インボイス・消費税
海外のネット広告費にリバースチャージは要る?一人社長の大半は申告不要
結論
海外のネット広告費はリバースチャージ(特定課税仕入れ)の対象ですが、一般課税で課税売上割合が95%以上の課税期間、簡易課税や2割特例で申告する課税期間は、当分の間「特定課税仕入れはなかったもの」とされ、申告も納税も要りません。受託売上だけの一人会社なら課税売上割合はほぼ100%です。申告が必要になるのは、一般課税で住宅の家賃収入や株式の売却などにより課税売上割合が95%を下回った年だけです。
- 課税売上1,200万円の法人なら、住宅の家賃などの非課税売上が年63.1万円を超えると課税売上割合が95%を下回る
- 株式の売却は譲渡対価の5%が分母に入る。課税売上1,200万円の法人が株式を1,500万円売ると94.11%で、リバースチャージが必要になる
- Webから誰でも申し込める海外SaaSは「消費者向け」。インボイス登録していない国外事業者なら、仕入税額控除は0で80%の経過措置もない
「海外のネット広告を使ったらリバースチャージの申告が必要」という説明はよく見かけます。制度としては正しいのですが、国税庁の経過措置により、申告が必要になる事業者はかなり絞られています。一人社長が気にすべきなのは、自分の会社がその絞られた側に入る年があるかです。
広告配信は「事業者向け」、Web申込みのSaaSは「消費者向け」
インターネットを介した役務の提供は「電気通信利用役務の提供」と呼ばれ、国外事業者から受けたものでも、受け手が国内の事業者なら国内取引として消費税がかかります。誰が納税するかは、事業者向けか消費者向けかで分かれます。
| 区分 | 国税庁が挙げる例 | 納税するのは | 受け手の仕入税額控除 |
|---|---|---|---|
| 事業者向け電気通信利用役務の提供 | インターネット上での広告の配信、アプリを販売する場所の提供、個別交渉で契約するクラウドサービス | 受け手(リバースチャージ) | 帳簿の保存だけで可 |
| 消費者向け電気通信利用役務の提供 | 電子書籍・音楽・映像の配信、Webサイトから誰でも申し込めるクラウドサービス | 国外事業者 | 国外事業者のインボイスが必要 |
分かれ目は、役務の性質や取引条件から「受け手が通常事業者に限られるか」です。国税庁のパンフレットは、Webサイトに「事業者向け」と書いてあっても、消費者からの申込みを事実上制限できないクラウドサービスは消費者向けに当たるとしています。一人社長が月額課金で契約している海外SaaSの多くは、こちらに入ります。
事業者向けの役務を提供する国外事業者には、取引の相手に「リバースチャージ方式の対象である」と表示する義務があります。請求書や利用規約にその表示があれば、事業者向けとして扱われている取引です。
リバースチャージが必要なのは「一般課税かつ95%未満」の年だけ
国税庁 No.6118 は、特定課税仕入れ(事業者向け電気通信利用役務の提供など)について、次の課税期間は当分の間「なかったもの」とされるとしています。
| 申告の方法・状況 | リバースチャージの申告 |
|---|---|
| 免税事業者 | 不要(そもそも申告しない) |
| 2割特例で申告する課税期間 | 不要 |
| 簡易課税で申告する課税期間 | 不要 |
| 一般課税・課税売上割合95%以上 | 不要 |
| 一般課税・課税売上割合95%未満 | 必要 |
「なかったもの」とされる課税期間は、申告納税の義務がないだけでなく、特定課税仕入れの税額を仕入税額控除だけ行うこともできません。
2割特例は、令和8年9月30日を含む課税期間で終わります。法人には後継の3割特例がないので、次の課税期間からは一般課税か簡易課税のどちらかです(2割特例は令和8年で終了)。簡易課税を選べば、リバースチャージは考えなくて済みます。一般課税を選んだ法人だけが、毎年の課税売上割合を確認する必要があります。
受託売上だけなら課税売上割合はほぼ100%
課税売上割合は、課税売上高を総売上高(課税・輸出免税・非課税の合計)で割った割合です。輸出免税の売上は分子にも入ります。有価証券の譲渡は、譲渡対価の**5%**だけを分母に入れます(No.6405)。
課税売上1,200万円の法人に、よくある非課税の収入が加わった場合を計算しました。
| 課税売上1,200万円の法人に加わるもの | 課税売上高(分子) | 分母に加わる額 | 課税売上割合 | 一般課税でのリバースチャージ |
|---|---|---|---|---|
| 受託売上だけ(預金利息1万円) | 1,200万円 | 1万円 | 99.91% | 不要(なかったものとされる) |
| 海外向け受託(輸出免税)600万円を含む | 1,200万円 | 1万円 | 99.91% | 不要(なかったものとされる) |
| 住宅の家賃収入 年60万円 | 1,200万円 | 60万円 | 95.23% | 不要(なかったものとされる) |
| 住宅の家賃収入 年72万円 | 1,200万円 | 72万円 | 94.33% | 必要 |
| 法人名義の株式を1,000万円売却 | 1,200万円 | 50万円 | 96.00% | 不要(なかったものとされる) |
| 法人名義の株式を1,500万円売却 | 1,200万円 | 75万円 | 94.11% | 必要 |
| 社長への貸付金の利息 年20万円 | 1,200万円 | 20万円 | 98.36% | 不要(なかったものとされる) |
※ 課税売上高は税抜1,200万円で、輸出免税の売上も課税売上高に含めた。有価証券の譲渡は譲渡対価の5%を分母に加える(国税庁 No.6405)。課税売上割合は小数点第3位以下切捨てで表示。95%を下回らない非課税売上の上限は、課税売上1,200万円なら63.1万円まで。簡易課税・2割特例の課税期間は、割合にかかわらず不要
課税売上高の約5.26%を超える非課税売上があると、95%を下回ります。一人会社で現実に起きるのは、住宅の貸付けを会社で持っている場合と、会社の余剰資金で株式を売買した年です。海外向けの受託売上(輸出免税)は分子に入るので、割合を下げません(海外向け売上と1,000万円の判定)。
株式の売却額は5%しか入りませんが、売買を繰り返すと総額が大きくなります。課税売上1,200万円なら、売却総額が約1,263万円を超えた年に95%を割ります。法人の株式投資の課税関係は法人で株式投資をすると税金はどうなるかで扱っています。
95%を割っても、増える納付額は小さい
リバースチャージでは、支払った広告費の10%を売上側の消費税額に加え、同じ額を仕入側で控除します。95%未満の一般課税では仕入側が課税売上割合で按分されるので、差額が納付額として残ります。
| 課税売上割合 | リバースチャージ | 売上側に加える税額 | 仕入側で控除できる額(一括比例配分) | 納付額の増加 |
|---|---|---|---|---|
| 99.00% | 不要 | — | — | 0円 |
| 95.00% | 不要 | — | — | 0円 |
| 94.00% | 必要 | 12万円 | 11.3万円 | 0.7万円 |
| 90.00% | 必要 | 12万円 | 10.8万円 | 1.2万円 |
| 80.00% | 必要 | 12万円 | 9.6万円 | 2.4万円 |
※ 国外事業者に支払う事業者向けの広告配信料 年120万円(税抜・消費税の上乗せなし)の場合。消費税は国・地方合計10%。個別対応方式で広告費を「課税売上げにのみ要するもの」に区分できれば、控除できる額は売上側の額と同じになる
年120万円の広告費でも、94%なら増えるのは年0.7万円です。金額よりも問題は、申告書に載せ忘れることです。95%を割る年は、リバースチャージの記載と、国内の経費を含めた仕入税額控除の按分が同時に必要になります。按分のほうが、国内の経費全体にかかるぶん影響は大きくなります。
本当に効くのは、未登録の海外SaaSの仕入税額控除
リバースチャージより金額が大きくなりやすいのが、消費者向け電気通信利用役務の提供の側です。国税庁の質疑応答事例は、インボイス登録を受けていない国外事業者から受けた消費者向けの役務について、仕入税額控除の対象にならないとしています。
国内の免税事業者からの仕入れなら、令和8年9月30日までは80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは50%を控除できる経過措置があります。国外事業者の消費者向け電気通信利用役務の提供には、この経過措置が適用されません。
一般課税の法人が、インボイス登録していない国外事業者のSaaSを使っている場合、その支払いについて控除できる消費税は0円です。登録している国外事業者なら、インボイスの保存を条件に控除できます。海外SaaSの請求書に日本の登録番号(Tから始まる番号)が載っているかを、一般課税に移る前に確認しておく価値があります。
簡易課税や2割特例では、仕入税額は売上の消費税から一定割合で計算するので、この区別は納付額に影響しません。一般課税と簡易課税のどちらが有利かは簡易課税のみなし仕入率で比べられます。
まとめ
- 海外のネット広告は事業者向け電気通信利用役務の提供で、リバースチャージの対象になり得る
- ただし一般課税で課税売上割合95%以上、簡易課税、2割特例の課税期間は「なかったもの」とされ、申告は不要
- 受託売上だけの一人会社なら課税売上割合はほぼ100%。住宅の家賃や株式の売却で課税売上高の約5.26%を超える非課税売上がある年に95%を割る
- 95%を割っても、年120万円の広告費で増える納付額は94%なら0.7万円。載せ忘れのほうが問題になる
- Web申込みの海外SaaSは消費者向けで、国外事業者がインボイス未登録なら一般課税でも控除0円。80%・50%の経過措置もない
リバースチャージの有無は、法人化の損得を左右するほどの金額にはなりにくい論点です。法人化するかどうかは、インボイス登録の有無を入れたうえで、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
海外の広告サービスが「事業者向け」かどうかは、どうやって分かりますか?
事業者向け電気通信利用役務の提供を行う国外事業者には、取引の相手に対して、その取引がリバースチャージ方式の対象である旨をあらかじめ表示する義務があります。請求書や利用規約の表示を確認します。国税庁はインターネット上での広告の配信を、役務の性質から事業者向けに当たる例として挙げています。
免税事業者の会社が海外広告を使っていても、何か手続きは要りますか?
要りません。免税事業者は消費税の確定申告を行う必要がないので、特定課税仕入れがあっても申告等は不要です(国税庁 No.6118)。
リバースチャージで納めた消費税は、仕入税額控除にインボイスが要りますか?
要りません。リバースチャージ方式で申告・納税する消費税額は仕入税額控除の対象で、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで控除できます。消費者向け電気通信利用役務の提供とは要件が違います。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。