社会保険

高額介護合算療養費の基準額は、役員報酬月4万円の差で74万円動く

結論

売上1,200万円・経費200万円の一人社長では、手取りが最大になる役員報酬は月54万円で、このとき高額介護合算療養費の基準額は年141万円です。報酬を月50万円にすると手取りは年2.7万円減りますが、標準報酬月額が50万円になるため、基準額は年67万円まで下がります。

  • 基準額の金額は健保と国保で同額で、区分を判定する物差しだけが違う。健保は被保険者本人の標準報酬月額、国保は同一世帯の国保加入者の旧ただし書き所得で決まる
  • 対象は毎年8月1日から翌年7月31日までの1年分。医療保険と介護保険の自己負担がどちらも0円でないことが要件で、片方だけでは支給されない
  • 令和8年8月に新設された高額療養費の年間上限(区分イで111万円)は医療だけの制度。合算の基準額141万円とは対象も金額も違う

医療と介護の自己負担が同じ年に重なったとき、最後に効くのが高額介護合算療養費です。この制度の基準額は、法人の役員なら標準報酬月額で、個人事業主なら旧ただし書き所得で決まります。そして計算エンジンで役員報酬を総当たりすると、手取りが最大になる報酬額は、基準額が一段重い側に落ちます。

合算の対象は、8月から翌年7月までの1年分

高額介護合算療養費は、1年間にかかった医療保険の自己負担額と介護保険の利用者負担額を合計し、基準額を超えた分が戻る仕組みです。全国健康保険協会は対象期間を毎年8月から1年間としており、横浜市は毎年8月から翌年7月までと示しています。基準日は7月31日です。

月ごとの制度との関係を押さえておく必要があります。協会けんぽの説明では、合算するのは高額療養費と高額介護(予防)サービス費の支給を受けられる場合にはその額を除いた後の自己負担額です。つまり月単位の上限がまず効き、それでも残った負担を1年分積み上げて、もう一度天井をかけるのが合算です。月ごとの制度を使い切った人のための、最後の天井だと考えると位置づけがつかめます。

支給の要件は3つあります。

  1. 医療保険・介護保険の自己負担額のいずれも0円でないこと
  2. 70歳未満の医療分は、医療機関別・医科歯科別・入院通院別に1か月21,000円以上のものだけを合算すること
  3. 基準額を超えた額が501円以上であること

1つ目が実務上いちばん効きます。医療費だけが高額な年、介護費だけが高額な年は、どちらも合算では救われません。40歳未満の一人社長は介護保険の被保険者ですらないため、この制度が働く余地は本人にはありません。合算が意味を持つのは、本人または同じ医療保険に入る家族が、医療と介護を同じ年に使ったときです。

2つ目の21,000円という線も見落としやすい点です。通院が複数の医療機関に分散していると、1か所あたりが21,000円に届かず、合算の対象から落ちます。入院時の食費負担や差額ベッド代も含みません。

基準額は健保・国保で同額。違うのは区分の物差し

協会けんぽと横浜市が公表している基準額を並べたものです。

70歳未満の区分

区分法人の役員(協会けんぽ)個人事業主(国民健康保険)基準額(年額)
ア標準報酬月額83万円以上旧ただし書き所得901万円超212万円
イ標準報酬月額53万〜79万円旧ただし書き所得600万円超901万円以下141万円
ウ標準報酬月額28万〜50万円旧ただし書き所得210万円超600万円以下67万円
エ標準報酬月額26万円以下旧ただし書き所得210万円以下60万円
オ低所得者(市区町村民税の非課税者等)世帯主および国保加入者全員が住民税非課税34万円

70歳から74歳の区分

区分判定基準額(年額)
現役並みⅢ標準報酬月額83万円以上で負担割合3割212万円
現役並みⅡ標準報酬月額53万〜79万円で負担割合3割141万円
現役並みⅠ標準報酬月額28万〜50万円で負担割合3割67万円
一般現役並み所得者および低所得者以外56万円
低所得Ⅱ被保険者が市区町村民税の非課税者等31万円
低所得Ⅰ被保険者と扶養家族全員の所得がない19万円

※ 基準額は協会けんぽ・横浜市が2026年10月7日時点で公表しているもの。対象期間は毎年8月1日〜翌年7月31日

金額の列は健保と国保で同じです。違うのは区分を引くときに見る数字だけです。 法人の役員は被保険者本人の標準報酬月額、個人事業主は同一世帯の国保加入者の旧ただし書き所得です。旧ただし書き所得は総所得金額等から43万円を引いた額で、配偶者控除や社会保険料控除は引かれません。同じ事業の利益でも、どちらの保険に入っているかで区分がずれます。

もう1つ、年齢をまたぐと順番が入れ替わる箇所があります。70歳未満の区分エは60万円ですが、70歳から74歳の「一般」は56万円です。所得が低い層では、70歳になると基準額が4万円下がります。 一方で現役並み所得者Ⅲ・Ⅱ・Ⅰの212万円・141万円・67万円は70歳未満と同額なので、報酬を取り続ける役員にとっては70歳を越えても天井は変わりません。

手取りが最大になる報酬額は、基準額が一段重い側にある

売上1,200万円・経費200万円の条件で、役員報酬を変えたときの標準報酬月額・区分・基準額と、手取り合計を並べました。手取りは計算エンジンの出力です。

役員報酬標準報酬月額区分合算の基準額(年額)手取り合計
月10万円10万円(5等級)エ60万円632.5万円
月20万円20万円(17等級)エ60万円642.4万円
月30万円30万円(22等級)ウ67万円650.8万円
月40万円41万円(27等級)ウ67万円654.8万円
月50万円50万円(30等級)ウ67万円659.7万円
月54万円 ←最適53万円(31等級)イ141万円662.4万円
月60万円59万円(33等級)イ141万円653.6万円
月70万円71万円(37等級)イ141万円646.8万円
月80万円79万円(39等級)イ141万円615.8万円
月90万円88万円(41等級)ア212万円570万円
月100万円98万円(43等級)ア212万円519.7万円

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

手取りが最大になるのは月54万円で662.4万円、月50万円なら659.7万円です。差は年2.7万円です。ところが合算の基準額は、月54万円だと141万円、月50万円だと67万円です。年2.7万円の手取りと引き換えに、医療と介護の年間の天井が74万円上がります。 失う側が得る側の27倍という比率になります。

境目は標準報酬月額53万円です。この等級が適用されるのは報酬月額51万5,000円以上からで、それ未満なら50万円の等級、つまり区分ウにとどまります。標準報酬月額が等級で区切られているのは事業所ごとの事務処理を簡単にするためですが、結果として報酬月額のわずかな差で基準額が2.1倍になります。等級の切り方は標準報酬月額の等級表で扱いました。

注意したいのは、この74万円は「毎年必ず損をする額」ではないことです。合算が働くのは、医療と介護の自己負担が同じ年に重なり、月ごとの上限を使い切ってもなお基準額を超えた年だけです。そういう年が来ない限り、基準額が141万円でも67万円でも手取りは変わりません。手取り年2.7万円は毎年効きますが、基準額の74万円は特定の年にだけ効きます。 どちらを重く見るかは、家族に介護と通院が重なる見込みがあるかどうかで変わります。最適な役員報酬は手取りだけを最大化した額なので、この種の天井は織り込まれていません。

売上別に見ると、基準額が動くのは1行だけ

個人事業主のままの区分と、法人化して手取りが最大になる報酬を取ったときの区分を、売上別に並べました。旧ただし書き所得と最適報酬はいずれも計算エンジンの出力です。

年間売上旧ただし書き所得個人のままの区分と基準額最適な役員報酬法人化後の区分と基準額基準額の動き
600万円292万円ウ(67万円)月28万円ウ(67万円)同じ
800万円492万円ウ(67万円)月42万円ウ(67万円)同じ
1,000万円692万円イ(141万円)月54万円イ(141万円)同じ
1,200万円892万円イ(141万円)月54万円イ(141万円)同じ
1,500万円1,192万円ア(212万円)月54万円イ(141万円)−71万円
2,000万円1,692万円ア(212万円)月90万円ア(212万円)同じ

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

6行のうち5行で、法人化しても基準額は動きません。 所得が上がれば最適な役員報酬も上がるため、両方の区分が同じように上がっていきます。例外は売上1,500万円の行です。個人事業主のままなら旧ただし書き所得が1,192万円で区分ア、法人化すると最適報酬が月54万円で区分イになり、基準額が71万円下がります。

売上2,000万円では最適報酬が月90万円まで上がり、標準報酬月額88万円で区分アに戻ります。「法人化すると医療と介護の自己負担が軽くなる」という説明が当てはまるのは、この表では1行だけです。

国保側の判定には、もう1つ法人には無い性質があります。区分を引く所得は世帯の国保加入者全員分の合計です。配偶者が国保に入って事業を手伝っていれば、2人分の所得を足した額で区分が決まります。協会けんぽの区分は被保険者本人の標準報酬月額だけで決まり、被扶養者に所得があっても動きません。高額療養費そのものの月額上限についても同じ構造があり、高額療養費の所得区分で詳しく整理しています。

「年間上限」と「合算の基準額」は別の制度

ここが最も取り違えやすい箇所です。令和8年8月に、高額療養費そのものに年間上限が新設されました。これと合算の基準額は、どちらも8月から翌年7月までを1年として数えるため、同じ制度の話だと思われやすいのですが、別物です。

区分法人の役員(協会けんぽ)高額療養費の年間上限(医療だけ)合算の基準額(医療+介護)差
ア標準報酬月額83万円以上168万円212万円44万円
イ標準報酬月額53万〜79万円111万円141万円30万円
ウ標準報酬月額28万〜50万円53万円67万円14万円
エ標準報酬月額26万円以下53万円60万円7万円

違いは3点です。

  • 対象:年間上限は医療保険の自己負担だけを数えます。合算の基準額は、医療保険の自己負担に介護保険の利用者負担を足して数えます
  • 金額:同じ区分でも金額が違います。区分イなら年間上限が111万円、合算の基準額が141万円です
  • 申請の開始時期:高額療養費の年間上限は令和8年8月に新設された仕組みで、年間上限分の申請の受付は令和9年8月から始まります。合算は従来からある制度です

区分イの「111万円」と「141万円」を入れ替えて書いている資料を見かけたら、どちらの制度の数字か確かめる必要があります。 介護を使っていない年は年間上限だけが効き、介護を使った年は合算の基準額も候補に入ります。

世帯の医療保険が分かれると、合算の単位も割れる

合算の単位は「同一世帯の、同一の医療保険の加入者」です。協会けんぽは世帯内の同一の医療保険の加入者について合計するとしており、横浜市も同一世帯における国民健康保険の自己負担額と介護保険の利用者負担額を合計するとしています。ここが法人化で動きます。

個人事業主の世帯では、本人・配偶者・子が同じ国民健康保険に入るのが通常なので、世帯の医療費と介護費が1つの単位にまとまります。法人化して社長が協会けんぽに移ると、配偶者や子が被扶養者になれる場合は同じ保険に入るため、単位は保たれます。

分かれるのは、配偶者が被扶養者の収入要件を満たせないときです。配偶者に自分の事業収入があって被扶養者になれなければ、配偶者は国民健康保険に残ります。すると世帯の医療費は協会けんぽと国保の2つに分かれ、それぞれの基準額を別々に超えなければ支給されません。 合計では基準額を超えていても、分けると両方とも届かない、という形が起こり得ます。被扶養者の収入要件は配偶者を法人の社会保険の扶養に入れる条件で扱いました。

75歳以上の家族がいる世帯も同じ構造になります。75歳になると後期高齢者医療制度へ移るため、社長の協会けんぽとは別の保険者になり、合算の単位が分かれます。

介護側は法人化しても保険者が変わりません。介護保険の保険者は市町村なので、法人化によって介護サービスの自己負担そのものが動くことはありません。動くのは医療保険の側、つまり区分を判定する物差しだけです。ただし介護の月ごとの自己負担の上限は高額介護サービス費という別の制度で、こちらは住民税の課税所得で判定されるため、役員報酬の額で動きます。合算に辿り着く前に、この2つの月単位の制度がどう効くかを先に見る必要があります。

ここまでの数字はすべて売上1,200万円・経費200万円・東京23区・独身という条件での概算です。区分の境目は報酬月額で1万円単位の差で動くので、判定ツールで自分の売上と経費から最適報酬を出し、上の等級表に当てはめて確認してください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 高額介護合算療養費は、毎年8月1日から翌年7月31日までの医療保険の自己負担と介護保険の利用者負担を合計し、基準額を超えた分が戻る制度。基準日は7月31日で、申請が必要
  • 基準額の金額は健保と国保で同額。区分を判定する物差しだけが違い、法人の役員は標準報酬月額、個人事業主は同一世帯の国保加入者の旧ただし書き所得で決まる
  • 売上1,200万円・経費200万円では、手取りが最大になる月54万円で基準額は年141万円、月50万円なら年67万円。手取りの差は年2.7万円で、基準額の差は74万円
  • 売上600万〜2,000万円の6通りのうち、法人化で基準額が動くのは売上1,500万円の行だけ(212万円→141万円)
  • 令和8年8月に新設された高額療養費の年間上限(区分イ111万円)は医療だけの制度で、合算の基準額(区分イ141万円)とは対象も金額も違う
  • 医療保険・介護保険の自己負担のどちらかが0円の年は支給されない。世帯の医療保険が協会けんぽと国保に分かれると、合算の単位も分かれる

よくある質問

医療費だけが高額で、介護は使っていない年は合算の対象になりますか。

なりません。全国健康保険協会は、医療保険・介護保険の自己負担額のいずれかが0円である場合は支給しないとしています。医療費だけが高額な年は、高額療養費のほうで判定されます。

合算の基準額を超えたら自動で振り込まれますか。

申請が必要です。国民健康保険の場合、基準日である7月31日時点で加入している医療保険の窓口へ申請します。協会けんぽの場合は、高額介護合算療養費支給申請書を加入している支部へ提出します。

役員報酬を下げれば、介護サービスの自己負担も下がりますか。

合算の基準額は医療保険の区分で決まるため、報酬を下げて標準報酬月額の等級が変われば基準額は下がります。ただし介護サービスの月ごとの自己負担の上限は高額介護サービス費という別の制度で、こちらは住民税の課税所得で判定されます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。