税金の基礎

保険外交員に個人事業税が来た。雇用契約でも「代理業」になる理由

結論

東京都では、保険会社と雇用契約を結ぶ営業職員でも、歩合の報酬を事業所得で申告し、車両費や交際費などの経費を自分で負担していれば、個人事業税の「代理業」(第1種事業・税率5%)として課税されます。審査会に持ち込まれた同じ不服30件は、すべて棄却されました。事業所得1,000万円(青色申告特別控除の前)なら税額は年35.5万円です。

  • 東京都の事務提要は、報酬の支払方法4項目・営業所と営業費4項目・活動形式と労働時間5項目の計13項目で判定し、YESが過半数なら代理業とする
  • 都税統計で代理業の課税人員は2012年度536人→2018年度1,108人と6年で2.1倍。同じ期間の課税人員全体は1.1倍だった
  • 営業職員の契約は個人と保険会社の間のもので、会社を作っても移せない。法人で募集するには、保険会社から委託を受ける代理店になる必要がある(保険業法2条19項)

生命保険会社の営業職員として雇用契約を結び、健康保険も厚生年金も会社で入っている。それなのに8月、都税事務所から個人事業税の納税通知書が届いた――。東京都行政不服審査会には、この不服が2017〜2025年に30件持ち込まれています。結論はすべて棄却でした。

なぜ「会社員」に事業の税金がかかるのか。答申の判断の組み立てと、東京都が使っている判定基準を読むと、課税の分かれ目がどこにあるかが見えてきます。

「雇用契約だから事業者ではない」は通らなかった

30件の請求人の主張はほぼ共通です。会社と「営業社員雇用契約」を結び、就業規則に従い、転勤命令も断れない。社会保険料は会社が負担している。だから事業者ではない、というものです。

答申はこれを退けるときに、決まって二つの事実を確認しています。

  1. 請求人が歩合の報酬を、所得税の確定申告で事業所得として申告していること
  2. 接待交際費・車両費・事務所の家賃・家族への専従者給与などの経費を、自分の判断で負担していること

たとえば令和6年1月16日の答申では、報酬3,706万円に対して専従者給与以外の経費が約35%あり、父母を青色事業専従者として年280万円の給与を払っていました。答申は、この収支の結果は会社に労務を提供した対価ではなく、自分の危険と計算で業務を行った請求人自身に帰属するとし、雇用契約があることは代理業の認定の妨げにならないと述べています。

経費の割合が書かれていた8件では、報酬に対する経費は**約35〜72%**でした。会社員の給与所得者が、収入の3割から7割を自腹の経費として申告することは通常ありません。確定申告書のこの数字そのものが、事業性の証拠として読まれています。

東京都は13項目で「代理業」を判定する

地方税法72条の2第8項は、第1種事業の23号に代理業を挙げています。答申が引用する東京都の「個人事業税課税事務提要」(主税局長通達)は、代理業を次の4つを満たすものと定義しています。

  • 一定の商人のために(原則として特定の者のために)
  • 反復継続して
  • 取引を代理し、または媒介する
  • 独立した事業である

保険の営業職員は、保険業法上の「生命保険募集人」として、所属する保険会社のために保険契約の締結の代理または媒介を行います。最初の3つはほぼ自動的に満たすため、争点は4つ目の独立性になります。

実態に疑義がある場合のために、事務提要は判定基準を置いています。

類別項目数
報酬支払の方法4項目
営業所の所有及び営業費の分担関係4項目
活動形式と労働時間の拘束関係5項目

※ 東京都 個人事業税課税事務提要 第3章・第2節・第23(令和6年1月16日・1月19日答申の引用による)

判定は、3つの類別それぞれで少なくとも1項目が該当し、かつ13項目を通じてYESが過半数に達すれば代理業です。答申の一つ(令和元年6月11日)では、都税事務所が13項目のうち7項目をYESと判断して課税していました。事務提要は、判定基準が唯一絶対ではなく、不合理があればその他の事情も勘案するとも定めています。

「外交員は課税しない」という古い回答の扱い

請求人の中には、昭和29年8月14日の自治省回答を根拠に挙げた人もいます。生命保険外交員への課税について「代理業(例えば代理店等)でない限り、法定業種に該当しないものと思料されるから課税は不可」とした行政実例です。

事務提要は、この種の過去の回答は具体的な個々の事例に判定を示しただけで、代理業に当たる外交員まで課税対象外とする趣旨ではないとしています。名称が「外交員」「外務員」であっても、名目上の契約にかかわらず、実態で判断するという立場です。答申もこの考え方を支持しています。

代理業の課税人員は6年で2.1倍になった

この判断が実務でどう動いたかは、都税統計年報の業種別の表で確かめられます。

年度代理業の課税人員課税人員全体
2011年度574人160,655人
2012年度536人160,223人
2014年度727人163,281人
2016年度879人171,904人
2017年度1,004人174,634人
2018年度1,108人177,231人
2020年度902人182,102人
2022年度1,029人208,261人
2024年度1,005人194,418人

※ 東京都主税局 都税統計年報「個人事業税 (1) 業種別」。各年度の課税は前年の所得に対するもの ※ scripts/tozei-tokei-kojin-jigyozei.py で集計(元データは data/official/tozei-tokei-kojin-jigyozei/)

代理業の課税人員は2012年度の536人から2018年度の1,108人へ2.1倍になりました。同じ時期、個人事業税の課税人員全体は160,223人から177,231人で1.1倍です。審査会の答申が2018年に14件集中しているのも、この時期の課税の広がりと重なります。2018年度をピークに、その後は1,000人前後で推移しています。

事業所得ごとの税額

個人事業税は、事業所得から事業主控除290万円を引いた額に税率をかけます。所得税の青色申告特別控除は差し引けません。代理業とされた場合の税額を計算エンジンで出しました。

事業所得(青色申告特別控除の前)代理業(5%)とされた場合の個人事業税法定業種外とされた場合
600万円15.5万円0円
800万円25.5万円0円
1,000万円35.5万円0円
1,500万円60.5万円0円
2,000万円85.5万円0円
3,000万円135.5万円0円

※ 2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/hoken-gaikoin-kojin-jigyozei.mjs)で計算

答申に書かれていた税額は、3.5万円から471.7万円まで幅がありました(税額の記載があった23件、中央値は約80万円)。一度課税されると毎年続く税なので、事業所得1,500万円なら10年で600万円を超えます。

報酬の源泉徴収は、事業税とは別に引かれている

保険会社が報酬を払うときは、所得税の源泉徴収もしています。国税庁No.2804によると、外交員の報酬は**1か月の報酬から12万円を引いた残額に10.21%**をかけた額が源泉徴収されます。同じ月に給与も払われている場合は、12万円から給与の額を引いた残りが控除額です。給与として払われる部分は給与所得として源泉徴収され、個人事業税の対象にもなりません。

源泉徴収は所得税の前払いで、確定申告で精算されます。個人事業税はこれとは別に、確定申告の内容をもとに8月に通知されます。

法人化で個人事業税は消える。ただし営業職員のままでは会社を作れない

個人事業税がなくなる方法として、法人化を考える人もいます。法人になれば個人事業税はかからず、代わりに法人の所得に法人事業税がかかります。役員報酬を払った後の法人の所得は小さいので、多くの場合は事業税の負担そのものは減ります。

ただし保険の営業職員には固有の制約があります。保険業法2条19項は、生命保険募集人を「生命保険会社の役員若しくは使用人」か「生命保険会社の委託を受けた者」とその役員・使用人に限っています。営業職員としての契約は保険会社とあなた個人の雇用契約です。自分の会社を作っても、その会社が保険会社の「使用人」になることはできません。

会社で保険を販売するには、会社が保険会社から委託を受ける代理店になり、代理店として登録する必要があります。今の保険会社がそれを認めるかどうかは、会社との契約次第です。代理店を個人から法人に切り替える手続と費用は保険代理店の法人成りは登録のやり直しにまとめています。

代理店として法人化できる場合の損益分岐点は、次のとおりです。

条件代理業(5%)法定業種外
40〜59歳・独身1,243万円2,277万円
40〜59歳・配偶者あり(無収入)865万円1,933万円
40歳未満・独身1,266万円2,198万円

※ 経費200万円・東京23区・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。実質差額がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除の前)

代理業として個人事業税を払っている人にとっては、法人化の損益分岐点は一般の5%業種と同じ水準です。答申に出てきた報酬の中央値は約4,000万円で、経費を5割としても事業所得は2,000万円前後になります。課税されている人の多くは、分岐点を大きく超えた所得帯にいます。 一方で、営業職員から代理店に変わると、会社の社会保険や雇用保険から外れることになります。個人事業税の額だけで決めず、契約の形を変える影響まで含めて比べる必要があります。

個人事業税の業種の線引き全体は個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法、ほかの業種も含めた審査請求の結果は個人事業税の審査請求、東京都の答申40件で認められたのは1件だけで整理しています。

まとめ

  • 東京都では、雇用契約のある保険の営業職員でも、報酬を事業所得で申告し経費を自分で負担していれば「代理業」(5%)として課税される。審査会の同種の不服30件はすべて棄却
  • 判定は事務提要の13項目。3つの類別それぞれで1項目以上が該当し、YESが過半数なら代理業
  • 代理業の課税人員は2012年度536人から2018年度1,108人へ2.1倍。同じ期間の課税人員全体は1.1倍
  • 事業所得1,000万円で年35.5万円、2,000万円で年85.5万円。報酬の源泉徴収(12万円控除後10.21%)とは別にかかる
  • 営業職員のままでは法人化できない。会社で販売するには代理店として委託を受ける必要がある

報酬が大きい営業職員ほど、個人事業税は毎年の重い固定費になります。契約の形を変える選択肢があるかどうかも含めて、自分の報酬と経費で確かめてください。

よくある質問

会社で社会保険に入っている営業職員でも、個人事業税はかかりますか?

東京都の答申は、健康保険・厚生年金・雇用保険に加入していることを、代理業に当たらない理由として認めていません。報酬を事業所得として申告し、経費を自分で負担している実態があれば、雇用契約があっても事業を行う個人と判断されています。

固定給と歩合の両方を受け取っている場合はどうなりますか?

給与として支払われる部分は給与所得で、個人事業税の対象ではありません。国税庁No.2804も、外交員への支払いのうち給与等に当たるものは給与所得として源泉徴収するとしています。個人事業税の対象になるのは、事業所得として申告した報酬の部分です。

個人事業税の通知に不服がある場合、いつまでに審査請求できますか?

処分があったことを知った日の翌日から3か月以内です(行政不服審査法18条1項)。ただし東京都の答申30件はすべて棄却されており、確定申告の内容(事業所得としての申告、経費の計上)が判断の出発点になっています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。