設立の手続き
解体工事業の登録は法人成りで取り直し。技術管理者と空白期間の注意点
結論
建設リサイクル法には解体工事業者の登録を承継する規定がありません。個人の登録は、解体工事業を廃止した日から30日以内の廃業届の対象となり、廃止に該当した時点で効力を失います(27条)。会社は自ら都道府県知事の登録を受け直し、技術管理者を選任する必要があります。東京23区・40〜59歳・経費300万円の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円です。
- 登録が要るのは、建設業許可(土木・建築・解体工事業)を持たずに解体工事業を営む人。登録は工事をする区域の都道府県ごとで、有効期間は5年(21条)
- 技術管理者がいないと登録は拒否される(24条1項8号)。社長本人が8年以上の解体工事の実務経験や指定の資格を持てば、社長が技術管理者を兼ねられる
- 個人の登録が失効する前に結んだ請負契約の工事は、個人が施工を続けられる。ただし注文者に遅滞なく通知する(29条1項)
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
解体工事業者の登録は、法人成りで引き継げない側の許認可です。同じ建設の分野でも、建設業許可は事前の認可で会社へ移せますが、建設リサイクル法の登録にはその仕組みがありません。
この記事で扱うのは、建設業許可を持たずに、1件500万円未満の解体工事を請け負っている個人事業主です。登録が失効する条文の構造、会社で登録を受け直す順番、一人会社で技術管理者をどう置くかを条文で確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
登録が必要なのは「建設業許可を持たない解体業者」
建設業法では、1件の請負代金が500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満、または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅)の工事は「軽微な建設工事」で、建設業許可がなくても請け負えます(建設業法施行令1条の2第1項)。ひとつの工事を契約を分けて請け負った場合は、正当な理由がない限り合計額で判定します(同条2項)。
ただし解体工事は、建設業許可が要らない範囲でも無登録では営めません。建設リサイクル法21条1項は、解体工事業を営もうとする者に、工事をしようとする区域を管轄する都道府県知事の登録を求めています。対象から外れるのは、建設業許可のうち土木工事業・建築工事業・解体工事業の許可を受けた者だけです。
| 区分 | 必要な手続き | 法人成りで会社へ移せるか |
|---|---|---|
| 建設業許可(土木・建築・解体)を持つ | 建設業許可 | 事前に認可を受ければ移せる(建設業法17条の2) |
| 許可を持たず、軽微な解体工事だけ請け負う | 解体工事業者の登録(都道府県ごと) | 移せない。会社で登録を受け直す |
建設業許可の承継は法人成りで許認可は引き継げるかで扱いました。許可を持つ業者は認可の申請、持たない業者は登録の取り直し、と同じ解体業でも手続きの型が分かれます。
都道府県ごとの登録なので、取り直しも県の数だけ要る
建設業許可は営業所の所在で知事許可か大臣許可かが決まりますが、解体工事業者の登録は工事をする区域ごとです。東京都と埼玉県の現場を受けている個人事業主は、両方の知事の登録を持っているはずです。法人成りでは、その全部を会社で受け直すことになります。
登録の有効期間は5年で、更新しないと効力を失います(21条2項)。個人の登録の残り期間は会社に引き継がれず、会社の登録は新たに5年が始まります。
承継の条文がなく、廃業届で個人の登録は効力を失う
建設リサイクル法の登録の章(21条〜35条)には、相続・事業譲渡・合併で登録を引き継ぐ条文がありません。あるのは、登録が消える側の条文です。
27条1項は、解体工事業者が次のいずれかに該当したら、30日以内に都道府県知事へ届け出るよう定めています。
- 死亡したとき(相続人が届け出る)
- 法人が合併で消滅、破産、その他の理由で解散したとき
- その都道府県の区域内で解体工事業を廃止したとき(個人なら本人が届け出る)
法人成りは、個人が解体工事業を廃止する場合に当たります。同条2項は、これらに該当するに至ったときに登録は効力を失うと定めているので、効力が切れるのは届出の日ではなく廃止した時点です。届出を怠ると10万円以下の過料の対象です(53条2号)。
一方、屋号や営業所の所在地、技術管理者が変わっただけなら、廃業ではなく30日以内の変更届で済みます(25条1項)。個人のまま技術管理者を入れ替える場合と、事業者そのものが会社に替わる場合とで、手続きが分かれる点に注意が要ります。
登録がないまま会社で請け負うと罰則がある
会社が登録を受けないまま解体工事業を営むと、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(48条1号)。両罰規定があり、行為者のほか会社にも罰金刑が科されます(52条)。
個人の登録番号を会社の見積書や契約書に流用することはできません。営業所と現場ごとに掲げる標識(33条)にも、商号と登録番号を記載します。
空白期間を作らない順番
条文の構造から、手続きの順番はほぼ1つに決まります。
- 会社を設立する
- 会社で、工事をする都道府県ごとに解体工事業者の登録を申請する(技術管理者の氏名を記載。22条1項5号)
- 会社の登録が通知されるまで、新しい請負契約は個人で結ぶ
- 会社の登録後は、会社で契約する
- 個人の解体工事業を廃止し、30日以内に廃業届を出す
申請から登録までにかかる期間や、申請手数料の額は都道府県が定めます。この記事では扱わないので、登録を受ける都道府県の窓口で確認してください。解体工事業者の登録には、測量業や旅行業のような登録免許税はかかりません。
失効前に結んだ契約は、個人のまま施工できる
個人の登録が廃業で効力を失っても、失効前に締結した請負契約の解体工事に限っては、個人が施工を続けられます(29条1項)。その場合は、遅滞なく注文者へ失効した旨を通知します。通知しないと20万円以下の罰金の対象です(51条2号)。
この条文は「個人として結んだ契約を個人で終わらせる」ためのものです。契約上の地位を会社へ移す仕組みではないので、残工事の売上は個人の事業所得として申告します。会社の設立初年度と個人の最終年に売上がまたがるため、廃業時期は残工事の完了見込みから逆算して決めると整理しやすくなります。
一人会社で技術管理者をどう置くか
解体工事業者は、工事現場の施工の技術上の管理をする技術管理者を選任しなければなりません(31条)。選任していない者の登録は拒否されます(24条1項8号)。会社の登録では、ここが最初の関門になります。
技術管理者の基準は、解体工事業に係る登録等に関する省令7条が定めています。主なものは次のとおりです。
| 区分 | 基準 |
|---|---|
| 実務経験のみ | 解体工事に関し8年以上の実務経験 |
| 学歴+実務経験 | 土木工学・建築学などの学科を修めて高校卒業後4年以上、大学・高専卒業後2年以上 |
| 技術検定 | 建設機械施工管理(1級、または2級の第一種・第二種)、土木施工管理(1級、または2級の種別「土木」)、建築施工管理(1級、または2級の種別「建築」「躯体」)の第二次検定合格 |
| 建築士 | 一級建築士・二級建築士 |
| 技能検定 | 1級とび・とび工の合格、または2級合格後に解体工事の実務経験1年以上 |
個人の登録で技術管理者を務めていたのが事業主本人なら、その人が会社の社長になっても資格や実務経験はそのまま使えます。**社長本人が技術管理者を兼ねれば、別に人を雇う必要はありません。**技術管理者以外の者が工事に従事しない場合は、他の者を監督する義務もかかりません(32条ただし書)。
反対に、個人事業のときに従業員を技術管理者にしていた場合は、その人が会社に移って選任できる状態になってから申請します。技術管理者が抜けた状態の会社は登録を受けられません。
法人成りで変わる「役員」の審査
会社の登録申請では、役員全員の氏名を申請書に書きます(22条1項3号)。役員のうちに、登録取消しから2年を経過しない者や、この法律違反で罰金以上の刑から2年を経過しない者などがいると、会社の登録は拒否されます(24条1項7号)。
一人会社なら審査されるのは社長だけですが、配偶者や親族を役員に入れる場合は、その人も審査の対象です。役員の構成は、登録の申請書を書く前に固めておく必要があります。
個人事業税と損益分岐
解体工事は請負業として個人事業税の第1種事業(税率5%)に当たり、事業主控除290万円を超えた所得に課税されます(地方税法72条の2第8項・72条の49の17)。法人化すると個人事業税はかからず、代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
重機のリース・償却、車両、産業廃棄物の処分費、外注などの経費を年300万円と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。解体工事業者の登録の申請手数料は都道府県で異なるため、表には含めていません。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −44.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −28.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −20.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −14.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +16.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +55.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(scripts/kaitai-koujigyo-houjinnari.mjs で再生成)で算出。経費300万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は請負業(第1種・5%)。都道府県の登録手数料は含まない。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、合同会社の設立費用10万円を含む初年度が1,341万円です。
解体業は現場ごとに売上の波が大きく、年によって事業所得が1,000万円台前半を上下しやすい業種です。分岐点の近くにいる場合は、1年の数字ではなく複数年の平均で見るほうが判断がぶれません。自分の売上と経費の実額で、判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。
なお法人化すると、社長は社会保険に加入します。単年の手取りだけでなく、厚生年金や傷病手当金が増える分も含めて見る必要があります。一人親方の法人化全般の損得は一人親方の法人化、現場でのけがに備える社長の労災特別加入は役員の労災特別加入で整理しています。
まとめ
- 解体工事業者の登録には承継の規定がなく、法人成りでは会社が都道府県ごとに登録を受け直す
- 個人の登録は、解体工事業を廃止した時点で効力を失う。廃業届は30日以内
- 会社の登録が出るまでは個人で契約し、失効前の契約は個人のまま施工を終えられる(注文者への通知が要る)
- 技術管理者がいないと登録は拒否される。社長本人が基準を満たせば兼任できる
- 東京23区・経費300万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円
よくある質問
法人成りの後も、個人の登録番号で会社が工事を請け負えますか。
請け負えません。解体工事業者の登録は登録を受けた人ごとのもので、建設リサイクル法には法人へ移す承継の規定がありません。会社として請け負う工事は、会社が自分の登録を受けてからにする必要があります。
社長が技術管理者を兼ねて、自分一人で解体工事をしてもよいですか。
社長が省令7条の基準(8年以上の実務経験、建設機械施工管理・土木施工管理・建築施工管理の所定の技術検定合格、建築士、とびの技能検定など)を満たせば、技術管理者に選任できます。技術管理者以外の者が工事に従事しない場合は、他の者の監督は求められません(32条ただし書)。
会社で建設業許可を取れば、解体工事業者の登録は要りませんか。
土木工事業・建築工事業・解体工事業の建設業許可を受けた者は、登録の対象から外れます(21条1項かっこ書)。登録を受けていた者が許可を受けると、登録は効力を失います(21条5項)。
出典
- e-Gov法令検索 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 第21条(解体工事業者の登録)・第22条(登録の申請)・第24条(登録の拒否)・第25条(変更の届出)・第27条(廃業等の届出)・第28条(登録の抹消)・第29条(登録の取消し等の場合における解体工事の措置)・第31条〜第33条(技術管理者・標識)・第48条〜第53条(罰則)
- e-Gov法令検索 解体工事業に係る登録等に関する省令 第7条(技術管理者の基準)
- e-Gov法令検索 建設業法施行令 第1条の2(軽微な建設工事)
- e-Gov法令検索 建設業法 第17条の2(譲渡及び譲受け並びに合併及び分割)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:請負業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。