役員報酬

社用車を社長に安く売ると、時価との差額は損金にならない役員給与になる

結論

会社の資産を社長に時価より安く売ると、時価との差額は社長への経済的利益として役員給与になります(法人税基本通達9-2-9)。1回限りの利益は定期同額給与に当たらないため損金にならず、会社の課税所得は時価で売った場合と同じです。時価200万円の車を帳簿価額の60万円で売ると、社長には差額140万円の給与課税(役員報酬月54万円なら所得税・住民税40.4万円)が生じ、売値が時価の半分未満なので消費税は時価の200万円で計算します。

  • 会社の側は、売値にかかわらず時価で売ったものとして譲渡益を計算する。差額は役員給与として損金不算入になるので、安く売っても会社の税金は減らない
  • 社長の側は、差額が給与所得の収入に加わる。役員報酬月54万円の社長が差額80万円を受けると所得税・住民税が24.0万円増える
  • 消費税は、役員への譲渡価額が時価のおおむね50%未満なら時価が課税標準になる(消費税法28条1項ただし書・消費税法基本通達10-1-2)

法人化して何年か経つと、会社名義で買った車や備品を社長個人に移したくなる場面が出てきます。車を買い替えるとき、会社を畳むとき、家族用に使うとき。そこで「自分の会社の車だから、帳簿価額で安く引き取ればいい」と考えると、税金の上では時価との差額が社長への給与として扱われます。

時価との差額は、社長への経済的利益として役員給与になる

法人税法34条4項は、役員給与には債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むとしています。法人税基本通達9-2-9は、その経済的な利益の例として次のものを挙げています。

  • 役員等に対して物品その他の資産を贈与した場合の、その資産の価額
  • 役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合の、その資産の価額と譲渡価額との差額
  • 役員等から高い価額で資産を買い入れた場合の、資産の価額と買入価額との差額

会社の車を社長に安く売れば2つ目に当たり、時価と売値の差額が役員給与になります。

この役員給与は、損金になりません。役員給与が損金になるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たる場合です(法人税法34条1項)。経済的な利益のうち定期同額給与に当たるのは、法人税基本通達9-2-11のとおり、毎月おおむね一定の額が継続的に供与されるものです。車を1回安く売ったときの差額は、そのどれにも当たりません。

会社の税金は、安く売っても減らない

会社の側の計算を整理します。法人税法22条2項は、有償・無償を問わず資産の譲渡による収益を益金に含めており、役員への低額譲渡では時価で譲渡したものとして益金を計算します。時価200万円・帳簿価額60万円の車を社長に売る場合です。

売値会社に入るお金会社の譲渡益(時価−帳簿価額)社長への役員給与(時価−売値)役員給与の損金算入会社の課税所得の増加
200万円(時価)200万円140万円0円—140万円
120万円120万円140万円80万円できない140万円
60万円(帳簿価額)60万円140万円140万円できない140万円
0円(無償)0円140万円200万円できない140万円

※ 会計上の売却益は売値−帳簿価額だが、税務上は時価で譲渡したものとして差額を益金に加え、同額の役員給与は損金不算入となるため、課税所得の増加はどの売値でも140万円になる

どの売値でも、会社の課税所得は140万円増えます。役員報酬月54万円・利益259.5万円の会社なら、この140万円で会社の税金は29.9万円増えます(計算エンジンの法人税等の計算による)。安く売っても会社の税金は1円も減らず、会社に入るお金だけが減ります。

社長の側では、差額が給与所得に加わる

社長の側では、差額の経済的な利益が給与の収入として課税されます。役員報酬月54万円(給与収入648万円)の社長が差額を受けた場合の所得税・住民税の増加を計算しました。

差額(経済的な利益)給与所得所得税・住民税の増加
0円474.4万円—
80万円545.2万円24.0万円
140万円599.2万円40.4万円
200万円653.2万円56.9万円

※ 東京23区・40歳未満・独身。給与所得控除・基礎控除(令和8年分)の変化を含めて計算エンジンの税額計算で算出。社会保険料の扱いは含めない

差額80万円で24.0万円、つまり差額の3割が税金になります。給与所得が489万円を超えて所得税の基礎控除が104万円から67万円に下がるためです。会社は、この経済的な利益について給与として源泉徴収する必要もあります。

まとめると、帳簿価額60万円で車を引き取った社長は、会社に払う60万円に加えて、給与課税40.4万円を負担します。会社の税金も時価で売った場合と同じだけかかります。時価で売った場合と比べて、得をする人がいない取引になります。

時価の半分未満だと、消費税も時価で計算する

消費税にも同じ考え方の規定があります。消費税法28条1項ただし書は、法人が役員に資産を譲渡した場合に、対価が時価に比べて著しく低いときは、時価を対価の額とみなすとしています。消費税法基本通達10-1-2は、「著しく低い」を時価のおおむね50%に満たない場合としています。

売値時価に対する割合消費税の課税標準消費税(10%)
200万円100%200万円20万円
120万円60%120万円12万円
60万円30%200万円(時価)20万円
0円0%200万円(時価)20万円

※ 会社が消費税の課税事業者で、売値を税抜とした場合

帳簿価額の60万円で売ると、会社は60万円しか受け取らないのに、消費税は200万円に対して20万円を納めます。売値が時価の50%以上なら売値が課税標準のままですが、その場合も法人税・所得税の側では時価との差額が役員給与になる点は変わりません。

時価の根拠を残しておく

この取引で問われるのは、つねに「時価はいくらか」です。帳簿価額は減価償却を重ねた会計上の金額で、市場で売れる価額とは別物です。中古車なら買取業者や販売店の査定額、備品なら同等品の中古相場など、第三者との取引で成り立つ価額を根拠として残しておくのが確実です。

逆向きの取引、つまり社長個人の資産を会社に売る場合にも、時価の2分の1という線があります。こちらは所得税法59条の線で、法人成りで車を会社に安く売る場合で扱いました。社長と会社の間の取引の値付けを否認する一般的な規定は同族会社の行為計算否認にまとめています。会社の車を私用に使う場合の扱いは社用車の経費は個人と法人でどう違うかを参照してください。

役員報酬の額は、こうした臨時の経済的な利益とは別に、毎月の定期同額で決めておくのが基本です。自分の売上と経費で最適な役員報酬は判定ツールで確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 会社の資産を社長に時価より安く売ると、時価との差額は社長への経済的利益として役員給与になる(法人税基本通達9-2-9)
  • 1回限りの経済的利益は定期同額給与に当たらず損金にならない。会社の課税所得は時価で売った場合と同じ(時価200万円・帳簿価額60万円なら140万円増)
  • 社長の側では差額が給与の収入に加わる。役員報酬月54万円なら、差額140万円で所得税・住民税が40.4万円増える
  • 売値が時価のおおむね50%未満なら、消費税は時価を課税標準として計算する(消費税法28条1項ただし書・基本通達10-1-2)
  • 時価は帳簿価額ではなく、査定額など第三者との取引で成り立つ価額を根拠として残す

よくある質問

帳簿価額で売れば、時価で売ったことになりますか。

なるとは限りません。帳簿価額は会社が減価償却を重ねた後の会計上の金額で、市場で売買される価額(時価)とは別のものです。中古車なら買取業者の査定額など、第三者との取引で成り立つ価額を根拠にするのが確実です。

社長に車をあげる(無償で譲る)とどうなりますか。

時価の全額が社長への経済的利益として役員給与になり、損金になりません。会社は時価で譲渡したものとして譲渡益を計算し、消費税も時価を課税標準として計算します。社長の側では時価の全額が給与所得の収入に加わります。

社長から会社に車を売る場合は、どこに注意すればよいですか。

逆方向の取引では、時価より高く買い取ると差額が役員給与(法人税基本通達9-2-9(3))になり、時価の2分の1未満で売ると社長個人の側で時価で売ったものとみなされる(所得税法59条)ことがあります。どちらの方向でも、時価の根拠を残すことが基本です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。