税金の基礎

一人社長の会社に留保金課税はかからない。括弧書きで外れる

結論

特定同族会社の留保金課税(法人税法67条)は、資本金1億円以下の会社については大法人の100%子法人等と大通算法人に限って適用されます。一人社長の会社は通常これに当たらないため、利益を会社にいくら残しても留保金課税は生じません。仮に対象でも、留保控除額の定額基準は年2,000万円です。

  • 税率は留保控除額を超える部分に対し、年3,000万円以下10%・3,000万円超1億円以下15%・1億円超20%(法人税法67条1項)
  • 判定は各事業年度に留保した金額で行う。過去に積み上がった内部留保の残高そのものは判定に入らない
  • 売上1,200万円・役員報酬月10万円でも、1年の留保金額は662.0万円で定額基準2,000万円に届かない

「会社に利益を貯め込むと、内部留保に税金がかかる」という説明を見たことがあるかもしれません。この制度は実在します。法人税法67条の特定同族会社の特別税率、いわゆる留保金課税です。

ただし、一人社長の会社はこの制度の入口で外れます。外れる理由は条文の本文ではなく、括弧書きの中にあります。

制度としては、通常の法人税に上乗せして課税される

法人税法67条1項は、特定同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合、通常の法人税額に次の金額を加算すると定めています。

留保控除額を超える部分の留保金額税率
年3,000万円以下の金額10%
年3,000万円超・年1億円以下の金額15%
年1億円超の金額20%

法人税とは別に、上乗せで課される税です。配当せずに会社へ利益を留保することで、株主個人の配当課税を先送りできる構造への対応として置かれています。

資本金1億円以下の会社は、括弧書きで対象から外れる

67条1項は、特定同族会社を次のように定義しています。被支配会社であり、判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合にはその法人を除外して判定してもなお被支配会社となるもの、そして——ここからが本題です——資本金の額または出資金の額が1億円以下であるものにあっては、66条5項2号から5号までに掲げるものおよび66条6項に規定する大通算法人に限る、とされています。

つまり資本金1億円以下の会社は、次のいずれかに当たるときだけ特定同族会社になります。

66条5項の号内容
2号資本金5億円以上の法人など「大法人」との間に、その大法人による完全支配関係がある普通法人
3号完全支配関係がある全ての大法人の株式を1社が持つとみなした場合に、その1社による完全支配関係が生じる普通法人
4号投資法人
5号特定目的会社

これに大通算法人(通算グループ内に資本金1億円超の法人などがある場合の通算法人)が加わります。

自分で出資して作った資本金100万円の合同会社や株式会社は、どれにも当たりません。 大企業の100%子会社でもなく、投資法人でも特定目的会社でもなく、グループ通算制度も使っていないからです。

被支配会社の定義(同条2項)は、株主等の1人とその特殊関係者が発行済株式の50%超を持つ会社です。一人社長の会社は100%所有なので、当然これに当たります。被支配会社には当たるが、規模の括弧書きで特定同族会社から外れる。 これが正確な構造です。

「同族会社だから留保金課税の対象」という説明は、この括弧書きを読み飛ばしています。

仮に対象だったとしても、留保控除額で消える

もう一段、安全弁があります。留保金課税は留保金額そのものにかかるのではなく、留保控除額を超える部分にかかります。

67条5項は、留保控除額を次の3つのうち最も多い金額と定めています。

基準金額
所得基準額その事業年度の所得等の金額の40%
定額基準額年2,000万円
積立金基準額期末の利益積立金額が資本金の25%に満たない場合の、その満たない部分の金額

一人会社の規模では、ほぼ常に定額基準額の年2,000万円が最も大きくなります。

売上1,200万円・経費200万円・東京23区・合同会社という条件で、役員報酬を変えたときに法人へ残る税引後の利益を当サイトの計算エンジンで計算しました。

役員報酬法人の課税所得法人税等税引後に法人へ残る額
月10万円813.3万円200.8万円662.0万円
月30万円557.0万円135.6万円452.1万円
月54万円247.6万円62.4万円197.1万円

前提:2026年(令和8年)分の税率・保険料率。東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・合同会社。法人税等には法人住民税の均等割7万円を含みます。

報酬を月10万円まで下げて会社に最大限残しても、1年に留保される額は662.0万円です。定額基準額の2,000万円には届きません。 仮にこの会社が特定同族会社に該当したとしても、留保金課税額は0円です。

積み上がった内部留保は判定に入らない

誤解されやすいのがここです。67条1項は「各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合」と書いています。判定するのはその年に留保した金額であって、貸借対照表に積み上がった利益剰余金の残高ではありません。

10年続けて660万円ずつ留保し、残高が6,600万円になっても、判定に使うのはその年の660万円です。残高が増えたから課税される、という制度ではありません。

貯めると損に見えるのは、留保金課税とは別の理由

留保金課税がかからないなら、役員報酬を下げて会社に貯めたほうが得なのか。そう単純でもありません。

会社に残った利益は、会社のものです。個人が使うには、役員報酬・役員退職金・配当のいずれかで取り出す必要があり、その段階でもう一度課税されます。当サイトの試算では、この取り出しコストを20%として法人側の手取りに反映しています。

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額(取り出しコスト控除後)
月10万円632.5万円102.8万円529.6万円
月30万円650.8万円289.1万円361.6万円
月54万円662.4万円504.8万円157.6万円
月70万円646.8万円625.4万円21.4万円
月100万円519.7万円860.2万円−340.4万円

前提:上の表と同じ条件。個人事業主のままの手取りは657.1万円。

手取り合計が最大になるのは月54万円で、月10万円まで下げると29.9万円減ります。減っている理由は留保金課税ではなく、給与所得控除を使い切れていないことと、取り出しコストです。 報酬を下げれば社会保険料は減りますが、それ以上に法人税と取り出しのコストが乗ります。

最適な報酬額の考え方そのものは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。会社に残した利益を退職金で受け取る方法は役員退職金の引き出し方が主題です。

留保金課税を気にして報酬額を決める必要はありません。決め手になるのは、給与所得控除と社会保険料と取り出しコストの組み合わせです。自分の売上と経費で、どの報酬額が最適になるかを確かめてください。

まとめ

  • 留保金課税は実在する制度(法人税法67条)。税率は年3,000万円以下10%、3,000万円超1億円以下15%、1億円超20%
  • 資本金1億円以下の会社は、大法人の100%子法人等・投資法人・特定目的会社・大通算法人に限って対象になる。一人社長の会社は該当しない
  • 仮に対象でも、留保控除額の定額基準は年2,000万円。役員報酬を月10万円まで下げても1年の留保額は662.0万円で届かない
  • 判定は単年の留保額。積み上がった内部留保の残高は判定に入らない
  • 会社に貯めると手取りが減るのは、留保金課税ではなく取り出しコストと給与所得控除の使い残しが理由

よくある質問

役員報酬を低くして会社に利益を残すと、税務署に指摘されますか。

役員報酬の額は会社が決めるもので、低いこと自体が問題になるわけではありません。留保金課税の対象にもなりません。ただし役員報酬が低いと個人の厚生年金の記録も小さくなり、将来の年金額に影響します。単年の税額だけで決める話ではありません。

資本金を1億円超にすると留保金課税の対象になりますか。

資本金1億円超の同族会社は、規模による除外がなくなるため、被支配会社に当たれば特定同族会社として留保金課税の対象になります。ただし資本金1億円超では法人税の軽減税率や中小企業向けの特例も使えなくなります。一人会社でこの水準の資本金にする実益は、通常ありません。

内部留保が1億円を超えたら課税されますか。

留保金課税の判定は各事業年度に留保した金額で行うもので、貸借対照表に積み上がった残高で判定するものではありません。そもそも一人社長の会社は特定同族会社に当たらないため、残高がいくらであっても留保金課税は生じません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。