税金の基礎

個人事業税の審査請求、東京都の答申40件で認められたのは1件だけ

結論

東京都行政不服審査会が2017〜2025年に出した個人事業税の答申40件のうち、39件が棄却、認容は駐車場用地の貸付けをめぐる1件だけでした。30件は生命保険・損害保険の営業職員が「代理業」と認定されたことへの不服です。判断の物差しは、職業名や雇用契約の有無ではなく、所得税で事業所得として申告しているか、経費を自分で負担しているかでした。

  • 40件の内訳は、保険の営業職員(代理業)30件、不動産貸付業3件、駐車場業2件、請負業2件、諸芸師匠業・デザイン業・賦課の時期が各1件
  • 答申はほぼ例外なく、所得税の確定申告で事業所得・不動産所得として申告した事実を課税の出発点にしている(地方税法72条の50)
  • 法人事業税には業種の区別がない。法人化すると業種認定の争いは消えるが、個人事業税がかからない業種の人も法人事業税を払う側になる

個人事業税の業種認定は、最後は「都道府県の判断」と説明されることが多い論点です。では、その判断に納得できなかった人が審査請求をすると、どうなるのか。東京都は、行政不服審査会の答申を年度ごとに全文公開しています。

平成29年度から令和6年度の一覧に載っている個人事業税の答申は40件ありました。1件ずつ本文を読み、争われた業種と結論を数え直した結果が下の表です。

40件のうち30件は、保険の営業職員だった

争われた業種・論点件数棄却認容
代理業(保険の営業職員)30件30件0件
不動産貸付業3件3件0件
駐車場業2件1件1件
請負業2件2件0件
諸芸師匠業1件1件0件
デザイン業1件1件0件
賦課の時期(業種は争点外)1件1件0件
合計40件39件1件

※ 東京都行政不服審査会の答申(答申日2017年7月10日〜2025年2月13日)。業種は答申本文に出てくる法定業種の語で分類 ※ scripts/tokyo-shinsakai-kojin-jigyozei.py で集計(元データは data/official/tokyo-shinsakai-kojin-jigyozei/)

30件が、生命保険会社・損害保険会社の営業職員が「代理業」(第1種事業・税率5%)と認定されたことへの不服でした。主張はほぼ共通していて、「会社と雇用契約を結び、社会保険にも入っている従業員だから事業者ではない」というものです。答申の年で見ると、2018年に16件が集中し、そのうち14件が保険の営業職員です。

答申の年件数うち保険の営業職員
2017年1件1件
2018年16件14件
2019年7件5件
2020年3件2件
2021年5件2件
2022年1件1件
2023年1件1件
2024年5件3件
2025年1件1件

※ 集計の条件は上の表と同じ

残りの10件は、不動産・駐車場の貸付けが5件、請負業が2件(公園の管理業務、内装工事の手間請け。手間請けの一人親方に個人事業税)、IT講師が諸芸師匠業とされた1件(講師・インストラクターの個人事業税)、イラストの制作がデザイン業とされた1件(イラストレーターの個人事業税)、そして業種ではなく「通知が1年遅れて届いた」ことを争った1件です。

判断の出発点は、自分の確定申告書だった

40件の答申を通して読むと、判断の組み立てはほぼ同じです。

  1. 請求人が所得税の確定申告で、その収入を**事業所得(または不動産所得)**として申告していることを確認する
  2. 経費を自分で負担しているか、反復継続しているかを見て「事業」に当たるかを判断する
  3. 東京都の「個人事業税課税事務提要」(主税局長通達)の基準に照らして、どの法定業種に当たるかを決める

1の根拠は地方税法72条の50第1項で、都道府県は所得税の申告や更正で決まった所得を基準に個人事業税を課すと定めています。さらに72条の55の2は、所得税の確定申告書を出せば個人事業税の申告もしたものとみなすとしています。

この「みなし申告」が、請求人の主張を退ける理由として何度も使われています。たとえば4階建ての建物を貸していた人は「4階は自分で使っているので10室に届かず、不動産貸付業ではない」と主張しましたが、答申は、本人が確定申告で建物全体を減価償却の対象にし、貸付割合を100%と書いていたことを指摘し、主張は「自ら行った事業税の申告と明らかに矛盾する」として退けました(平成30年12月26日答申)。

雇用契約や社会保険は、決め手にならない

保険の営業職員の30件で、答申が繰り返し引用しているのが事務提要の次の趣旨です。外交員・外務員という名称や名目上の契約にかかわらず、実態として代理業の定義を満たせば代理業に当たる。身分上の従属関係だけを重視せず、自己の責任で営業行為とみなせる収支計算をしているかを調べる。

実際、答申は請求人の青色申告決算書を読み、接待交際費・車両費・事務所家賃・家族への専従者給与などを自分で負担している点を事業者と認める理由にしています。経費が収入の35〜72%に達していた例もあります。会社員として雇われていても、報酬を事業所得で申告し、経費を立てている限り、個人事業税の対象から外れることは難しいというのが30件の結論です。判定基準の13項目と税額は保険外交員に個人事業税が来た。雇用契約でも「代理業」になる理由で詳しく扱っています。

唯一の認容は、運営に関与しない駐車場の土地貸し

40件で唯一認められたのは、駐車場会社に土地を一括で貸していた人の請求です(令和3年2月25日答申)。

答申が引用する事務提要(令和2年3月の改正前のもの)は、更地を一括で貸し、借り手がそこで駐車場事業を営む場合、原則として貸主の駐車場所の提供(駐車場業)とみなすとしています。例外は「賃借人が土地の上に建築物を設け、その中で駐車場を運営している場合」と「賃借人の駐車場の運営に、賃貸人の関与が一切認められない場合」の2つです。都税事務所は、建築物がない平面駐車場だから例外に当たらないとして課税しました。

答申は、貸主が駐車場業を営むかどうかの基準は運営への関与であり、建築物の有無はその着眼点の例示にすぎないと読みました。そのうえで、運営への関与がないことを確かめないまま課税したのは事務提要の運用を誤っているとして、処分を取り消しました。都税事務所が関与の根拠に挙げた「賃料に消費税を上乗せしている」「土地が壊れたら貸主が直す」という契約条項は、土地の貸主として通常の義務にすぎないと判断されています。

一方、似た事案で棄却された答申もあります(令和元年6月20日答申)。こちらは貸主が自分の費用で土地をアスファルト舗装し、その費用を減価償却していました。契約書の表題も「駐車場用地一時賃貸借契約書」で、目的は駐車場の経営と書かれていました。同じ「コインパーキング業者への土地貸し」でも、契約の書き方と費用の負担で結論が分かれています。千葉県・大阪府の基準や消費税との関係は土地を駐車場会社に一括で貸すと個人事業税はかかるかで整理しました。

審査請求の手続と、見落としやすい期限

個人事業税の賦課に不服があるときの審査請求は、行政不服審査法に沿って行います。期限は処分があったことを知った日の翌日から3か月以内です(同法18条1項)。8月に届く納税通知書の内容に疑問があれば、その年の11月ごろが期限の目安になります。

審査請求をしても納税義務は止まりません。40件の中には「通知を受けて即納付した」と書いている請求人もいます。認容されれば還付されるので、争う場合も納めておくほうが延滞金の心配がありません。

なお「個人事業税の通知が1年遅れて届き、経費にできる年がずれて所得税で損をした」という請求(令和3年10月29日答申)も棄却されています。個人事業税は都が税額を決めて通知する賦課課税です。地方税法17条の5第3項は、賦課決定を法定納期限(個人事業税は原則8月31日)の翌日から3年以内に限っており、その期間内であれば翌年以降に賦課されても違法にはなりません。この請求人は税理士で、業種そのものは争っていませんでした。

法人化すると、業種認定の争いは消える

ここまでの争いは、すべて個人事業税の話です。地方税法72条の2第1項は、法人事業税を「法人の行う事業」に課すと定めており、個人事業税のような法定業種の限定がありません。法人になれば、業種が何であっても法人事業税の対象です。

つまり法人化には、二つの方向の影響があります。

いまの扱い法人化すると
法定業種に当たり、個人事業税(3〜5%)を払っている個人事業税が消え、法人の所得に法人事業税がかかる。役員報酬を払った後の所得は小さいので、多くは負担が減る
法定業種に当たらず、個人事業税を払っていない法人事業税を新たに払う側になる。法人化の損益分岐点が大きく後ろにずれる

当サイトの計算エンジンで比べると、40歳未満・独身・経費200万円・東京23区の条件で、法人化の損益分岐となる事業所得は、個人事業税5%の業種が1,266万円、課税されない業種が2,198万円です。業種の線引きひとつで、法人化を考え始める所得が900万円以上ずれます。業種区分ごとの計算はライター・エンジニア・デザイナーで法人化の分岐点は932万円違うにまとめています。

業種の線引きそのものと計算方法は個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法で整理しました。審査請求で争う前に、自分の確定申告書の職業欄・所得区分・経費の書き方が、どの業種として読まれるかを確かめておくことが先です。

まとめ

  • 東京都行政不服審査会の個人事業税の答申40件(2017〜2025年)は、39件が棄却、認容は1件だけ
  • 30件は保険の営業職員が「代理業」とされた事案。雇用契約や社会保険への加入は、事業所得で申告し経費を負担している事実を覆さなかった
  • 判断の出発点は本人の確定申告。所得税の確定申告書は個人事業税の申告とみなされる(地方税法72条の55の2)
  • 唯一の認容は、運営に関与しない駐車場用地の貸付け。舗装費用を負担していた別の事案は棄却された
  • 法人事業税には業種の限定がない。課税されない業種の人ほど、法人化の損益分岐点は後ろにずれる

個人事業税がかかるかどうかで、法人化を考え始める所得は大きく変わります。一般論の目安ではなく、自分の業種区分と売上・経費で確かめてください。

よくある質問

個人事業税の業種認定に不服があるとき、いつまでに審査請求すればよいですか?

行政不服審査法18条により、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内です。個人事業税なら、通常は納税通知書を受け取った日が起点になります。処分の日の翌日から1年を過ぎると、正当な理由がない限り請求できません。

審査請求をしている間も、個人事業税は納めなければいけませんか?

審査請求をしても、処分の効力や執行は原則として止まりません(行政不服審査法25条1項)。納期限を過ぎれば延滞金の対象になるため、争う場合も納付しておき、認められれば還付を受けるのが一般的です。

東京都の答申は、ほかの道府県でも同じ結論になりますか?

答申は東京都の審査庁への意見で、他の道府県を拘束しません。業種の認定は各道府県が行うため、同じ職業でも扱いが異なることがあります。ただし、所得税の申告内容を出発点にする点は地方税法72条の50に基づくもので、どの道府県でも共通です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。