設立の手続き
預金保険の1,000万円、個人事業主は事業用口座も合算。法人は別枠
結論
預金保険で保護される一般預金等(利息の付く普通預金・定期預金など)は、1金融機関ごと・預金者1人ごとに合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等です(預金保険法54条、施行令6条の3)。個人事業主の事業用の預金は、屋号付きの口座でも生活用の預金と同一人の預金として合算されます。法人化すると、会社名義の預金は法人という別の預金者として、社長個人の預金とは別に1,000万円まで保護されます。当座預金や無利息型の普通預金などの決済用預金は、個人・法人とも全額保護です。
- 名寄せは「誰の預金か」で行う。夫婦・親子は別の預金者だが、家族の名義を借りた預金は他人名義として保護の対象外になる
- 決済用預金(無利息・いつでも払戻し・決済に使える)は残高にかかわらず全額保護。商売をしていない個人も利用できる
- 売上2,000万円・経費400万円で法人化すると、法人に残る税引後利益は年659.8万円。同じ銀行の一般預金に残し続けると2年目に元本1,000万円を超える
事業が軌道に乗ると、口座の残高が1,000万円を超える時期が来ます。そのとき気になるのが、銀行が破綻した場合に保護される「1,000万円」が、事業用と生活用の口座で別々なのか、法人化すると変わるのかです。条文と預金保険機構の解説で確かめると、分かれ目は口座の数でも用途でもなく、その預金が誰のものかでした。
1,000万円は「1金融機関・預金者1人」ごとの上限
預金保険法54条は、保険金の額を「一の保険事故が発生した金融機関の各預金者等につき」計算すると定めています。同じ人が同じ金融機関に複数の預金を持っていれば合計し、元本の合計が保険基準額を超える部分は保護の範囲から外れます。保険基準額は、施行令6条の3で1,000万円です。
預金保険機構は、破綻した金融機関から預金者のカナ氏名、生年月日(法人は設立年月日)、住所(所在地)などのデータを受け取り、同じ預金者の口座を集約して合算します。これを「名寄せ」と呼んでいます。
保護の範囲は、預金の種類で2つに分かれます。
| 区分 | 主な預金 | 保護の範囲 |
|---|---|---|
| 決済用預金 | 当座預金、無利息型の普通預金など | 全額 |
| 一般預金等 | 利息の付く普通預金、定期預金、定期積金など | 1金融機関ごと・預金者1人当たり、合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等 |
| 対象外 | 外貨預金、譲渡性預金、他人名義・架空名義の預金など | 破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われる(一部カットされることがある) |
保険金の額は、保険事故が起きた日に「現に」持っている預金で計算されます(54条1項)。1,000万円を超えるかどうかは、年間の売上ではなく、破綻した日の残高で決まるということです。
対象になる金融機関は、日本国内に本店がある銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫などです。外国銀行の在日支店は対象外で、農業協同組合などは別の貯金保険制度に入っています。
個人事業主は、屋号付きの事業用口座も本人の預金として合算される
預金保険機構の解説は、個人事業主について次のように整理しています。
- 1個人を1預金者とする。夫婦や親子も別々の預金者になる
- 個人事業主の場合、事業用の預金と事業用以外の預金は、同一人の預金になる
屋号を付けた事業用口座を作っても、その預金の持ち主は事業主本人です。売上の入金口座、経費の引落し口座、生活費の口座、貯蓄用の定期預金が同じ銀行にあれば、利息の付く預金はすべて合算されて元本1,000万円までになります。帳簿の上で事業用と生活用を分けていることは、名寄せには関係しません。
家族の名義に分けても、保護は増えない
夫婦や親子が別の預金者になるなら、配偶者の名義の口座に事業の資金を移せばよいと考えるかもしれません。しかし施行令6条1号は、他人(仮設人を含む)の名義をもって有している預金を保険金の計算から除いています。預金保険機構も、家族の名義を借用している預金(借名預金)は保護の対象外としています。
配偶者が自分のお金を自分の名義で預けている分は、配偶者の預金です。事業主のお金を配偶者の名義で預けると、事業主の預金としても配偶者の預金としても保護されない可能性がある、ということです。
法人でない団体の名義は、構成員に分けられる
複数人で事業をしていて、法人ではない団体の名義で口座を持っている場合は、扱いがさらに変わります。預金保険機構は、判例の要件を満たす「権利能力なき社団・財団」なら1預金者とする一方、それ以外の「任意団体」は1預金者にならず、名義の預金を構成員の持分に応じて分割し、各構成員の他の預金と合算するとしています。破綻したときは、代表者が構成員のデータを持分届出書で提出します。
法人化すると、会社が別の預金者になる
預金保険機構は、法人について「1法人を1預金者とする」としています。よくある質問でも、会社名義の預金と代表者個人の預金がある場合は、それぞれが1預金者として扱われると答えています。合同会社も株式会社も法人なので扱いは同じです。
法人化すると、事業のお金の流れは2つの名義に分かれます。
- 会社の口座:売上が入り、経費・役員報酬・社会保険料・法人の税金が出ていく。残った税引後利益が会社の預金になる
- 社長個人の口座:役員報酬の手取りが入り、生活費が出ていく
当サイトの計算エンジンで、売上ごとに1年で各預金者に入るお金を並べると次のとおりです。生活費を差し引く前の額です。
| 売上 | 経費 | 個人のまま:事業主の手取り | 法人化:役員報酬(月額) | 法人化:社長個人の手取り | 法人化:法人に残る税引後利益 | 1年分の消費税(共通) | 法人化の差額(2年目以降) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 200万円 | 540.7万円 | 54万円 | 504.8万円 | 39.8万円 | 88.0万円 | −24.1万円 |
| 1,500万円 | 300万円 | 774.2万円 | 54万円 | 504.8万円 | 353.6万円 | 132.0万円 | −6.6万円 |
| 2,000万円 | 400万円 | 979.5万円 | 54万円 | 504.8万円 | 659.8万円 | 176.0万円 | +33.1万円 |
| 3,000万円 | 600万円 | 1,364.5万円 | 100万円 | 860.2万円 | 797.3万円 | 264.0万円 | +113.5万円 |
※ 経費は売上の20%、東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録あり・合同会社・最適役員報酬(2年目以降の手取りが最大になる額)。消費税は原則課税で、経費の60%を課税仕入とする概算。法人化の差額は税理士報酬の差(年20万円)を控除後/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/yokin-hoken-kojin-houjin.mjs
売上3,000万円の行では、個人のままなら手取り1,364.5万円がすべて事業主1人の預金になります。法人化すると、社長個人に860.2万円、会社に797.3万円と、別々の預金者に分かれて入ります。同じ銀行に置いても、それぞれが元本1,000万円までの保護を持ちます。
右から2列目の消費税は、個人・法人どちらでも、納付するまでは自分の口座に残っています。破綻の日にたまたま納付前であれば、この分も残高に含まれます。法人成りした年は個人事業の税金の後払いと法人の支払いが重なり、口座残高が月ごとに大きく動きます。その動きは法人成り1年目の資金繰りで月別に並べています。
会社に利益を残すと、数年で1,000万円を超える
法人化の判定で役員報酬を最適化すると、利益の一部を会社に残す形になりやすくなります。会社に残した利益は社長個人の口座には入らず、会社の預金として積み上がります。上の表の税引後利益を、毎年すべて同じ金融機関の一般預金に残した場合の残高は次のとおりです。
| 売上 | 法人に残る税引後利益(年) | 3年後の残高 | 5年後の残高 | 元本1,000万円を超える年 |
|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 39.8万円 | 119.4万円 | 199.0万円 | 26年目 |
| 1,500万円 | 353.6万円 | 1,060.8万円 | 1,768.1万円 | 3年目 |
| 2,000万円 | 659.8万円 | 1,979.3万円 | 3,298.8万円 | 2年目 |
| 3,000万円 | 797.3万円 | 2,391.8万円 | 3,986.4万円 | 2年目 |
※ 前提は上の表と同じ。設備投資・借入金の返済・配当などで利益を使わない場合の単純な積み上げ。
売上2,000万円の行では、2年目に会社の預金が元本1,000万円を超えます。個人のときは生活費として出ていったお金が、法人化すると会社の中に残り続けるためです。社長個人の預金とは別枠ですが、会社の預金の中では一般預金等が合算されることに変わりはありません。
会社に利益を残すと税金で不利になるのではないか、という点は、一人社長の会社に留保金課税はかからないで条文を確認しています。
全額保護を選ぶなら、決済用預金か金融機関の分散
1,000万円を超える残高を守る方法は、法人化に限りません。
決済用預金は、個人でも法人でも全額保護
預金保険法51条の2は、次の3つをすべて満たす預金を「決済用預金」と定め、54条の2で元本の全額を保険金の額としています。
- 契約や取引慣行に基づいて、為替取引(振込・送金)や手形・小切手の決済などに使えること
- 預金者がいつでも払戻しを請求できること
- 利息が付いていないこと
預金保険機構は、企業が営業資金の決済に使う当座預金や、公共料金などの引落しに使う無利息の普通預金がこれに当たるとし、商売をしていない個人も利用できると答えています。決済に使えるかどうかは、実際に引落しに使っているかではなく、預金の商品性で判断されます。
利息の付く普通預金を無利息型に切り替えれば、個人事業主のままでも事業用・生活用を合わせた残高が全額保護の対象になります。代わりに利息は付きません。どの商品が決済用預金に当たるかは金融機関によって違うため、取引している金融機関で確認する必要があります。
1,000万円を超えたとき、どの預金から保護されるか
一般預金等の元本が1,000万円を超えると、54条2項の順序で保護される預金が決まります。
- 担保権の目的になっていないものを先にする
- 弁済期(満期)の早いものを先にする
- 弁済期が同じなら、金利の低いものを先にする
- 金利も同じなら、預金保険機構が指定するもの
保護から外れた部分は、破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われ、一部カットされることがあります。破綻した金融機関から借入れがある場合は、預金者の側から預金と借入金を相殺する意思表示ができると、預金保険機構は説明しています。
なお、金融機関が合併した場合や事業のすべてを譲り受けた場合は、その後1年間に限り、保護の上限が「1,000万円×合併等に関わった金融機関の数」になる特例があります。取引していた2つの銀行が合併すると、1年を過ぎた時点で1行分の上限に戻ります。
預金保険は、法人化するかどうかの理由にはならない
並べると、預金保険の観点で使える手は3つです。
| 方法 | 個人のまま | 法人化 |
|---|---|---|
| 預金者を分ける | 事業用・生活用は同一人。家族名義への移し替えは保護の対象外 | 会社と社長個人が別の預金者 |
| 決済用預金にする | 使える(無利息) | 使える(当座預金など) |
| 金融機関を分ける | 1金融機関ごとに上限 | 1金融機関ごとに上限 |
決済用預金と金融機関の分散は、個人のままでも使えます。法人化で預金者が2つに分かれるのは事実ですが、保護の上限を広げるためだけに法人化する必要はありません。法人化の損得は、表の右端の列にあるとおり、税金と社会保険料の差で決まります。この前提では、売上1,500万円まではマイナスで、2,000万円でプラスに転じています。
法人化して会社の口座を作る段階でつまずきやすいのは、預金保険より口座開設の審査です。何を確認されるかは法人口座が作れない理由で整理しています。自分の売上と経費で、法人化の差額と会社に残る利益がいくらになるかは判定ツールで確かめられ、計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 預金保険の一般預金等は、1金融機関ごと・預金者1人ごとに合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護される。判定は破綻した日の残高で行う
- 個人事業主の事業用の預金は、屋号付きの口座でも生活用の預金と同一人として合算される。家族の名義を借りた預金は保護の対象外
- 法人化すると、会社名義の預金と社長個人の預金はそれぞれ別の預金者として扱われる
- 売上2,000万円・経費400万円の前提では、会社に残る税引後利益は年659.8万円で、同じ銀行の一般預金に残し続けると2年目に1,000万円を超える
- 決済用預金(無利息・いつでも払戻し・決済に使える)は個人・法人とも全額保護。預金保険のためだけに法人化する必要はなく、損得は税金と社会保険料の差で確かめる
よくある質問
同じ銀行で、屋号付きの口座と個人の口座を分けていれば、それぞれ1,000万円まで保護されますか
されません。預金保険機構は、個人事業主の事業用の預金と事業用以外の預金は同一人の預金になるとしています。利息の付く預金は合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護の範囲です。
会社の口座と社長個人の口座が同じ銀行にあると、合算されますか
合算されません。預金保険機構は、1法人を1預金者とし、会社名義の預金と代表者個人の預金はそれぞれが1預金者として扱われるとしています。合同会社も法人なので同じ扱いです。
銀行が破綻したら、事業の支払いに使うお金はすぐ引き出せますか
預金保険法は、本来の保険金とは別に仮払金の仕組みを置いており、施行令は上限を60万円、対象を普通預金の元本としています。預金保険機構は、救済金融機関へ引き継ぐ方式の場合、金曜日に破綻すれば翌週月曜日から払い戻せるよう努めるとしています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。