設立の手続き

法人成りで車を会社に安く売ると、時価で売ったとみなされる。2分の1の線

結論

個人が自分の会社に資産を時価の2分の1未満の価格で売ると、所得税法59条1項2号により時価で売ったものとみなされます。時価200万円・取得費120万円の車なら、99万円で売っても200万円で売った場合と同じ譲渡所得30万円(短期)が生じ、会社側には時価との差額101万円が受贈益として扱われ得ます。時価で売るのが最も余計な課税を生みません。

  • 2分の1の判定は、1つの契約でまとめて売った資産の合計額で行う(所得税基本通達59-4)
  • 2分の1以上でも、同族会社の行為計算否認に当たると時価で計算されることがある(所得税基本通達59-3)
  • 譲渡所得には特別控除50万円があり、取得から5年を超えて持っていた資産は2分の1だけが総所得に入る

法人成りで、個人事業で使っていた車や設備を会社に移すとき、「自分の会社だから安く売っても構わない」と考えがちです。しかし個人から法人への譲渡には、時価の2分の1という線があります。これを下回ると、税金の計算上は時価で売ったことにされます。

時価の2分の1未満で売ると、時価で売ったとみなされる

所得税法59条1項2号は、法人に対して「著しく低い価額」で資産を譲渡した場合、その時の価額(時価)で譲渡があったものとみなすと定めています。著しく低い価額とは、所得税法施行令169条で時価の2分の1に満たない金額です。

法人に無償で渡した(贈与した)場合も、同じ59条1項1号で時価で譲渡したものとみなされます。つまり、自分の会社に資産を移すときは、0円で渡しても、時価の半分未満で売っても、個人の側は時価で売ったのと同じ譲渡所得を計算することになります。

個人事業で使っていた車や機械を売った所得は、事業所得ではなく譲渡所得です。譲渡所得は、売った収入から取得費(減価償却した後の未償却残高)を引き、特別控除50万円を引いて計算します(所得税法33条)。取得から5年を超えて持っていた資産なら、その2分の1だけが総所得に入ります(所得税法22条2項)。

時価200万円の車を、価格別に比べる

時価200万円、取得費(未償却残高)120万円の事業用の車を会社に売る場合です。

会社に売る価格時価の2分の1未満か個人の収入金額譲渡益譲渡所得(短期)総所得に入る額(長期)法人:時価との差額
200.0万円以上200.0万円80.0万円30.0万円15.0万円0.0万円
150.0万円以上150.0万円30.0万円0.0万円0.0万円50.0万円
100.0万円以上100.0万円−20.0万円0.0万円0.0万円100.0万円
99.0万円未満(時価で譲渡とみなす)200.0万円80.0万円30.0万円15.0万円101.0万円
50.0万円未満(時価で譲渡とみなす)200.0万円80.0万円30.0万円15.0万円150.0万円
0円(贈与)未満(時価で譲渡とみなす)200.0万円80.0万円30.0万円15.0万円200.0万円

※ 譲渡費用なし、その年の譲渡所得はこれだけ。短期は取得から5年以内の譲渡(全額が総所得に入る)、長期は5年超(2分の1が総所得に入る)。特別控除50万円。当サイトで計算(scripts/houjinnari-teigaku-joto.mjs)

99万円で売ると、個人の譲渡所得は200万円で売った場合とまったく同じ30万円です。安く売っても、個人の税金は1円も減りません。 100万円と99万円のわずか1万円の差で、個人の譲渡所得は0円から30万円に跳ねます。

会社の側には、時価との差額が残る

安く売った差額は、会社の側で問題になります。法人税法22条2項は、益金の額に算入する収益として「無償による資産の譲受け」を挙げています。時価より低い価格で資産を譲り受けた場合も、時価との差額は実質的に無償で受け取った部分として、受贈益の対象になり得ます。

99万円で売った場合、個人は時価200万円で売ったとして課税され、会社は101万円の差額を受贈益として扱われる可能性があります。同じ差額に、個人と法人の両方で課税が起きるわけです。時価で売れば、どちらの問題も起きません。

2分の1以上でも安心はできない

では時価の2分の1以上なら、自由に値付けしてよいのでしょうか。所得税基本通達59-3は、時価の2分の1以上の対価による法人への譲渡には59条1項2号は適用されないとしつつ、その譲渡が同族会社等の行為又は計算の否認(所得税法157条)に当たる場合は、税務署長の認めるところにより時価で計算できるとしています。

一人社長の会社は典型的な同族会社です。時価の半分ちょうどの100万円で売り、個人の側に20万円の譲渡損失を作る、といった値付けは、この否認の対象になり得ます。2分の1は「これを下回ると自動的に時価」という線であって、「これ以上なら安全」という線ではありません。

もう1つ、所得税基本通達59-4は、1つの契約で複数の資産をまとめて売った場合、2分の1未満かどうかを個々の資産ごとではなく、契約で売った資産の合計額で判定するとしています。車と機械をまとめて売る契約なら、合計の時価と合計の対価で比べます。

小さな資産は、特別控除50万円に収まることが多い

パソコンや事務机など、取得価額が小さく償却が進んだ資産は、時価も小さいことがほとんどです。譲渡益が50万円以下なら、特別控除で譲渡所得は0円になります。例えば、未償却残高0円のパソコンを時価10万円で会社に売っても、譲渡益10万円は特別控除の範囲に収まります。

一方で、時価が大きく残る車や機械、建物は、譲渡所得が出やすい資産です。建物や土地は譲渡所得の計算方法が別(分離課税)で、名義変更には登録免許税と不動産取得税もかかります。その計算は法人成りで建物・土地を法人名義にで扱っています。

時価で売ると、会社の資金繰りに響く

時価で売るのが税務上は素直ですが、設立直後の会社にはまとまった現金がないことが多いのも事実です。代金の一部を未払金にして、会社から個人へ分割で払う方法もあります。この場合、未払いの残高は社長個人から会社への貸付けと同じ性格になります。

法人成り1年目は、個人事業の住民税・個人事業税・国民健康保険料の後払いと、会社の立ち上げ資金が重なる時期です。資産の代金の払い方は、その資金繰りと合わせて決めることになります。時期ごとの支出は法人成り1年目の資金繰りで計算しています。

資産を売る・貸す・現物出資する、の選び方は法人成りの資産引継ぎで比べています。車に固有の手続き(名義変更と自動車税)は法人成りの車の名義変更を参照してください。個人事業主が課税事業者なら、車の売却には消費税もかかります。

まとめ

  • 個人が法人に時価の2分の1未満で資産を売ると、時価で売ったものとみなされる(所得税法59条1項2号・施行令169条)。贈与も同じ
  • 時価200万円・取得費120万円の車は、99万円で売っても200万円で売っても譲渡所得は30万円(短期)
  • 会社の側では、時価との差額が受贈益の対象になり得る。安く売ると個人と法人の両方で課税が起きる
  • 2分の1以上でも、同族会社の行為計算否認で時価計算される場合がある。判定は契約ごとの合計額で行う
  • 償却の進んだ小さな資産は、特別控除50万円に収まることが多い。時価の根拠(査定書など)を残して売る

よくある質問

車の時価はどうやって決めればよいですか

中古車販売店の買取査定額や、同じ車種・年式・走行距離の中古車の取引価格が目安になります。帳簿の未償却残高は税務上の取得費であって、時価ではありません。査定書などの根拠を残しておきます。

個人事業で使っていた車を売った所得は、事業所得になりますか

事業所得ではなく譲渡所得です。所得税法33条は、棚卸資産など営利目的で継続的に売る資産を除く資産の譲渡による所得を譲渡所得としています。事業用の車や機械の売却は、これに当たります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。