税金の基礎
所得金額調整控除は役員報酬850万円超から。子どもがいれば最大15万円
結論
所得金額調整控除は、給与収入が850万円を超え、23歳未満の扶養親族か特別障害者がいる人の給与所得から(給与収入[上限1,000万円]−850万円)×10%、最大15万円を差し引く制度です。事業所得には使えないので個人事業主には関係がなく、法人化後に役員報酬が月71万円以上になったときに効きます。事業所得1,800万円・子1人の例で手取りは年4.6万円増えます。
- 15歳以下の子で扶養控除が0円でも、23歳未満の扶養親族なので対象になる。夫婦ともに給与収入850万円超なら2人とも使える
- 控除を入れても最適な役員報酬はほぼ動かない。事業所得1,200万〜1,500万円の最適報酬は月54万円で、850万円に届かない
- 給与所得を減らす控除なので合計所得金額も下がる。役員報酬月100万円なら合計所得が1,000万円を下回り、配偶者控除が残る
個人事業主のうちは縁のない控除があります。所得金額調整控除です。給与所得だけに付く控除で、事業所得には使えません。法人化して役員報酬を受け取るようになり、その額が年850万円を超えたところで初めて使えるようになります。
とはいえ、850万円を超える役員報酬を設計する人は多くありません。この記事では、どの事業所得の帯でこの控除が実際に効くのか、効いたときにいくらになるのか、役員報酬の決め方を変えるほどの額なのかを、計算エンジンで確かめます。
850万円を超えた部分の10%、最大15万円を給与所得から引く
国税庁のタックスアンサーNo.1411によると、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は、給与等の収入金額が850万円を超える人で、次のどれかに当たる場合に使えます。
- 本人が特別障害者
- 年齢23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる
控除額は次の式で、1円未満は切り上げます。
(給与等の収入金額[1,000万円超なら1,000万円]−850万円)×10%
給与収入1,000万円で満額の15万円に達し、それ以上は増えません。
この控除は所得控除ではなく、給与所得の金額そのものから差し引く仕組みです。給与所得控除の一種に近い働き方をします。給与所得控除は給与収入850万円超で195万円の上限に達しますが(国税庁No.1410)、この控除が使える人は850万〜1,000万円の間も控除が伸び続け、最大で合計210万円を差し引ける計算になります。
15歳以下の子でも対象になる
扶養控除は16歳以上の扶養親族にしか使えません。所得金額調整控除は「年齢23歳未満の扶養親族」なので、扶養控除が0円の小学生や未就学児でも対象です。一方で、大学生の子のアルバイト収入が増えて扶養親族から外れ、特定親族特別控除の対象になっている場合、その子を理由にこの控除は使えません。特定親族特別控除の線は特定親族特別控除の記事で扱っています。
夫婦2人とも使える
扶養控除は、同じ子について夫婦のどちらか一方しか受けられません。所得金額調整控除にはその制限がなく、国税庁は、夫婦ともに給与収入850万円超で23歳未満の子がいれば、夫婦の両方が控除を受けられると明記しています。夫婦で役員になって、それぞれ850万円を超える報酬を受け取る設計なら、2人分の控除が付きます。
個人事業主には存在しない控除
事業所得には適用がありません。個人事業主は、売上がいくらでも、子どもが何人いても、この控除を受けられません。法人化して役員報酬(給与所得)を受け取るようになったとき、850万円を超えた分から効き始めます。
月額に直すと、年850万円を超えるのは月70万8,334円からです。役員報酬を月71万円(年852万円)にすると2,000円、月84万円(年1,008万円)で満額の15万円になります。
| 役員報酬 | 年収 | 所得金額調整控除 | 手取りの増加 |
|---|---|---|---|
| 月70万円 | 840万円 | 0.0万円 | 0.0万円 |
| 月71万円 | 852万円 | 0.2万円 | 0.1万円 |
| 月75万円 | 900万円 | 5.0万円 | 1.5万円 |
| 月80万円 | 960万円 | 11.0万円 | 3.4万円 |
| 月84万円 | 1,008万円 | 15.0万円 | 4.6万円 |
| 月90万円 | 1,080万円 | 15.0万円 | 4.6万円 |
| 月100万円 | 1,200万円 | 15.0万円 | 9.2万円 |
※ 事業所得1,800万円の法人・東京23区・40〜64歳・配偶者あり(収入なし)・子1人(15歳以下)・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
※ 手取りの増加=所得税(復興特別所得税を含む)と住民税の減少。計算は scripts/shotoku-kingaku-chosei-kojo.mjs で再現できます
満額の15万円が手取りを増やすのは年4.6万円です。控除15万円に、所得税率20%(復興特別所得税を含めて20.42%)と住民税10%を掛けた額にあたります。
表の最後の行だけ9.2万円と大きいのは、後で説明する配偶者控除の線が関係しているためです。
最適な役員報酬は、ほとんど動かない
では、この控除を計算に入れると、手取りが最大になる役員報酬は変わるのか。当サイトの計算エンジンは月5万円から100万円まで1万円刻みで総当たりしています。同じ総当たりを、所得金額調整控除を入れて計算し直しました。
| 事業所得 | 控除なし:最適報酬 | 控除なし:手取り | 控除あり:最適報酬 | 控除あり:手取り | 差 | 個人のまま |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1,200万円 | 月54万円 | 787.5万円 | 月54万円 | 787.5万円 | 0.0万円 | 752.6万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | 971.9万円 | 月54万円 | 971.9万円 | 0.0万円 | 906.5万円 |
| 1,800万円 | 月90万円 | 1,149.0万円 | 月90万円 | 1,153.6万円 | 4.6万円 | 1,060.4万円 |
| 2,100万円 | 月90万円 | 1,330.4万円 | 月90万円 | 1,335.0万円 | 4.6万円 | 1,213.1万円 |
| 2,500万円 | 月95万円 | 1,544.2万円 | 月95万円 | 1,549.2万円 | 5.0万円 | 1,376.1万円 |
※ 前提は上の表と同じ。手取り=役員個人の手取り+法人に残る額(引出コスト20%控除後)
読み取れることは2つです。
1つめは、事業所得1,500万円までの帯では、この控除は関係ないことです。手取りが最大になる役員報酬は月54万円(年648万円)で、850万円に届きません。控除を取りに報酬を上げると、社会保険料と所得税率の上昇のほうが大きく、手取りは減ります。月54万円が最適になる理由は役員報酬の最適額の記事で説明しています。
2つめは、事業所得1,800万円以上では、控除なしでも最適報酬が850万円を超えているので、控除は上乗せとしてそのまま付くことです。最適報酬の位置は変わらず、手取りが4.6〜5.0万円増えるだけです。
判定ツールはこの控除を計算に入れていません。役員報酬が850万円を超える結果が出た人で、23歳未満の子などがいる場合は、表の差額分だけ法人化の手取りが多くなると読んでください。計算の前提は計算方法のページに公開しています。
合計所得金額が下がるので、1,000万円の線をまたぐことがある
この控除には、もう1つの効き方があります。所得控除ではなく給与所得を減らすので、合計所得金額も下がることです。
合計所得金額で判定される控除のうち、役員報酬の設計で問題になりやすいのが配偶者控除です。国税庁No.1191によると、配偶者控除は本人の合計所得金額が1,000万円を超えると使えません。
給与収入1,200万円(月100万円)の給与所得は1,005万円で、1,000万円を5万円超えます。配偶者控除は0円です。所得金額調整控除15万円を引くと給与所得は990万円になり、1,000万円以下に戻ります。上の表で月100万円のときだけ手取りの増加が9.2万円と大きかったのは、所得金額調整控除の分に、残った配偶者控除の分が加わったためです。
給与収入で言えば、1,195万円から1,210万円の間(月100万円前後)がこの帯です。ちょうどこの位置に役員報酬を置く人は限られますが、年の途中で報酬を上げ下げする場合は意識しておく価値があります。配偶者控除が消える線については年収の壁178万円と役員報酬の記事でも触れています。
まとめ
- 所得金額調整控除は、給与収入850万円超で23歳未満の扶養親族や特別障害者がいる人の給与所得から、最大15万円を差し引く
- 事業所得には適用がない。個人事業主には存在せず、法人化して役員報酬が月71万円以上になると効き始め、月84万円で満額
- 15歳以下の子でも対象。夫婦ともに給与収入850万円超なら2人とも使える
- 事業所得1,500万円までは最適報酬が月54万円で850万円に届かず、関係ない。1,800万円以上では手取りが年4.6〜5.0万円増える
- 合計所得金額も下がるため、給与収入1,195万〜1,210万円の帯では配偶者控除が残る
一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。判定ツールで出た最適報酬が年850万円を超えていて子どもがいる人は、その結果に年4〜5万円を上乗せして読んでください。
よくある質問
一人社長の場合、年末調整でこの控除を受けられますか。
受けられます。国税庁のタックスアンサーNo.2676によると、その年最後の給与の支払を受ける日の前日までに「所得金額調整控除申告書」を給与の支払者(自分の会社)に提出します。役員報酬の年額が850万円を超えるかどうかは、年末調整の対象となる給与の総額で判定します。
住民税にも所得金額調整控除はありますか。
あります。控除は給与所得の金額から差し引く形なので、住民税の所得割の計算でも給与所得が減ります。東京都主税局の個人住民税の説明にも、給与所得の計算の中に同じ控除が載っています。
子どもが大学生でアルバイト収入がある場合はどうなりますか。
子が扶養親族(令和8年分は合計所得金額62万円以下)に当たれば対象です。所得がそれを超えて特定親族特別控除の対象になっている場合は扶養親族ではないため、その子を理由にこの控除は受けられません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。