社会保険

一人親方の法人化は売上いくらから?建設国保・労災・許可で変わる4点

結論

経費300万円・東京23区・40〜64歳・独身の一人親方では、法人化の実質差額は売上1,200万円で年−18.4万円、1,500万円で−6.6万円、1,800万円で+23.9万円でした。個人側の健康保険を市区町村国保で計算した結果なので、建設国保に入っている人は保険料が異なり、法人化後も適用除外承認で建設国保を続けられる場合があります。

  • 建設業は個人事業税の請負業(第1種・標準税率5%)。売上1,200万円・経費300万円の条件で年30.5万円かかり、法人化すると個人事業税はなくなる
  • 労災の特別加入は、労働者を使わない一人親方等の枠(建設の事業は保険料率17/1000)と、労働者を雇う中小事業主等の枠に分かれる。法人化そのものではなく、人を雇うかで枠が変わる
  • 建設業許可は個人から法人へ自動では移らない。建設業法17条の2の認可をあらかじめ受けたときに限り、譲受人の法人が地位を承継する

一人親方の法人化は、税金の比較だけでは終わりません。建設国保、労災の特別加入、建設業許可という、他の業種にはない3つの制度が法人化で動きます。どれも「放っておけば自動で切り替わる」ものではなく、順番を誤ると現場に入れない期間や無保険の期間が生まれます。

この記事では、まず計算エンジンで税と社会保険の差を売上別に出し、そのうえで3つの制度がそれぞれ法人化でどう変わるかを、条文と厚生労働省・日本年金機構の資料で確認します。

税と社会保険の差は、売上1,800万円あたりでようやくプラスになる

一人親方は材料・車両・工具の経費がかさむ業種です。ここでは経費を年300万円と置き、売上を変えて計算しました。インボイスは登録済みとしています。登録済みなら、法人化しても消費税の納税は個人のときと同じように続きます。

売上個人:国保+国民年金個人:個人事業税個人のまま手取り最適な役員報酬法人:社会保険(労使計)法人化の手取り実質差額(年)
800万円69.7万円10.5万円370.6万円月36万円122.6万円340.9万円−49.8万円
1,000万円90.8万円20.5万円484.5万円月48万円160.1万円473.3万円−31.2万円
1,200万円112.0万円30.5万円598.0万円月54万円180.5万円599.5万円−18.4万円
1,500万円117.5万円45.5万円774.2万円月54万円180.5万円787.6万円−6.6万円
1,800万円117.5万円60.5万円928.2万円月54万円180.5万円972.0万円+23.9万円

※ 経費300万円・東京23区・40〜64歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。個人側の健康保険は市区町村国保で計算(建設国保の保険料は含まない)。実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額。表は scripts/hitorioyakata-houjinka.mjs で再生成できる

売上1,200万円では、手取りそのものは法人化のほうが1.5万円多くなります。それでも実質差額がマイナスなのは、税理士報酬の増加分と、赤字でもかかる法人住民税の均等割が毎年乗るからです。この条件で実質差額がプラスに転じるのは、売上1,500万円と1,800万円の間です。

役員報酬が月54万円で頭打ちになっているのは、総当たりで探した結果です。これ以上報酬を上げると、社会保険料と所得税の増え方が法人税の減り方を上回ります。

建設業の個人事業税は5%。法人化で消える税の中で一番大きい

表の「個人事業税」の列は、一人親方の場合とくに重くなります。地方税法72条の2第8項は第1種事業の一つに請負業を挙げ、72条の49の17は第1種事業の標準税率を5%と定めています。建設工事の完成を請け負う一人親方は、この請負業として課税されるのが通常です。

計算は「売上−経費−事業主控除290万円」に5%です。青色申告特別控除は差し引けません。売上1,200万円・経費300万円なら、(900万−290万)×5%で年30.5万円です。法人化すると個人事業税はなくなり、代わりに法人事業税が法人の所得に対してかかります。役員報酬を払った後の法人の所得は小さいため、この差が法人化の効果の大きな部分を占めます。

業種ごとの線引きは個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法で詳しく扱っています。

建設国保に入っているなら、表の左半分を読み替える

上の表は、個人側の健康保険を市区町村の国民健康保険で計算しています。一人親方の中には、建設業の**国民健康保険組合(建設国保)**に加入している人が少なくありません。国保組合の保険料は組合ごとに定められているため、当サイトの判定ツールには入っていません。

日本年金機構は、国保組合を「従業員5人未満の個人事業所の事業主及び従業員又は個人(一人親方)」で構成することを基本とする制度だと説明しています。法人は社長1人でも健康保険・厚生年金の強制適用事業所なので、法人化すると、原則として建設国保を抜けて協会けんぽなどの健康保険に入ることになります。

適用除外承認を受ければ、健康保険だけ建設国保に残れる

例外として、法人化の時点で国保組合の被保険者であれば、「健康保険 被保険者適用除外承認」を受けて建設国保に残る道があります。要件と14日の期限は国保組合は法人化後も続けられる?適用除外承認の4要件と14日の期限にまとめました。

ここで注意したいのは、外れるのは健康保険だけで、厚生年金には加入する点です。計算エンジンの内訳で、売上1,200万円・役員報酬月54万円のときの社会保険料(労使計・年)を分けると次のとおりです。

内訳年額(労使計)
健康保険(介護保険を含む)64.1万円
厚生年金116.4万円

適用除外承認を受けた場合に外れるのは、このうち健康保険の64.1万円です。代わりに建設国保の保険料を払い続けます。厚生年金の116.4万円は残ります。表の「法人化の手取り」に、64.1万円と建設国保の年間保険料との差を足し引きすれば、建設国保を続けた場合の概算になります。

逆に、個人のまま建設国保に入っている人は、表の「国保+国民年金」の列のうち国保の部分を、自分の組合の保険料に置き換えて読んでください。建設国保の保険料が市区町村国保より安ければ、個人のままの手取りは表より多くなり、法人化の損益分岐は上に動きます。

労災の特別加入は「法人化したか」ではなく「人を雇うか」で枠が変わる

一人親方は労働者ではないため、通常の労災保険の対象外です。現場でのけがに備えて、多くの人が一人親方等の特別加入をしています。法人化したらこの加入はどうなるのか、が次の論点です。

労災保険法33条3号は、一人親方等の特別加入の対象を「厚生労働省令で定める種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者」と定めています。施行規則46条の17第2号が、土木・建築その他の工作物の建設、改造、修理、解体などの事業を挙げています。条文は個人か法人かを要件にしていません。

状態入口になる特別加入の枠手続きの窓口
労働者を使わない(年100日未満を含む)一人親方等都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体
労働者を常時使う(年100日以上を含む)中小事業主等労働保険事務組合

厚生労働省のしおりは、労働者を使う日の合計が1年間に100日に満たないときは一人親方等として加入できる、としています。中小事業主等のしおりは逆に、通年雇用でなくても1年間に100日以上労働者を使えば、常時使用しているものと扱うとしています。

つまり、法人化して社長1人で現場に出続けるなら一人親方等の枠、法人化と同時に職人を雇うなら中小事業主等の枠を確認することになります。法人化と雇用を同じ時期に行う人は、両方の枠の切り替え日を加入団体と事務組合に確認しておく必要があります。

特別加入の保険料は判定ツールに入っていない

厚生労働省の第2種特別加入保険料率表で、建設の事業の料率は1000分の17です。保険料は、選んだ給付基礎日額×365日にこの料率を掛けて計算します。加入団体の会費は別にかかります。

この保険料は、個人のままでも法人化しても一人親方等の枠にいる限り同じ料率でかかるため、比較の表からは外しています。中小事業主等の枠へ移る場合の料率は事業の種類で異なります。役員一般の労災の論点は一人社長は労災に入れる?特別加入できないケースで扱っています。

建設業許可は、個人のものが法人へ自動では移らない

建設業許可を持っている一人親方は、法人化の手続きがもう1段増えます。許可は個人に与えられたものなので、法人を作っても法人の許可にはなりません。

建設業法17条の2は、建設業の全部を譲渡する場合に、譲渡人と譲受人があらかじめ認可を受けたときは、譲受人が譲渡の日に建設業者としての地位を承継すると定めています。個人事業を法人へ譲渡する法人成りもこの形で行えます。

認可は事前に受けておく必要があるため、法人の設立日と事業の譲渡日を決める前に、許可行政庁へ審査の期間を確認することになります。この認可を使わずに法人が新規に許可を取り直すと、手数料がかかり、許可が下りるまで法人として許可が必要な工事を請け負えない期間が生じます。費用と段取りは法人成りで許認可は引き継げるかで計算しています。

軽微な工事だけなら、そもそも許可は要らない

建設業法3条ただし書と施行令1条の2により、1件の請負代金が500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満、または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅工事)の軽微な工事だけを請け負う場合、許可は不要です。許可を持たない一人親方なら、承継の手続き自体が発生しません。

ただし、法人化を機に元請との取引を広げ、1件500万円以上の工事を受けるようになるなら、そのときは法人として許可が必要です。法人化の判断と許可の取得時期は、受注の見通しとあわせて考えることになります。

3つの制度を、法人化の前後で並べるとこうなる

制度個人の一人親方法人化後(社長1人)法人化の前に確認すること
健康保険市区町村国保または建設国保協会けんぽなど(建設国保の人は適用除外承認で継続できる場合あり)国保組合の被保険者か、承認の14日の期限
年金国民年金厚生年金(適用除外承認を受けても加入)役員報酬の額で保険料が決まる
労災一人親方等の特別加入労働者を使わなければ一人親方等、雇えば中小事業主等雇用の予定と加入団体・事務組合
建設業許可個人の許可、または軽微な工事のみで許可なし17条の2の事前認可で承継、または法人で新規取得認可の審査期間と譲渡日
個人事業税請負業として5%(事業主控除290万円)かからない(法人事業税に変わる)―

税と社会保険の差額は、表の1行目の条件から少し動くだけで符号が変わります。経費の多い一人親方と、手間請けで経費の少ない一人親方とでは、同じ売上でも結果が大きく違います。まずは自分の売上と経費で判定ツールにかけ、内訳の国保料を建設国保の保険料に置き換えて読むのが、いちばん誤差の少ない確かめ方です。

まとめ

  • 経費300万円・東京23区・40〜64歳・独身の条件では、実質差額は売上1,200万円で年−18.4万円、1,800万円で+23.9万円(市区町村国保で計算)
  • 建設業は個人事業税の請負業(第1種・5%)にあたり、売上1,200万円・経費300万円で年30.5万円。法人化で消える税の中で大きい
  • 建設国保の人は法人化で原則協会けんぽへ移るが、適用除外承認で健康保険だけ残れる。厚生年金は外れない
  • 労災の特別加入は、労働者を使わなければ一人親方等、年100日以上使えば中小事業主等が入口になる
  • 建設業許可は自動では移らず、17条の2の認可をあらかじめ受ければ法人が地位を承継する。軽微な工事だけなら許可は不要

よくある質問

一人親方が法人化したら、労災の特別加入はやり直しになりますか?

労働者を使わずに建設の事業を行う状態が続くなら、法人の代表者になっても一人親方等の枠を確認することになります。労働者を年100日以上使うようになると一人親方等の枠からは外れ、労働保険事務組合を通じた中小事業主等の特別加入が入口になります。加入団体に、法人化と雇用の予定を伝えて手続きを確認してください。

建設業許可を持っていない一人親方でも、法人化で困ることはありますか?

1件の請負代金が500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満など)の軽微な建設工事だけを請け負うなら、建設業法上の許可は要りません。この場合、許可の承継の手続きは発生しません。ただし法人化後に請け負う工事の規模が上がれば、法人として新たに許可を取る必要が出てきます。

建設国保の保険料は判定ツールに反映されますか?

反映されません。判定ツールの個人側は、市区町村の国民健康保険の料率で計算しています。建設国保の保険料は組合ごとに定められているため、加入している組合の保険料額と、ツールの内訳に出る国保料を見比べて読み替えてください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。