税金の基礎
社長の車の借上料は雑所得。報酬に乗せた場合との差は年15.5万円
結論
社長個人名義の車を会社が業務使用のために借り上げて払う使用料は、所得税基本通達35-2(1)により社長側の「業務に係る雑所得」です。給与ではないので源泉徴収の対象ではなく、標準報酬月額にも乗りません。事業所得1,000万円・役員報酬月54万円の一人社長が年24万円を借上料で受け取ると手取り合計は年8.9万円増え、同じ24万円を役員報酬に乗せると6.6万円減ります。差は年15.5万円です。
- 動産(船舶・航空機を除く)の貸付けによる所得は、事業所得または山林所得と認められるものを除き業務に係る雑所得。居住者への動産の使用料は源泉徴収の対象8類型に入らない
- 役員報酬を月54万円から56万円に上げると標準報酬月額が53万円から56万円へ動き、社会保険料は労使合計で年10.2万円増える
- 社長側の必要経費が年9.4万円を下回ると雑所得が14.6万円を超え、令和8年分の基礎控除が104万円から67万円に下がる
一人社長が自分の車を仕事に使っている場合、会社から自分へお金を動かす方法は1つではありません。役員報酬を上げる方法と、車の使用料(借上料)として払う方法があります。
この2つは課税の経路がまったく違います。借上料は給与ではないため源泉徴収の対象にならず、社会保険の標準報酬月額にも乗りません。ただし、車の必要経費が小さいと、思ったほど残らない帯があります。
借上料は給与ではなく、社長側の「業務に係る雑所得」になる
所得税基本通達35-2は「業務に係る雑所得の例示」として8つを並べ、その(1)に次を置いています。
動産(法第26条第1項《不動産所得》に規定する船舶及び航空機を除く。)の貸付けによる所得
つまり車の貸付けによる所得は、事業所得または山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得です。レンタカー業を営んでいるわけではない一人社長が自分の車を1台貸すだけなら、ここに収まります。
不動産所得ではない点に注意してください。国税庁のタックスアンサーNo.1370が挙げる不動産所得の対象は、土地や建物などの不動産、借地権など不動産の上に存する権利、そして船舶と航空機の3つです。車は動産なので、この列挙に入りません。通達35-2(1)が「船舶及び航空機を除く」と断っているのは、その2つだけが不動産所得側に引き抜かれているからです。
源泉徴収はしなくてよい
会社が社長へ借上料を払うとき、源泉徴収は不要です。タックスアンサーNo.2792が挙げる、居住者への支払いで源泉徴収が必要な報酬・料金等は8類型あります。原稿料や講演料、弁護士や公認会計士などの特定の資格を持つ人への報酬、診療報酬、プロスポーツ選手やモデル・外交員への報酬、芸能関係、ホステス等、契約金、広告宣伝のための賞金です。動産の使用料はこの8類型のどこにも入りません。
ただし同じNo.2792は、「車代」などの名目で払われていても実態が報酬・料金等と同じであれば源泉徴収の対象になる、とも書いています。名目を借上料にすれば形が決まる、という話ではありません。
同じ24万円でも、借上料と役員報酬で手取りが年15.5万円違う
借上料を月2万円(年24万円)とした場合に、会社と社長を合わせた手取りがどう動くかを計算エンジンで出しました。比較の軸を固定するため、役員報酬は各行の最適額に置いたままにしています。
| 事業所得(青色控除前) | 最適な役員報酬 | 借上料(必要経費24万円=雑所得0円) | 借上料(必要経費0円=雑所得24万円) | 役員報酬を月2万円上げる |
|---|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | +7.5万円 | +3.2万円 | −5.1万円 |
| 800万円 | 月54万円 | +8.9万円 | −0.9万円 | −6.6万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | +8.9万円 | −0.9万円 | −6.6万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | +9.3万円 | −0.5万円 | −6.2万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +9.2万円 | −0.5万円 | −6.2万円 |
※ 借上料 年24万円(月2万円)。役員報酬は各行の最適額に固定し、同じ24万円を借上料で払う場合と報酬に乗せる場合で手取り合計の増減を比べた。東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・経費200万円/2026年(令和8年)分基準。scripts/maikaa-kariageryo.mjs
事業所得1,000万円の行を読むと、借上料で渡した場合は年8.9万円増え、同じ24万円を役員報酬に乗せた場合は6.6万円減ります。差は年15.5万円です。渡す金額は同じ24万円なのに、経路でこれだけ動きます。
役員報酬を上げると社会保険料が42%ついてくる
役員報酬側がマイナスになる理由は社会保険料です。報酬を月54万円から56万円に上げると、標準報酬月額は53万円(健康保険31等級・厚生年金28等級)から56万円(健康保険32等級・厚生年金29等級)へ一段上がります。保険料は労使合計で年180.5万円から190.7万円になり、年10.2万円増えます。報酬の増額分24万円に対して42.6%です。
借上料は報酬ではないため、標準報酬月額は53万円のまま動きません。標準報酬月額が等級で区切られている仕組みは標準報酬月額の等級表で、報酬を上げ下げしたときの手取りの動きは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。
もう1つの理由は、最適な役員報酬がすでに手取りの山の頂上だからです。月54万円が最適額になっている条件で報酬を上げると、どちらへ動かしても手取り合計は下がります。借上料は山を降りずに現金を動かせる経路になっています。
必要経費が年9.4万円を下回ると、増え方が6.5万円から1.0万円に落ちる
雑所得の金額は、総収入金額から必要経費を引いた額です(No.1500)。車の場合の必要経費は、減価償却費・自動車税・任意保険料・車検費用などのうち業務使用に対応する部分です。ここが借上料より小さいと、差額が雑所得として課税されます。
必要経費を変えて計算すると、落ち方が一定ではありません。
| 社長側の必要経費(年) | 課税される雑所得 | 借上料で払う | 役員報酬を月2万円上げる |
|---|---|---|---|
| 24.0万円 | 0.0万円 | +8.9万円 | −6.6万円 |
| 18.0万円 | 6.0万円 | +7.7万円 | −6.6万円 |
| 12.0万円 | 12.0万円 | +6.5万円 | −6.6万円 |
| 6.0万円 | 18.0万円 | +1.0万円 | −6.6万円 |
| 0.0万円 | 24.0万円 | −0.9万円 | −6.6万円 |
※ 売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)・役員報酬 月54万円に固定。借上料 年24万円。手取り合計の増減。scripts/maikaa-kariageryo.mjs keihi
必要経費が24万円から12万円へ減る区間では、手取りの増加分は8.9万円から6.5万円へ、2.4万円しか落ちません。ところが12万円から6万円へ減る区間では、6.5万円から1.0万円へ5.5万円落ちます。必要経費の減り方は同じ6万円なのに、落ち幅が2倍以上になります。
落ちる原因は基礎控除の段差
令和8年分の基礎控除は、合計所得金額が489万円以下なら104万円、490万円以上なら67万円です(基礎控除104万円が使えるのは所得489万円まで)。差は37万円で、段差として効きます。
役員報酬が月54万円(年648万円)の社長の給与所得は474.4万円です。合計所得金額が489万円に届くまでの余裕は14.6万円しかありません。借上料24万円に対して必要経費が9.4万円を下回ると、雑所得が14.6万円を超えて段差を越えます。越えた瞬間に課税所得が雑所得の増加分だけでなく基礎控除の37万円分も増えるため、手取りが一段まとめて落ちます。
事業所得が低いほうが、古い車でも借上料が効き続ける
同じ表の1行目に戻ると、事業所得600万円では必要経費0円でも+3.2万円が残っています。事業所得1,000万円の行では同じ条件が−0.9万円です。所得が低いほうが有利になる、という逆の並びです。
理由は役員報酬の水準です。事業所得600万円の最適報酬は月42万円で、給与所得は359.2万円。489万円までの余裕は129.8万円あるため、雑所得24万円では段差に届きません。所得が高いほど節税の幅も大きい、という感覚のままでは読み違える部分です。
減価償却が終わった車では必要経費がほぼ残りません。新車登録から年数が経った車の耐用年数と償却の進み方は4年落ちの中古車は耐用年数2年で扱っています。
なお、必要経費が借上料を上回って雑所得が赤字になっても、役員報酬と相殺はできません。雑所得の計算上生じた損失は他の所得と損益通算できないとNo.1500に明記されています。
通勤のための支払いは借上料と別物で、社会保険の扱いが逆になる
同じ車に対する支払いでも、通勤のためのものは通勤手当です。マイカー通勤の通勤手当には1か月あたりの非課税限度額があり、片道の通勤距離で決まります(No.2585)。片道10キロメートル以上15キロメートル未満なら月7,300円、95キロメートル以上で月66,400円です。限度額の全体は役員の通勤手当と社会保険料に表で載せています。
ここで扱いが入れ替わります。通勤手当は非課税限度額の範囲内なら所得税がかかりませんが、社会保険の報酬には含まれます。日本年金機構が挙げる報酬の例に、通勤手当は明示されています。所得税は非課税でも、標準報酬月額の計算には乗るということです。
借上料は逆向きです。業務使用の対価なので所得税の課税対象(雑所得)になりますが、通勤の補助ではないため報酬の例には出てきません。片方だけを見て「車関係の支払いは有利」と一括りにできない部分です。
報酬に当たらないと言い切れるかは、払い方で変わる
標準報酬月額の対象となる報酬について、日本年金機構は次の2つを示しています。
ア.被保険者が自己の労働の対償として受けるものであること。 イ.事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計にあてられるもの。
借上料は車を貸したことの対価なので、アの「労働の対償」には当たりません。問題はイです。実費の裏づけなく毎月同額を払い続ける形は、経常的かつ実質的に受けるものと見られる余地が残ります。報酬の例に借上料が挙げられていないことと、どんな払い方でも報酬にならないことは同じではありません。金額の根拠を残しておくかどうかで、説明できる範囲が変わります。 判断が分かれる場合は、管轄の年金事務所に払い方ごと確認するのが確実です。
法人側にも線があります。借上料が相当な対価を超えていれば、超えた部分は実質的に役員へ給与を支給したのと同じ経済的効果を持ちます。タックスアンサーNo.5202が整理するとおり、役員に対する経済的利益は給与として扱われ、継続的に供与される利益のうち毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当しますが、そうでないものは損金に算入されません。相場と業務使用の割合から積み上げた額にしておく必要があります。
業務に係る雑所得には書類の保存義務もあります。前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える人は現金預金取引等関係書類の保存が必要で、1,000万円を超える人は収支内訳書などの添付が必要です。これは雑所得の収入金額についての基準で、消費税の課税事業者になるかどうかを見る課税売上高1,000万円とは別の数字です。車1台の借上料だけであればどちらにも届きませんが、副業の収入が他にある場合は合わせて数えることになります。
借上料で動かせるのは、社長が持っている車の経費の一部です。法人化そのものの損得は、車の扱いを決める前に売上と経費で決まります。社用車を法人名義にした場合の分岐点の動きは社用車を経費にすると法人化の分岐点はどう動くかで、個人の資産を法人へ貸す形の整理は自宅を法人へ貸して家賃を取るで扱っています。ここに出した数字は東京23区・40歳未満・独身の条件での概算なので、自分の売上と経費で確かめてください。
まとめ
- 社長個人名義の車を会社が借り上げて払う使用料は、事業所得と認められる場合を除き業務に係る雑所得(所得税基本通達35-2(1))。不動産所得にも給与にも当たらず、源泉徴収の対象8類型にも入らない
- 事業所得1,000万円・役員報酬月54万円なら、年24万円を借上料で渡すと手取り合計は年8.9万円増え、同じ24万円を報酬に乗せると6.6万円減る。差は年15.5万円
- 報酬を月54万円から56万円へ上げると標準報酬月額が53万円から56万円へ動き、社会保険料は労使合計で年10.2万円増える。借上料では標準報酬月額が動かない
- 必要経費が年9.4万円を下回ると雑所得が14.6万円を超え、令和8年分の基礎控除が104万円から67万円に下がる。手取りの増加分は6.5万円から1.0万円へ落ちる
- 通勤手当は非課税限度額の範囲なら所得税がかからないが社会保険の報酬には含まれる。借上料とは扱いが逆になる
よくある質問
借上料を払うのに契約書は必要ですか。
法律上の様式は定められていませんが、賃貸借の対象(車種・登録番号)、月額、業務使用の範囲を書いた契約書と、業務使用の割合を裏づける走行の記録を残す形が実務上の前提になります。記録がないと、使用料なのか給与なのかを外から区別できません。
車の名義を会社に移すのと、借り上げるのとではどちらが有利ですか。
名義を移すと車両そのものが法人の資産になり、減価償却費・自動車税・保険料がすべて法人の経費になります。借上げは個人の資産のまま使用料だけを動かす形です。取得時期や残存価額で結論が変わるため、個別の条件で比較する必要があります。
借上料は消費税の課税取引ですか。
社長が免税事業者であれば、会社は借上料についてインボイスを受け取れません。原則課税の法人では、令和8年10月以降、免税事業者からの仕入れに係る消費税額の7割までしか控除できません。
雑所得が赤字になったら給与と相殺できますか。
できません。雑所得の金額の計算上生じた損失は、他の所得の金額と損益通算できないと国税庁のタックスアンサーNo.1500に示されています。必要経費が借上料を上回っても、超えた部分は捨てることになります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。