税金の基礎
不動産管理会社の3方式。管理料率より手取りを動かすのは社会保険の切替
結論
家賃収入2,000万円・経費900万円の独身の人では、管理委託やサブリースで家賃の5〜20%を法人に移し、本人が月6〜7万円の役員報酬を受けると、世帯の手取りは個人のままより年93.9〜96.1万円増えます(税理士報酬の増加35万円を引く前の概算)。管理料率を4倍にしても差は2.2万円しか動きません。差の大半は、国保・国民年金から役員報酬だけで決まる健康保険・厚生年金に移ることから生まれます。
- 役員報酬を0円にして国保のままでいると、家賃の5%を移しても手取りは個人のままより年4.0万円減る。法人に移した所得に法人の税と均等割がかかるため
- 建物ごと法人が持つ所有方式は、同じ条件で年11.1万円の増加にとどまる。所得1,100万円がすべて役員報酬と法人の利益になり、社会保険料も上がるため
- 同族の管理会社への管理料は、同族関係にない管理会社に委託している同業者の管理料割合と比べられる。サブリースの差額も管理料相当額として同じ物差しで測られる
不動産管理会社は、家賃収入の一部を法人に移す仕組みです。移し方は3つあり、どれを選ぶかで法人に移る所得の割合が変わります。ところが計算してみると、手取りを大きく動かすのは割合そのものではありません。
3つの方式で、法人に移る所得が変わる
| 方式 | 契約の形 | 法人に移る所得 | 建物の名義 |
|---|---|---|---|
| 管理委託 | 個人が入居者に貸し、管理業務を法人に委託する | 管理料(家賃×管理料率) | 個人のまま |
| サブリース | 個人が法人に一括で貸し、法人が入居者に転貸する | 転貸料と借上げ賃料の差額 | 個人のまま |
| 所有 | 法人が建物を持ち、入居者に貸す | 家賃収入から経費を引いた所得のすべて | 法人 |
管理委託とサブリースは、建物を個人に残したまま所得の一部だけを移します。所有方式は所得をまるごと法人に移せますが、建物を法人に売る段階で譲渡所得・登録免許税・不動産取得税がかかります。移転の税は法人成りで建物・土地を法人名義にするで計算しています。
サブリースは法人が空室のリスクを負うぶん、管理委託より差額を大きく取りやすい形です。ただし後で見るとおり、税務上はその差額も「管理料相当額」として測られます。
家賃収入2,000万円で、方式別に計算する
家賃収入2,000万円・経費900万円(管理料を払う前)の人で比べます。管理委託とサブリースは法人に移る額を家賃の5〜20%で動かし、本人が法人の役員になって報酬を受ける形にしました。報酬は0円から月100万円まで1万円刻みで総当たりし、世帯の手取りが最大になる額を採っています。
| 方式(法人に移る額) | 本人の役員報酬 | 世帯の手取り | 個人のままとの差 | 税理士報酬の増加を引いた差 |
|---|---|---|---|---|
| 個人のまま | — | 707.1万円 | — | — |
| 家賃の5%(100万円) | 月6万円 | 801.0万円 | +93.9万円 | +58.9万円 |
| 家賃の10%(200万円) | 月7万円 | 802.6万円 | +95.5万円 | +60.5万円 |
| 家賃の15%(300万円) | 月7万円 | 803.2万円 | +96.1万円 | +61.1万円 |
| 家賃の20%(400万円) | 月7万円 | 802.6万円 | +95.4万円 | +60.4万円 |
| 所有(所得1,100万円すべて) | 月51万円 | 718.2万円 | +11.1万円 | −8.9万円 |
※ 住宅の貸付けのみ(家賃は消費税非課税)、東京23区・協会けんぽ東京・40〜64歳・独身。世帯の手取り=本人の手取り(税・社会保険料の後)+法人に残る税引後利益×80%。個人のままは青色申告特別控除65万円・国保・国民年金。個人事業税は東京都の不動産貸付業(5%・事業主控除290万円)として計算。法人の管理業務の実費、建物の移転にかかる税は含めない。税理士報酬は法人35万円・個人15万円の前提(管理委託・サブリースは個人の申告も残るため35万円、所有は20万円増える)。当サイトで計算(scripts/fudosan-kanri-kaisha-hoshiki.mjs)
法人に移す割合を5%から20%へ4倍にしても、手取りの差は93.9万円から96.1万円の間で、ほとんど動きません。一方で、所有方式は所得をすべて移すのに、増加は11.1万円にとどまります。
家賃収入1,200万円・経費600万円で同じ計算をすると、管理料5〜20%で年59.5〜72.7万円の増加、所有方式は年14.0万円の減少でした。規模が小さいと所有方式の不利がはっきりします。
差を生んでいるのは、社会保険の切替
内訳を並べると、どこで差が出ているかが分かります。
| 項目 | 個人のまま | 管理料10%・役員報酬月7万円 |
|---|---|---|
| 本人の社会保険料 | 134.4万円 | 14.4万円 |
| 所得税(復興特別所得税込み) | 132.0万円 | 115.5万円 |
| 住民税 | 86.0万円 | 79.0万円 |
| 個人事業税 | 40.5万円 | 30.5万円 |
| 法人が負担する社会保険料 | 0.0万円 | 14.8万円 |
| 法人の税(均等割を含む) | 0.0万円 | 28.6万円 |
| 合計 | 392.9万円 | 282.8万円 |
※ 条件は上の表と同じ。当サイトで計算(scripts/fudosan-kanri-kaisha-hoshiki.mjs)
減った約110万円のうち、120.0万円は本人の社会保険料です。個人のままでは、国民健康保険料が不動産所得に比例してかかり、国民年金保険料も払います。役員報酬を受けると本人は健康保険・厚生年金の被保険者になり、国保と国民年金から外れます。
健康保険法3条5項は、保険料の基礎になる「報酬」を、労働の対償として受けるものと定めています。個人に残る家賃収入は報酬ではないため、保険料の計算に入りません。月7万円の報酬なら、保険料は法人だけが負担する子ども・子育て拠出金を含めて年29.3万円です。
これを裏返すと、役員報酬を受けずに国保のままでいる場合は、ほとんど得になりません。
| 法人に移る額 | 報酬0円(国保のまま) | 最適な報酬 | 差 |
|---|---|---|---|
| 家賃の5% | 703.1万円 | 801.0万円(月6万円) | +97.9万円 |
| 家賃の10% | 706.4万円 | 802.6万円(月7万円) | +96.3万円 |
| 家賃の15% | 712.1万円 | 803.2万円(月7万円) | +91.2万円 |
| 家賃の20% | 719.4万円 | 802.6万円(月7万円) | +83.2万円 |
※ 条件は上の表と同じ。当サイトで計算(scripts/fudosan-kanri-kaisha-hoshiki.mjs)
家賃の5%を移しただけでは、個人のまま(707.1万円)より4.0万円少なくなります。法人に移した所得には法人の税と均等割がかかり、法人に残した利益を個人に引き出すときにもコストがかかるからです。「所得を分けて累進税率を下げる」という管理会社の説明は、独身で報酬を取らない形ではほぼ成り立ちません。
この構造は、事業所得の人が法人と個人事業を併用する形と同じです。固定費や将来の年金への影響はマイクロ法人は意味ないのかで整理しています。
過大な管理料は、同業者の割合で引き直される
管理料率を高くしても手取りはほとんど増えませんが、否認されるリスクは増えます。所得税法157条は、同族会社との取引で所得税の負担を不当に減らす結果になるとき、税務署長が通常の取引に引き直して計算できると定めています。
国税不服審判所の公表裁決では、管理料の適否を次の物差しで判断しています。
| 裁決 | 方式 | 実際の管理料 | 審判所・原処分庁が用いた割合 |
|---|---|---|---|
| 平成4年11月19日 | 管理委託(貸ビル) | 昭和62年分は賃貸料収入2,865万円に対し1,080万円 | 同族関係にない管理会社に委託する同業者の管理料割合の平均(6.61〜6.82%) |
| 平成6年6月24日 | サブリース(又貸し) | 平成元年分は又貸し料7,709万円に対し、管理料相当額4,307万円 | 同規模の建物の管理を委託する同業者の平均管理料割合(10.58〜12.70%) |
平成4年の事例で比べた同業者は、県内に貸ビルを持ち、賃貸料収入が請求人の0.5倍以上2倍以下の青色申告者です。割合はこうした比べる相手で決まる値で、一般的な上限を示したものではありません。
サブリースの事例では、又貸し料から管理費の実費と個人への賃借料を引いた額を「管理料相当額」とし、管理委託と同じ割合で比べています。契約をサブリースにしても、差額が管理の対価として測られる点は変わりません。
公表裁決事例要旨には、不当に減少したかどうかの判断に、本人が役員として受けた報酬や法人の法人税を考慮すべきでないとした事例も載っています。「法人側で税を払っているので世帯全体では減っていない」という反論は通りにくい、ということです。
サブリースで変わりうる、事業的規模と消費税
事業的規模の判定
所得税では、アパートなら独立した室数がおおむね10室以上で事業的規模とされ、青色申告特別控除65万円が使えます(国税庁 No.1373)。サブリースにすると、本人の貸付先は管理会社1社になります。
公表裁決事例要旨には、事務所を同族会社1社だけに専属的に貸し、維持管理の業務も実質的に少なかった人について、不動産所得を生ずべき事業に当たらないとした事例があります(平成16年9月27日裁決)。住宅のサブリースにそのまま当てはまるとは限りませんが、65万円が10万円になった場合の影響を計算しておきます。
| 法人に移る額 | 65万円のまま | 10万円になった場合 | 差 |
|---|---|---|---|
| 家賃の5% | 801.0万円 | 781.2万円 | −19.9万円 |
| 家賃の10% | 802.6万円 | 784.2万円 | −18.4万円 |
| 家賃の15% | 803.2万円 | 785.6万円 | −17.6万円 |
| 家賃の20% | 802.6万円 | 784.8万円 | −17.8万円 |
※ 条件は上の表と同じ。当サイトで計算(scripts/fudosan-kanri-kaisha-hoshiki.mjs)
年17.6〜19.9万円の差です。個人事業税の不動産貸付業の認定も都道府県が室数・棟数で判定するため、1社への一括貸しをどう扱うかは都道府県に確かめる必要があります。上の表はどちらの方式でも不動産貸付業に当たるものとして計算しています。
消費税は、どの方式でも判断に効きにくい
住宅の家賃は消費税が非課税です。消費税法基本通達6-13-7は、借りた人が自分で住まなくても、住宅として転貸することが契約で明らかなら住宅の貸付けに含まれるとしています。サブリースでは、個人から法人への貸付けも、法人から入居者への転貸も非課税です。
管理委託の管理料は役務の対価なので課税取引です。ただし住宅だけを貸す個人は課税売上がなく、管理料の消費税を控除できません。管理会社がインボイス登録をしても貸主の負担は変わらないため、住宅の貸付けでは、インボイスの有無は方式の選択にほとんど効きません。店舗や事務所を貸している場合は家賃が課税になるので、この限りではありません。
方式を選ぶ前に確かめたいこと
計算の前提に置いたことのうち、結果を左右するものを挙げます。
- 法人が管理業務を実際に行うこと。 外部の管理会社にすでに委託しているなら、同族の管理会社に払う管理料は業務の重複と見られやすくなります
- 役員報酬が職務に見合うこと。 月6〜7万円は手取りが最大になる額で、その額の報酬で業務を担う実態が要ります
- 配偶者や家族がいる場合。 国保は世帯の人数で均等割がかかり、国民年金は1人ずつ払います。家族構成で個人のままの負担が変わるため、上の差額も変わります
- 建物の帳簿価額と借入金。 所有方式は、移転時の譲渡所得と借入金の借換えも含めて比べる必要があります
自分の家賃収入と経費で個人のままの負担を出したうえで、判定ツールで法人化した場合と比べてください。判定ツールは事業所得を前提にしていますが、所有方式に近い「所得をすべて法人に移した場合」の目安になります。
まとめ
- 管理委託・サブリース・所有の違いは、法人に移る所得の割合。所有だけが建物の移転の税を伴う
- 家賃収入2,000万円では、管理料率を5%から20%にしても手取りの差は93.9〜96.1万円でほぼ変わらない
- 差の大半は、役員報酬を受けて国保・国民年金から健康保険・厚生年金に移ることによる。報酬0円で国保のままなら、5%を移しても年4.0万円減る
- 過大な管理料は、同族関係にない管理会社に委託する同業者の割合で引き直される。サブリースの差額も同じ物差しで測られる
- サブリースでは事業的規模と個人事業税の判定が変わりうる。65万円が10万円になると年17.6〜19.9万円減る
一般論の数字ではなく、自分の家賃収入と経費、家族の構成で確かめてください。
よくある質問
管理会社に払う管理料は、家賃の何%までなら認められますか
法令に上限の割合はありません。裁決では、同族関係にない管理会社に委託している同規模の同業者の管理料割合を平均し、それを超える部分を否認しています。割合は物件の種類・地域・業務内容で変わるため、一律の目安はありません。
管理会社が受け取る管理料に消費税はかかりますか
管理業務の対価なので課税取引です。ただし住宅の家賃は非課税で、貸主の個人は仕入税額控除を使えないため、管理会社がインボイスを発行しても貸主の消費税は減りません。管理会社の課税売上が1,000万円以下なら、免税事業者のままでいる選択肢があります。
管理会社の役員を配偶者にすると、さらに手取りは増えますか
配偶者の報酬と配偶者控除・社会保険の扱いが絡むため、この記事の計算には含めていません。役員報酬は職務の内容に見合う額である必要があり、管理業務に関わっていない家族への報酬は過大とされるおそれがあります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。