです。自分の手数料収入と経費を入れて、判定ツールで確かめてください。

まとめ

  • 保険業法には特定保険募集人の登録を承継する規定がなく、法人成りでは法人が委託契約を結び直して登録を受ける。個人の登録は廃業の届出の事由に当たった時点で効力を失う
  • 個人の登録は廃業まで有効なので、法人の登録後に個人の廃業の届出を出す順にすれば募集の空白は生じない。切替えの日は所属保険会社と決める
  • 登録免許税は1件1万5,000円で、生損保兼営なら3万円。生保は代表権のない役員・使用人も1人1,150円で登録、損保は302条の届出で足りる
  • 代理店手数料は消費税の課税対象(基本通達6-3-2)、個人事業税は代理業で5%。インボイス登録済みなら、経費300万円・40〜64歳の損益分岐は2年目以降1,243万円

よくある質問

保険代理店を法人成りしたら、募集人の試験は受け直しですか。

試験の合格や資格は人に付くもので、登録とは別です。ただし損保一般試験は5年の更新制なので、法人で登録・届出をする時点で有効期限が残っているかを、損保協会の募集人・資格情報システムで確認しておくと安全です。

法人成りの後も、個人の代理店の登録を残しておけますか。

個人として保険募集の業務を廃止したときは、遅滞なく廃業の届出をする義務があり、届出の事由に当たった時点で登録は効力を失います(保険業法280条1項2号・3項)。法人の登録が済んで法人で募集を始めたら、個人の分は廃業の届出を出す流れになります。

合同会社の保険代理店を株式会社に変えるときも、登録をやり直しますか。

金融庁の監督指針は、法人保険代理店が法律上の組織変更を行う場合は変更届出を行うとしています。個人から法人への切替えとは扱いが違い、同じ法人格のまま登録事項の変更として届け出ます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。