社会保険

健康保険の任意継続と国保はどっち?東京の境目は前年所得345万円

健康保険の任意継続と国民健康保険はどちらが安いのか。令和8年度の上限32万円と9市区の国保実料率を使い、前年所得・元の役員報酬・家族人数ごとの逆転点を計算しました。

健康保険の任意継続と国民健康保険のどちらが安いかは、退職時の標準報酬月額、前年所得、住む自治体、家族人数の4つで決まります。

東京23区・40歳未満・単身で、任意継続が上限の標準報酬月額32万円に達する人なら、令和8年度の保険料は年38万7,072円です。国保と逆転するのは前年所得345万5,000円。これより低ければ国保、高ければ任意継続が安くなる計算です。

ただし大阪市では境目が280万6,000円、福岡市では416万8,000円まで動きます。「前年所得がいくらなら任意継続」と全国一律の数字では判断できません。

任意継続は標準報酬月額32万円が令和8年度の上限

協会けんぽの任意継続保険料は、次のうち低いほうを計算の基礎にします。

  1. 退職時の標準報酬月額
  2. 協会けんぽ全被保険者の平均額を等級に当てはめた標準報酬月額

令和7年9月30日時点の平均額は31万8,100円で、等級表では第23級の32万円に該当します。このため、令和8年度の上限は32万円です。

計算式は次のとおりです。

任意継続の月額 = 退職時の標準報酬月額と32万円の低いほう × 居住地の健康保険料率

健康保険料率には令和8年度からの子ども・子育て支援金率0.23%を含みます。40〜64歳は介護保険料率1.62%も加わります。厚生年金は任意継続できないため、この金額には含みません。退職後に20歳以上60歳未満であれば、国民年金へ別に切り替えます。

東京支部の健康保険料率9.85%を使うと、上限額は次のようになります。

年齢計算に使う率月額年額
40歳未満9.85%+0.23%=10.08%32,256円387,072円
40〜64歳10.08%+介護1.62%=11.70%37,440円449,280円

在職中は会社と本人が原則半分ずつ負担しますが、任意継続は全額本人負担です。このため「給与から引かれていた健康保険料の約2倍」と説明されます。

ただし退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた人には上限が効きます。たとえば東京・40歳未満で退職時の標準報酬月額が53万円でも、任意継続は32万円で計算するため、在職中の本人負担2万6,712円の2倍ではありません。任意継続は月32,256円です。

国保は前年所得と世帯人数で決まり、扶養がない

国民健康保険料は、原則として前年の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた「旧ただし書所得」を基礎にします。住民税の配偶者控除や扶養控除、iDeCo、小規模企業共済の所得控除を引く前の金額です。

任意継続との違いは3つあります。

任意継続国民健康保険
金額の基礎退職時の標準報酬月額(協会けんぽは上限32万円)前年の総所得金額等
家族被扶養者の追加保険料なし扶養の仕組みがなく、加入者ごとに均等割等が加算
地域差都道府県別の協会けんぽ料率市区町村ごとに所得割・均等割等が異なる

会社を畳んで個人事業へ戻る一人社長の場合、前年の法人利益がそのまま国保の所得になるわけではありません。前年に社長個人が受け取った役員報酬は給与所得控除後の給与所得になり、配当や他の所得があれば合算されます。

この違いにより、会社に利益を残して役員報酬を低くしていた人は、国保が予想より安くなる場合があります。反対に役員報酬が高かった人や、不動産所得などを別に持つ人は国保が上がります。

9市区で比べると、逆転点は前年所得280万〜416万円

当サイトが実料率を持つ9市区について、40歳未満・単身・任意継続は上限32万円として比較しました。国保の低所得世帯向け7割・5割・2割軽減は反映していません。

自治体任意継続(年)国保・前年所得300万円国保が任意継続以上になる前年所得
東京23区38.7万円33.9万円345.5万円
横浜市39.0万円34.6万円338.7万円
大阪市39.8万円42.3万円280.6万円
名古屋市39.0万円36.8万円318.9万円
札幌市40.4万円36.6万円332.8万円
福岡市39.7万円29.2万円416.8万円
神戸市39.7万円35.3万円342.3万円
京都市38.9万円34.6万円339.2万円
さいたま市38.0万円33.3万円344.3万円

※ 2026年(令和8年)分、40歳未満・単身。任意継続は各都道府県の協会けんぽ料率+子ども・子育て支援金率0.23%、標準報酬月額32万円で計算。国保は各市区の実料率で1,000円刻みに探索

同じ前年所得300万円でも、国保は福岡市29.2万円、大阪市42.3万円で13.1万円の差があります。任意継続は都道府県差が比較的小さく、上限年38.0万〜40.4万円です。結果として大阪市は前年所得280万円台から任意継続が安くなり、福岡市では416万円台まで国保が安い状態が続きます。

逆転点より所得が低い側では国保、高い側では任意継続が有利です。ただし国保の低所得軽減、非自発的失業者の軽減、自治体独自の減免に該当する場合は国保が表より下がります。最終比較では市区町村の試算額を使う必要があります。

元の役員報酬が月42万円以上なら、東京では任意継続が安い

一人社長が会社を畳み、東京23区で個人事業へ戻るケースを役員報酬別に計算しました。前年は役員報酬だけを受け取り、他の所得はない前提です。

元の役員報酬前年の給与所得任意継続国保安いほうと差額
月20万円160.0万円24.2万円19.1万円国保が5.1万円安い
月28万円227.2万円33.9万円26.2万円国保が7.7万円安い
月32万円263.2万円38.7万円30.0万円国保が8.7万円安い
月42万円359.2万円38.7万円40.2万円任意継続が1.5万円安い
月54万円474.4万円38.7万円52.3万円任意継続が13.6万円安い
月60万円538.0万円38.7万円59.1万円任意継続が20.4万円安い
月90万円885.0万円38.7万円94.8万円任意継続が56.1万円安い

※ 東京・40歳未満・単身・賞与と他所得なし。給与所得控除は令和8年分、国保は東京23区の令和8年度料率。任意継続は元の標準報酬月額と32万円の低いほうで計算

月32万円までは任意継続の計算基礎も上がるため、国保のほうが安くなりました。月42万円になると任意継続は32万円で頭打ちになる一方、国保は前年の給与所得に応じて増え、関係が逆転します。

東京の前年所得345万5,000円という境目を給与収入に戻すと年486万9,000円、月平均では約40万6,000円です。標準報酬月額の等級では41万円付近に当たります。標準報酬月額の全50等級で、退職時の等級を確認できます。

家族が2人増えると、東京では年13万4,000円上がる

任意継続には被扶養者の仕組みがあり、要件を満たす配偶者や子を追加しても保険料は増えません。国保には扶養がなく、所得がゼロの家族にも均等割等がかかります。

前年所得300万円で、本人だけの場合と、無収入の配偶者・子1人を加えた場合を比べました。

自治体国保・単身国保・本人+配偶者+子家族2人による増加任意継続上限
東京23区33.9万円47.3万円13.4万円38.7万円
横浜市34.6万円45.8万円11.2万円39.0万円
大阪市42.3万円51.9万円9.6万円39.8万円
名古屋市36.8万円50.5万円13.6万円39.0万円
札幌市36.6万円42.2万円5.6万円40.4万円
福岡市29.2万円35.5万円6.3万円39.7万円
神戸市35.3万円45.0万円9.7万円39.7万円
京都市34.6万円42.9万円8.3万円38.9万円
さいたま市33.3万円45.3万円12.0万円38.0万円

※ 40歳未満。配偶者・子は所得ゼロ、国保の低所得軽減なし。任意継続の家族が被扶養者の認定要件を満たす前提

東京では単身なら国保が任意継続より4.8万円安いのに、家族3人になると任意継続が8.6万円安くなります。本人の所得が同じでも、家族人数だけで結論が反転しました。

令和8年4月から被扶養者認定の年間収入の取扱いが一部変わっています。家族を追加保険料なしで入れられるのは、収入や生計維持関係などの認定要件を満たす場合だけです。「家族がいる=全員を扶養にできる」ではありません。

迷うなら20日以内の期限を先に確認する

任意継続には、次の2つの加入要件があります。

  • 資格喪失日の前日まで、健康保険の被保険者期間が継続して2か月以上ある
  • 資格喪失日(退職日の翌日など)から20日以内に資格取得申出書を提出する

郵送は20日以内の必着です。20日目が土日・祝日なら翌営業日まで延びます。会社を解散する一人社長も、法人の健康保険資格を失い、加入期間の要件を満たせば対象になり得ます。

期限後に国保から任意継続へ戻ることはできません。一方、令和4年の制度改正以後は、任意継続に入った後でも本人の申出でやめられます。資格喪失申出書が協会けんぽに受理された月の翌月1日が資格喪失日です。

このため、比較が20日以内に終わらない場合は、少なくとも任意継続の期限を失わないよう日程を管理し、その後に市区町村の国保試算額と比べる余地があります。ただし切替えは翌月からで、国保へ遡って変更はできません。

給付面では、任意継続に入っただけでは傷病手当金と出産手当金を受けられません。在職中からの継続給付の要件を満たす場合を除き、「任意継続なら手当金がある」という比較は成り立ちません。一人社長の傷病手当金は在職中の要件を扱っているため、退職後とは分けて確認してください。

まとめ

  • 東京・40歳未満・単身で任意継続が上限32万円なら年38万7,072円。国保との境目は前年所得345万5,000円
  • 9市区の逆転点は大阪市280万6,000円から福岡市416万8,000円まで動くため、全国一律の所得目安は使えない
  • 一人社長が会社を畳む場合、東京では元の役員報酬が月32万円なら国保、月42万円以上なら任意継続が安くなった
  • 任意継続は被扶養者の追加保険料がない。国保は家族ごとの均等割等により、家族人数だけで結論が反転する
  • 任意継続の申請は資格喪失日から20日以内。加入後は申出で翌月1日にやめられるが、期限後に国保から任意継続へは戻れない

国保は前年所得と自治体、任意継続は退職時の標準報酬月額で決まります。現在の売上ではなく、前年の所得と家族人数を確認したうえで、自分の条件に近い金額を確かめてください。

よくある質問

任意継続は、退職前に払っていた健康保険料のちょうど2倍ですか

在職中の会社負担分も自分で払うため原則は約2倍ですが、協会けんぽでは計算に使う標準報酬月額に32万円の上限があります。退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた人は、単純な2倍より少なくなります。居住する都道府県が変わる場合や料率改定でも一致しません。

任意継続に入った後、国民健康保険へ切り替えられますか

切り替えられます。資格喪失申出書を提出し、協会けんぽが受理した月の翌月1日に任意継続の資格を喪失します。国保へ遡って切り替えることはできません。

任意継続なら傷病手当金や出産手当金を受けられますか

任意継続に加入したことだけを理由に傷病手当金・出産手当金は支給されません。退職前からの継続給付の要件を満たす場合は別ですが、この点は国保との保険料比較から切り離す必要があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。