税金の基礎

更正の請求の期限は5年。同じ100万円でも戻る額が17万円違う

払いすぎた税金を取り戻す更正の請求について、5年という期限の起算日と修正申告との非対称を整理しました。必要経費の計上漏れ100万円と社会保険料控除の漏れ100万円で戻る額を計算すると差は最大17.2万円。国民健康保険料が2年で締め切られる点まで扱います。

確定申告を出したあとで、経費の計上漏れや控除の書き忘れに気づくことがあります。このときに使えるのが更正の請求で、期限は原則として法定申告期限から5年です。

ただし、5年さかのぼれば払いすぎた分がすべて戻る、という制度ではありません。何を間違えたかによって、動く税目の数が違います。 同じ100万円の誤りでも、必要経費の計上漏れと社会保険料控除の書き忘れとでは、戻る額が最大17.2万円違いました。

更正の請求ができるのは、法定申告期限から5年以内

納める税金が多過ぎた、または還付される税金が少な過ぎたときに、正しい額へ訂正するよう求める手続きが更正の請求です。更正の請求書を税務署長に提出し、税務署がその内容を検討して減額更正を行います。

期限は原則として法定申告期限から5年以内です。所得税なら翌年3月15日(土日祝に当たる場合はその翌開庁日)が起算点になります。

起算日には例外が2つあります。

  • 確定申告の必要のない人が還付を受けるための申告をしている場合は、その申告書を提出した日から5年以内。法定申告期限ではありません
  • 判決などにより計算の基礎とした事実が申告と異なることが確定した場合などの後発的な理由では、その事実が生じた日の翌日から2か月以内

対になる手続きが修正申告です。納める税金が少な過ぎた場合に自分から訂正するもので、こちらには期限の定めがありません。国税庁は「できるだけ早く」としています。

この非対称は、負担の面でも出ます。更正の請求には加算税がかかりません。一方で修正申告は、調査の事前通知の前に自主的に出せば過少申告加算税はかかりませんが、事前通知の後では新たに納める税金の5%(当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%)、調査を受けた後では10%(同じく超える部分は15%)がかかります。延滞税も別に必要です。

もう1つ、条文に書かれていない落とし穴があります。国税庁は「所得金額の増減や所得控除の追加があっても、最終的な税額または純損失の金額に異動がない場合は、更正の請求はできません」としています。帳簿を直したい、というだけでは請求の対象になりません。

5年になったのは平成23年12月から

もともと更正の請求の期限は1年でした。平成23年度税制改正により、平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する国税について5年に延長されています。それより前に法定申告期限が到来した国税は、いまでも1年のままです。

このとき同時に、税務署が増額更正をすることができる期間も、改正前は3年だったものが5年に延ばされました。納税者側の請求期間だけが延びたわけではなく、双方の期間をそろえた改正です。「5年」という数字が国税の世界で繰り返し出てくるのは、このためです。

同じ100万円の誤りでも、戻る額は「何を間違えたか」で変わる

ここからが本題です。国税庁は更正の請求の添付書類を説明するとき、2つの例を挙げています。事業所得の必要経費(事務所の賃借料)に計上漏れがあった場合と、国民年金保険料の記載漏れで社会保険料控除が過少だった場合です。

この2つは、戻ってくる金額の性質がまったく違います。

  • ケースA:必要経費の計上漏れ100万円。事業所得そのものが下がるので、所得税・住民税に加えて、国民健康保険料と個人事業税まで連動して下がります
  • ケースB:社会保険料控除の計上漏れ100万円。所得控除が増えるだけなので、動くのは所得税と住民税だけです

国民健康保険料の算定基礎は旧ただし書所得(総所得金額等 − 43万円)で、社会保険料控除や扶養控除といった所得控除は差し引きません。個人事業税も、東京都主税局が示すとおり課税標準から引けるのは損失の繰越控除と事業主控除290万円だけで、所得税の所得控除は反映されません。この2つが所得控除に反応しないことが、金額差の正体です。

計算エンジンで両者を並べました。経費200万円・東京23区・独身・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み、個人事業税は税率5%の業種という条件です(2026年・令和8年分基準)。

事業所得ケースA 経費100万円の漏れケースB 社会保険料控除100万円の漏れ
335万円29.1万円(29.1%)15.1万円(15.1%)14.0万円
535万円43.3万円(43.3%)26.1万円(26.1%)17.2万円
735万円43.8万円(43.8%)30.4万円(30.4%)13.4万円
935万円40.9万円(40.9%)32.3万円(32.3%)8.6万円
1,235万円48.7万円(48.7%)43.7万円(43.7%)5.0万円
1,735万円48.7万円(48.7%)43.7万円(43.7%)5.0万円

内訳を見ると、どこで差が付いているかが分かります。

ケースA(必要経費の計上漏れ100万円)

事業所得所得税住民税個人事業税国民健康保険料合計
335万円4.6万円8.9万円5.0万円10.6万円29.1万円
535万円18.8万円8.9万円5.0万円10.6万円43.3万円
735万円19.3万円8.9万円5.0万円10.6万円43.8万円
935万円21.3万円9.5万円5.0万円5.1万円40.9万円
1,235万円33.7万円10.0万円5.0万円0.0万円48.7万円
1,735万円33.7万円10.0万円5.0万円0.0万円48.7万円

ケースB(社会保険料控除の計上漏れ100万円)

事業所得所得税住民税個人事業税国民健康保険料合計
335万円5.1万円10.0万円0.0万円0.0万円15.1万円
535万円16.1万円10.0万円0.0万円0.0万円26.1万円
735万円20.4万円10.0万円0.0万円0.0万円30.4万円
935万円22.3万円10.0万円0.0万円0.0万円32.3万円
1,235万円33.7万円10.0万円0.0万円0.0万円43.7万円
1,735万円33.7万円10.0万円0.0万円0.0万円43.7万円

読み取れることが4つあります。

差が最大になるのは事業所得535万円のあたり

事業所得が高いほど差が開きそうに見えますが、逆です。差は535万円で17.2万円と最大になり、1,235万円では5.0万円まで縮みます。

理由は、ケースAの上乗せ分である国民健康保険料が高所得帯で動かなくなるからです。国保には賦課限度額があり、限度額に張り付いている人は事業所得が100万円下がっても保険料が1円も減りません。表の1,235万円と1,735万円で国保の欄が0.0万円になっているのはそのためです。ここまで来ると、ケースAとケースBの差は個人事業税の5万円(100万円 × 5%)だけになります。

事業所得735万円より935万円のほうが戻る額が少ない

ケースAの合計は735万円で43.8万円、935万円で40.9万円です。所得が200万円多いほうが、同じ100万円の誤りを直しても2.9万円少なく戻ります。

これも国保の限度額です。735万円ならまだ限度額の内側なので所得割が丸ごと10.6万円減りますが、935万円では限度額に近づいており、5.1万円しか減りません。所得税の減りが1.9万円増えても、国保の減りが5.5万円減るほうが大きい、という順序になります。国保の限度額の位置は自治体で違うので、自治体別の国民健康保険料で自分の街の水準を見ておく価値があります。

ケースAでは基礎控除そのものが増える帯がある

事業所得535万円のケースAで、所得税が18.8万円と大きく減っています。ケースBの16.1万円より2.7万円多く、しかも国保が下がるぶん社会保険料控除は減っているので、本来ならケースAのほうが小さくなるはずです。

からくりは基礎控除です。令和8年分の基礎控除は合計所得金額に応じて段階的に決まり、489万円以下なら104万円、489万円超655万円以下なら67万円です。事業所得535万円の人が必要経費100万円を直すと合計所得が435万円になり、基礎控除が67万円から104万円へ37万円増えます。 課税所得は100万円ではなく126.4万円下がる計算です。

ケースBでは合計所得が動かないので、この上乗せは起きません。控除の書き忘れをいくら直しても基礎控除の段は上がらない、という非対称です。段の位置は令和8年の基礎控除で確認してください。

住民税はケースAのほうが小さい

内訳表の住民税を見ると、ケースBは一律10.0万円(100万円 × 10%)なのに、ケースAは8.9万円です。

ケースAでは国民健康保険料が10.6万円下がるため、その分だけ社会保険料控除も減ります。所得が100万円下がっても、控除が10.6万円減るので、課税所得は89.4万円しか下がりません。保険料が下がって得をしたぶん、控除が減って一部が戻ってくるという関係です。ケースAの合計が大きいことに変わりはありませんが、税目ごとに見ると単純な足し算にはなりません。

5年分さかのぼっても、国民健康保険料は2年で締め切られる

ここが実務でいちばん効きます。所得税・住民税・個人事業税は5年さかのぼれますが、国民健康保険料は別の期間制限を持っています。

名古屋市は、保険料の賦課決定について「その年度における最初の保険料の納期の翌日から起算して2年を経過した日以降は、その年度の保険料の変更はできません」としています。起算日は確定申告の期限ではなく、その年度の最初の納期の翌日です。

同じ誤りが5年続いていた場合に、この制限がいくらの差になるかを計算しました。

事業所得1年分5年分(制限がないと仮定)実際に戻る額取り逃がす額
335万円29.1万円145.4万円113.7万円31.7万円
535万円43.3万円216.6万円184.9万円31.7万円
735万円43.8万円219.0万円187.3万円31.7万円
935万円40.9万円204.3万円189.0万円15.3万円
1,235万円48.7万円243.5万円243.5万円0.0万円
1,735万円48.7万円243.4万円243.4万円0.0万円

税の部分は5年分、国保は直近2年度分だけが戻るという前提で置いた概算です。ここでも直感と逆の結果が出ます。取り逃がす額がいちばん大きいのは、所得が低い層です。 事業所得1,235万円以上では国保がもともと限度額で動かないため、期間制限があっても失うものがありません。

なお、期間制限の年数と起算日は自治体の条例や運用によります。国民健康保険を「料」ではなく「税」として課している自治体もあるため、過年度分の訂正を考えるときは、税務署とは別に市区町村の国民健康保険の窓口へ確認してください。

法人は、欠損金が過少だったときだけ10年さかのぼれる

法人税にも同じ更正の請求があり、期限は原則として法定申告期限(申告期限の延長の承認がある場合は承認申告期限)から5年です。後発的な事由に当たる場合の2か月も同じです。

ただし1つだけ例外があります。翌期へ繰り越す欠損金額が過少だった、または記載しなかった場合の更正の請求は、平成30年4月1日以後に開始した事業年度について10年以内です(それ以前に開始した事業年度で平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来したものは9年以内)。欠損金の繰越期間そのものが10年であることに合わせた期間です。

個人事業主にはこの延長がありません。純損失の金額が過少だった場合も、所得税の更正の請求は5年以内です。繰越期間が法人10年・個人3年であることと合わせて、赤字の扱いは法人のほうが時間軸で有利になっています。

もう1つ、法人側で戻らないものがあります。法人住民税の均等割は赤字でも年7万円が固定で発生する税で、所得と連動しません。更正の請求で所得を減らしても、この部分は1円も戻りません。個人事業主の側に均等割に相当する固定費がないぶん、同じ「所得を減らす訂正」の効き方が法人と個人で違う、という話です。法人側で100万円の損金を計上したときに減る税額そのものは、貸倒損失の記事で計算しています。

手続きで見落としやすい4点

1. 事実を証明する書類の添付は要件です。 平成24年2月2日以後に行う更正の請求から明確化されました。国税庁は、一定期間の取引に関する事実に基づく請求ならその取引の記録等を、それ以外なら請求の理由の基礎となる事実を証明する書類を添付するよう求めています。事務所の賃借料の計上漏れなら青色申告決算書と帳簿書類の写し、領収書の写しなど。国民年金保険料の記載漏れなら控除証明書などです。

2. 内容虚偽の記載をして更正の請求書を提出した者には罰則があります。 1年以下の懲役または50万円以下の罰金で、これも平成24年2月2日以後の更正の請求から適用されています。

3. 還付には利息が付きます。 還付加算金の割合は年ごとに告示され、令和8年1月1日から令和8年12月31日までの還付加算金特例基準割合は年1.3%です。令和7年までの0.9%から上がりました。5年前の年分を取り戻す場合、この差は無視できない大きさになります。

4. 地方税は窓口が分かれます。 所得税の確定申告書を提出した人は住民税の申告をしたものとみなされるため(横浜市)、また個人事業税も所得税の確定申告をしていれば申告不要とされているため(東京都主税局)、所得税側を直せば住民税と個人事業税はその内容で計算し直されます。個人事業税については、所得税の更正・決定が行われた場合に別途、納税通知書に記載された納期限までに納める扱いです。地方税だけを直したい場合の更正の請求は、法定納期限から5年以内とされています(地方税法20条の9の3第1項)。

なお、請求どおりに更正されなかった場合は、処分の通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内に、税務署長への再調査の請求または国税不服審判所長への審査請求ができます。

法人化の差額より、過去の申告の訂正のほうが大きい帯がある

最後に、金額の桁を比べておきます。法人化したときに手取りがどれだけ動くかを、同じ計算エンジンで出した表です。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

事業所得800万円の帯で、法人化による年間の差は−22.7万円です。同じ帯(表の735万円の行)で、必要経費100万円の計上漏れを1年分直したときに戻る額は43.8万円でした。法人化の判定が僅差で動く金額と、過年度の申告を1年分直して戻る金額は、同じ桁に乗ります。 法人化を検討する前に、直近5年分の申告に漏れがないかを見たほうが金額として大きい、という帯が存在します。

もちろん、法人化の差額は毎年続くもので、更正の請求は一度きりです。方向の違う2つの数字なので、どちらが大きいかで優劣が決まるわけではありません。それでも、法人化の是非だけを何時間も考えて、5年で期限が切れる訂正を放置するのは順序として逆です。

まとめ

  • 更正の請求の期限は原則として法定申告期限から5年。申告義務のない人の還付申告は提出日から5年、後発的な理由は事実が生じた日の翌日から2か月
  • 修正申告に期限はなく、加算税も更正の請求にはかからない。この非対称は平成23年12月2日の改正で、納税者側の請求期間と税務署側の増額更正期間を5年でそろえたことに由来する
  • 同じ100万円でも、必要経費の計上漏れなら国民健康保険料と個人事業税まで動き、社会保険料控除の漏れなら所得税と住民税しか動かない。差は事業所得535万円で17.2万円、1,235万円では5.0万円まで縮む
  • 事業所得735万円より935万円のほうが戻る額が少ない帯がある。国保の賦課限度額に近づくと、所得が高いほど戻る額が増えるとは限らない
  • 国民健康保険料の賦課決定には別の期間制限があり、名古屋市では最初の納期の翌日から2年。5年分の誤りをまとめて直しても、国保が戻るのは直近の2年度分にとどまる
  • 法人は繰越欠損金が過少だった場合だけ10年(平成30年4月1日以後開始事業年度)さかのぼれる。個人の純損失は5年

ここまでの金額は、経費200万円・東京23区・独身という1つの条件で計算した概算です。国保の限度額に届いているか、基礎控除の段のどちら側にいるかで結論が変わります。計算の前提を確認したうえで、一般論の数字ではなく自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

更正の請求をすると税務調査を受けやすくなりますか?

国税庁は更正の請求について、請求に係る税額等を調査し、請求が適正であるかを審査するとしています。内容の確認は行われますが、請求したこと自体が調査の対象を決めるという説明は公表されていません。事実を証明する書類を添付することが法令上の要件です。

更正の請求が認められると、住民税や国民健康保険料も自動で直りますか?

住民税と個人事業税は所得税の申告内容をもとに計算されるため、所得税側の更正が反映されます。国民健康保険料は保険料の賦課決定に別の期間制限があり、名古屋市はその年度の最初の納期の翌日から2年を経過すると変更できないとしています。

5年より前の年分について、払いすぎに気づいた場合はどうなりますか?

原則として更正の請求はできません。ただし判決などにより計算の基礎とした事実が異なることが確定した場合など、後発的な理由に当たるときは、その事実が生じた日の翌日から2か月以内に請求できます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。