設立の手続き

商標を法人成りで移す?個人名義の商標権の移転費用と税金

結論

個人名義の商標権は、法人成りしても自動では法人のものになりません。法人へ移すなら特許庁で移転登録を受ける必要があり、登録免許税は区分数にかかわらず商標権1件につき3万円です。時価の2分の1未満で譲ると時価で売ったものとみなされるため、時価100万円・取得費0円・保有5年超の例では、無償でも個人に約5万円の税金がかかります。

  • 移転の登録免許税は1件3万円(登録免許税法別表第一)。相続・合併なら3,000円だが、法人成りは合併ではない
  • 法人への譲渡が時価の2分の1未満なら時価で譲渡したとみなす(所得税法59条1項2号・施行令169条)
  • 法人は取得した商標権を耐用年数10年で償却する。名義を残して使用料を受け取る方法もあり、使用料は原則として業務に係る雑所得

法人成りの準備で見落とされやすいのが、個人の名前で取った商標です。会社を作っても、商標原簿上の権利者は個人のままです。権利者と使用者がずれたまま放置すると、後から融資・事業譲渡・相続の場面で「この商標は誰のものか」が問題になります。

選択肢は2つです。法人へ移転するか、個人名義のまま法人に使わせるかです。以下、費用と税金を順に数字で並べます。

移転は「登録」しないと効力がない

商標権の移転は、契約書を交わしただけでは完了しません。商標法35条が準用する特許法98条1項1号により、相続その他の一般承継を除く移転は登録しなければ効力を生じません。法人成りは個人から法人への譲渡であり、一般承継ではないので、特許庁で移転登録を受ける必要があります。

登録免許税は商標権1件につき3万円

移転登録には登録免許税がかかります。登録免許税法別表第一の十六によると、次のとおりです。

登録の内容登録免許税
商標権の移転(相続・法人の合併)1件 3,000円
商標権の移転(その他の原因=法人成りの譲渡)1件 30,000円
通常使用権・専用使用権の設定の登録1件 30,000円

課税の単位は「商標権の件数」です。1件の商標が5区分を指定していても、移転の登録免許税は3万円のままです。逆に、ロゴと文字を別々に登録している場合は2件で6万円になります。

移転の前にやっておくこと

  • 商標登録原簿の権利者の氏名・住所が、現在の住所と一致しているか確認する(転居していれば住所変更の登録が先に要る場合がある)
  • 譲渡契約書に、対象の登録番号、譲渡価額、引渡日を書く
  • 指定商品・役務が複数あるとき、商標法24条の2により一部だけを分割して移転することもできる

申請書の様式や添付書類は特許庁の案内に従います。弁理士に依頼する場合は、その報酬が別にかかります。

そもそも出願・登録にいくらかかったか

移すかどうかの判断材料として、商標を取り直す場合の費用も押さえておきます。特許庁に払う額は法令で決まっています。出願料は特許法等関係手数料令、登録料は商標法施行令です。

区分数出願料登録料(10年分)出願+登録(10年)登録料(5年分割の前期)法人へ移す登録免許税
112,000円32,900円44,900円17,200円30,000円
220,600円65,800円86,400円34,400円30,000円
329,200円98,700円127,900円51,600円30,000円
546,400円164,500円210,900円86,000円30,000円

※ 出願料は1件3,400円+1区分8,600円、登録料は1区分32,900円(10年分)、分割納付は1区分17,200円。弁理士報酬は含まない。登録免許税は区分数ではなく商標権1件ごと。scripts/shohyo-houjinnari-iten.mjs

1区分なら、取り直しの実費と移転の登録免許税はほぼ同じ水準です。ただし取り直しは新しい出願になるので、出願日が後ろにずれます。その間に他人が似た商標を出願していれば、先に出した方が優先されます。すでに登録済みの権利を移す方が、権利の連続性を保てます。

商標権の存続期間は設定登録の日から10年で、更新できます(商標法19条)。更新期限が近い商標は、移転と更新のどちらを先にするかも段取りに入れておきます。

個人側の税金:無償で渡しても課税されることがある

法人へ商標権を売ると、個人側では譲渡所得になります(所得税法33条)。譲渡所得は次の順で計算します。

  1. 譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)= 譲渡益
  2. 譲渡益 − 特別控除50万円
  3. 取得から5年を超えて譲渡した分は、その2分の1だけを総所得に入れる(所得税法22条2項2号)

商標権は減価償却資産です(所得税法施行令6条)。事業で使っていた期間の償却費は取得費から差し引かれます(所得税法38条2項)。自分で出願して登録した商標は、取得費が登録時の費用から償却分を引いた残りになり、0円に近いことが多いです。

時価の2分の1未満なら時価で売ったとみなされる

「タダで会社に渡せば税金はかからない」と考えがちですが、そうはなりません。所得税法59条1項は、法人への贈与、または「著しく低い価額」での法人への譲渡があったとき、時価で譲渡したものとみなすと定めています。著しく低い価額とは、時価の2分の1に満たない金額です(所得税法施行令169条)。

時価100万円・取得費0円の商標を、価額を変えて法人へ譲った場合を計算しました。

法人への譲渡価額譲渡所得の計算に使う額総所得に入る額(5年超)個人の追加税額(5年超)総所得に入る額(5年以内)個人の追加税額(5年以内)法人の受贈益になりうる額
0.0万円100.0万円25.0万円5.0万円50.0万円12.2万円100.0万円
40.0万円100.0万円25.0万円5.0万円50.0万円12.2万円60.0万円
50.0万円50.0万円0.0万円0.0万円0.0万円0.0万円50.0万円
100.0万円100.0万円25.0万円5.0万円50.0万円12.2万円0.0万円

※ 商標権の時価100万円、取得費(未償却残高)0円、譲渡費用0円の仮定。譲渡前の課税所得300万円に上乗せした所得税(復興特別所得税込み)+住民税所得割10%の増加額。計算は当サイトの計算エンジン(計算の前提)。scripts/shohyo-houjinnari-iten.mjs

表から読み取れることは2つあります。

  • 0円や40万円で渡しても、個人の税額は100万円で売った場合と同じです。 59条で時価に引き直されるため、安く渡しても個人の税金は減りません
  • 一方で法人側は、時価との差額を受け取ったことになります。法人税法22条2項は「無償による資産の譲受け」を益金の項目に挙げています。安く渡すと、個人は時価で課税され、法人には受贈益が出るという二重の負担になり得ます

ちょうど時価の2分の1(50万円)なら59条の対象外で、特別控除の範囲に収まります。ただし、同族会社との取引で税負担を不当に減らすと認められる場合は、別の規定で否認される可能性があります。時価そのものの算定も含め、価額を決める段階で専門家に確認する価値がある論点です。

時価をどう決めるか

自分で育てたブランドの商標には市場価格がありません。売上への貢献、取り直しにかかる費用、使用料相当額などから根拠を組み立てることになります。根拠のない価額は、上の表のどの行にも当てはまらなくなります。時価の根拠資料は契約書と一緒に保存しておきます。

法人側の扱い:10年で償却する

法人が対価を払って取得した商標権は、無形固定資産として計上します。耐用年数は耐用年数省令の別表第三で商標権10年と定められており、定額法で償却します。

100万円で買った場合の、法人税等への効果は次のとおりです。

法人の税引前利益(償却前)年間償却費法人税等の減少(年)10年間の合計
100.0万円10.0万円2.2万円21.6万円
300.0万円10.0万円2.1万円21.2万円
800.0万円10.0万円2.3万円23.1万円

※ 期首取得・12か月償却、残存価額0の定額法(耐用年数10年)。法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税(均等割は不変)。scripts/shohyo-houjinnari-iten.mjs

時価で売る場合を家計全体で見ると、個人は売った年に約5万円(5年超)の税金を払い、法人は10年かけて約21万円の法人税等が減ります。代金100万円は法人から個人へ移るので、法人に資金を残したい時期には負担になります。代金を未払金にして分割で払う方法もありますが、その場合も契約で支払条件を決めておきます。

車や設備など商標以外の資産の引継ぎ方は、法人成りの資産引継ぎで整理しています。

移さずに使用料を受け取るという選択肢

個人が商標権を持ち続け、法人に通常使用権を許諾する方法もあります(商標法31条)。通常使用権の登録は任意ですが、登録すると、後に商標権を取得した人にも対抗できます(同条4項)。登録する場合の登録免許税は1件3万円です。

使用料を受け取る個人側の所得区分は、所得税基本通達35-2が「工業所有権の使用料」を、事業所得と認められるものを除き業務に係る雑所得の例に挙げています。法人側では、適正な額であれば使用料は損金になります。

年間使用料個人の追加税額(雑所得)法人税等の減少(利益300万円の法人)差し引き(家計全体)
12.0万円2.4万円2.5万円0.1万円
24.0万円4.8万円5.2万円0.3万円

※ 必要経費0円の仮定。個人は課税所得300万円に上乗せ。プラスは個人と法人を合わせた税負担が減ることを示す。scripts/shohyo-houjinnari-iten.mjs

この条件では、使用料による税額の差はほとんど出ません。税金で選ぶ話ではないということです。違いが出るのは次の点です。

観点法人へ移転個人名義+使用許諾
初期費用登録免許税3万円+譲渡の課税契約書のみ(使用権を登録するなら3万円)
権利者法人個人
毎年の手間償却の計上使用料の支払・個人の申告
会社を売る・承継する商標も会社と一緒に移る別途、個人から譲渡が必要
個人の資産として残る残らない残る

使用料の額は、事業規模や商標の貢献度に見合ったものにする必要があります。役員である自分に過大な使用料を払うと、法人側で損金性を問われる余地が生まれます。

判断の順番

  1. 商標原簿の権利者・住所と更新期限を確認する
  2. 将来、会社ごと売る・承継する可能性があるなら、法人へ移す方向で考える
  3. 移すなら時価の根拠を作り、時価の2分の1未満にならない価額を決める
  4. 移さないなら、使用許諾契約と使用料の根拠を作る

商標の移し方で年間の税額が大きく動くわけではありません。法人化の損得を左右するのは、役員報酬と社会保険料の組み合わせです。自分の売上と経費で、法人化した場合の手取りを先に確かめておくと、商標にかける費用の大きさも判断しやすくなります。

まとめ

  • 法人成りしても商標権は個人のまま。移すには特許庁で移転登録が必要で、登録免許税は区分数にかかわらず1件3万円
  • 時価の2分の1未満で法人に渡すと、個人は時価で売ったとみなされる。無償でも個人の税金は減らない
  • 法人は取得した商標権を耐用年数10年の定額法で償却する
  • 名義を残して使用料を受け取る方法もあり、使用料は原則として業務に係る雑所得。税額差は小さく、承継のしやすさで選ぶ論点

よくある質問

法人成りしたら、個人名義の商標は法人が使ってはいけないのですか?

使えないわけではありません。商標権者である個人が法人に通常使用権を許諾すれば、法人は登録商標を使えます(商標法31条)。許諾の範囲と使用料を契約書に残しておくのが前提です。

商標を出願中のまま法人成りした場合はどうなりますか?

出願中の段階でも出願人を法人に変える手続があります。登録後に移す場合と必要な書類・費用が異なるため、手続の段階に合わせて特許庁の案内を確認してください。

移転登録の登録免許税は区分ごとにかかりますか?

かかりません。登録免許税法別表第一は「商標権の件数 一件につき三万円」としており、1件の商標権が複数の区分を含んでいても3万円です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。