税金の基礎

法人成りした年の個人事業税は見込額を経費にできる

個人事業を廃止した年は、翌年に課税される個人事業税の見込額をその年の必要経費へ算入できます。通常の支払年経費との違いと、法人成り時の処理を整理します。

個人事業税は、前年の所得をもとに翌年請求されます。法人成りして個人事業を廃止すると、支払う翌年には個人の事業所得がありません。そこで国税庁は、廃業年分の個人事業税の見込額を、その廃業年の必要経費にできる取扱いを設けています。

これは税金が免除される制度ではありません。翌年払う個人事業税を、最後の事業所得へ前倒しで反映する制度です。「今年の経費」と「来年の現金支出」がずれるため、申告と資金繰りを分けて考えます。

通常は支払った年、廃業年だけ前倒しできる

継続中の個人事業では、個人事業税は実際に納付した年の必要経費です。しかし廃業すると、翌年に経費を受け止める事業所得がなくなります。所得税基本通達37-7がこのずれを埋めます。

状況必要経費にする時期
事業を継続原則、納付した年
年の途中で廃業廃業年の課税見込額を廃業年へ算入可能

法人成りは個人事業の廃止を伴うため、この取扱いを確認する場面です。会社を作っただけで個人事業を継続しているなら、廃業の前提がありません。

前年分と廃業年分の2種類を混同しない

法人成りした年には、個人事業税が2層になることがあります。

税金所得の対象年現金を払う時期所得税上の処理
前年所得に対する個人事業税前年法人成りした年通常どおり支払年の必要経費
廃業年所得に対する個人事業税廃業年原則として翌年見込額を廃業年へ算入可能

たとえば8月に法人成りしても、その年の8月・11月には前年分の納税通知が来ることがあります。それとは別に、1月から廃業日までの所得に対する個人事業税が翌年課されます。見込控除の対象になるのは後者です。

前年分を払った仕訳と、廃業年分の見込計上を同じ税額として二重に経費へ入れないようにします。納税通知書の対象年と、確定申告書へ入れる見込額の対象年を照合してください。

見込額は単純な「所得×税率」ではない

通達の算式は、見込控除前の事業所得、個人事業税の課税標準で加減算する金額、税率を使います。青色申告特別控除は個人事業税の課税標準では扱いが異なり、事業主控除もあるため、所得税の事業所得へそのまま税率を掛けてはいけません。

所得税基本通達37-7が示す考え方は、見込控除前の所得をA、個人事業税の課税標準上の加減算額をB、税率をRとして、見込控除そのものが所得を下げる循環を式の中で調整するものです。単に「A×5%」とすると、見込控除後の所得に税率を掛ける関係を反映できません。

計算に入る4つの要素

要素確認する内容
法定業種個人事業税の対象となる業種か
税率原則5%、一部4%・3%、法定業種外は課税なし
事業主控除年290万円。年途中の廃業は月割り
青色申告特別控除個人事業税の課税標準では差し引かない

年途中で廃業した場合、事業主控除290万円は月割りです。6か月営業なら単純な年290万円のままではありません。月数の数え方と端数処理を含め、都道府県の案内で確認します。

一方、所得税の申告書上では青色申告特別控除後の事業所得が目立ちます。個人事業税はその数字をそのまま使わないため、確定申告書の「所得金額」だけから見込額を決めるとずれます。

業種によって税率や課税対象が変わる点は個人事業税がかからない業種で整理しています。そもそも対象外業種なら、見込額も発生しません。

同じフリーランスでも税率0%と5%に分かれる

個人事業税は「フリーランス税」ではなく、地方税法上の法定業種へ課される税金です。物品販売業、請負業、飲食店業、コンサルタント業、デザイン業などは5%の区分が中心です。畜産業などの第2種は4%、一部の医業類似事業等は3%です。

プログラマーやライターなどは、契約内容と実態によって法定業種への該当判断が問題になります。職業名だけで非課税と断定できません。前年の納税通知書がない初年度や、業務内容を変えた年は、所管の都道府県税事務所による業種判定を確認します。

この違いは法人化比較にも効きます。当サイトの判定ツールでは業種区分を入力できます。5%業種として計算した結果と法定業種外として計算した結果では、個人側の手取りと損益分岐点が変わります。

法人成り年の最終申告で入れる

個人の所得税は1月1日から廃業日までの事業所得と、法人化後の役員給与などを合わせて翌年申告します。見込控除を使うなら、その最終の事業所得計算へ入れます。

法人成り年の所得は一本の確定申告に集まる

年途中の法人成りでは、個人の確定申告に複数の所得が並びます。

  • 廃業日までの個人事業の売上と必要経費
  • 前年分として実際に払った個人事業税
  • 廃業年分の個人事業税の見込控除
  • 法人設立後に受け取った役員給与
  • 車や機械を法人へ売った場合の譲渡所得
  • 一括償却資産・開業費などの残額(承継者がいないので廃業年に全額。法人成りの年の一括償却資産と開業費

役員給与は給与所得であり、個人事業税の課税標準には入りません。反対に、廃業前の売掛金が法人化後に入金されても、取引が個人事業に帰属するなら個人側の収入として整理します。入金日だけで法人売上へ移さないようにします。

見込控除は会計ソフトが自動計算しないことがあります。確定申告書へ転記する前に、個人事業税の計算明細と仕訳メモを残しておくと、翌年届く納税通知書との照合ができます。

申告時に使わなかった場合、通達は賦課決定時に事業廃止の必要経費特例や更正の請求を適用できる旨も示しています。ただし後から直す事務が増えるため、廃業年の申告時点で見込額を確認するほうが流れは単純です。

見込額と実際の賦課額に差が出た場合も、差額を放置せず処理を確認します。見込計上は「適当な概算を自由に置く」制度ではなく、通達の算式に基づくためです。業種判定や月割り控除が変われば差額が生じます。

現金は翌年まで残しておく

廃業年の所得を見込控除で下げても、個人事業税の支払いが消えるわけではありません。法人化後の翌年に、個人名義で納税通知が届きます。

廃業年に行うこと翌年に行うこと
課税見込額を必要経費へ算入納税通知書の税額を確認
見込額分の現金を確保個人名義で納付
算式と前提を保存見込額との差を確認

会社の口座から個人の税金を直接払えば、会社の経費にはなりません。会社が立て替える場合は役員貸付金など、法人と個人の精算が必要です。法人化時の資金移動を簡単にするためにも、見込額相当を個人口座へ残します。

申告前チェックリスト

  1. 個人事業を実際に廃止したか
  2. 廃業日までの売上・経費・売掛金を締めたか
  3. 法定業種と税率を確認したか
  4. 月割り後の事業主控除を使ったか
  5. 青色申告特別控除を個人事業税から誤って引いていないか
  6. 前年分の支払税額と廃業年分の見込額を二重計上していないか
  7. 翌年の納税資金を個人側へ残したか

個人事業の廃業手続きでは届出期限を扱っています。届出と所得計算は別なので、廃業届を出しただけで見込控除が自動反映されるわけではありません。自分の業種と廃業月を判定ツールへ入れ、個人事業税が法人化比較へどの程度効くかも確認してください。

8月に法人成りする場合の時系列

時期個人事業税に関する処理
1〜7月個人事業の所得を集計
8月在庫・資産移転を終え、個人事業を廃止
8月・11月前年所得に対する個人事業税を納付する場合あり
12月末個人事業と役員給与を含む年間所得を締める
翌年2〜3月廃業年分の見込個人事業税を必要経費へ入れて確定申告
翌年廃業年所得に対する個人事業税の通知・納付

この流れでは、法人成りした年に払う前年分と、翌年払う廃業年分が両方登場します。確定申告の必要経費明細には、それぞれの対象年が分かる名称を付けます。

たとえば「租税公課」とだけ記帳すると二重計上を見つけにくくなります。「令和7年所得分・個人事業税納付」「令和8年廃業所得分・見込控除」のように摘要を分けます。

法人側へ付け替えない

個人事業税は個人事業から生じた税金です。法人成り後に通知が届いたからといって、新設法人の法人税等や事業税にはなりません。会社が支払えば、会社と社長個人の貸借として処理します。

法人の事業税は法人所得を基礎に別途計算します。個人事業税の見込控除と法人事業税の損金算入時期を混ぜないようにしてください。

まとめ

  • 個人事業税は通常、納付した年の必要経費
  • 事業を廃止した年は、翌年課税分の見込額を廃業年へ算入できる
  • 見込額は事業主控除や業種別税率を含む所定の算式で出す
  • 個人事業を残す場合は廃業年の特例にならない
  • 廃業届と確定申告の経費処理は別に行う

よくある質問

法人成りした年の個人事業税は、まだ払っていなくても経費になりますか?

個人事業を廃止した場合は、所定の算式による課税見込額を廃業年の必要経費へ算入できます。

見込控除を使わなかったら経費にできなくなりますか?

賦課決定後に、事業廃止時の必要経費の特例や更正の請求を検討する取扱いがあります。申告時に処理するほうが時期を揃えやすくなります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。