社会保険

国保組合は法人化後も続けられる?適用除外承認の4要件と14日の期限

文芸美術・建設・医師などの国民健康保険組合に入っている人が法人化すると、健康保険は強制加入になるのが原則です。ただし適用除外承認という例外があり、健康保険だけを外して組合に残れます。厚生年金は残ります。外れる保険料が報酬帯ごとにいくらかを、計算エンジンの実データで分解しました。

法人になれば社会保険は強制加入——この原則には、条文にはっきり書かれた例外があります。文芸美術、建設、医師など国民健康保険組合の被保険者だった人は、法人化しても健康保険に入らず、組合に残ることができます。「健康保険 被保険者適用除外承認」という手続きです。

ただし外れるのは健康保険だけです。厚生年金は同じように加入します。そして申請には事実発生日から14日という期限があります。この記事では、承認の要件と、承認によって実際に外れる保険料が報酬帯ごとにいくらになるかを、当サイトの計算エンジンの内訳から分解します。

原則は強制加入。だから例外の位置づけを間違えやすい

法人は、社長1人でも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。個人事業所なら従業員5人未満は任意適用で済むのに、法人になった瞬間に人数と無関係に適用される——この非対称は法人化すると社会保険は強制加入。ひとり社長に例外はないで扱ったとおりです。

国民健康保険組合は、この原則とは別の系統にある制度です。日本年金機構の案内は、国保組合を「同種の事業又は業務に従事し国民健康保険組合の地区内に住所を有する、従業員5人未満の個人事業所の事業主及び従業員又は個人(一人親方)により構成することを基本」とする、と説明しています。つまり個人事業の側の制度として設計されています。

だから法人化すると、本来はそこから出ることになります。適用除外承認は、そこで出ずに済むようにするための例外です。「法人でも入れる制度」ではなく「法人になっても抜けずに済む制度」だという向きの違いが、後で述べる要件の読み方に効いてきます。

承認を受けられるのは4つの場合。すべて「今、組合員であること」が前提

日本年金機構は、適用除外承認の申請ができる場合を次の4つに整理しています。

  1. 国民健康保険組合の被保険者である者を使用する事業所が、法人または従業員5人以上の事業所となる等により、健康保険の適用事業所となる日において、現に国民健康保険組合の被保険者である者
  2. 国民健康保険組合の被保険者である者が、法人または従業員5人以上の事業所を設立する等により、健康保険の適用事業所となる場合における当該被保険者
  3. 上記1または2に該当することにより、適用除外の承認を受けた者を使用する事業所に新たに使用されることとなった者
  4. 国民健康保険組合の被保険者である者が、健康保険の適用事業所に勤務した場合における当該被保険者

一人で法人成りするフリーランスに当てはまるのは2です。法人を設立して健康保険の適用事業所になるとき、その時点で組合員であれば申請できます。

4つに共通しているのは、申請する人が「現に」国民健康保険組合の被保険者であることです。法人を作ってから組合に入り直す、という順番はここには出てきません。承認の性格が「引き続き加入できるようにする」ことである以上、当然の帰結です。法人化のタイミングを検討している段階で、すでに組合員かどうかがそのまま判断の分かれ目になります。

3は見落とされやすい項目です。承認を受けた社長の会社に後から入社した従業員も、その人が組合の加入資格を満たすなら申請できます。一人会社から従業員を雇う段階に進んだとき、会社側の健康保険の扱いが2系統に分かれる可能性があるということです。

加入資格そのもの(業種、地区、組合員としての要件)は組合ごとの規約で決まります。適用除外承認は年金事務所側の手続きであって、組合の加入資格を作り出すものではありません。

外れるのは健康保険だけ。厚生年金は同時に加入する

ここが最も取り違えやすい点です。手続きの名称は「健康保険 被保険者適用除外承認申請書」で、対象は健康保険に限られます。

日本年金機構は、国保組合に引き続き加入する場合の届出について、「被保険者資格取得届」と「健康保険 被保険者適用除外承認申請書」の提出が必要だと案内しています。この資格取得届は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」です。適用除外の申請書と、厚生年金の資格を取得する届出を、同時に出すという組み立てになっています。

つまり承認を受けた一人社長の負担は、次の形になります。

  • 健康保険:協会けんぽには入らず、国民健康保険組合の保険料を納める
  • 厚生年金:通常どおり被保険者となり、保険料率18.3%を労使折半で負担する
  • 子ども・子育て拠出金:会社だけが0.36%を負担する。率を掛ける対象は厚生年金と同じ標準報酬月額

厚生年金が残るということは、法人化による年金の上積みはそのまま得られるということでもあります。国民年金だけだった期間が厚生年金の期間に変わる効果は法人化すると年金はいくら増えるのかで計算したとおりで、そこは承認の有無に左右されません。

承認で外れる金額は、報酬帯でこれだけ違う

では、健康保険だけが外れると保険料はいくら軽くなるのか。当サイトの計算エンジンが使っている協会けんぽの料率(令和8年度)と標準報酬月額の等級表から、法人と本人が負担する社会保険料を4つに分解しました。東京支部・40歳未満・介護保険料なしの前提です。

役員報酬健康保険料子ども・子育て支援金厚生年金保険料子ども・子育て拠出金合計うち健康保険側
月10.0万円11.6万円0.3万円21.5万円0.4万円33.8万円35.1%
月20.0万円23.6万円0.6万円43.9万円0.9万円69.0万円35.1%
月30.0万円35.5万円0.8万円65.9万円1.3万円103.5万円35.1%
月40.0万円48.5万円1.1万円90.0万円1.8万円141.4万円35.1%
月50.0万円59.1万円1.4万円109.8万円2.2万円172.4万円35.1%
月54.0万円62.6万円1.5万円116.4万円2.3万円182.8万円35.1%
月60.0万円69.7万円1.6万円129.6万円2.5万円203.5万円35.1%
月65.0万円76.8万円1.8万円142.7万円2.8万円224.2万円35.1%
月70.0万円83.9万円2.0万円142.7万円2.8万円231.4万円37.1%
月80.0万円93.4万円2.2万円142.7万円2.8万円241.1万円39.6%
月100.0万円115.8万円2.7万円142.7万円2.8万円264.1万円44.9%

※ 労使合計の年額。東京支部・40歳未満・介護保険料なし・令和8年度の協会けんぽ料率(東京支部の健康保険料率9.85%)。子ども・子育て支援金は全国一律0.23%、子ども・子育て拠出金は0.36%で事業主のみが負担

適用除外承認で外れるのは、左から2列目と3列目です。役員報酬が月54万円なら、健康保険側は年641,088円(労使合計)。本人と会社で半分ずつなので、それぞれ320,544円です。この金額が協会けんぽから国民健康保険組合の保険料に置き換わります。

各組合の保険料額は規約で決まっていて金額も組合ごとに違うため、ここでは示しません。ただし比較の仕方は単純です。自分の組合で納める年額が、この表の「健康保険側」の金額より小さいかどうかを見ればよいことになります。

月63.5万円に達すると、増える保険料は全部が健康保険側になる

表をもう一段読み込むと、直感と食い違う構造が出てきます。右端の「うち健康保険側」の比率が、月65万円までは35.1%でぴたりと動かないのに、月70万円で37.1%、月100万円で44.9%へ上がっていくことです。

理由は等級表の上限の違いにあります。健康保険の標準報酬月額は50等級・139万円まで刻まれているのに対し、厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円(32等級)です。報酬月額が635,000円に達すると厚生年金は上限に張り付き、そこから先いくら報酬を上げても厚生年金の保険料は1円も増えません。増えるのは健康保険側だけです。

報酬を1段上げたときの増加額を、同じエンジンで分解すると次のようになります。

役員報酬の引上げ社会保険料の増加(労使計・年額)うち健康保険側うち厚生年金側
月30.0万円 → 月40.0万円37.9万円13.3万円24.6万円
月40.0万円 → 月50.0万円31.0万円10.9万円20.2万円
月50.0万円 → 月60.0万円31.0万円10.9万円20.2万円
月60.0万円 → 月65.0万円20.7万円7.3万円13.4万円
月65.0万円 → 月70.0万円7.3万円7.3万円0.0万円
月70.0万円 → 月80.0万円9.7万円9.7万円0.0万円
月80.0万円 → 月100.0万円23.0万円23.0万円0.0万円

※ 前掲の表と同じ前提。厚生年金側には子ども・子育て拠出金を含む

報酬月額が635,000円以上の領域では、厚生年金側の増加はすべて0.0万円です。報酬月額63.5万円から100万円まで上げると、健康保険側は年399,168円増えますが、厚生年金側は増えません。

ここから言えることは1つです。適用除外承認の価値は、役員報酬が高い人ほど大きくなります。 承認を受けている人にとって、報酬月額63.5万円から上の領域は「報酬をいくら上げても社会保険料が増えない」帯になるからです。承認がなければ、同じ帯で保険料は健康保険側の分だけ伸び続けます。

等級表の上限が制度ごとに違うのは、給付の設計が違うからです。厚生年金は将来の年金額に直結するので、高額報酬者に青天井で保険料を課すと給付も膨らみます。健康保険の給付は療養の給付が中心で報酬額に比例しないため、上限を高く置けます。等級の仕組みそのものは標準報酬月額の全50等級と保険料の早見表にまとめています。

なお、厚生年金の上限は令和9年9月から段階的に引き上げられる予定です。引上げが進めば、この「増えない帯」は上にずれていきます(厚生年金の上限引上げは役員報酬いくらから影響するか)。

判定ツールの数字は、どう読み替えればよいか

当サイトの判定ツールは、法人側の社会保険を協会けんぽ加入として計算します。適用除外承認を受けられる読者は、その前提が当てはまりません。読み替えの手順は次のとおりです。

  1. まず通常どおり判定する。最適な役員報酬と、そのときの手取り差が出る
  2. 上の表で、その報酬額の「健康保険側」の年額を確認する
  3. その金額を引き、代わりに自分の組合の年間保険料を足す

売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社の条件では、ツールが出す最適な役員報酬は月54万円、個人のままの手取り657.1万円に対して法人化後は662.4万円です。差は5.3万円しかありません。ここに健康保険側の年641,088円が動く余地があるということは、承認を受けられるかどうかで判定の向きそのものが変わり得るということです。

役員報酬をどう決めるか自体は役員報酬は結局いくらが最適かで扱っています。承認を受けた場合は、前掲のとおり報酬月額63.5万円から上で社会保険料が増えなくなるため、最適額の位置も動きます。計算の前提は計算の前提と根拠に置いてあります。

一方で、国民健康保険組合の保険料は所得に連動しない定額型が基本です。所得が下がった年でも保険料は下がりません。この性質は国民健康保険料が高い。法人化で下がるかで扱った通常の国民健康保険とは逆向きで、所得が高いほど有利、低い年ほど不利に働きます。

期限は14日。遅れたら理由書が要る

申請は、前掲の4つの事実が発生した日から14日以内に行う必要があります。法人成りなら、健康保険の適用事業所になる日が起算点です。

日本年金機構は、やむを得ない理由で14日以内に届出ができなかった場合は、理由を記載した理由書の添付が必要だとしています。やむを得ない理由として認められるものも列挙されています。

  • 天災地変、交通・通信関係の事故やスト等により申請が困難と認められる場合
  • 事業主の入院や家族の看護など、申請ができない特段の事情があると認められる場合
  • 法人登記の手続きに日数を要する場合
  • 国保組合理事長の証明を受けるための事務処理に日数を要する場合
  • 事業所が離島など交通が不便な地域にあるため、年金事務所に容易に行くことができない場合
  • 書類の郵送(搬送)に日数を要する場合
  • その他、事業主の責によらない事由により申請ができない事情があると認められる場合

登記の遅れと組合の証明待ちが明記されているのは実務的です。法人成りの場合、登記完了を待って組合の理事長証明を取り、年金事務所へ出すという順番になるので、14日に収まらないことが構造的に起こります。ただし理由は具体的に書くよう求められており、書けば自動的に通るものではありません。

手続きの系統が2つに分かれる点にも注意が必要です。法人設立時には「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を年金事務所に出しますが、適用除外承認は組合の理事長証明を要する別の書類です。設立まわりの届出を一括で代行に任せる場合、この申請が抜け落ちないか確認する価値があります。

まとめ

  • 国民健康保険組合の被保険者は、法人化しても「健康保険 被保険者適用除外承認」を受ければ組合に残れます。日本年金機構が示す4つの場合はいずれも、申請時点で現に組合員であることが前提です
  • 外れるのは健康保険だけです。厚生年金は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を同時に出して被保険者になり、保険料率18.3%を労使折半で負担します
  • 承認で外れる金額は、役員報酬が月54万円なら年641,088円(労使合計)。自分の組合の年間保険料がこれより小さいかどうかが比較の軸になります
  • 厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円、健康保険は50等級・139万円まであるため、報酬月額635,000円に達すると、そこから増える保険料は全額が健康保険側になります。承認の価値は報酬が高い人ほど大きくなります
  • 申請期限は事実発生日から14日。遅れる場合は理由書が必要で、法人登記の日数や組合理事長の証明待ちは認められる理由として明示されています

判定ツールは協会けんぽ加入を前提に計算しています。承認を受けられる見込みがあるなら、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で試算したうえで、上の表の健康保険側の金額を差し引いて読んでください。

よくある質問

法人化してから国民健康保険組合に入ることはできますか?

適用除外承認は「引き続き加入できるようにする」ための仕組みで、日本年金機構が示す4つの場合はいずれも申請の時点で国保組合の被保険者であることを前提にしています。法人を設立してから新たに加入するという順番では要件に当てはまりません。加入資格そのものは組合ごとに定められているため、組合への確認が必要です。

適用除外承認を受けると厚生年金にも入らなくて済みますか?

済みません。申請書の名称は「健康保険 被保険者適用除外承認申請書」で、対象は健康保険です。日本年金機構は、この申請書を「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」と一緒に提出するよう案内しています。厚生年金の被保険者にはなり、保険料は労使折半で発生します。

承認は誰が出すのですか?

加入している国民健康保険組合の理事長と厚生労働大臣の承認が必要です。日本年金機構の案内でも「国民健康保険組合の理事長が認めた場合に限られて」いると明記されています。事業主の判断だけで決められるものではありません。

14日を過ぎてしまった場合はどうなりますか?

やむを得ない理由を記載した理由書を添えて提出します。日本年金機構は、法人登記の手続きに日数を要する場合や、国保組合理事長の証明を受けるための事務処理に日数を要する場合などを、やむを得ない理由として挙げています。理由は具体的に書くよう求められています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。