役員報酬
一人社長のジム会費は経費になる?福利厚生費と役員給与の境目
結論
社長1人だけが使うジム会費は、所得税基本通達36-29の「役員だけを対象として供与される場合」に当たりやすく、福利厚生費ではなく役員給与と扱われるリスクが高い支出です。月1.5万円の場合、会社と社長を合わせた正味の年間負担は、福利厚生費なら13.8万円、毎月一定の給与(定期同額で損金)なら16.0万円、損金不算入の給与なら20.2万円で、社長が自腹で払う18.0万円より重くなることもあります(役員報酬月40万円・東京23区の概算)。
- 法人税基本通達9-7-13の2は、ジムなど体育施設のクラブの年会費等について「使途に応じて交際費等又は福利厚生費若しくは給与」になるとしている
- 毎月おおむね一定の経済的利益は定期同額給与として損金になり得る(法人税基本通達9-2-11)。それでも社長側の給与課税と源泉徴収は残る
- 個人事業主のジム会費は家事上の費用で、業務に直接必要と明らかに区分できない限り必要経費にならない
ジムの会費は、会社にとって「健康経営」の支出にも、社長個人の趣味の支出にも見えます。どちらと扱われるかで、会社の損金になるか、社長の給与として所得税がかかるかが分かれます。
この記事では、国税庁の通達を3つ読み、月会費と入会金の扱いを分けて整理します。そのうえで、扱いごとに会社と社長を合わせた正味の負担がいくらになるかを、当サイトの計算エンジンで比べます。
判断の起点は所得税基本通達36-29
会社が役員・使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担した場合、利用した人が受ける経済的利益は、原則として課税しなくて差し支えないとされています(所得税基本通達36-29)。ジムの利用料を会社が負担するのは、この「福利厚生のための施設の運営費等」の典型です。
ただし同じ通達には除外が2つ付いています。
- 経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合
- 役員だけを対象として供与される場合
一人会社では、利用者が社長1人です。規程に「全役職員」と書いても、実際に恩恵を受けるのは役員だけです。このため一人社長のジム会費は、2つ目の除外に当たりやすい支出です。
「一人会社なら全員が対象だから問題ない」という説明が出回るのは、36-29の前半だけを読むと全員対象の要件を満たすように見えるためです。しかし除外の文言は「役員だけを対象として」であり、対象者の人数ではなく、利益が誰に行くかを見ています。
ジム会費の扱いは通達上3通りある
法人税基本通達9-7-13の2は、宿泊施設・体育施設・遊技施設などを会員に利用させるクラブ(ゴルフクラブ以外)を「レジャークラブ」と呼びます。フィットネスクラブやスポーツジムは、体育施設を会員に利用させるクラブとして、この定義に入ると読めます。
この通達の注書きは、年会費その他の費用について、その使途に応じて交際費等又は福利厚生費若しくは給与となるとしています。整理すると次のとおりです。
| 使途 | 扱い | 一人社長で想定される例 |
|---|---|---|
| 取引先の接待で利用 | 交際費等 | 取引先を招待して施設を使う |
| 役員・従業員の福利厚生 | 福利厚生費 | 従業員も同条件で使える法人会員 |
| 特定の役員の個人的な利用 | 給与 | 社長だけが日常のトレーニングに使う |
一人社長が自分の健康維持のために通う月会費は、3つ目に寄りやすいのが実情です。接待で使う頻度が高いなら交際費等の余地がありますが、その場合は利用記録と相手先を残す必要があります。
入会金は月会費と別に考える
同じ9-7-13の2は、ゴルフクラブの入会金の扱い(9-7-11・9-7-12)をレジャークラブに準用しています。
- 法人会員として入会:入会金は資産に計上する。ただし記名式で、名義人の役員が専ら業務に関係なく利用するなら、その役員への給与
- 個人会員として入会:入会金はその役員への給与(無記名式の法人会員制度がなく、業務上必要と認められる場合を除く)
- 有効期間があり、脱退時に返還されない入会金:給与とされるものを除き、繰延資産として償却できる
社長個人の名義で入会した入会金を会社が払えば、原則として給与です。月会費と違い入会金は一度きりの支払いなので、次に見る定期同額給与にも当たりにくい点に注意が必要です。
給与とされても「毎月一定」なら損金になり得る
役員給与と扱われた場合、法人税では定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかでなければ損金になりません(法人税法34条1項)。国税庁のNo.5202も、役員への経済的利益は原則として役員給与になり、損金になるかはこの区分で決まると説明しています。
ここでジム会費には、人間ドックや社員旅行と違う特徴があります。月会費は毎月同じ額です。
法人税法施行令69条1項2号は、継続的に供与される経済的な利益のうち、毎月おおむね一定であるものを定期同額給与に含めます。法人税基本通達9-2-11はその例として、役員の個人的費用(9-2-9(10))で毎月負担する住宅の光熱費など、額が毎月著しく変動しないものを挙げています。社交団体等の経常会費で経常的に負担するもの(同(5))も例示されています。
月額固定のジム会費を会社が毎月払っている場合、給与と扱われても定期同額給与として損金になる余地があると読めます。ただし、この通達はジム会費を名指ししていません。個別の該当性は税理士に確認してください。一方、入会金・年1回の更新料・パーソナルトレーニングの都度払いは、毎月一定とは言えません。
損金になるかどうかと、社長個人に課税されるかは別の問題です。定期同額で損金になっても、社長側では給与所得として所得税・住民税がかかり、会社は源泉徴収をする必要があります。年末調整の対象額にも含めます。
扱いごとの正味負担を計算した
月会費を12か月会社が払ったとき、会社の税引後の負担と社長の所得税・住民税の増加を合わせた正味の負担を、4つの扱いで比べました。比較の基準は、会社は払わずに社長が手取りから払うケースです。
| 月会費(年額) | A 福利厚生費 | B 給与・定期同額で損金 | C 給与・損金不算入 | D 社長が自腹 |
|---|---|---|---|---|
| 8,000円(96,000円) | 73,800円 | 85,500円 | 107,700円 | 96,000円 |
| 15,000円(180,000円) | 138,200円 | 160,000円 | 201,800円 | 180,000円 |
| 30,000円(360,000円) | 276,700円 | 320,200円 | 403,500円 | 360,000円 |
※ 会社の税引後負担+社長の所得税・住民税の増加の合計。一人社長の会社(東京23区)、役員報酬 月40万円、会費計上前の利益500万円、社長は40歳未満・独身(社会保険料 年698,148円)。経済的利益への社会保険料は含めない。当サイトで計算(scripts/hitori-shacho-gym-kaihi.mjs)
読み取れることは3つあります。
- 福利厚生費(A)として認められれば、月1.5万円で自腹(D)より年4.18万円軽くなる。これは会社の法人税等が減る分です
- 給与と扱われても、定期同額で損金になれば(B)自腹より年2万円軽い。会社の損金になる効果が、社長側の追加税を上回るためです
- 損金不算入の給与(C)になると、自腹より年2.18万円重い。会社で払ったことで、自分で払うより負担が増える逆転が起きます
つまり、会社で払う意味があるのはAかBの形に収まる場合だけです。入会金のような一時払いを社長個人の利益として会社が負担すると、Cの形になりやすくなります。
同じ構造で社長の私的な支出全般を計算した例は、社長の私的な支出を会社で払うと役員給与になるにあります。ジム会費はその中でも「毎月一定の額」になりやすく、BとCの差が出やすい支出です。
個人事業主のままなら原則として経費にならない
個人事業主の場合、ジム会費は家事上の費用です。国税庁のNo.2210は、家事上の費用は必要経費にならず、家事関連費のうち必要経費になるのは業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限られるとしています。
体が資本の仕事であっても、健康維持は業務の前提であって、業務遂行上直接必要とは区分しにくいのが通常です。スポーツインストラクターが指導の場として使うなど、業務との直接の関係を示せる場合は別の検討になります。
「法人化すればジム代が経費になる」という説明は、個人では原則経費にならないものが、法人では福利厚生費の形を取れる場合があるという意味では成り立ちます。しかし一人社長の場合は、上で見たとおり役員だけへの利益という壁があります。ジム代の扱いだけで法人化の損得が変わる規模ではないので、判断は売上・所得全体で行ってください。
境目をはっきりさせるための実務
福利厚生費として説明するなら、次の点をそろえます。
- 規程で対象者を役員・従業員の全員とし、利用条件を客観的に定める
- 従業員を雇ったら、実際に案内し利用できる状態にする
- 法人会員として会社が契約し、会社から施設へ直接支払う
- 社長だけの高額コースやパーソナルトレーニングは個人負担に分ける
- 接待で使った場合は日付・相手先・人数を記録し、交際費等に分ける
従業員がいない間は、1〜3をそろえても役員だけへの利益という事実は変わりません。その期間は、毎月一定額の給与として源泉徴収し、定期同額給与の形で処理する、または社長が自分で払う、という選択肢を税理士と比べることになります。
役員報酬を月1.5万円上げて社長が自分で払う方法もありますが、この場合は報酬として社会保険料の計算にも入ります。経済的利益が社会保険の報酬に入るかは現物給与の扱いを別に確認する必要があり、上の表には含めていません。
健康に関する支出のうち、人間ドックは国税庁の質疑応答事例で条件が示されており、判断の軸が少し違います。一人社長の人間ドックは会社負担できる?で整理しています。社員旅行の扱いは一人社長の社員旅行は経費になる?、慶弔見舞金は一人社長の慶弔見舞金を参照してください。
まとめ
- 所得税基本通達36-29は福利厚生施設の運営費等を非課税とするが、役員だけを対象とする場合を除いている。一人社長のジム会費はこれに当たりやすい
- 法人税基本通達9-7-13の2により、ジム等の年会費は使途に応じて交際費等・福利厚生費・給与に分かれる。入会金はゴルフクラブの扱いを準用する
- 給与とされても、毎月一定の月会費は定期同額給与として損金になり得る(9-2-11)。社長側の給与課税と源泉徴収は残る
- 月1.5万円の例では、正味の年間負担は福利厚生費13.8万円、定期同額の給与16.0万円、損金不算入の給与20.2万円、自腹18.0万円
- 個人事業主のジム会費は家事上の費用で、原則として必要経費にならない
ジム代の数万円より、役員報酬の水準や法人化そのものの損得のほうが金額は大きくなります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
法人契約のジムなら、一人社長でも福利厚生費になりますか?
契約名義が法人であることだけでは決まりません。所得税基本通達36-29は、役員だけを対象として供与される経済的利益を非課税の扱いから除いています。従業員がいない会社で社長だけが使う場合は、名義にかかわらず給与と扱われるリスクが残ります。
ジムの入会金はどう処理しますか?
法人税基本通達9-7-13の2は、ゴルフクラブの入会金の扱いを体育施設などのレジャークラブに準用します。法人会員なら原則資産計上、特定の役員が専ら業務と関係なく使うものや個人会員としての入会金は、その役員への給与とされます。有効期間があり返還されない入会金は、給与とされるものを除き繰延資産として償却できます。
従業員を雇えばジム会費は福利厚生費になりますか?
従業員も同じ条件で利用でき、実際に利用機会がある制度になれば、福利厚生費として説明しやすくなります。ただし社長だけ高額なコースを使う、従業員には案内していないといった実態なら、役員だけへの利益と見られる余地は残ります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。