社会保険

高額介護サービス費の上限は課税所得で決まる。法人化で月4.8万円下がる条件

結論

65〜69歳の一人社長は、役員報酬を月58万円以下にすると住民税の課税所得が380万円未満に収まり、高額介護サービス費の上限は月44,400円です。単身・東京23区の個人事業主は事業の利益600万円で課税所得が411.7万円になり上限は月93,000円なので、利益600万〜1,600万円の帯では、法人化(手取り最大の報酬)で上限が月44,400円まで下がります。

  • 上限額は世帯の65歳以上の人のうち最も高い人の住民税の課税所得で決まる。380万円以上で月93,000円、690万円以上で月140,100円
  • 医療の「現役並み所得」にある課税所得145万円や収入383万円の条件は、介護保険法施行令の条文にない
  • 3割負担で要介護5の居宅サービスを限度額まで使うと自己負担は月108,651円。上限93,000円と44,400円の世帯では月48,600円の差になる

高額介護サービス費は、1か月の介護サービスの自己負担が上限を超えた分を払い戻す制度です。上限額を決めるのは住民税の課税所得で、個人事業主なら事業所得から、一人社長なら役員報酬の給与所得から計算されます。同じ事業の利益でも、法人化すると給与所得控除と社会保険料控除が入るぶん課税所得が下がり、区分をまたぐことがあります。

上限額を決める線は380万円と690万円の2本だけ

介護保険法施行令22条の2の2は、高額介護サービス費の上限を次のように定めています。

区分上限額(月・世帯)
世帯の第1号被保険者の誰かの課税所得が690万円以上140,100円
同 380万円以上690万円未満93,000円
上記以外で、世帯の誰かが住民税を課税されている44,400円
世帯全員が住民税非課税24,600円

ここでいう課税所得は、市町村民税の総所得金額等から所得控除を引いた額です。つまり住民税の課税所得そのものです。前年の所得で判定しますが、1月から7月に受けたサービスは前々年の所得を使います。

70歳からの医療費では、住民税の課税所得145万円以上で「現役並み所得」になり、さらに収入383万円(単身)で2割に戻る仕組みがあります(70歳からの医療費は2割か3割か)。高額介護サービス費の上限額表にも「現役並み所得者」という言葉が出てきますが、**施行令の条文には145万円の線も収入の条件もありません。**課税所得が380万円未満なら、145万円を超えていても上限は一般の課税世帯と同じ月44,400円です。

判定に使うのは「世帯の第1号被保険者のいずれか」の課税所得です。名古屋市の説明では、世帯内で最も所得の高い65歳以上の人の課税所得で決まります。64歳以下の家族の所得は、93,000円・140,100円の判定には入りません。名古屋市は、世帯の被保険者が第2号被保険者(40〜64歳)だけの課税世帯なら上限は44,400円としています。

事業の利益600万〜1,600万円では、法人化で区分が下がる

個人のままの課税所得と、法人化して役員報酬を手取り最大の額にした場合の課税所得を、計算エンジンで並べました。

単身

事業の利益個人のまま:住民税の課税所得上限額(月)法人化:最適な役員報酬法人化:住民税の課税所得上限額(月)上限額の差(年・12か月とも上限に達した場合)
500万円322.3万円44,400円月36万円197.3万円44,400円—
600万円411.7万円93,000円月42万円246.4万円44,400円58.3万円
700万円501.2万円93,000円月48万円293.8万円44,400円58.3万円
800万円590.6万円93,000円月54万円341.2万円44,400円58.3万円
900万円680万円93,000円月54万円341.2万円44,400円58.3万円
1,000万円774.9万円140,100円月54万円341.2万円44,400円114.8万円
1,200万円974.5万円140,100円月54万円341.2万円44,400円114.8万円
1,400万円1,174.5万円140,100円月54万円341.2万円44,400円114.8万円
1,600万円1,374.5万円140,100円月54万円341.2万円44,400円114.8万円
1,800万円1,574.5万円140,100円月90万円717.4万円140,100円—
2,000万円1,774.5万円140,100円月90万円717.4万円140,100円—

※ 65〜69歳・単身・東京23区・青色申告(e-Tax)65万円・インボイス登録あり・合同会社。「事業の利益」は売上−経費(青色申告特別控除の前)。役員報酬は手取り(法人に残る利益を含む)が最大になる額を月1万円刻みで探索した値。公的年金など他の所得はないものとした。上限額は介護保険法施行令22条の2の2による世帯の月額

配偶者あり(配偶者控除の対象)

事業の利益個人のまま:住民税の課税所得上限額(月)法人化:最適な役員報酬法人化:住民税の課税所得上限額(月)上限額の差(年・12か月とも上限に達した場合)
500万円261.1万円44,400円月36万円164.3万円44,400円—
600万円350.5万円44,400円月42万円213.4万円44,400円—
700万円439.9万円93,000円月48万円260.8万円44,400円58.3万円
800万円529.4万円93,000円月54万円308.2万円44,400円58.3万円
900万円620.8万円93,000円月54万円308.2万円44,400円58.3万円
1,000万円731.2万円140,100円月54万円308.2万円44,400円114.8万円
1,200万円953万円140,100円月54万円308.2万円44,400円114.8万円
1,400万円1,153万円140,100円月54万円308.2万円44,400円114.8万円
1,600万円1,353万円140,100円月54万円308.2万円44,400円114.8万円
1,800万円1,553万円140,100円月90万円684.4万円93,000円56.5万円
2,000万円1,753万円140,100円月90万円684.4万円93,000円56.5万円

※ 65〜69歳・配偶者あり(所得なし・70歳未満)・東京23区・青色申告(e-Tax)65万円・インボイス登録あり・合同会社。「事業の利益」は売上−経費(青色申告特別控除の前)。役員報酬は手取り(法人に残る利益を含む)が最大になる額を月1万円刻みで探索した値。公的年金など他の所得はないものとした。上限額は介護保険法施行令22条の2の2による世帯の月額

個人事業主の課税所得は、事業の利益が100万円増えるとほぼ90万円増えます。控除が青色申告特別控除・基礎控除・国保と国民年金の保険料くらいしかないためです。単身なら利益600万円で380万円を、1,000万円で690万円を超えます。

法人化すると、役員報酬から給与所得控除と、健康保険・厚生年金の本人負担分が引かれます。しかも手取りが最大になる報酬は、利益1,000万〜1,600万円でも月54万円で止まり、残りは法人に残ります。**法人に残した利益は、本人の課税所得に入りません。**そのため利益1,600万円まで、法人化後の課税所得は341.2万円のまま動きません。

表の「年の差」は、12か月とも自己負担が上限を超えた場合の最大値です。実際にどれだけ差が出るかは、次の節のとおり介護サービスをどれだけ使うかで決まります。

役員報酬は月58万円までなら上限44,400円

一人社長の場合、役員報酬の額だけで区分が決まります。境目を1万円刻みで探しました。

役員報酬年額給与所得社会保険料控除(本人負担)住民税の課税所得上限額(月)
月30万円360万円244万円51.1万円149.9万円44,400円
月40万円480万円340万円69.8万円227.2万円44,400円
月50万円600万円436万円85.1万円307.9万円44,400円
月59万円708万円527.2万円100.5万円383.7万円93,000円
月60万円720万円538万円100.5万円394.5万円93,000円
月70万円840万円646万円114.3万円488.7万円93,000円
月80万円960万円765万円119.1万円602.9万円93,000円
月88万円1,056万円861万円124.6万円693.4万円140,100円
月90万円1,080万円885万円124.6万円717.4万円140,100円
月100万円1,200万円1,005万円130.6万円831.4万円140,100円

※ 65〜69歳・単身・東京(協会けんぽ)・賞与なし・他の所得なし。太字は上限額が切り替わる最初の報酬額。社会保険料は健康保険(介護分なし)と厚生年金の本人負担分で、令和8年度の料率・等級表による

単身なら月58万円までが44,400円、月59万〜87万円が93,000円、月88万円からが140,100円です。配偶者控除があれば課税所得はさらに下がります。

この表には公的年金を入れていません。65歳から老齢年金を受け取っていれば、公的年金等の雑所得が課税所得に加わります。年金を受け取りながら役員報酬を得る場合は、在職老齢年金による支給停止も絡みます。自分の年金額を入れて確かめる必要があります。

差が実際に出るのは、2割・3割負担の人がいる世帯

上限額が下がっても、自己負担がその上限に届かなければ払戻しは出ません。居宅サービスには要介護度ごとに1か月の利用限度額があり、そこから自己負担の最大額が決まります。

要介護度居宅サービスの利用限度額(月)3割負担で限度額まで使った場合上限93,000円の世帯上限44,400円の世帯月の差
要介護1167,650円50,295円50,295円(払戻し0円)44,400円(払戻し5,895円)5,895円
要介護2197,050円59,115円59,115円(払戻し0円)44,400円(払戻し14,715円)14,715円
要介護3270,480円81,144円81,144円(払戻し0円)44,400円(払戻し36,744円)36,744円
要介護4309,380円92,814円92,814円(払戻し0円)44,400円(払戻し48,414円)48,414円
要介護5362,170円108,651円93,000円(払戻し15,651円)44,400円(払戻し64,251円)48,600円

※ 利用限度額は厚生労働省「介護サービス情報公表システム」の1単位10円での目安。地域やサービスにより1単位の単価は10円を超える。限度額を超えた分や食費・居住費は高額介護サービス費の対象外。世帯で介護サービスを使うのが1人の場合

表から分かることが2つあります。

1つ目は、1割負担の人だけの世帯では、この差はまず出ないことです。要介護5で限度額まで使っても1割なら月36,217円で、44,400円に届きません。所得のない配偶者が介護を受ける場合、配偶者本人の負担割合は1割なので、社長の課税所得で上限が上がっても払戻し額は変わりません。

2つ目は、1人が居宅サービスを使うだけなら140,100円に届かないことです。3割負担・要介護5でも108,651円です。140,100円と93,000円の差が効くのは、夫婦2人が同時に介護サービスを使う世帯などに限られます。

負担割合(1〜3割)は別の物差しで決まる

2割・3割の判定には、課税所得ではなく本人の合計所得金額を使います。単身なら、合計所得金額220万円以上で、公的年金等収入とその他の合計所得金額の合計が340万円以上あると3割です(横浜市の基準)。

経営者本人が介護サービスを使う場合、法人化で割合そのものが変わる帯もあります。

事業の利益個人のまま:事業所得負担割合法人化:最適な役員報酬法人化:給与所得負担割合
400万円335万円2割月28万円227.2万円1割
500万円435万円3割月36万円301.6万円2割
600万円535万円3割月42万円359.2万円3割
700万円635万円3割月48万円416.8万円3割
800万円735万円3割月54万円474.4万円3割

※ 65〜69歳・単身・公的年金などの収入なし・東京23区・青色申告(e-Tax)65万円。負担割合は本人が介護サービスを使う場合。給与所得から10万円を引く調整の有無で結果が変わらない行だけを割合で示した

利益600万円以上では、法人化しても3割のままです。変わるのは上限額のほうで、利益600万円なら3割のまま上限だけが93,000円から44,400円に下がります。利益500万円以下では、上限は元から44,400円で、割合のほうが下がります。

切り替わりは1年遅れ、申請は初回だけ

上限額は前年の所得で判定するので、法人化してもすぐには変わりません。8月から12月のサービスは前年、1月から7月のサービスは前々年の所得を使います。役員報酬だけの1年間を過ごした翌年の8月からが、法人化後の所得で判定される最初の月です。

名古屋市・横浜市とも、上限を超えた月の数か月後に案内が届き、初回に申請すれば以後は自動で振り込まれます。申請しないまま2年たつと時効です(横浜市)。医療費と介護費を1年分合算する「高額医療・高額介護合算療養費」は別の制度で、医療保険側の区分も絡みます(高額療養費の所得区分)。

65歳からは介護保険料そのものも本人の所得で段階が決まり、法人化で段階が下がる例があります(65歳以降の介護保険料)。保険料と給付の両方で、判定に使うのは法人ではなく本人の所得です。

まとめ

  • 高額介護サービス費の上限は、世帯の65歳以上の住民税の課税所得380万円・690万円で月44,400円/93,000円/140,100円に分かれる。145万円の線はない
  • 単身・東京23区では、事業の利益600万〜1,600万円の個人事業主が法人化(手取り最大の報酬)すると、上限が月44,400円まで下がる
  • 一人社長は役員報酬月58万円まで44,400円、月59万円から93,000円、月88万円から140,100円(単身・年金なし)
  • 差が実際に出るのは、2割・3割負担の人が要介護3以上で居宅サービスを多く使う世帯など。1割負担だけの世帯ではほぼ出ない

上限額の差は、法人化の損得そのものではなく、その上に乗る要素の1つです。まず自分の売上と経費で、法人化した場合の手取りと役員報酬を確かめてください。

よくある質問

40代・50代の自営業者が、介護が必要な親と同居しています。自分の所得で親の上限額は上がりますか?

上がりません。月93,000円・140,100円の判定に使うのは、世帯の第1号被保険者(65歳以上)の課税所得です。64歳以下の子の所得は、この判定には入りません。ただし、世帯全員が住民税非課税であることが条件の月24,600円の区分には、64歳以下の世帯員の課税状況も関わります。

高額介護サービス費は、毎月申請が必要ですか?

名古屋市・横浜市とも、対象になった月の数か月後に市から案内が届き、初回に申請すれば以後は口座に自動で振り込まれる仕組みです。申請しないまま2年たつと時効で受け取れなくなります(横浜市の説明)。

施設の食費や居住費も、上限額の計算に入りますか?

入りません。施設の食費・居住費、日常生活費、福祉用具の購入費、住宅改修費は高額介護サービス費の対象外です。対象は介護保険サービスの1〜3割の自己負担分で、要介護度ごとの利用限度額を超えて使った分も含まれません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。