税金の基礎
NISAは法人で使えない。報酬を増やしてNISAか、会社で運用か10年比較
結論
売上1,500万円・経費300万円の一人社長(東京23区)が、会社で毎年200万円を余分に使える場合、報酬を上げてNISAで10年運用すると利回り3%で約1,297万円、会社で運用して役員退職金で受け取ると約1,598万円(清算時)で、会社運用のほうが約300万円多く残る計算です。差の主因は運用益の課税ではなく、報酬を上げたときの社会保険料と所得税です。
- NISA口座を開けるのは日本国内に住む18歳以上の個人だけ。法人の運用益は本業の利益と合算して法人税等がかかる
- 会社の負担が年202.8万円増える報酬増(月54万→69万円)で、本人の手取りは年113.1万円しか増えない。NISAに回せる元手がここで約4割減る
- 会社運用が有利になるのは、退職所得控除と2分の1課税が使える役員退職金で受け取る前提。退職金の額が過大と見られれば前提が崩れる
結論ブロックの数字は、「NISAなら運用益が非課税だから個人で運用したほうが得」という直感と逆に見えるはずです。理由は単純で、NISAに入れる元手を作る段階のコストが、運用益の非課税よりずっと大きいからです。この記事では、その内訳を判定ツールの計算エンジンで分解します。
法人で株式投資をしたときの税率そのもの(本業の利益別の限界税率)は、法人で株式投資すると税金は20.315%より高いかで扱いました。ここでは「NISAとの比較」と「10年後にいくら手元に残るか」に絞ります。
NISAは個人専用。法人の運用益には優遇がない
金融庁の説明では、NISA口座を開設できるのは日本国内に住む18歳以上の人です(利用する年の1月1日時点)。2024年からのNISAの年間投資枠は、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の合計で最大360万円です。生涯の非課税保有限度額は1,800万円で、そのうち成長投資枠は1,200万円が上限です。
法人名義の口座には、NISAに当たる制度がありません。法人が投資信託や株式を売って得た利益は、本業の利益と合算して法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税の対象になります。個人の課税口座なら、上場株式等の譲渡益は所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%の合計20.315%です。
ここまでは、どの解説にも書いてあります。問題は、一人社長が「会社に残した利益をどう運用するか」を考えるとき、比べる相手が「NISA」単体ではないことです。
- 会社のお金を個人のNISAに入れるには、まず役員報酬として個人に移す必要がある
- 役員報酬を上げると、所得税・住民税に加えて健康保険・厚生年金の保険料が労使両方で増える
- 会社に残したお金は、最後に役員退職金として受け取れば、退職所得控除と2分の1課税が使える
つまり比較は「法人の運用益課税 対 NISAの非課税」ではなく、「入口のコスト+出口のコスト」込みで考える必要があります。
比較の設定:会社が毎年200万円を余分に使える場合
判定ツールの計算エンジンで、次の条件を置きました。
- 売上1,500万円・経費300万円、東京23区、40歳未満・単身、青色申告(e-Tax)、インボイス登録済み、合同会社
- ツールが出す最適な役員報酬は月54万円。このとき役員報酬を払った後の会社の利益(税引前)は459.5万円
- この状態から、会社が毎年あと200万円(役員報酬を払う前の金額)を使えるとして、2通りに配分する
| ① 会社で運用する | ② 報酬を上げてNISAで運用する | |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 月54万円のまま | 月69万円に上げる |
| 200万円の行き先 | 会社に残し、法人税等を払って会社名義で運用 | 報酬と会社負担の社会保険料に充てる |
| 毎年の運用元本 | 153.6万円(法人税等46.4万円を引いた後) | 113.1万円(本人の手取りの増加分) |
| 10年後の受け取り方 | 全額を役員退職金で受け取る | NISA口座の評価額をそのまま使う |
②の月69万円は、会社の負担(報酬+会社負担の社会保険料)の増え方が200万円に最も近くなる月額です。実際の増加は202.8万円です。
報酬を上げると、200万円のうち手取りになるのは113万円
②で手取りが113.1万円しか増えない内訳は次のとおりです。
| 項目 | 月54万円のとき | 月69万円のとき | 増加 |
|---|---|---|---|
| 会社負担の社会保険料 | 92.5万円 | 115.3万円 | 22.8万円 |
| 本人負担の社会保険料 | 90.2万円 | 112.5万円 | 22.3万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 18.6万円 | 49.4万円 | 30.8万円 |
| 住民税 | 34.4万円 | 48.2万円 | 13.8万円 |
※ 2026年(令和8年)分基準。社会保険料は協会けんぽ東京支部の料率と子ども・子育て支援金を含む
会社が払った202.8万円のうち、社会保険料が労使合計で約45万円、所得税・住民税で約45万円抜けます。NISAの非課税が効くのは、この後に残った113.1万円だけです。
一方、①で会社に残す200万円には法人税等が46.4万円かかります。限界税率は約23%です。役員報酬を払った後の利益が800万円以下に収まっているため、法人税の軽減税率の範囲に入っています。入口のコストは、①の約23%に対して②は約44%です。
10年後の手取り:利回りの仮定別
毎年末に元本を積み立て、利回りは一定の複利としました。利回りは仮定であり、将来の運用成果を示すものではありません。 ①の法人は10年間売却も分配もせず、10年目末に売却して全額を役員退職金として支払う前提です。
| 利回り(仮定) | ①会社の運用額(10年後) | ①退職金にかかる税 | ①手取り(清算時など) | ①手取り(退職金の損金を全額活用) | ②NISAの評価額 | 参考:②を課税口座で運用 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0% | 1,536.2万円 | 129.2万円 | 1,407.1万円 | 1,738.1万円 | 1,131.3万円 | 1,131.3万円 |
| 1% | 1,607.2万円 | 140.0万円 | 1,467.3万円 | 1,798.3万円 | 1,183.6万円 | 1,173.0万円 |
| 3% | 1,761.1万円 | 163.4万円 | 1,597.7万円 | 1,928.7万円 | 1,296.9万円 | 1,263.3万円 |
| 5% | 1,932.2万円 | 191.6万円 | 1,740.7万円 | 2,071.7万円 | 1,423.0万円 | 1,363.7万円 |
※ 売上1,500万円・経費300万円・東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。退職金は役員勤続10年(退職所得控除400万円、2分の1課税)、所得税は復興特別所得税を含み、住民税10%。課税口座は10年後に一括売却し、利益に20.315%
利回り3%の場合、②NISAは約1,297万円、①会社運用は清算時の前提でも約1,598万円です。差は約300万円で、①が上回ります。 利回りを5%にしても差は約318万円で、ほとんど縮みません。
NISAの非課税の効果は、右端の課税口座との差で見ると分かります。利回り3%で33.6万円、5%で59.3万円です。報酬を上げる段階で毎年約90万円が税と社会保険料に回っているので、10年でその差を取り返すことはできません。
「退職金の損金を全額活用」の意味
役員退職金は、相当な金額であれば会社の損金になります。①の会社は10年目に売却益と退職金を同じ年度に計上するので、売却益への法人税等は退職金で相殺されます。
相殺しきれない部分は欠損金になります。青色申告の法人は、欠損金を10年間繰り越して後の年度の所得から差し引けます。表の「清算時など」は、この欠損金を使える利益が後に出ない場合です。「損金を全額活用」は、会社が存続して毎年459.5万円の利益を出し続け、欠損金をすべて使い切れた場合です。この場合、法人税等が合計331.0万円減ります(割引なしの単純合計)。実際の手取りは、2つの列の間のどこかになります。
会社運用が有利になる前提と、崩れる条件
表の結果は、①の出口が役員退職金であることに強く依存しています。退職所得は、勤続年数に応じた退職所得控除(勤続20年までは1年40万円、最低80万円)を差し引いた残りの2分の1にだけ課税されます。勤続10年なら控除は400万円です。
この前提が崩れる条件は次のとおりです。
役員勤続5年以下なら2分の1課税がない
国税庁の説明では、役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金(特定役員退職手当等)には、2分の1課税が適用されません。設立して数年で受け取る計画なら、①の手取りは表より大きく下がります。
退職金の額が「相当」でなければ損金にならない
設例の①では、最終報酬月54万円・勤続10年で約1,761万円(利回り3%)を退職金にしています。役員退職金が損金になるかは、最終報酬・勤続年数・功績倍率などから見て相当な額かで判断されます。考え方は役員退職金の功績倍率にまとめています。運用がうまくいって会社の資産が膨らんでも、その全額を退職金で出せるとは限りません。
配当で受け取ると話が変わる
配当は会社の損金にならず、受け取った個人では総合課税です。10年分をまとめて配当で受け取れば、高い累進税率がかかります。報酬と配当の負担の違いは役員報酬と配当はどっちが得かで比べています。
お金を使える時期が違う
NISAの資産はいつでも売却して使えます。会社に残した資産は、退職するまで個人のお金として自由には使えません。途中で引き出せば役員報酬・配当・貸付金のいずれかになり、①の前提は成り立ちません。住宅購入や教育費など、10年以内に個人で使う予定があるお金には、①の比較は当てはまりません。
報酬を上げる側に残る価値:厚生年金
②では社会保険料が労使で年約45万円増えますが、そのうち厚生年金保険料の分は、将来の老齢厚生年金の受給額に反映されます。健康保険の傷病手当金や出産手当金の基準も上がります。表の手取りはこの将来価値を含んでいません。
また、この記事の比較は「追加で使える200万円の配分」だけを見ています。ツールが出す最適報酬(月54万円)より報酬を下げて会社に多く残すと、今度は会社の利益が800万円を超えて法人税の限界税率が上がる局面があります。会社に残す額を増やすほど有利になるわけではありません。どこが最適かは売上と経費で変わるので、自分の数字で役員報酬別の内訳を確かめてください。
まとめ
- NISAは日本国内に住む18歳以上の個人専用で、年間360万円・生涯1,800万円が上限。法人の運用益には本業の利益と合算して法人税等がかかる
- 会社のお金をNISAに回すには報酬を上げる必要があり、設例では会社負担202.8万円の増加に対し手取りの増加は113.1万円だった
- 利回り3%・10年の仮定で、NISAは約1,297万円、会社で運用して役員退職金で受け取ると約1,598万〜1,929万円になった
- 会社運用の有利さは、勤続5年超・相当な額の役員退職金で受け取れることが前提。配当で受け取る場合や、途中で個人が使う場合は当てはまらない
- 報酬を上げた分の厚生年金は将来の給付に反映されるので、単年・10年の手取りだけで判断しない
よくある質問
一人社長が自分のNISA口座に会社のお金を入れてもよいですか?
会社のお金を社長個人の口座に移せば、役員報酬(定期同額でなければ損金不算入)か、会社から社長への貸付金になります。NISAで運用できるのは、役員報酬などで個人が受け取り、税と社会保険料を払った後のお金です。
法人で運用した利益を配当で受け取るとどうなりますか?
配当は会社の損金にならず、受け取った個人では総合課税の対象になります(配当控除あり)。一度に大きな額を受け取ると高い税率がかかるため、まとまった金額の受け取り方としては退職金と比べて不利になりやすい点に注意が必要です。
NISAの生涯の上限1,800万円は、報酬を増やして積み立てれば何年で埋まりますか?
生涯の非課税保有限度額は1,800万円、年間の投資枠は360万円です。この記事の設例のように手取りが年113万円増えて全額をNISAに回す場合、10年で約1,131万円で、上限には届きません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。