税金の基礎
同族会社の行為計算否認(法人税法132条)は一人会社で何を見るか
結論
株主が社長1人の会社は、法人税法2条10号の同族会社に必ず当たり、132条の行為計算否認の対象です。最高裁は、否認できるのは経済的かつ実質的な見地で不自然・不合理な、経済的合理性を欠く行為に限るとしています。税負担が下がるだけでは否認されず、売上1,200万円・経費200万円で役員報酬を役員報酬を月10万円から月54万円に変えると手取りが年29.9万円増えますが、報酬の額は34条が個別に規律しています。
- 同族会社の判定は株主3人以下とその特殊関係者で発行済株式の50%超。株主1人の会社は100%を持つので常に該当する
- 社長個人の所得税には所得税法157条が同じ構造で効く。社長が会社に3,455億円超を無利息・無期限・無担保で貸した平和事件では、利息相当額の雑所得が認定された
- 役員報酬の額は34条(定期同額・不相当に高額)が個別に規律する。132条が問題になりやすいのは、家賃・資産の売買・利息など、社長と会社の間で値段を自由に決められる取引
132条は「同族会社が税金を減らすと否認される規定」と紹介されがちですが、条文と最高裁の基準を読むと、否認されるのは経済的合理性を欠く取引に限られます。一人社長の会社にとって大事なのは、どの取引が「値段を自由に決められる取引」で、どこに合理性の記録が要るのかを知っておくことです。
株主1人の会社は、例外なく同族会社に当たる
法人税法2条10号は、株主等の3人以下とその特殊関係者が発行済株式の50%を超えて持つ会社を同族会社と定めています。個人事業から法人成りした一人会社は、社長1人が100%を持つので、判定するまでもなく該当します。合同会社の社員の持分も同じです。
同族会社にだけ特別な否認規定が置かれている理由は、最高裁が令和4年4月21日の判決ではっきり述べています。同族会社は意思決定が少数の株主の意図に左右されるため、税負担を不当に減らす行為や計算が行われやすい。そこで税負担の公平を保つために、そうした行為を「正常な行為又は計算に引き直して」課税する権限を税務署長に与えた、という整理です。
一人会社に当てはめると、この理由はそのまま成り立ちます。家賃をいくらにするか、社長の車をいくらで会社に売るか、社長からの借入れに利息を付けるか。取引の両側にいるのが同じ1人なので、相手方との交渉で値段が決まるという通常の仕組みが働きません。
法人成りした会社には、同族会社でなくても効く号がある
132条1項には、同族会社のほかにもう1つ対象が書かれています。次の3つをすべて満たす法人です。
- 支店・工場その他の事業所が3つ以上ある
- その半数以上の事業所で、所長などが以前その事業所で個人として事業を営んでいた
- そうした所長等が、法人の発行済株式の3分の2以上を持っている
これは、複数の個人事業者が店舗ごと1つの法人にまとまった形を想定した規定です。株主が4人以上に分かれていて同族会社に当たらなくても、法人成りの経緯によっては否認規定の対象に入ります。
否認の基準は「税が減るか」ではなく「経済的合理性」
132条1項の要件は「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」です。「不当に」の意味について、最高裁は令和4年4月21日の判決(ユニバーサルミュージック事件)で次のように示しました。
- 同族会社の行為または計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くもので、法人税の負担を減少させる結果となるものをいう
- 借入れが経済的合理性を欠くかどうかは、借入れの目的や融資条件などの諸事情を総合的に考慮して判断する
- 一連の取引全体を見るときは、通常は想定されない手順や方法、実態とかけ離れた形式があるか、税負担の減少以外に合理的な事業目的があるか、などを考慮する
この事件では、会社が同じ企業グループから約866億円を借り入れ、その支払利息が否認されました。最高裁は、組織再編成に地域統括会社の設立などの事業目的があり、利率や返済期間も不合理とは言えないとして、否認を取り消した原審を維持しています。
税負担が減ったという結果だけでは、否認の要件を満たしません。 一人会社の実務に置き直すと、問われるのは「その取引に、税金以外の理由と、第三者との間でも通る条件があるか」です。
社長個人の側には、所得税法157条が同じ形で効く
否認規定は法人税だけではありません。所得税法157条は、同族会社の行為や計算で、株主である個人の所得税の負担を不当に減らす結果になるものを、税務署長が引き直して計算できると定めています。法人の取引を使って社長個人の税金が減る場合の規定です。
この条文が使われた代表例が、最高裁平成16年7月20日判決(平和事件)です。同族会社の出資の大半を持つ代表者が、会社に3,455億円を超える金額を無利息・無期限・無担保で貸し付けました。税務署は157条を適用し、利息相当分の雑所得があるとして所得税を増額更正しました。
最高裁はこの貸付けを、不合理・不自然な経済活動であり、経営責任を果たすために実行したとは認め難いと評価しています。判決は、国税局職員が編集・監修した解説書に「会社へ無利息貸付けをした代表者個人に所得税は課されない」趣旨の記述があったことにも触れています。そのうえで、その記述は経営責任の観点から無利息にする社会的・経済的に相当な理由があることを前提にしたものだ、と位置づけました。
つまり、社長が会社の資金繰りのために無利息で貸すこと自体は、通常は課税されません。役員借入金の返済と利息の扱いは役員借入金を返しても税金0円の理由で整理しています。平和事件が示したのは、金額・期間・担保の条件が経営上の必要と釣り合わないほど極端になると、同じ「無利息」でも結論が変わるということです。
役員報酬の額は、まず34条が見る
一人社長にとって最も大きな「自分で値段を決める取引」は役員報酬です。計算エンジンで報酬額を総当たりすると、同じ売上・経費でも手取りがこれだけ動きます。
| 役員報酬 | 手取り合計 | 役員個人の手取り | 法人に残る額 | 社会保険料(労使計) |
|---|---|---|---|---|
| 月10万円 | 632.5万円 | 102.8万円 | 529.6万円 | 33.4万円 |
| 月20万円 | 642.4万円 | 196.3万円 | 446.1万円 | 68.1万円 |
| 月30万円 | 650.8万円 | 289.1万円 | 361.6万円 | 102.2万円 |
| 月40万円 | 654.8万円 | 378.8万円 | 276.1万円 | 139.6万円 |
| 月50万円 | 659.7万円 | 468.6万円 | 191.1万円 | 170.3万円 |
| 月54万円 ←最適 | 662.4万円 | 504.8万円 | 157.6万円 | 180.5万円 |
| 月60万円 | 653.6万円 | 547.8万円 | 105.8万円 | 200.9万円 |
| 月70万円 | 646.8万円 | 625.4万円 | 21.4万円 | 228.6万円 |
| 月80万円 | 615.8万円 | 704.8万円 | -89.0万円 | 238.3万円 |
| 月90万円 | 570.0万円 | 784.4万円 | -214.4万円 | 249.2万円 |
| 月100万円 | 519.7万円 | 860.2万円 | -340.4万円 | 261.3万円 |
※ 売上1,200万円・経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額
月10万円と月54万円では、手取り合計が年29.9万円違います。法人と社長の間で利益をどう分けるかを、株主である社長自身が決められるからこそ生まれる差です。株主と役員が別人の会社なら、報酬の額は株主と役員の利害の調整の中で決まります。役員報酬の最適額という問いが成り立つこと自体が、同族会社の特徴です。
それでも、この選択が132条で否認されるとは通常考えにくい構造になっています。役員報酬には34条という専用の規定があるからです。
- 34条1項:定期同額給与など、決め方と払い方の要件を満たさない給与は損金にならない
- 34条2項:要件を満たしていても、不相当に高額な部分は損金にならない
報酬の額をいつ・どう決め、どこまで認めるかは、この2つで個別に線が引かれています。月54万円は、事業所得1,000万円の会社の唯一の役員の報酬として、法人に157.6万円が残る水準です。表の下の方、月80万円以上では法人が赤字になります。会社の利益をすべて上回る報酬が「不相当に高額」に当たるかどうかは、一人社長の過大役員給与で扱った34条2項の論点です。
132条が問題になりやすいのは「値段を自由に付けられる取引」
34条のような専用の規定がない取引では、値段の付け方そのものが問われます。一人会社でよく出てくる取引を、効く規定ごとに並べました。
| 取引 | 主に効く規定 | 値段の目安になるもの |
|---|---|---|
| 役員報酬の額・支払い方 | 法人税法34条 | 定期同額の要件、職務と会社の収益 |
| 社長の資産を会社に売る | 所得税法59条・157条 | 時価。2分の1未満はみなし譲渡 |
| 社長の自宅・建物を会社に貸す | 法人税法132条・所得税法157条 | 近隣の賃料相場 |
| 社長が会社にお金を貸す | 所得税法157条(平和事件) | 経営上の必要と金額・期間の釣り合い |
| 会社が社長にお金を貸す | 法人税法22条・34条4項 | 認定利息(適正な利率) |
| 社長が別に持つ会社との取引 | 法人税法132条 | 第三者との取引条件 |
資産の売買では、時価の2分の1未満なら所得税法59条で時価で売ったものとみなされます。それ以上の価格でも、国税庁の所得税基本通達59-3は、157条に当たれば時価で計算できるとしています。2分の1という線を超えれば安全、という読み方はできません。詳しくは法人成りで車を会社に安く売る場合の2分の1の線で扱いました。
社長の建物を会社に貸す取引も同じ構造です。家賃を相場より高くすれば、会社の損金が増えて社長の不動産所得が増え、相場より低くすれば逆になります。どちらに動かしても、両側が同じ人なので税金の差だけが残ります。不動産を管理会社に移す方式ごとの論点は不動産管理会社の3方式にまとめています。
否認されたときの計算と、日頃残しておくもの
132条で否認されると、税務署長は、その行為や計算を正常なものに引き直して法人税を計算します。否認されるのは課税の計算上だけで、契約そのものが無効になるわけではありません。会社は約束どおりの家賃を払い続けますが、税金の計算では相場との差額が損金から外れる、という形になります。
もう1つ押さえておきたいのが、両側の計算がつながっている点です。所得税法157条3項は、法人税法132条1項の適用があったときに、株主である個人の所得税の側でも対応する計算ができると定めています。法人税法132条3項にも、逆向きの準用規定があります。片方だけ否認されて二重に課税される形を避けるためです。
日頃の備えとしては、最高裁が挙げた考慮要素をそのまま記録の項目にするのが分かりやすいです。
- 目的:その取引を行う税金以外の理由(資金繰り、事業用の場所の確保など)
- 条件:家賃・価格・利率の根拠(近隣の募集賃料、査定書、金融機関の金利など)
- 形式と実態の一致:契約書、振込の記録、実際の利用状況
判定の時点は、132条2項により行為や計算があった時の現況です。後から根拠を作るより、取引を始めるときに残しておくほうが確実です。
ここまでの数字は売上1,200万円・経費200万円・東京23区・独身という条件での概算です。役員報酬の額で手取りがどれだけ動くかは、判定ツールに自分の売上と経費を入れると、月5万〜100万円の全パターンで確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 株主が社長1人の会社は、法人税法2条10号の同族会社に常に当たり、132条の行為計算否認の対象になる
- 最高裁(令和4年4月21日)は、否認できるのは経済的かつ実質的な見地で不自然・不合理な、経済的合理性を欠く行為に限るとした。税負担が減るだけでは否認されない
- 社長個人の所得税には所得税法157条が効く。平和事件では、3,455億円超の無利息・無期限・無担保の貸付けに利息相当額の雑所得が認定された
- 役員報酬の額は34条が個別に規律する。売上1,200万円・経費200万円で月10万円と月54万円の手取りの差は年29.9万円
- 132条が問題になりやすいのは、家賃・資産の売買・利息など、社長と会社の間で値段を自由に付けられる取引。目的・条件の根拠・実態の記録を取引の開始時に残す
よくある質問
一人会社だと、税金が減る取引はすべて否認されるのですか。
されません。最高裁は令和4年4月21日の判決で、否認の対象は経済的かつ実質的な見地において不自然・不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くもので、法人税の負担を減少させる結果となるものに限るとしています。税負担が減るだけでは足りず、取引として不自然・不合理であることが要件です。
社長が会社にお金を無利息で貸すと、社長に利息の所得が課税されますか。
通常の資金支援であれば、無利息の貸付けで社長に利息の所得が生じるわけではありません。ただし最高裁は、社長が会社に3,455億円超を無利息・無期限・無担保で貸した事案で、不合理・不自然な経済活動だとして所得税法157条による利息相当額の課税を前提に判断しました。金額・期間・目的が経営上の必要と釣り合っているかが分かれ目です。
132条で否認されると、どう計算し直されるのですか。
税務署長が、その行為や計算を正常なものに引き直して、法人税の課税標準や税額を計算します。否認されるのは税金の計算上だけで、契約そのものが無効になるわけではありません。法人側で否認されたときは、所得税法157条3項により社長個人の所得税の側でも対応する計算が行われます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。