社会保険

年金生活者支援給付金の所得基準は、法人化で役員報酬の給与所得へ

結論

令和8年10月分からの老齢年金生活者支援給付金は、65歳以上で世帯全員が住民税非課税、前年の年金収入とその他の所得の合計が826,500円以下(補足的給付は926,500円以下)の人が対象です。法人化すると「その他の所得」は役員報酬の給与所得に替わり、年金収入60万円・単身なら令和8年分の控除で月8万円までが線です(当サイト試算)。給付金は満額でも年67,440円です。

  • 年金は控除前の「収入」で、それ以外は「所得」で数える。事業所得は青色申告特別控除の後、役員報酬は給与所得控除の後の額が入る
  • 年金収入60万円・単身なら、個人事業は売上−経費87.65万円まで、法人化後は役員報酬が令和7年分の控除で年87.65万円、令和8年分の控除で月8万円まで(当サイト試算)
  • 所得基準は補足的給付でなだらかにつながるが、住民税非課税の線(特別区・単身は合計所得45万円)は1円超えると給付がなくなる段差

年金生活者支援給付金は、年金を受けている人のうち所得の低い人に、年金に上乗せして支給される給付です。判定に使うのは本人の前年の所得で、個人事業主なら事業所得、法人化すると役員報酬の給与所得に置き換わります。 法人に残した利益は数えません。

数え方が違うので、同じ事業の利益でも線の位置が動きます。令和8年度の基準で、どこまでが対象になるかを計算しました。

給付金の要件は3つ。年金は「収入」、ほかは「所得」で数える

老齢年金生活者支援給付金の要件は、次の3つをすべて満たすことです(日本年金機構)。

要件内容(令和8年10月分〜令和9年9月分)
年金65歳以上で、老齢基礎年金を受けている
世帯本人を含む世帯全員の市町村民税が非課税
所得前年(令和7年)の年金収入とその他の所得の合計が826,500円以下(昭和31年4月2日以後生まれ)

昭和31年4月1日以前生まれの人は、基準額が824,100円です。この記事では昭和31年4月2日以後生まれで計算します。

合計が826,500円を超えても926,500円以下なら、補足的老齢年金生活者支援給付金が出ます。障害年金・遺族年金などの非課税の年金は、年金収入に入りません。

年金は控除前、ほかは控除後

判定の物差しは、施行令4条で決まっています。「その他の所得」は、住民税の合計所得金額から公的年金等に係る雑所得を除いた額です。

  • 年金:公的年金等控除を引く前の「収入金額」で数える
  • 個人事業:売上 − 経費 − 青色申告特別控除 = 事業所得で数える
  • 役員報酬:給与収入 − 給与所得控除 = 給与所得で数える

年金だけは控除前の額で数えるのに、事業や役員報酬は控除後で数えます。ここが、法人化で線が動く理由です。

令和8年度の老齢基礎年金の満額は月70,608円です。12か月分は826,500円を上回ります。給付金の対象は、保険料の未納や免除の期間があって、基礎年金が満額に届かない人が中心になります。

年金収入別に見た、個人事業と役員報酬の上限

65歳以上の公的年金等控除は最低110万円です(国税庁 No.1600)。年金収入が110万円以下なら、年金の雑所得は0円になります。したがって、住民税の合計所得金額は事業所得か給与所得だけで決まります。

特別区(東京23区)の基準では、単身の人は合計所得金額45万円以下なら住民税が均等割もかかりません。これを超えると世帯の要件を満たさなくなります。2つの線を合わせて、上限を出しました。

前年の年金収入老齢給付金:その他の所得の上限補足的給付:その他の所得の上限個人事業:売上−経費の上限(老齢給付金)役員報酬の上限(令和7年分の控除)役員報酬の上限(令和8年分の控除)
30万円45万円(非課税の線)―110万円年110万円月9.9万円(年118.8万円)
40万円42.65万円45万円(非課税の線)107.65万円年107.65万円月9.7万円(年116.4万円)
50万円32.65万円42.65万円97.65万円年97.65万円月8.8万円(年105.6万円)
60万円22.65万円32.65万円87.65万円年87.65万円月8.0万円(年96.0万円)
70万円12.65万円22.65万円77.65万円年77.65万円月7.2万円(年86.4万円)
80万円2.65万円12.65万円67.65万円年67.65万円月6.3万円(年75.6万円)

※ 単身・特別区・昭和31年4月2日以後生まれ。個人事業は青色申告特別控除65万円(e-Tax)を引いた事業所得で判定。「非課税の線」は住民税の非課税の基準(合計所得金額45万円)が先に効くことを示す ※ 令和7年分の給与所得控除は給与収入190万円以下で65万円(国税庁 No.1410)。令和8年分は最低保障74万円(2026年(令和8年)分基準)

令和7年分では、給与所得控除の最低額と青色申告特別控除がどちらも65万円です。そのため個人事業と役員報酬の上限は同じ額になります。令和8年分からは給与所得控除の最低保障が74万円に上がり、役員報酬の上限は9万円高くなります。

いま支給されている令和8年10月分〜令和9年9月分は、令和7年の所得で判定済みです。令和8年の所得は令和9年10月分からの判定に使われます。そのときの基準額は改定されるので、表の令和8年分の列は「令和8年度の基準額を当てはめた場合」の目安です。

所得基準はなだらか、非課税の線は段差

所得基準額の826,500円を超えても、すぐに給付がゼロになるわけではありません。補足的給付の額は、給付基準額に調整支給率を掛けて決まります。調整支給率は(926,500円 − 年金収入とその他の所得の合計)÷ 10万円です。

年金収入+その他の所得調整支給率月額年額
826,500円以下(老齢給付金)5,620円67,440円
850,000円0.7654,299円51,588円
875,000円0.5152,894円34,728円
900,000円0.2651,489円17,868円
926,500円0.0000円0円

※ 保険料納付済期間480月の場合。給付基準額は令和8年4月以降の月分で5,620円(施行令4条の2)

給付額は保険料を納めた期間に比例します。納付済期間が360月なら老齢給付金は月4,215円、240月なら月2,810円です。免除期間がある人は、免除月数に応じた額(全額免除などは11,768円×免除月数÷480)が加わります。ただし、この免除期間の分は補足的給付には付きません。

一方、住民税の非課税の線には、このような緩衝がありません。年金収入40万円の単身者なら、その他の所得が45万円までは補足的給付の対象です。合計は85万円で、納付済480月なら年51,588円が出ます。その他の所得が45万円を1円でも超えると住民税が課税になり、この給付はなくなります。 令和8年分の役員報酬なら、年119万円が45万円の給与所得に当たります(役員報酬を下げて住民税非課税にできるか)。

判定ツールの最適報酬で、線の内側に入る帯がある

当サイトの判定ツールは、役員報酬を月5万円から100万円まで1万円刻みで計算し、手取りが最大になる額を探します。事業の利益が小さいと、最適報酬も低く出ます。その最適報酬で、判定に乗る所得を比べました。

年金収入60万円・単身(老齢給付金はその他の所得22.65万円以下、補足的給付は32.65万円以下)

売上−経費個人事業:事業所得判定判定ツールの最適報酬法人化:給与所得判定
80万円15.0万円老齢給付金月6万円0.0万円老齢給付金
90万円25.0万円補足的給付月6万円0.0万円老齢給付金
100万円35.0万円対象外月7万円10.0万円老齢給付金
110万円45.0万円対象外月8万円22.0万円老齢給付金
120万円55.0万円対象外月9万円34.0万円対象外
150万円85.0万円対象外月10万円46.0万円対象外
200万円135.0万円対象外月12万円70.0万円対象外

※ 経費100万円・東京23区・65歳以上・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。判定は令和8年度の所得基準額と特別区の非課税の基準を令和8年分の所得に当てはめたもの

売上−経費が90万〜110万円の帯では、個人事業なら対象外か補足的給付です。最適報酬で法人化すると、老齢給付金の線の内側に入ります。報酬を払った残りの利益が法人にとどまり、個人の所得に数えられないためです。

ただし、この条件では利益120万円から上で、最適報酬の給与所得も線を超えます。 利益200万円なら給与所得は70万円で、住民税の非課税の線も超えます。個人事業でも法人でも、給付金の対象にはなりません。

法人を持つ負担は、給付金の額より大きい

上の帯で法人を持つと、毎年どれだけの負担がかかるかを計算しました。65歳以上70歳未満の役員は、報酬が低くても健康保険と厚生年金に加入します。

役員報酬給与所得(令和8年分)社会保険料(本人+会社)法人住民税均等割税理士報酬の増加合計
月5万円0.0万円26.7万円7.0万円20.0万円53.7万円
月6万円0.0万円26.7万円7.0万円20.0万円53.7万円
月7万円10.0万円27.9万円7.0万円20.0万円54.9万円
月8万円22.0万円29.1万円7.0万円20.0万円56.1万円

※ 協会けんぽ東京支部・厚生年金(標準報酬月額の下限8.8万円)・子ども・子育て支援金・子ども・子育て拠出金を含む。税理士報酬の増加は当サイトの前提値(個人15万円→法人35万円)/2026年(令和8年)分基準

厚生年金の標準報酬月額には下限の8.8万円があります。報酬を月5万円にしても、厚生年金保険料は8.8万円の報酬として計算されます。

老齢給付金は満額でも年67,440円です。法人住民税の均等割7万円だけで、この額を上回ります。 個人のままなら国民健康保険料はかかりますが、低所得の世帯には均等割などの軽減があります。国民年金の加入は60歳までなので、65歳以上は保険料もかかりません。

当サイトの判定ツールは、年齢にかかわらず個人側に国民年金保険料(令和8年度は月17,920円)を計上しています。65歳以上の判定では、個人のままの手取りがそのぶん少なく出ます。詳しくは一人社長の社会保険料は70歳と75歳で2段階に消えるで整理しました。

役員報酬は、職務の内容や会社の利益の状況に照らして決めるものです。事業年度の途中で増減すると、損金にならない部分が出ます。給付金の判定に合わせて動かせる額ではありません。

世帯で見る:配偶者や同居の家族の所得

給付金の要件は「世帯全員が非課税」です。本人の所得が線の内側でも、同じ世帯の誰かに住民税がかかれば対象外です。

法人化で家族を役員にすると、その家族の役員報酬も給与所得になります。特別区の基準では、扶養する家族がいない人は合計所得45万円以下が非課税です。同一生計配偶者や扶養親族がいる人は「35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)+31万円」以下です。配偶者1人を扶養する本人なら101万円になります。

夫婦ともに65歳以上で給付金を受けている場合、配偶者に払う報酬は、配偶者自身の判定にも入ります。配偶者の年金収入と給与所得の合計も、826,500円の基準で別に判定されます。

65歳以上で役員報酬を受けると、年金と給与の両方の控除が使えます。年金収入が110万円を超える人の税の計算は年金をもらいながら役員報酬にまとめました。報酬が高い人の年金の支給停止は在職老齢年金の基準で扱っています。

まとめ

  • 老齢年金生活者支援給付金は、65歳以上・世帯全員が住民税非課税・前年の年金収入とその他の所得の合計826,500円以下(補足的給付は926,500円以下)が要件
  • 年金は控除前の収入、事業は青色申告特別控除後、役員報酬は給与所得控除後で数える。年金収入60万円・単身なら、役員報酬は令和8年分の控除で月8万円まで
  • 所得基準は補足的給付でなだらかに減るが、住民税非課税の線(特別区・単身で合計所得45万円)を超えると給付はなくなる
  • 判定ツールの最適報酬で線の内側に入るのは、売上−経費が90万〜110万円の小さな帯に限られ、その帯では法人の固定費が給付金の満額を上回る

給付金の線は、事業の規模が小さいほど近くなります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費、年齢の区分を入れて判定ツールで確かめてください。

よくある質問

老齢基礎年金を繰り下げて待っている間も、給付金は受け取れますか?

受け取れません。法律上の対象は、老齢基礎年金の受給権者のうち裁定の請求をした人です。繰下げ待機中で老齢基礎年金を受けていない間は、所得が低くても対象になりません。

年金生活者支援給付金に税金はかかりますか?

かかりません。年金生活者支援給付金の支給に関する法律33条で、給付金として受けた金銭を標準として租税その他の公課を課すことはできないと定められています。翌年の所得の判定にも入りません。

法人に残した利益や、法人から受け取る配当は判定に入りますか?

法人に残した利益は、役員個人の所得ではないので入りません。一方、法人から配当を受け取ると、配当所得として個人の合計所得金額に入り、その他の所得に数えられます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。