税金の基礎
法人成りで資産を会社に売った損は個人事業税から引ける。譲渡損失と繰越3年
結論
地方税法第72条の49の12第13項により、事業に直接使っていた機械・車両・工具器具備品などを、使わなくなってから1年以内に譲渡して生じた損失は、個人事業税の所得から引けます。法人成りで事業用資産を会社に売り、譲渡損失が100万円出れば、5%の業種なら個人事業税は5万円減ります。ただし事業税の申告をしていることが条件です。
- 6月末に法人成りし、1〜6月の事業の所得が500万円なら、個人事業税は月割になった控除145万円を引いて17万7,500円。譲渡損失100万円で12万7,500円に下がる
- 青色申告者は、個人事業税でも赤字を翌年以降3年間繰り越せる。損失の年から連続して事業税の申告をしていることが条件
- 法人成りで個人の事業をやめると、残った繰越損失は会社に引き継げない。300万円残っていれば、個人事業税だけで15万円分が使われずに消える
このテーマの全体像 個人事業税の業種と計算方法
法人成りでは、個人事業で使っていた車や機械、パソコンなどの備品を会社に売ることがよくあります。帳簿上の価額(未償却残高)より安く売れば、個人の側には損失が出ます。この損失は、個人事業税の計算では事業の所得から引けるという規定があります。所得税にはない、個人事業税だけの仕組みです。
個人事業税には「譲渡損失の控除」がある
地方税法第72条の49の12第13項は、個人が直接事業に使う資産を譲渡して生じた損失(譲渡損失)を、事業税の申告をしている場合に限り、個人の事業の所得から控除すると定めています。対象の資産は地方税法施行令第35条の3の8で、次のものです。
| 対象になる資産 | 条件 |
|---|---|
| 機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具・器具及び備品 | 直接事業に使っていたもの |
| 事業用の生物(牛馬・果樹など) | 同上 |
| 共通の期限 | 事業に使わなくなった日の翌日から1年を経過する日の前日までに譲渡したもの |
土地・建物は含まれません。
なぜこの規定があるのか。所得税では、事業用の車や機械を売った損益は事業所得ではなく譲渡所得として扱われます。個人事業税がかかるのは事業の所得なので、何もしなければ資産を売った損は事業税の計算に入りません。事業のために持っていた資産を手放した損を事業税でも考慮するため、専用の控除が置かれています。
法人成りでは「会社に売る」ので使い道がある
法人成りで事業用資産を会社に移すときは、売買にするのが一般的です。会社に売る価格は時価が基準で、時価の2分の1未満で売ると時価で売ったとみなされる点(所得税法第59条)は法人成りで車を会社に安く売ると、時価で売ったとみなされるで扱いました。
時価で売っても、未償却残高のほうが高ければ譲渡損失が出ます。中古の車や機械は、時価が帳簿上の価額を下回ることが珍しくありません。その損失が、廃業する年の個人事業税を下げます。
控除できるのは事業に使っていた割合の分だけです。東京都行政不服審査会の答申(平成30年2月21日)は、車の譲渡損失30万4,236円のうち、減価償却の計算で事業専用割合を50%としていた分、15万2,118円だけを控除した都の計算を支持しました。家事と兼用していた車やパソコンを会社に売る場合は、確定申告で使ってきた事業専用割合がそのまま控除の上限になります(アパートの個人事業税は「10室」の数え方で決まる)。
法人成りの年の個人事業税は、譲渡損失でこれだけ下がる
6月末に個人事業をやめて法人成りした場合で計算しました。年の途中で廃業すると、事業主控除290万円は営業した月数で月割になり、6か月なら145万円です(地方税法第72条の49の14第2項)。5%の業種で、当サイトの計算エンジンの個人事業税の計算を使っています。
| 1〜6月の事業の所得 | 譲渡損失なし | 譲渡損失50万円 | 譲渡損失100万円 | 譲渡損失150万円 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 77,500円 | 52,500円 | 27,500円 | 2,500円 |
| 500万円 | 177,500円 | 152,500円 | 127,500円 | 102,500円 |
| 700万円 | 277,500円 | 252,500円 | 227,500円 | 202,500円 |
※ 事業の所得は青色申告特別控除の前。月割の控除145万円(事業主控除の6か月分)を引いた後に5%
譲渡損失100万円なら、どの所得でも個人事業税は5万円下がります。税率5%の分だけ、損失の額がそのまま効きます。
ただし条件があります。事業税の申告をしていることです。年の途中で事業を廃止した場合、個人事業税の申告は廃止の日から1か月以内です(地方税法第72条の55第1項)。通常は所得税の確定申告書を出せば事業税の申告をしたものとみなされますが(同法第72条の55の2)、廃業の年は1か月の期限が先に来ます。都道府県への事業廃止の申告に譲渡損失の額を書いておかないと、控除は受けられません。法人成りのときに個人側で出す届出の全体は法人成りで個人事業をやめる手続きにまとめています。
廃業した年の個人事業税は、廃業後に都道府県から賦課されます。その見込額を廃業年の経費にできる特例は法人成りした年の個人事業税は見込額を経費にできるで扱っています。
赤字も3年繰り越せる。法人成りで消える分に注意
個人事業税には、損失の繰越控除もあります(同法第72条の49の12第6項)。青色申告の承認を受けている人は、事業の所得の赤字を翌年以降3年間繰り越して引けます。条件は、損失が出た年に事業税の申告をし、その後も連続して申告していることです。所得税と同じく青色申告者に限られます。
事業の所得800万円の年に、前年までの繰越損失を引いた場合の個人事業税は次のとおりです。
| 繰越損失 | 個人事業税 | 繰越控除なしとの差 |
|---|---|---|
| 0円 | 255,000円 | 0円 |
| 100万円 | 205,000円 | 50,000円 |
| 200万円 | 155,000円 | 100,000円 |
| 300万円 | 105,000円 | 150,000円 |
| 500万円 | 5,000円 | 250,000円 |
繰越損失は個人の事業の所得からしか引けません。法人成りで個人事業をやめると、使い切れなかった繰越損失は会社には引き継げず、個人事業税の計算では使われないまま終わります。300万円残っていれば、翌年以降も同じように事業を続けていた場合に比べて、個人事業税だけで15万円分です。
所得税の純損失の繰越(同じく3年)も、法人成りで使い道がなくなる点は同じです。法人の欠損金(10年)との比較は欠損金の繰越は法人10年・個人3年で、所得税・住民税・個人事業税を合わせた金額で計算しています。
控除の順番と、法人化の判断への効き方
個人事業税の所得から引く順番も決まっています(同法第72条の49の12第15項)。
- 損失の繰越控除(または被災事業用資産の損失の繰越控除)
- 譲渡損失の控除(その年の分、繰り越した分)
- 事業主控除(290万円、年の途中の廃業なら月割)
事業主控除は最後なので、繰越損失や譲渡損失で所得が290万円を下回れば、個人事業税はゼロになります。
法人化の判断で見ると、ここでの金額は数万〜十数万円の単位です。それでも、赤字の年がまだ繰り越せる時期や、高く買った設備を持っている時期に法人成りするなら、法人成りの時期と資産の移し方で、個人事業税が変わることは知っておく価値があります。法人化そのものの有利・不利は、自分の売上と経費で判定ツールを使って確かめてください。個人事業税の基本は個人事業税がかからない業種があるにまとめています。
まとめ
- 個人事業税には、事業用の機械・車両・工具器具備品などを使わなくなってから1年以内に譲渡した損失を、事業の所得から引く規定がある(地方税法第72条の49の12第13項)
- 法人成りで資産を会社に売り、譲渡損失が100万円出れば、5%の業種で個人事業税は5万円減る
- 年の途中の廃業では事業税の申告期限が廃止の日から1か月以内。譲渡損失はその申告に書く必要がある
- 青色申告者は個人事業税でも赤字を3年繰り越せるが、法人成りで残った繰越損失は会社に引き継げない
- 控除の順番は、繰越損失 → 譲渡損失 → 事業主控除。所得が290万円を下回れば個人事業税はゼロ
よくある質問
どんな資産の譲渡損失が個人事業税から引けますか。
地方税法施行令第35条の3の8により、直接事業に使っていた機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具・器具及び備品と、事業用の生物です。事業に使わなくなった日の翌日から1年を経過する日の前日までに譲渡したものに限られます。土地・建物は含まれません。
所得税でも同じように事業所得から引けますか。
所得税では、事業用の車両や機械を売った損益は事業所得ではなく譲渡所得として扱います。個人事業税の所得は事業の所得なので、そのままでは譲渡の損失が入りません。そのため個人事業税には、譲渡損失を事業の所得から引く専用の規定があります。
法人成りした年の個人事業税の申告はいつまでですか。
年の途中で事業を廃止した場合、個人事業税の申告は廃止の日から1か月以内です(地方税法第72条の55第1項)。譲渡損失を引くには、その申告に譲渡損失の額を書く必要があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。