インボイス・消費税

役員社宅の家賃で課税売上割合が95%を割る境目。売上1,200万円なら月10.5万円

結論

役員から受け取る社宅家賃は住宅の貸付けで非課税売上になるため、課税売上高の19分の1(5.26%)を超えると課税売上割合が95%を割り、仕入税額の全額控除ができなくなります。売上1,200万円なら受け取る家賃が年63.2万円超、役員負担50%の借上社宅なら家賃月10.5万円超が境目です。家賃月15万円で一括比例配分方式を使うと、控除できなくなる仕入税額は年8,373円です。

  • 対象は原則課税の会社だけ。簡易課税や2割特例を使っている課税期間では、課税売上割合で控除額が変わることはない
  • 会社が貸主に払う家賃はもともと非課税仕入れ。按分で減るのは、事務所費や外注費など他の課税仕入れの控除
  • 社宅による手取りの改善(家賃月15万円で年33.4万円)に比べると、95%割れの損は2桁小さい

法人化すると、自宅を社宅にして家賃の一部を会社負担にする方法が使えるようになります。この記事で扱うのは、そのとき役員から受け取る家賃のほうです。会社が社長に住宅を貸すと、受け取る家賃は消費税の非課税売上になります。インボイス登録をして原則課税で申告している一人会社では、本業の売上がすべて課税取引でも、ここから課税売上割合が95%を割ることがあります。

役員から受け取る家賃は、会社の非課税売上

国税庁のタックスアンサー(No.6226)は、非課税となる住宅の貸付けの「住宅」に社宅や寮も含めています。会社が賃貸物件を借り上げて役員に又貸しする場合も、契約上住宅として転貸することが明らかなら、会社が自分で住んでいなくても非課税です。

借上社宅の流れを、消費税の区分で並べると次のようになります。

取引消費税の区分会社の申告への影響
会社が貸主に家賃を払う非課税仕入れ仕入税額控除の対象ではない
会社が役員から家賃を受け取る非課税売上課税売上割合の分母に入る
本業の売上課税売上課税売上割合の分子と分母に入る

会社が払う家賃は、最初から仕入税額控除と関係がありません。問題になるのは受け取る側です。課税売上割合は「課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高)」で計算され(No.6405)、非課税売上が増えるほど下がります。

社宅にするときに役員から受け取る額は、所得税の給与課税を避けるため「賃貸料相当額」以上にするのが一般的です。借上社宅のうち小規模な住宅に当たらないもの(木造等で132㎡超・それ以外で99㎡超)は、賃貸料相当額が算式の額と会社が払う家賃の50%のいずれか多いほうになります。小規模な住宅は算式の額だけで決まり、50%の規定はありませんが、算式の額は固定資産税の課税標準額を確認しないと出せないため、家賃の50%を受け取る運用がよく使われます。この記事の表も50%で計算しています。仕組みと手取りへの効果は役員社宅で法人化の分岐点は909万円に下がるで計算しています。

95%を割る境目は「課税売上高の19分の1」

課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上なら、課税仕入れの消費税は全額控除できます(No.6401)。95%を割ると、課税売上に対応する部分だけの控除に変わります。

非課税売上が役員から受け取る家賃だけなら、境目は単純な式で出ます。

課税売上高 ÷(課税売上高 + 受け取る家賃)< 95%
⇔ 受け取る家賃 > 課税売上高 × 5 ÷ 95(=課税売上高の約5.26%)

売上別に計算すると次のとおりです。

課税売上高(税抜・年)境目の年額境目の月額役員負担50%なら家賃月額
600万円31.6万円超2.6万円超5.3万円超
800万円42.1万円超3.5万円超7万円超
1,000万円52.6万円超4.4万円超8.8万円超
1,200万円63.2万円超5.3万円超10.5万円超
1,500万円78.9万円超6.6万円超13.2万円超
2,000万円105.3万円超8.8万円超17.5万円超
3,000万円157.9万円超13.2万円超26.3万円超

※ 非課税売上が役員から受け取る家賃だけの場合。預金利息なども非課税売上に入るが、普通預金の利息は通常ごく小さい

売上1,200万円の一人会社なら、家賃月10.5万円を超える借上社宅で役員負担を50%にすると95%を割ります。都市部のファミリー向けの賃貸なら十分に届く水準で、法人化を検討する売上帯では珍しい話ではありません。

課税売上割合は、原則として端数を処理しません。処理するとしても任意の位以下の切捨てに限られるので、94.9%を四捨五入して95%とすることはできません。

割ると、控除できなくなる額は年1万円前後

では95%を割ると、消費税はいくら増えるのか。売上1,200万円・経費200万円(うち6割が課税仕入れで、その消費税は12万円)の会社で、社宅の家賃を変えて計算しました。

社宅の家賃(月)役員から受け取る家賃(年・50%)課税売上割合全額控除か一括比例配分方式で控除できない額納める消費税
8万円48万円96.1%全額控除0円1,080,000円
10万円60万円95.2%全額控除0円1,080,000円
15万円90万円93.0%按分8,373円1,088,373円
20万円120万円90.9%按分10,910円1,090,910円
25万円150万円88.8%按分13,334円1,093,334円

※ 原則課税。経費のうち課税仕入れの割合は計算エンジンの既定値(6割)。一括比例配分方式は課税仕入れの消費税×課税売上割合だけを控除する。個別対応方式なら、課税売上にだけ要する仕入れは全額控除できるので、控除できない額はこれより小さくなる

家賃月15万円で年8,373円、月25万円でも年13,334円です。控除できなくなるのは「課税仕入れの消費税×(1−課税売上割合)」なので、課税仕入れが少ない一人会社ほど損は小さくなります。

同じ家賃月15万円で、社宅にしたことによる手取りの改善は、事業所得1,000万円の条件で年33.4万円でした(役員社宅の記事の計算)。95%割れの損はその40分の1程度です。社宅をやめる理由になる大きさではありません。

損よりも、手間と選択が増える

金額が小さくても、95%を割った課税期間には次の作業が加わります。

  • 方式の選択:個別対応方式か一括比例配分方式かを決める。一括比例配分方式を選ぶと、2年間は個別対応方式に変えられない
  • 仕入れの区分:個別対応方式を使うなら、課税仕入れを「課税売上にのみ要するもの」「非課税売上にのみ要するもの」「共通して要するもの」に分けて記帳しておく必要がある
  • 設備投資のある年:調整対象固定資産を買った年と、その後の課税売上割合が大きく動くと、3年目に仕入税額の調整が必要になる場合がある

個別対応方式で区分しておけば、本業の外注費や広告費のように課税売上にだけ使った仕入れは全額控除でき、控除できなくなるのは事務所家賃・会計ソフト・通信費のような共通部分の一部に限られます。逆に区分の記帳をしていなければ、使えるのは一括比例配分方式だけです。

原則課税の会社だけの話

この論点が生じるのは、仕入税額控除を実額で計算している会社だけです。

  • 簡易課税を選んでいる課税期間は、売上の消費税にみなし仕入率を掛けて控除額を出すので、課税売上割合は使わない
  • 2割特例を使える課税期間(法人は令和8年9月30日を含む課税期間まで)も、売上の消費税の8割を控除するだけなので関係ない
  • 免税事業者(インボイス未登録で、設立1〜2期の免税を受けている会社など)は、そもそも消費税を納めない

判定ツールの消費税は原則課税で計算していますが、課税売上割合による按分までは入れていません。上の表のとおり影響は年1万円前後なので、法人化の判定を動かすほどではありません。インボイス登録の有無で法人化の消費税がどう変わるかはインボイス登録済みなら法人化しても消費税は免税にならないで整理しています。

まとめ

  • 会社が役員に貸す社宅の家賃は住宅の貸付けで非課税売上になり、課税売上割合を下げる
  • 受け取る家賃が課税売上高の19分の1(約5.26%)を超えると95%を割る。売上1,200万円・役員負担50%なら家賃月10.5万円超が境目
  • 割ったときに控除できなくなる仕入税額は、売上1,200万円・家賃月15万円で年8,373円(一括比例配分方式)。個別対応方式ならさらに小さい
  • 損は社宅による手取りの改善の40分の1程度だが、方式の選択や仕入れの区分という手間が増える
  • 簡易課税・2割特例・免税事業者の課税期間には関係しない

社宅の家賃を含めた法人化の損得は、まず自分の売上と経費で判定ツールにかけ、社宅の効果と消費税の按分を上乗せして考えてください。

よくある質問

役員負担分を給与から天引きしても、非課税売上になりますか。

なります。受け取り方が天引きでも振込でも、会社が役員に住宅を貸し、その対価を受け取っていることに変わりはありません。社宅は国税庁のタックスアンサーでも住宅の例に挙げられています。

課税売上割合が95%を少し割っただけなら、端数を四捨五入して95%にできますか。

できません。課税売上割合は原則として端数処理をせず、処理する場合も任意の位以下を切り捨てる方法に限られます。切り上げや四捨五入で95%に届かせることは認められていません。

社宅ではなく、会社名義の駐車場を役員に貸した場合はどうなりますか。

住宅に付随しない駐車場の貸付けは課税売上なので、課税売上割合を下げません。住宅と一体で、一戸当たり1台分以上が割り当てられ、別に駐車場代を取っていない場合は住宅の家賃に含まれて非課税になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。