税金の基礎
イラストレーターの個人事業税。さし絵は非課税、広告のイラストは5%
結論
イラスト制作は、原則として個人事業税のデザイン業(第3種事業・税率5%)です。東京都の事務提要は、雑誌や書籍の文章を補うさし絵だけを、広告・宣伝のためのものを除いて課税しないとしています。求人誌のイラストは広告とされ、課税は覆りませんでした。全額がデザイン業なら法人化の損益分岐点は事業所得1,266万円、全額が課税外なら2,198万円です(40歳未満・独身)。
- デザインと芸術の区別は、商業的な制約の有無、一品制作か複製前提か、画廊を通すか広告に使うかで判断する(東京都 事務提要)
- 福岡県は平成31年の税務課長通知で建築パースをデザイン業とし、30年間課税されていなかったイラストレーターにも令和元年度から課税した。審査会は棄却
- デザイン業の収入が半分なら、事業所得1,000万円の個人事業税は年35.5万円から10.5万円に下がる。事業主控除290万円は課税部分の所得から引く
このテーマの全体像 個人事業税の業種と計算方法
イラストレーターの個人事業税は、課税されない業種として語られることがあります。実際、法定業種の一覧に「イラスト」という語はありません。ただ、一覧の第3種事業にはデザイン業があり、都道府県はイラスト制作の多くをここに入れています。課税されるかどうかは、描いた絵の使われ方で決まります。
線引きは「デザイン」か「芸術活動」か
地方税法施行令15条の2は、デザイン業を、継続して対価を得る目的で、物品・装飾・庭園などのデザインの考案と、図上での設計または表現を行う事業としています。総務省の取扱通知は、ここでいうデザインに芸術活動により創作される作品は含まれないと付け加えています。課税されない側は、この「芸術活動」です。
東京都の「個人事業税課税事務提要」(主税局長通達)は、この区別の物差しを具体的に示しています。令和6年2月13日の東京都行政不服審査会の答申が引用している内容を整理すると、次のとおりです。
| 観点 | デザイン(課税) | 芸術活動(課税外) |
|---|---|---|
| 目的 | 商工業と結びつき、用途・コスト・企業利益・受け手に制約される | 美的価値の追求が目的で、原則として利益追求を直接の目的としない |
| 制作の形 | 印刷などの複製が前提 | 一品制作が一般的 |
| 流通 | 広告・パッケージなどに使う | 画廊・画商などを通して頒布する |
※ 東京都 個人事業税課税事務提要 第3章・第4節・第20(令和6年2月13日答申の引用による)
事務提要は、イラストをグラフィックデザインの範囲に含まれるものと位置づけ、広告イラスト(新聞雑誌の広告、カタログ)やブックイラスト(ブックカバー、カット)をデザイン業の例に挙げています。福井県の業種の認定基準も、デザイン業の例に「イラスト制作」「LINEスタンプ等の制作販売」を並べています。
さし絵だけは例外。ただし広告は除く
事務提要には一つだけ例外があります。イラストの中でも、雑誌や書籍の文章内容を補うために使われるさし絵と同じ役割のものは、絵画制作の一面があるとしてデザインとは別のジャンルと考え、広告または宣伝のために挿入されているもの以外は課税しない、という扱いです。
つまり同じ「雑誌のイラスト」でも、記事や小説の本文に添えるさし絵は課税外、雑誌の広告ページのイラストは課税という区別になります。
求人誌のさし絵は「広告」とされた
この例外の線が争われたのが、令和6年2月13日の東京都の答申です。請求人は、求人情報誌のページに載せるイラストを主に描いていました。修正申告のときに、東京都の「個人事業税収入等明細書」で「さし絵・イラストで事業税の対象外となる収入」の金額を増やして出し直しましたが、都税事務所は認めませんでした。
請求人の主張は、求人誌のページは読者が自分から情報を求めて読む本文で、イラストはその情報を補っているにすぎず、商品の購買を促す「広告」ではない、というものです。
答申はこれを退けました。求人誌のイラストは商工業と密接に関わり、企業の利益に制約されていて、自由な創作とはいえない。一品制作でもなく画廊を通すものでもない。そして、読者の就職の意欲を喚起し判断の一助とする目的で求人広告に使われているので、さし絵の例外ではなく「広告または宣伝のために挿入されたもの」に当たる、という判断です。
請求人は事業を行っていること自体は認めており、争ったのは収入のうちどれだけが課税かという割合でした。イラストレーターにとっては、仕事ごとに「本文のさし絵」か「広告・商品用」かを分けて記録しておくことが、税額を左右します。
建築パースは、30年非課税でもデザイン業になった
福岡県の答申第166号は、建築物の完成予想図(パース)を描くイラストレーターの事案です。
請求人は平成2年ごろに過去5年分の個人事業税の還付を受け、以後約30年間課税されていませんでした。ところが福岡県は、平成31年3月1日の税務課長通知で「パース作成業務」をデザイン業として扱うことにし、令和元年度課税(平成30年分の確定申告)から課税しました。
請求人は、日本標準産業分類ではイラストレーター業は芸術家業でデザイン業とは別だと主張しましたが、審査会は次の理由で棄却を妥当としました。
- パースは販売広告などに使う前提で、建築図面をもとに完成時のイメージを図上に表現するものなので、デザインの考案と図上での表現に当たる
- 依頼に基づく仕事で、事務所を設け、給料賃金や接待交際費を計上しており、利益追求を目的としない芸術家業とは認めにくい
- 日本標準産業分類は統計のための基準で、地方税法の事業区分とは目的が違う
- 将来に向けて取扱いを改めただけで、さかのぼった課税ではないので、信義則にも反しない
長く課税されていないことは、これからも課税されない保証にはならない、というのがこの答申の示したことです。
収入の割合ごとの税額
課税されるデザイン業と、課税されない仕事の両方がある場合、個人事業税は課税される事業の所得だけにかかります。東京都の事務提要は、経理を分けていなければ売上総利益の割合で、それも算定できなければ収入金額の割合で所得を按分するとしています。事業主控除290万円は、按分後の課税部分の所得から引きます。
所得を収入の割合どおりに按分した場合の税額を計算しました。
| 事業所得(青色申告特別控除の前) | デザイン業の収入が100% | 75% | 50% | 25% |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 5.5万円 | 0.5万円 | 0円 | 0円 |
| 600万円 | 15.5万円 | 8万円 | 0.5万円 | 0円 |
| 800万円 | 25.5万円 | 15.5万円 | 5.5万円 | 0円 |
| 1,000万円 | 35.5万円 | 23万円 | 10.5万円 | 0円 |
| 1,500万円 | 60.5万円 | 41.75万円 | 23万円 | 4.25万円 |
※ 税率5%(第3種事業 デザイン業)・事業主控除290万円/2026年(令和8年)分基準。scripts/illustrator-kojin-jigyozei.mjs で計算
事業主控除が按分後の所得から引かれるので、課税部分が減ると税額は割合以上に下がります。 事業所得1,000万円で課税部分が半分なら、税額は35.5万円の半分ではなく10.5万円です。さし絵の仕事が多いイラストレーターほど、区分を記録しておく価値は大きくなります。確定申告書での書き方と、按分の方法による税額の違いは課税と非課税の仕事を兼ねる個人事業税で計算しています。法定業種の線引き全体は個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法で整理しています。
法人化すると、課税されない仕事も事業税の対象になる
法人化すると個人事業税はなくなり、法人の所得に法人事業税がかかります。法人事業税には法定業種の限定がないので、さし絵も広告イラストも区別なく対象です。個人事業税の線引きの争いは消えますが、課税外の仕事が多かった人ほど、法人化で事業税の負担が増える側に回ります。
計算エンジンで、全額がデザイン業の場合と全額が課税外の場合の損益分岐点を出しました。
| 条件 | 全額がデザイン業(5%) | 全額が課税外 | 差 |
|---|---|---|---|
| 40歳未満・独身 | 1,266万円 | 2,198万円 | 932万円 |
| 40〜59歳・独身 | 1,243万円 | 2,277万円 | 1,034万円 |
| 40歳未満・配偶者あり(無収入) | 1,016万円 | 1,902万円 | 886万円 |
※ 経費200万円・東京23区・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。実質差額がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除の前)
課税部分が一部だけの人の分岐点は、この2つの列の間に入ります。広告やグッズの仕事が中心ならデザイン業の列、書籍や雑誌のさし絵が中心なら課税外の列に近いと考えてください。業種ごとの分岐点の全体像はライター・エンジニア・デザイナーで法人化の分岐点は932万円違うで比べています。
文芸美術国保に入っているイラストレーターは、個人のままの健康保険料が定額で安いぶん、法人化の損益分岐点がさらに後ろにずれます(文芸美術国保に入っていると、法人化の分岐点は300万〜500万円遅れる)。
原稿料や著作権の使用料として受け取る報酬には、所得税の平均課税が使える場合があります。法人化するとこの仕組みも使えなくなる点は、作家の印税は法人化で損する?で計算しています。ほかの業種も含めた審査請求の結果は個人事業税の審査請求、東京都の答申40件で認められたのは1件だけにまとめました。
まとめ
- イラスト制作は原則としてデザイン業(5%)。課税外になるのは芸術活動による作品と、文章を補うさし絵(広告・宣伝用を除く)
- 区別の物差しは、商業的な制約、複製前提か一品制作か、広告に使うか画廊を通すか(東京都 事務提要)
- 求人誌のイラストは「広告」とされ課税。建築パースは福岡県で30年非課税の後にデザイン業とされ、どちらの審査請求も退けられた
- 課税・非課税が混在するときは課税部分の所得だけに課税。課税部分が半分なら、事業所得1,000万円の税額は年10.5万円
- 法人事業税に業種の限定はない。課税外の仕事が多い人ほど、法人化の損益分岐点は後ろにずれる
イラストの仕事は、同じ人でも案件ごとに課税・非課税が分かれます。自分の仕事の内訳と売上・経費で確かめてください。
よくある質問
LINEスタンプやグッズ用のイラストの売上は、個人事業税の対象ですか?
福井県の業種の認定基準は、デザイン業の例として「イラスト制作」「LINEスタンプ等の制作販売」を挙げています。都道府県によって判断は異なりえますが、複製して販売することを前提とした制作は、デザイン業として扱われる可能性が高いといえます。
長年課税されていなかったのに、急に個人事業税が来ました。過去の分もさかのぼって払うのですか?
福岡県答申第166号の事案では、県は税務課長通知を受けて令和元年度分から課税し、それ以前にさかのぼって取扱いを変えたわけではありませんでした。審査会は、将来に向けた是正は信義則に反しないと判断しています。過去分の扱いは課税庁ごとに確認が必要です。
漫画家の原稿料にも個人事業税はかかりますか?
漫画の原稿料を明示して扱いを示した公的資料は確認できませんでした。東京都の事務提要の考え方では、自由な創作による作品かどうか、広告や商品に使われるものかどうかで判断されます。同じ漫画家でも、企業の広告漫画やパッケージのイラストはデザイン業とされる可能性があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。