税金の基礎

所得補償保険の税金は?個人と法人で保険料・保険金の扱いが逆になる

結論

個人事業主が自分のために払う所得補償保険の保険料は必要経費になりませんが、受け取る保険金は非課税です。法人契約にすると保険料は損金になり、年12万円なら法人の税が約2.6万〜2.8万円減ります。ただし受取人を法人にすると保険金は益金になり、180万円受け取った年は法人の税が38万〜51万円増えます。

  • 所得補償保険金は所得税法施行令30条1号の「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」として非課税(所基通9-22)
  • 一人社長が受取人を本人にすると保険料は役員給与になる。法人の減税から役員の増税を差し引くと、残りは年6,300〜1万1,100円
  • 一人社長には健康保険の傷病手当金があり、個人事業主の国民健康保険には同じ給付がない。必要な補償額はここで変わる

所得補償保険は、病気やけがで働けない期間の収入を補う保険です。保険会社によっては「就業不能保険」とも呼ばれます。税の扱いは、個人で入るか、会社で入るかで保険料と保険金の効き方がちょうど逆になります。

個人事業主は保険料を経費にできない代わりに、保険金は非課税です。法人は保険料を損金にできますが、受取人を法人にすると保険金が益金になります。ここでは国税庁の通達で根拠を確かめ、計算エンジンで税額の差を出します。

個人事業主は、保険料は経費にならず保険金は非課税

保険金は「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」として非課税

所得税法9条1項18号は、損害保険契約に基づく保険金のうち政令で定めるものを非課税にしています。その政令が所得税法施行令30条で、1号に「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」が挙がっています。

所得補償保険金がこれに当たるかは、所得税基本通達9-22がはっきり書いています。被保険者の傷害または疾病で業務に従事できなかった期間の収益の補償として被保険者が受け取る保険金は、施行令30条1号の非課税の保険金に該当する、という内容です。病気の場合も含まれる点が大事です。通達9-21も、疾病による入院給付金などを同じ号に当てはめています。

受け取る人が本人以外でも、配偶者・直系血族・生計を一にする親族なら同じく非課税です(所基通9-20)。

ひとつ注意があります。施行令30条の柱書きは、保険金のうち必要経費に算入される金額を補塡するための部分を非課税から除いています。休業中も払い続ける家賃などの固定費を補う趣旨の保険金は、性質が別です。所得補償保険は収入の補償なので通常は問題になりませんが、事業の固定費を補う店舗休業保険などとは扱いを分けて考えてください。

保険料は必要経費にならない

同じ通達9-22には注書きがあります。業務を営む者が自己を被保険者として支払う保険料は、必要経費に算入できない、という一文です。保険金を非課税にする以上、保険料も事業の経費にはしない、という対の関係になっています。

では所得控除はどうか。国税庁のタックスアンサー No.1141 は、介護医療保険料控除の対象を「医療費支払事由に基因して保険金等が支払われる保険契約」としています。休業中の収入を補う給付は、医療費の支払いとは別の支払事由です。控除の対象になるかは契約ごとに確認が要るため、この記事の計算では控除はないものとして扱います。保険会社が発行する控除証明書に区分の記載があるので、それで確かめてください。

生命保険料控除の上限や、法人契約との一般的な比べ方は生命保険料控除と法人契約の比較にまとめています。

法人契約は、受取人で3通りに分かれる

一人会社が社長を被保険者として所得補償保険に入る場合、保険料の扱いは国税庁 No.5364 の「定期保険及び第三分野保険」の整理に沿います。解約返戻金のない掛け捨てを前提にすると、次のとおりです。

保険金の受取人法人の保険料保険金を受け取ったとき
法人期間の経過に応じて損金法人の益金
被保険者(社長本人)※全員加入の場合期間の経過に応じて損金本人が受け取り、非課税(所基通9-22)
被保険者(社長本人)※役員のみを被保険者とする場合役員に対する給与本人が受け取り、非課税(所基通9-22)

一人会社は、被保険者が社長ひとりです。No.5364 のいう「役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合」に必ず当たるので、受取人を本人にした時点で保険料は役員給与になります。2行目の「期間の経過に応じて損金」で済むのは、従業員も含めて加入している会社です。

給与になっても、法人の損金からは外れません。No.5364 の注書きは、法人が経常的に負担する保険料は経済的利益が毎月おおむね一定なので定期同額給与になる、としています。その代わり社長個人の給与収入が保険料の分だけ増えます。

返戻金がある契約、年30万円を超える契約は別の扱い

最高解約返戻率が50%を超える契約は、保険料の一部を資産に計上します。また、解約返戻金のない短期払いの契約について支払時に全額を損金にできる取扱いは、一の被保険者につき年30万円以下が条件です。保険期間を通じて同額を払う通常の掛け捨てなら、期間の経過に応じた損金になります。この区分は法人保険の返戻率別の資産計上割合で確認できます。

年12万円の保険料で、税はいくら減るか

ここから計算エンジンの数字です。前提は経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済みの合同会社で、役員報酬は事業所得ごとの最適額に固定しました。年間12万円の掛け捨ての保険料を、3つの形で払った場合を比べます。

事業所得最適報酬個人事業主受取人=法人:法人の税の減少受取人=本人:法人の税の減少同:役員の税の増加同:差引
600万円月42万円0円25,600円25,600円14,500円11,100円
800万円月54万円0円25,700円25,700円19,400円6,300円
1,000万円月54万円0円25,800円25,800円19,400円6,400円
1,200万円月54万円0円27,800円27,800円19,400円8,400円
1,500万円月54万円0円27,800円27,800円19,400円8,400円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人の税=法人税・地方法人税・法人住民税・事業税・特別法人事業税。役員の税=所得税(復興特別所得税を含む)・住民税 ※ 保険料を役員給与とした場合も社会保険料は変わらないものとし、所得控除の上乗せはないものとした

個人事業主は保険料が経費にも控除にもならないので、税は1円も動きません。法人で受取人を法人にすると、保険料12万円がそのまま課税所得を減らし、年2.6万〜2.8万円の減税になります。

受取人を本人にすると、法人の減税は同じですが、保険料12万円が社長の給与収入に加わります。最適報酬が月54万円の帯では所得税・住民税が1万9,400円増え、手元に残る効果は年6,000〜8,000円台まで縮みます。

受取人を法人にすると、保険金の年に税が来る

保険料の効きだけ見ると、受取人を法人にした形がいちばん有利に見えます。ただしそれは保険金を受け取らない年の話です。働けなくなって保険金が出た年には、逆向きの税が来ます。

月30万円を6か月、合計180万円の保険金が出た年を計算しました。売上と役員報酬は平年どおりという単純化した仮定です。

事業所得最適報酬法人の税引前利益(保険金なし)受取人=法人:法人の税の増加同:税引後に法人に残る保険金受取人=本人・個人事業主
600万円月42万円24.4万円384,600円141.5万円0円
800万円月54万円59.5万円384,500円141.6万円0円
1,000万円月54万円259.5万円388,200円141.2万円0円
1,200万円月54万円459.5万円417,000円138.3万円0円
1,500万円月54万円759.5万円512,100円128.8万円0円

※ 前提は前の表と同じ。保険金の年も売上・役員報酬が平年どおりと仮定

受取人が法人なら、180万円は法人の益金です。法人税等が38万〜51万円増え、法人に残るのは129万〜142万円になります。受取人が本人なら、個人事業主でも一人社長でも非課税なので税は増えません。

保険料の減税は年2.6万〜2.8万円、保険金の年の増税は38万円以上です。受取人を法人にする形は、保険料の段階で税を減らし、保険金の段階でまとめて払う構造だと言えます。損金にした保険料と益金になる保険金が対になっているので、課税が消えるわけではありません。

法人に入った保険金を社長へ渡す方法は限られる

法人が受け取った保険金を休業中の社長の生活費に回したいとき、ここが一番の問題です。

役員報酬として臨時に上乗せすると、定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たりません。国税庁 No.5211 のとおり、その部分は法人の損金になりません。社長側では給与所得として課税されるので、同じお金に二重に税がかかります。

見舞金として渡す方法もあります。所基通9-23は、見舞金で社会通念上相当なものは課税しないとしています。ただし「相当」の範囲に収まるかは、金額と社内の規程しだいです。休業中の収入を丸ごと置き換える額を見舞金で出せるとは限りません。見舞金を出したときの法人側・個人側の税の動きは一人社長の慶弔見舞金で計算しています。

結果として、受取人を法人にした所得補償保険は、社長本人の生活費というより会社の資金繰り(固定費・借入返済)を支える保険として働きます。どちらを守りたいかで受取人を決めることになります。

一人社長には傷病手当金がある。必要な補償額が違う

所得補償保険に入るかどうかを決める前に、公的な給付を確認しておく必要があります。法人化すると、ここが変わるからです。

一人社長は協会けんぽなどの健康保険に加入し、業務外の病気やけがで休んだときの傷病手当金の対象になります。協会けんぽによると、支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。一方、個人事業主が加入する市区町村の国民健康保険には、本人が休んだ期間の収入を補う給付がありません。

つまり同じ「働けなくなったときの備え」でも、個人事業主は公的給付ゼロから積み上げ、一人社長は傷病手当金の上に上乗せする形になります。法人化を考えている人が個人のうちに所得補償保険に入るなら、法人化後に補償額が過大にならないかを見直す余地があります。

ただし傷病手当金には、休業した期間について給与の支払いがないこと、という条件があります。役員報酬を払い続けている間は満額出ません。報酬を止める判断と、保険金・手当金の組み合わせは一人社長の傷病手当金で役員報酬別に計算しています。会社員の雇用保険にあたる給付が一人社長にない点は社長の雇用保険の代わりにまとめました。

傷病手当金は、法人化で社会保険料が増える代わりに得られる将来価値の一つです。単年の手取りだけでなく、こうした給付まで含めて比べると判断の軸が増えます。自分の売上と経費で、法人化後の手取りと社会保険料がどう変わるかは判定ツールで確かめてください。

まとめ

  • 所得補償保険金は、病気の場合も含めて所得税法施行令30条1号の非課税の保険金に当たる(所基通9-22)。個人事業主の保険料は必要経費にならない
  • 法人契約では、受取人が法人なら保険料は損金、保険金は益金。年12万円の保険料で法人の税は2.6万〜2.8万円減るが、180万円の保険金を受け取った年は38万〜51万円増える
  • 一人社長が受取人を本人にすると保険料は役員給与になる。保険金は非課税のまま受け取れるが、税の効果は年6,300〜1万1,100円まで縮む
  • 法人に入った保険金を臨時の役員報酬で渡すと損金にならない。見舞金で非課税になるのは社会通念上相当な額まで
  • 一人社長には傷病手当金があり、国民健康保険にはない。法人化の前後で必要な補償額が変わる

よくある質問

個人事業主が受け取った所得補償保険金は、事業所得の収入になりますか?

なりません。所得税基本通達9-22は、病気やけがで業務に従事できなかった期間の収益の補償として被保険者が受け取る保険金を、所得税法施行令30条1号の非課税の保険金に当たるとしています。確定申告で売上に含める必要はありません。

所得補償保険の保険料は生命保険料控除(介護医療保険料控除)の対象になりますか?

契約の内容によります。国税庁は介護医療保険料控除の対象を、医療費支払事由に基因して保険金等が支払われる契約としています。手元の契約がどの区分に当たるかは、保険会社が発行する控除証明書の記載で確認してください。

法人が受け取った所得補償保険金を、休んでいる社長に渡すことはできますか?

渡し方で税が変わります。臨時に上乗せする役員報酬は定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらず、法人の損金になりません。社会通念上相当な見舞金であれば受け取る側は非課税(所基通9-23)ですが、保険金全額をその枠で渡せるかは金額次第です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。