設立の手続き

電気工事業の登録は法人成りで承継できる。手数料2,200円と30日の期限

結論

個人で受けた電気工事業の登録(登録電気工事業者)は、事業の全部を法人へ譲渡すれば、法人がその地位を承継します(電気工事業法9条)。新規登録(神奈川県・栃木県で2万2,000円)を取り直す必要はなく、承継の日から30日以内に承継届を出せば足ります。手数料は神奈川県・栃木県・沖縄県・京都府で2,200円です。ただし、建設業許可を持つ「みなし登録電気工事業者」と、自家用電気工事のみの「通知電気工事業者」には承継の仕組みがありません。

  • 神奈川県・沖縄県・山梨県・福島県は、個人事業主の法人成りを承継届の対象と明示している。屋号から法人名に営業所名を変えるなら、登録事項の変更届も併せて出す
  • 法人の役員が第一種電気工事士(または免状取得後3年以上の実務経験がある第二種)で、その営業所の業務に主として従事するなら、別に主任電気工事士を置かなくてよい(19条2項)
  • 経費400万円・東京23区・40〜64歳・単身では、損益分岐の事業所得は2年目以降1,243万円。初年度は承継届なら1,344万円、新規登録を取り直すと1,363万円

電気工事業の法人成りは、同じ「登録」でも宅建業や建築士事務所と結論が逆です。電気工事業法には承継の条文があり、個人の登録をそのまま法人へ移せます。取り直しも、登録の空白期間も要りません。

ただし、承継が使えない人が2種類います。建設業許可を持っている人と、自家用電気工作物の工事だけを請け負う人です。この記事では、承継の要件を条文と都道府県の案内で確認し、自分がどの区分かで手続きがどう変わるかを整理します。最後に、手数料が初年度の差額と損益分岐をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。

電気工事業法には、登録を法人へ移す承継の条文がある

電気工事業を営む人は、営業所が1つの都道府県の中だけなら都道府県知事の、2つ以上の都道府県にあるなら経済産業大臣の登録を受けなければなりません(電気工事業法3条1項)。有効期間は5年です(同条2項)。登録を受けないで電気工事業を営むと、1年以下の拘禁刑もしくは10万円以下の罰金、またはその両方の対象です(36条1号)。

法人成りで効くのが9条1項です。登録電気工事業者が登録に係る事業の全部を譲渡したときは、事業の全部を譲り受けた者が登録電気工事業者の地位を承継する、と定めています。相続・合併・分割も同じ条文の対象です。承継した者は、承継の日から30日以内に届け出ます(同条3項)。

同じ型の記事と並べると、違いがはっきりします。

業種個人の登録・免許は法人へ移るか法人成りの手続き
電気工事業(登録電気工事業者)移る(電気工事業法9条)承継の日から30日以内に承継届
宅建業移らない法人で免許を新規申請
旅行業移らない(営業保証金だけ承継できる)法人で新規登録
建築士事務所移らない個人は廃業届、法人で新規登録
建設業許可事前の認可を受ければ移る(建設業法17条の2)譲渡の前に認可申請

宅建業は宅建業の法人成りは免許の取り直し、建築士事務所は建築士事務所の法人成りは廃業届と新規登録で扱いました。建設業許可との違いは、電気工事業の承継が事後の届出で済む点です。建設業法17条の2は「あらかじめ」認可を受けることを求めますが、電気工事業法9条には事前の手続きがありません。

都道府県も、法人成りを承継届の対象と明示している

条文は「事業の全部の譲渡」としか書いていませんが、都道府県の案内は法人成りを名指ししています。神奈川県は承継の手続きに当たる状況の筆頭に「個人事業者が法人成りした場合」を挙げ、手引きの記入例も法人成りで作っています。沖縄県は、個人事業主が法人化した場合は承継届出(譲渡)が必要と書いています。山梨県は「個人から法人への譲渡(法人成り)」を、福島県は「個人から法人への切り替え」を例に挙げています。

承継届に付ける主な書類は次のとおりです(施行規則6条、神奈川県の手引き)。

書類中身
登録電気工事業者承継届出書(様式第6)承継の原因と、個人で登録を受けた年月日・登録番号を書く
電気工事業譲渡証明書(様式第8)譲り渡した者が個人、譲り受けた者が法人。譲渡年月日は登記簿の法人設立日
誓約書法人と役員が登録拒否事由(6条1項1〜5号)に当たらないこと
登記事項証明書(履歴事項全部証明書)法人のもの
登録電気工事業者登録証(原本)記載事項が変わるため訂正を受ける(施行規則6条2項)

9条1項ただし書は、譲り受けた法人が登録拒否事由に当たるときは承継しないと定めています。法人の役員に、電気工事業法・電気工事士法などの違反で罰金以上の刑を受けて2年を経ていない人がいる場合などです。

承継届とは別に、変更届が要ることが多い

承継で引き継がれるのは、個人が登録していた内容そのものです。法人成りで営業所の名称を屋号から法人名に変えるなら、登録事項の変更の届出(10条1項、30日以内)も必要になります。神奈川県は、法人成りでは営業所名を変えるのが一般的なので「必然的に変更届の提出が必要」と書いています。法人の役員の氏名も登録事項です(4条1項3号)。

手数料の扱いは県によって書き方が違います。沖縄県は承継届と名称の変更届を1件として2,200円としています。神奈川県は承継で登録証の記載事項が変わる場合に2,200円とし、電気工事の種類の変更を承継と同時に行うなら、その変更の手数料は不要としています。

手数料は新規登録の10分の1。差が出るのは段取りのほう

承継届と新規登録の手数料を、公式に確認できた都道府県で並べました。

都道府県新規登録更新登録承継届備考
神奈川県22,000円12,000円2,200円承継で登録証の記載事項が変わる場合
栃木県22,000円12,000円2,200円名称変更などの変更届も1件2,200円
沖縄県——2,200円承継届と名称の変更届を1件として
京都府——2,200円承継届

※ scripts/denki-koujigyo-houjinnari.mjs で再生成。各府県の公表値。「—」は公式ページで確認できなかったもの。経済産業大臣の登録の更新手数料は施行令1条で1万4,400円(電子申請1万1,800円)

金額の差は1万9,800円です。それよりも大きいのは、新規登録だと法人の登録が下りるまで電気工事業を営めないことです。承継なら、譲渡の日に法人が登録電気工事業者の地位を引き継ぎ、届出は事後の30日以内です。個人と法人の間に登録のない日ができません。

承継の要件は「事業の全部」の譲渡です。一部の得意先だけ個人に残すなど、電気工事業を分けて続ける形は9条の承継に当たりません。その場合は法人で新規登録を受けることになります。

承継が使えない2つのケース

建設業許可がある人は「みなし登録」。承継の仕組みがない

建設業許可を受けた建設業者には、電気工事業法の登録の章が適用されません(34条1項)。電気工事業を営む建設業者は、登録電気工事業者とみなされ(同条2項)、電気工事業を開始したときに遅滞なく届け出ます(同条4項)。これが「みなし登録電気工事業者」です。

みなし登録は登録ではないので、9条の承継は使えません。沖縄県は「みなし登録電気工事業(建設業許可:あり)は他者に承継(譲渡・相続)できません」と、京都府は「みなし登録には承継制度はない」と明記しています。

建設業許可を持つ一人親方の法人成りは、次の順になります。

  1. 建設業法17条の2の認可を、譲渡の前に受ける(建設業許可を法人へ承継)
  2. 法人が建設業者として、みなし登録電気工事業者の開始届を出す
  3. 個人は、みなし登録電気工事業者の廃止届を出す

建設業許可の承継そのものの段取りは一人親方の法人化と法人成りで許認可は引き継げるかで扱っています。

逆の向きにも注意が要ります。承継で登録を引き継いだ法人が、その後に建設業許可を取ると、登録は効力を失います(34条6項)。京都府は、この場合に登録電気工事業者の廃止届と、みなし登録の開始届を出すよう案内しています。法人化を機に500万円以上の工事を受けるため許可を取る予定なら、登録の手続きは2回になります。

自家用電気工事だけの「通知電気工事業者」は、法人で通知し直す

ビルや工場など自家用電気工作物の工事だけを請け負う人は、登録ではなく通知の対象です。事業を開始しようとする日の10日前までに通知します(17条の2第1項)。

承継を定めた9条は「登録電気工事業者」の条文です。通知電気工事業者に準用されるのは変更(10条1項)と廃止(11条)の規定だけで、承継の規定は準用されていません(17条の2第4項)。法人が自家用電気工事を始めるなら、法人として開始の10日前までに通知し、個人は廃止を通知する形になります。

一人親方の法人なら、主任電気工事士は社長本人でよい

登録電気工事業者は、一般用電気工事の業務を行う営業所ごとに主任電気工事士を置かなければなりません(19条1項)。なれるのは、第一種電気工事士か、免状の交付を受けた後に電気工事に関し3年以上の実務経験がある第二種電気工事士です。

ただし19条2項は、登録電気工事業者本人が、法人の場合は役員のいずれかがこの資格を持ち、自ら主としてその営業所の業務に従事するなら、主任電気工事士を別に置かなくてよいとしています。電気工事士の資格を持つ社長が1人で現場に出る法人は、個人のときと同じく本人が要件を満たします。栃木県の手引きも、法人名義で役員が主任電気工事士等となる場合は、主任電気工事士の誓約書と雇用等証明書は不要としています。

法人化の後に職人を雇い、社長が現場から離れて営業に回るなら話が変わります。社長が「主としてその業務に従事」しなくなれば、要件を満たす職人を主任電気工事士に選任します。欠けた場合の選任期限は、知った日から2週間以内です(19条3項2号)。

器具・標識・帳簿も、法人の名前でそろえ直す

承継で登録は移っても、営業所に関する義務は法人が負います。

義務中身法人成りで変わること
器具の備付け(24条、施行規則11条)一般用のみの営業所は絶縁抵抗計・接地抵抗計・回路計事業の全部の譲渡なので、器具も法人の資産として移すのが前提
標識の掲示(25条、施行規則12条)名称・代表者・登録の年月日と番号・主任電気工事士等を、営業所と施工場所に掲示名称と代表者を法人のものに作り直す
帳簿(26条、施行規則13条)工事ごとに注文者・施工場所・施工年月日・配線図・検査結果など。記載の日から5年保存個人時代の工事の分も保存期間の途中

個人の工具や車両を法人に移すときの値付けと税務は法人成りの資産引継ぎで扱っています。

承継の手数料が、初年度の差額と損益分岐をどれだけ動かすか

電気工事は、個人事業税の第1種事業のうち「請負業」に当たり、標準税率は5%です(地方税法72条の2第8項・72条の49の17)。法人化すると個人事業税はなくなります。材料を自分で仕入れる場合を想定し、経費を400万円として計算しました。

売上売上−経費個人事業税(請負業5%)40歳未満:2年目以降40歳未満:初年度40〜64歳:2年目以降40〜64歳:初年度
1,000万円600万円15.5万円−37.6万円−47.9万円−34.0万円−44.2万円
1,200万円800万円25.5万円−24.1万円−34.4万円−18.9万円−29.1万円
1,400万円1,000万円35.5万円−14.7万円−24.9万円−10.0万円−20.2万円
1,600万円1,200万円45.5万円−6.6万円−16.8万円−4.3万円−14.5万円
1,800万円1,400万円55.5万円+13.7万円+3.5万円+16.0万円+5.8万円
2,000万円1,600万円65.5万円+33.1万円+22.9万円+35.8万円+25.6万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/denki-koujigyo-houjinnari.mjs で再生成)で算出。東京23区、単身、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社(設立費用10万円)、個人事業税は請負業(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円の前提。初年度は設立費用と承継届の手数料2,200円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算

40〜64歳のほうが差が数万円よいのは、介護保険料が個人の国民健康保険と法人の健康保険の両方に乗り、この所得帯では国保側の増え方が大きいためです。売上1,600万円では、40歳未満から40〜64歳に変わると個人の手取りは9.6万円、法人化後の手取りは7.3万円減ります。同じ条件で、法人化の差がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。

固定費の前提40歳未満40〜64歳
2年目以降(税理士報酬の差のみ)1,266万円1,243万円
初年度:設立費用+承継届2,200円1,366万円1,344万円
初年度:設立費用+新規登録22,000円1,385万円1,363万円

承継と新規登録の手数料の差は、損益分岐を19万円動かすだけです。**承継を選ぶ理由は手数料ではなく、登録の空白をつくらないことにあります。**売上1,600万円・経費400万円でも、2年目以降の差はまだマイナスです。自分の売上と経費を入れて、判定ツールで確かめてください。業種ごとの個人事業税は個人事業税がかからない業種があるにまとめています。

まとめ

  • 電気工事業法9条により、事業の全部を法人へ譲渡すれば登録電気工事業者の地位は法人が承継する。承継の日から30日以内の承継届で足り、新規登録は要らない
  • 承継届の手数料は神奈川県・栃木県・沖縄県・京都府で2,200円。新規登録は神奈川県・栃木県で2万2,000円。営業所名を法人名に変えるなら変更届も出す
  • 建設業許可を持つみなし登録電気工事業者には承継の仕組みがない。建設業法17条の2の事前認可のうえで、法人が開始届を出す。承継後に法人で許可を取ると登録は失効する
  • 自家用電気工事のみの通知電気工事業者にも承継の規定はなく、法人で開始の10日前までに通知する
  • 役員が有資格者で自ら主として従事するなら、主任電気工事士を別に置かなくてよい。経費400万円・40〜64歳の損益分岐は2年目以降1,243万円

よくある質問

法人成りした後、電気工事業の登録番号は変わりますか。

承継の場合は新規登録ではなく、承継届に個人で登録を受けた年月日と登録番号を書き、登録証の記載事項の訂正を受ける手続きです(施行規則6条)。登録証の書換えで法人名になります。番号の扱いや次の更新時期は、登録を受けた都道府県の窓口で確認してください。

承継届は法人の設立前に出せますか。

出せません。承継届は、法人が事業の全部を譲り受けて地位を承継した後に、承継の日から30日以内に出す事後の届出です。神奈川県の記入例では、法人成りの譲渡年月日に登記簿の法人設立日を書くよう案内しています。

法人成りの後、法人で建設業許可を取ったら電気工事業の登録はどうなりますか。

登録電気工事業者が建設業者になると、登録は効力を失います(34条6項)。京都府は、登録電気工事業者の廃止届と、みなし登録電気工事業者の開始届を出すよう案内しています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。