税金の基礎
手間請けの一人親方に個人事業税。材料なし・一社専属でも請負業とされた理由
結論
手間請けの一人親方でも、報酬を事業所得として申告していれば、個人事業税の請負業(第1種事業・税率5%)として課税されるのが通常です。大工・左官・とび職などの請負業の認定は国税の所得区分に準じるとされ、東京都の審査会は、材料を仕入れず勤務時間の目安があった内装業の一人親方への課税を、出来高制の報酬・自宅の事務所費・車両の減価償却・青色申告特別控除の適用を理由に認めました。
- 総務省の取扱通知は、大工・左官・とび職等が請負業に当たるかの認定は『国の税務官署の取扱いに準ずる』としている。所得税で事業所得なら、個人事業税でも請負業になる
- 京都府の答申では、所得の約94%が1社からの手間受けでも、取引先が『請負契約に準ずる契約の対価』と回答していたことなどから請負業とされた
- 東京都の内装業の事案は、収入712.7万円・経費207.1万円で税額は年10万7,800円。青色申告特別控除65万円は差し引かれない
このテーマの全体像 個人事業税の業種と計算方法
「材料は元請が用意する。自分は決まった現場で、決まった時間に、言われた作業をしているだけ。これで事業税はおかしい」――手間請けの一人親方からよく聞く疑問です。東京都と京都府の審査会には、まさにこの主張の事案が持ち込まれていますが、どちらも課税が維持されました。
大工・左官等の請負業は、国税の所得区分に従う
地方税法72条の2第8項14号は、第1種事業(税率5%)に請負業を挙げています。総務省の「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」は、請負業を「その事業が通常請負契約によって行われるもの」としたうえで、大工、左官、とび職等が請負業に該当するかどうかの認定は、国の税務官署の取扱いに準ずるとしています。
その国税の取扱いが、国税庁の「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」(平成21年12月17日 法令解釈通達)です。京都府の答申が引用している内容は次のとおりです。
- 請負契約またはこれに準ずる契約に基づく業務の遂行・役務の提供の対価は事業所得
- 雇用契約またはこれに準ずる契約に基づく役務の提供の対価は給与所得
- 区分が明らかでないときは、次の事項を総合勘案して判定する
| 判定の事項 | 事業所得の側に傾く事実 |
|---|---|
| 他人が代わりに業務をすることが認められるか | 認められる |
| 作業時間の指定や、時間単位の報酬計算など時間的な拘束を受けるか | 受けない |
| 作業の具体的な内容や方法について指揮監督を受けるか | 受けない |
| 引渡し前の完成品が不可抗力で滅失した場合に、報酬を請求できるか | 請求できない(危険を負う) |
| 材料や用具(軽微なものを除く)を報酬の支払者から供与されるか | 供与されない |
※ 国税庁 平成21年12月17日 課個5-5(京都府 令和2年答申第1号の引用による)
所得税で事業所得と判定される働き方なら、個人事業税でも請負業になる、というのが基本の構造です。
東京都の答申:時間の目安があっても、材料がなくても請負業
令和2年2月18日の東京都の答申は、内装業の一人親方の事案です。請求人の主張はこうでした。基本的に手間請けで、ゼネコンのもとで朝8時から夕方5時を目安に働いている。材料は自分で仕入れていない。事務所は自宅アパート。同じ状況で非課税になっている人がたくさんいる。
答申は次の事実を挙げて、事業を行う個人であり請負業に当たると判断しました。
| 確定申告書・決算書にあった事実 | 答申の評価 |
|---|---|
| 職業を「内装業」、所得を「事業所得」として青色申告 | 事業を営む者として個人事業税の事項も申告したと認められる |
| 青色申告特別控除65万円を適用 | 事業所得を生ずべき事業を営む人に適用される控除 |
| 報酬は時間給・日給・月給ではなく出来高制 | 収支の結果が自分に帰属する |
| 自宅兼事務所の家賃34.2万円、車両の減価償却42.75万円、接待交際費52.7万円などを計上 | 事務所を設けて独立して事業を行っている |
| 毎月売上があり、減価償却を12か月で計算 | 年間を通して継続する意思がある |
※ 東京都行政不服審査会 答申(令和2年2月18日)
材料の仕入れがないことや勤務時間の目安は、国税庁の通達の判定事項では給与の側に傾く事実です。しかしこの事案では、請求人自身が事業所得として青色申告し、事務所費や車両費を経費にしていました。「事業として申告し、事業の経費を立てている」ことが、時間の拘束より重く見られたことになります。「似た状況の人が非課税」という主張も、業種認定は個別に判断するものとして退けられています。
この事案の税額は、収入712.7万円から経費207.1万円と事業主控除290万円を引いた215.6万円の5%で、年10万7,800円でした。青色申告特別控除の65万円は、個人事業税の計算では差し引かれません。
国税の修正申告で事業所得になると、事業税もついてくる
平成31年2月15日の答申は、公園の管理業務を受託していた人の事案です。請求人は、受託料は賃金と資材・燃料費で事業所得ではないと税務署に抗議しましたが受け入れられず、事業所得として修正申告しました。東京都はその所得を基準に請負業(と案内業)として課税し、審査会も棄却しました。
個人事業税は、所得税で申告・更正・決定された所得を基準に課税されます(地方税法72条の50)。国税で事業所得と確定した後に、個人事業税だけで争うのは難しいということです。
京都府の答申:所得の94%が1社でも請負業
京都府の令和2年答申第1号は、所得の約94%が主要取引先1社からの手間受けで、「ほぼ一社専属だから請負業ではない」と主張した事案です。審査会は次の事実から請負業と認めました。
- 府税事務所の照会に、取引先が報酬を「請負契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価として支払った」と回答した
- 支払明細書に消費税が計上されており、事業者同士の取引の報酬と認められた
- 予定の仕事が早く終われば自分の判断で帰れ、不可抗力で完成しなかったときは報酬を請求できない
- 青色申告決算書に車両費などの経費を計上していた
一社専属かどうかは、それだけでは決め手になりません。取引先が報酬をどういう性格で払っているか、消費税を含めた事業者間の取引になっているかが見られます。取引先への照会や消費税の扱いがエンジニアの請負業の判定でも重視される点は、エンジニアの個人事業税は「請負業」で決まるで整理しています。
神奈川県は4要件と照会文書で確かめる
神奈川県の通達(平成26年2月25日 課税第158号)は、請負業の認定要件を、仕事の完成を目的とした契約・資本的経営・独立性・危険負担の4つとし、確定申告書の職業欄だけで判定せず実態を確認するとしています。照会文書には「収入は完成・引渡しによる報酬か、日給・時間給か」「材料の仕入れは自分で行うか」「作業時間を自分で決めているか」といった、国税庁の通達の判定事項と重なる質問が並びます。
税額と、法人化したときの変化
手間請けの一人親方が請負業とされた場合の税額は、次のとおりです。
| 事業所得(青色申告特別控除の前) | 請負業(5%) | 10年間 |
|---|---|---|
| 400万円 | 5.5万円 | 55万円 |
| 505.6万円(東京都の内装業の事案) | 10.78万円 | 107.8万円 |
| 600万円 | 15.5万円 | 155万円 |
| 800万円 | 25.5万円 | 255万円 |
| 1,000万円 | 35.5万円 | 355万円 |
※ 事業主控除290万円・税率5%/2026年(令和8年)分基準
法人化すると個人事業税はなくなり、法人の所得に法人事業税がかかります。役員報酬を払った後の法人の所得は小さいので、事業税の負担は多くの場合減ります。一方で、一人親方の法人化は、建設国保から協会けんぽへの切替、労災の特別加入、建設業許可の取り直しまで一度に動きます。売上ごとの手取りの比較と手続は一人親方の法人化は売上いくらから?で計算しています。
業種の線引き全体は個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法、東京都の審査請求の全体像は個人事業税の審査請求、東京都の答申40件で認められたのは1件だけにまとめています。
まとめ
- 大工・左官・とび職等の請負業の認定は、国税の所得区分に準じる。事業所得なら請負業(5%)
- 東京都の答申は、材料なし・時間の目安ありの内装業の一人親方への課税を、出来高制・事務所費・車両費・青色申告特別控除の適用を理由に維持した
- 国税で事業所得と修正申告した後に、個人事業税だけで争った事案も棄却された
- 京都府の答申は、所得の94%が1社でも、取引先の回答と支払明細の消費税から請負業と認めた
- 内装業の事案の税額は年10万7,800円。青色申告特別控除は差し引かれない
手間請けでも、事業所得として申告した時点で事業税の対象になりえます。自分の契約と申告の実態、売上・経費で確かめてください。
よくある質問
常用(日当)で働いている一人親方にも個人事業税はかかりますか?
国税庁の通達は、雇用契約またはこれに準ずる契約に基づく役務の提供の対価は給与所得に当たるとしています。報酬が給与所得なら、個人事業税の対象ではありません。ただし所得区分は契約と実態で決まり、事業所得として申告していれば、個人事業税の判断もその申告から始まります。
自分と同じ働き方の人が課税されていないのに、自分だけ課税されました。
東京都の答申(令和2年2月18日)は、同じ状況で非課税になっている人がいるという主張に対し、事業性や業種認定は個別に判断するもので、似た状況の人が非課税だからといって同じように非課税になるものではないと述べています。
税務署の調査で事業所得とされた後、個人事業税も課税されました。争えますか?
東京都の答申(平成31年2月15日)の事案では、請求人は国税の判断に抗議したうえで修正申告しており、都はその修正申告の事業所得を基準に課税しました。審査会は棄却しています。個人事業税は所得税で申告・更正された所得を基準に課税する仕組み(地方税法72条の50)なので、国税の所得区分を争わずに個人事業税だけを争うのは難しいといえます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。