役員報酬

社長の私的な支出を会社で払うと役員給与になる。損金にならず所得税もかかる

結論

会社が社長個人の費用を負担すると、法人税法34条4項により社長への役員給与(経済的な利益)として扱われます。毎月おおむね一定の額でなければ定期同額給与に当たらず、損金になりません。30万円の私的な支出なら、損金になれば法人税等が6.9万円減るはずが実際は減らず、社長の所得税・住民税が3.6万円増えます。期待との差は10.6万円です(役員報酬月40万円・利益500万円の会社の概算)。

  • 法人税基本通達9-2-9は、役員のために個人的費用を負担した場合を経済的な利益の例に挙げている
  • 毎月負担する住宅の光熱費などで額が大きく変動しないものは定期同額給与として損金になる(同9-2-11)。それでも社長の給与課税は残る
  • 給与として扱われれば源泉徴収も必要になり、漏れていれば不納付加算税の対象になる

一人社長の会社では、会社の口座と自分の財布の境目があいまいになりがちです。家族との食事、私用の買い物、自宅の家電。これを会社のお金で払って経費にすれば節税になる、と考える人もいます。税法の扱いは逆です。社長の私的な支出を会社が払うと、それは社長への給与になります。

会社が社長の個人的費用を払うと、役員給与になる

法人税法34条4項は、役員給与に「債務の免除による利益その他の経済的な利益」を含むとしています。現金で払う報酬だけでなく、会社が役員に利益を与えた場合もすべて給与です。

何が経済的な利益に当たるかは、法人税基本通達9-2-9が例を挙げています。一人社長に関係が深いものを抜き出すと次のとおりです。

通達の号内容典型的な例
(1)役員に資産を贈与した会社で買った家電を自宅に持ち帰る
(6)住宅を無償・低額で提供した社宅の家賃を取らない
(7)無利息・低利で金を貸した役員貸付金に利息を付けない
(9)交際費・旅費等の名目で渡し、業務に使ったことが明らかでない領収書のない仮払金の精算
(10)役員のために個人的費用を負担した家族旅行、私用の買い物、子の習い事
(11)社交団体の会費を負担した個人として入ったクラブの会費

(10)がいちばん広く、会社が社長の私生活の費用を払えば、額にかかわらずここに入ります。

定期同額でなければ、損金にならない

役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たらなければ損金になりません(法人税法34条1項)。一人社長の会社で使えるのは実質的に前の2つです。

私的な支出は、たいてい不定期で額もばらばらです。定期同額給与に当たらず、事前の届出もしていないので、全額が損金不算入になります。

毎月一定なら定期同額給与になる

例外もあります。法人税法施行令69条1項2号は、継続的に供与される経済的な利益で、毎月おおむね一定の額のものを定期同額給与に含めています。法人税基本通達9-2-11は、その例として次を挙げています。

  • 毎月負担する住宅の光熱費など(額が毎月著しく変動するものを除く)
  • 社宅の家賃の差額、低利の貸付けの利息の差額(毎月著しく変動するものを除く)
  • 毎月定額で渡す渡切交際費
  • 社交団体の会費や生命保険料で、経常的に負担するもの

これらは会社の側では損金になります。ただし社長への給与であることは変わらないため、社長の側では給与所得として課税されます。損金になるかどうかと、給与になるかどうかは別の問題です。

期待した節税と、実際の負担の差

役員報酬を月40万円払い、その後の利益が500万円の会社で、社長の私的な支出を会社が払った場合です。「経費になる」と思っていた場合の法人税等の減少と、役員給与とされた場合の実際を並べました。

会社が払った私的な支出損金になれば減るはずの法人税等役員給与とされた場合:法人税等の減少役員給与とされた場合:社長の所得税・住民税の増加期待との差
100,000円23,000円0円12,100円35,100円
300,000円69,300円0円36,300円105,600円
1,000,000円228,200円0円147,000円375,200円

※ 一人社長の会社(東京23区)、役員報酬 月40万円、役員報酬を払った後の利益500万円、社長は40歳未満・独身(社会保険料 年698,148円)。社長の所得税は復興特別所得税込み。臨時の経済的な利益には社会保険料がかからない前提。当サイトで計算(scripts/yakuin-shiteki-shishutsu.mjs)

100万円の私的な支出を会社で払うと、期待では法人税等が22.8万円減るはずでした。実際は法人税等は1円も減らず、社長の所得税・住民税が14.7万円増えます。期待との差は37.5万円です。

比較の基準を「社長が自分の手取りから払った場合」に置くと、会社で払ったことで増えるのは社長の所得税・住民税の列です。会社で払っても得にならないどころか、自分の財布から払うより負担が増えます。

税務調査で見つかると、さらに加算税が乗る

上の表は、自分で気づいて正しく処理した場合の数字です。税務調査で指摘されると、法人税等に過少申告加算税と延滞税が加わります。給与として扱われる以上、会社には源泉徴収の義務もあり、徴収していなければ源泉所得税の不納付加算税の対象になります(源泉所得税の納付遅れと加算税)。

業務の支出と私的な支出を分ける線

会社の経費になるのは、業務のために使ったことを説明できる支出です。通達9-2-9(9)が「業務のために使用したことが明らかでないもの」を給与としているのは、裏返せば、説明できないものは給与と扱われるということです。

分けるときの目安は次のとおりです。

  • 業務と私用の兼用品(携帯電話、パソコン、車):業務の使用割合を記録しておく。私用の割合が大きいものを全額経費にしない
  • 飲食:相手と目的を記録する。社長が一人で食べた食事は業務との関係を説明しにくい
  • 旅行:業務の日程と観光の日程を分ける。家族の分の旅費は業務と関係がない
  • 間違えて会社のカードで払った:その時点で社長への立替金として処理し、社長が会社に返す

社長個人の立替金や貸付金にすれば給与にはなりません。ただし返済せずに放置したり、利息を取らなかったりすると、別の経済的な利益の問題が出ます(役員貸付金の認定利息)。

会社で払ってよい福利厚生の支出にも、それぞれ条件があります。健康診断は一人社長の健康診断・人間ドック、旅行は一人社長の社員旅行で、給与にならない要件を整理しています。

まとめ

  • 会社が社長の個人的費用を負担すると、法人税法34条4項の経済的な利益として役員給与になる
  • 不定期・不定額の私的な支出は定期同額給与に当たらず、全額が損金不算入になる
  • 毎月一定の光熱費負担などは定期同額給与として損金になるが、社長の側の給与課税は残る
  • 30万円の私的な支出で、期待した節税6.9万円は生まれず、社長の税金が3.6万円増える
  • 給与になれば源泉徴収も必要。業務と私用の兼用品は使用割合を記録して分ける

法人化の手取りは、「経費にできる範囲が広がる」ことを前提にすると過大に見えます。一般論の数字ではなく、自分の売上と実際の経費で確かめてください。

よくある質問

私的な支出を会社で払ってしまった場合、社長への貸付金にすれば問題ありませんか

社長が会社に返済する前提で、立替金や役員貸付金として処理し、実際に返済するなら、給与ではなく貸付けです。ただし無利息や低利のままだと、利息相当額が経済的な利益として扱われます。

社長の携帯電話代やパソコンは、会社で払ってはいけないのですか

業務に使っているものは会社の経費になります。問題になるのは、法人の業務のために使ったことが明らかでない部分です。私用と兼用なら、業務の使用割合を説明できるようにしておきます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。