税金の基礎
エンジニアの個人事業税は「請負業」で決まる。準委任でもかかるか
結論
エンジニア・プログラマーの報酬は、請負業(第1種事業・税率5%)に当たれば個人事業税の対象です。神奈川県は、仕事の完成を目的とした契約・資本的経営・独立性・危険負担の4つをすべて満たす場合に請負業と認定するとしています。請負業とされるかどうかで、法人化の損益分岐点は事業所得1,266万円と2,198万円に分かれます(40歳未満・独身・東京23区)。
- 神奈川県の照会文書(第1号様式)は、完成を約する契約か、報酬は完成・引渡しによるか日給・時間給か、契約先は2社以上か、作業時間や手順を自分で決めるかなど13問で実態を聞く
- 京都府の答申は、取引先が『請負契約又はこれに準ずる契約に基づく対価』と回答し、支払明細に消費税が載っていたことを、労務の対価ではない根拠にした
- 事業所得1,300万円では、請負業なら法人化が年3.6万円有利、課税されないなら年46.9万円不利。区分だけで判定が逆になる
このテーマの全体像 個人事業税の業種と計算方法
フリーランスのエンジニアの間では、「プログラマーは個人事業税がかからない」「SESならかからない」という話が広く出回っています。法定業種の一覧に「プログラマー」という語はありません。ただ、第1種事業には請負業があり、エンジニアの仕事が課税されるかどうかは、ほぼこの1語に当たるかどうかで決まります。
請負業とは「仕事の完成」を約束する事業
地方税法72条の2第8項14号は、第1種事業(税率5%)に請負業を挙げています。条文に定義はありません。京都府の答申(令和2年答申第1号)が引用している自治省編の事業税逐条解説は、請負業を次のように説明しています。
- 報酬を得る目的で、ある仕事の完成を引き受け、これを完成する事業
- 広い意味の請負には論文作成や音楽演奏などの自由業も含まれるが、地方税法の請負業は営業の範囲に属するもので、資本的経営を行っていないものや第3種事業の自由業は入らない
- 運送業や印刷業も広い意味では請負だが、別の業種として列挙されているので請負業には含まれない
つまり、ただ仕事を引き受けて納めるだけでは足りず、事業として経費をかけ、独立して営んでいることが前提です。
神奈川県が定める請負業の4要件
神奈川県は平成26年2月25日の通達(課税第158号)で、請負業の業種認定の基準を統一しています。請負業と認定するのは、次の4つすべてを満たす場合です。
| 要件 | 内容 | 判定表で見る点 |
|---|---|---|
| ア 契約目的 | 仕事の完成を目的とした契約に基づき収入を得ている | 完成を約し、相手が結果に報酬を払う契約か |
| イ 資本的経営 | 資本的経営を行っている | 事務所・事業所、機械設備・事務設備(リースを含む)を経費に計上しているか |
| ウ 独立性 | 仕事の計画と遂行に独立性がある | 一般の顧客から受注、使用人、下請に出す、広告、専従者、時間の拘束や指揮監督がないなど |
| エ 危険負担 | 危険負担がある | 引渡し前に対象物が滅失したら責任を負うか |
※ 神奈川県 個人事業税における請負業に係る業種認定事務の取扱いについて 2(2)、第3号様式(業種認定判定表)
この通達は、確定申告書や青色申告決算書に書いた職業や業種名だけで課税・課税対象外を判定せず、事業内容の実態を十分に確認したうえで判定することも明記しています。
照会文書の13問
申告書だけでは判定できない人には、「お仕事の内容について(回答)」という照会文書(第1号様式)が届きます。質問はエンジニアにも当てはまる内容です。
| 問 | 質問の要旨 |
|---|---|
| 1 | 顧客との契約は、あなたが仕事の完成を約し、相手がその結果に報酬を払う契約か |
| 2 | 収入は「完成・引渡しによる報酬」「給与(日給・時間給等)」「その他」のどれか |
| 3 | 事務所は自宅とは別か、自宅と併用か、設けていないか |
| 4 | 機械設備や事務設備を所有しているか(リースを含む) |
| 5 | 従業員やアルバイトを雇っているか |
| 6 | 材料の仕入れを自分で行うか |
| 7 | 請けた仕事を下請や外注に出しているか、出せるか |
| 8 | 燃料費や機械・器具の経費は自己負担か |
| 9 | 事業の広告・宣伝をしているか |
| 10 | 契約先は2社以上か(1社なら、その許可なく他社の仕事を受けられるか) |
| 11 | 作業時間を自分で決めているか(指定されていても、早く終われば帰れるか) |
| 12 | 作業の内容・手順について指揮監督を受けずに自分で決めているか |
| 13 | 不可抗力で完成しなかった場合でも、報酬を請求できるか |
※ 神奈川県 同通達 第1号様式
問2で「給与(日給・時間給等)」を選ぶ働き方は、要件アの「仕事の完成を目的とした契約」から遠くなります。時間で精算するSESの準委任契約は、神奈川県の基準では要件アを満たしにくいと読めます。一方で、成果物を納品して検収後に報酬が決まる受託開発は、要件アに近づきます。
ただし判定は契約書の名前ではなく実態で行われます。準委任と書いてあっても成果物の完成に報酬が結びついていれば請負とされることがありますし、システムの設計・助言が中心ならコンサルタント業(第3種・5%)とされる可能性もあります。神奈川県の基準はあくまで神奈川県のもので、他の都道府県の判定方法は公表されていないことが多い点にも注意が必要です。
京都府の答申が重視した「取引先の回答」と「消費税」
京都府の答申は、建設関係の施工を手間受けで行い、所得の約94%が1社からの報酬だった人の事案です。請求人は「ほぼ一社専属だから請負業ではない」と主張しましたが、棄却されました。判断の決め手になった事実は、エンジニアにもそのまま当てはまります。
- 府税事務所が主要取引先に照会したところ、取引先は報酬を**「請負契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価として支払った」**と回答した
- 取引先の支払明細書に消費税が計上されており、事業者同士の取引の報酬と認められた
- 予定の仕事が早く終われば自分の判断で帰れ、不可抗力で完成しなかった場合は報酬を請求できない(危険を負っている)
- 青色申告決算書に車両費などの経費を計上していた
取引先への照会は、府県税事務所が使える調査手段です。自分の認識と取引先の回答が食い違えば、取引先の回答が重く見られます。消費税を上乗せした請求書を出していることも、事業者としての取引の証拠として読まれました。
請負業とされるかで、法人化の判定は逆になる
請負業とされると、事業所得から事業主控除290万円を引いた額に5%がかかります。法人化すると個人事業税はなくなり、法人事業税に替わります。計算エンジンで、同じ所得でも区分によって法人化の損得がどう変わるかを出しました。
| 事業所得(青色申告特別控除の前) | 請負業(5%)の個人事業税 | 実質差額:請負業とされた場合 | 実質差額:課税されない場合 |
|---|---|---|---|
| 700万円 | 20.5万円 | −31.2万円 | −51.7万円 |
| 900万円 | 30.5万円 | −18.4万円 | −48.9万円 |
| 1,100万円 | 40.5万円 | −13.1万円 | −53.6万円 |
| 1,300万円 | 50.5万円 | +3.6万円 | −46.9万円 |
| 1,500万円 | 60.5万円 | +23.9万円 | −36.6万円 |
| 2,000万円 | 85.5万円 | +67.3万円 | −18.2万円 |
※ 経費100万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。実質差額は税理士報酬の差と法人住民税の均等割を差し引いた2年目以降の金額(プラスなら法人化が有利)
※ scripts/engineer-kojin-jigyozei.mjs で計算
損益分岐点は、請負業とされた場合が1,266万円、課税されない場合が2,198万円です(40〜59歳なら1,243万円と2,277万円)。事業所得1,300万円では、請負業なら法人化が年3.6万円有利、課税されないなら年46.9万円不利で、区分だけで判定が逆になります。
自分の区分が分からないまま試算すると、答えが出たように見えて実は出ていません。すでに個人事業税の納税通知書が届いているなら、業種欄で自分の区分を確認できます。届いていない場合は、事業所得が290万円以下か、法定業種外とされているかのどちらかです。
業種区分ごとの分岐点の全体像はライター・エンジニア・デザイナーで法人化の分岐点は932万円違う、法定業種の線引きは個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法にまとめています。請負業として課税されたSESエンジニアの法人化は、株式会社で法人化したSESエンジニアの試算事例で具体的に計算しています。
まとめ
- エンジニアの個人事業税は、請負業(第1種・5%)に当たるかで決まる。法定業種の一覧に「プログラマー」はない
- 神奈川県は、仕事の完成を目的とした契約・資本的経営・独立性・危険負担の4要件をすべて満たせば請負業とし、照会文書の13問で実態を確かめる
- 時間精算の準委任は要件を満たしにくいが、判定は契約書の名前ではなく実態。都道府県で判定方法が違う
- 京都府の答申は、取引先の「請負契約に基づく対価」という回答と、支払明細の消費税を重視した
- 損益分岐点は請負業なら1,266万円、課税されないなら2,198万円。事業所得1,300万円では判定が逆になる
エンジニアの法人化は、所得より先に業種区分で答えが変わります。自分の契約の実態と売上・経費で確かめてください。
よくある質問
SESの準委任契約なら、個人事業税はかかりませんか?
神奈川県の通達は、請負業の要件の一つに「仕事の完成を目的とした契約に基づき収入を得ていること」を挙げています。時間で精算する準委任はこの要件に当てはまりにくい一方、契約書の名前ではなく実態で判断されるため、成果物の納品に対して報酬が決まる部分があれば請負とされることがあります。他の業種とされる可能性や都道府県による違いもあるので、事務所のある都道府県に確認してください。
個人事業税の照会文書が届いたら、どう答えればよいですか?
照会文書は事実を確認するためのものなので、契約書や請求書の実態どおりに答えます。回答は課税・対象外の判定に使われ、未回答の場合は電話照会や現地調査を行うと神奈川県の通達は定めています。判断に迷う点は、契約書を添えて県税事務所に説明するのが確実です。
請負業として課税されたエンジニアが法人化すると、事業税はどうなりますか?
個人事業税はなくなり、法人の所得に法人事業税がかかります。役員報酬を払った後の法人の所得は小さいため、多くの場合は事業税の負担が減ります。当サイトの計算では、請負業とされている人の損益分岐点は事業所得1,266万円(40歳未満・独身)です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。