設立の手続き

退職勧奨と解雇の違いは?一人会社が従業員に辞めてもらうときの線引き

結論

解雇は会社が一方的に労働契約を終わらせることで、30日前の予告(または解雇予告手当)と、客観的に合理的な理由が必要です。退職勧奨は会社が退職を勧め、従業員が同意して契約を終える「合意解約」で、解雇の規制は受けません。ただし雇用保険ではどちらも会社側の理由による離職(特定受給資格者)として扱われ、自己都合にはなりません。月給30万円・勤続7年・38歳なら、基本手当は自己都合の56.8万円に対し113.5万円です。

  • 退職勧奨に応じるかは従業員の自由。断られたら、それ以上は解雇の問題になる。執拗な勧奨は違法な権利侵害とされた裁判例もあると厚労省は案内している
  • 退職勧奨による離職は、ハローワークの判断基準で特定受給資格者に入る。所定給付日数は自己都合の90日から、年齢と勤続により最大330日に延びる
  • キャリアアップ助成金は、一定期間内に解雇等の事業主都合で離職させた事業主を対象外にしている。従業員が数人の会社でも、1人の解雇で対象外になり得る

従業員が1〜3人の会社では、1人の退職がそのまま事業に響きます。だからこそ「辞めてもらう」場面で、解雇と退職勧奨のどちらで進めるかの違いを、法律・雇用保険・助成金の3方向から知っておく必要があります。結論から言えば、両者は法律上の性質がまったく違う一方で、雇用保険の上ではどちらも会社側の理由による離職として扱われます。

解雇は一方的な通告、退職勧奨は「お願い」

労働契約の終わり方は、大きく3つに分かれます。中央労働委員会の調整事例集は次のように整理しています。

終わり方誰の意思で終わるか解雇の規制(労基法19・20条、労契法16条)
辞職(自己都合退職)従業員の一方的な意思表示受けない
合意解約(退職勧奨に応じた退職を含む)会社と従業員の合意受けない
解雇会社の一方的な意思表示受ける

退職勧奨とは、会社が「辞めてくれないか」と退職を勧めることです。従業員がそれを受け入れて辞めれば合意解約になり、解雇ではありません。厚労省の労働法ハンドブックは、退職勧奨に応じるかは労働者の自由で、その場で答える必要もないと説明しています。

一方の解雇は、会社が一方的に契約を終わらせます。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です(労働契約法16条)。さらに少なくとも30日前の予告か、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)が必要です(労働基準法20条)。

「応じてしまえば有効」になるのが退職勧奨

厚労省のハンドブックには、次の一文があります。退職勧奨は応じてしまうと、解雇と違って合理的な理由がなくても有効になる、というものです。

会社にとっては、解雇の正当性を争われにくい方法に見えます。ただ、これは従業員が自由な意思で同意したことが前提です。同意を得るまでの進め方そのものに、別の線が引かれています。

勧奨が行き過ぎると「退職強要」になる

厚労省は、退職勧奨の行為が労働者の自由な意思決定を妨げるほどに過度な場合は「退職強要」とみなされると定義しています。ハンドブックも、多数回・長期にわたる退職勧奨が違法な権利侵害に当たるとされた裁判例があると案内しています。

中央労働委員会の調整事例には、退職勧奨を受けた労働者が「応じなければ解雇される」と受け止めて退職届を出し、のちに退職の意思表示の有効性が争われたケースが載っています。この事例は、離職理由を会社都合に改めることで解決しました。

一人会社の社長が自分で話をする場合、気をつけたいのは次の点です。

  • 断られたら、勧奨を続けるかどうかを改めて考える。「応じなければ解雇」と受け取られる言い方は、自由な同意を疑わせる
  • 回答期限を短く切らない。ハンドブックは「その場ですぐ答える必要はない」と労働者側に案内している
  • 退職日、退職金の上乗せ、有給休暇の消化、離職理由の扱いを書面に残す

どこからが違法な勧奨になるかは、回数・期間・言動などの個別の事情で決まります。ここでは線引きの考え方を示すにとどめます。

雇用保険では、退職勧奨も解雇も「会社都合」

法律上の性質は違っても、雇用保険の離職理由では両者は近い扱いになります。ハローワークが使う「雇用保険に関する業務取扱要領」は、特定受給資格者(倒産・解雇等による離職者)の範囲に次の2つを並べています。

  • 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く)
  • 事業主から退職するよう勧奨を受けたこと(人員整理等に伴う退職勧奨のほか、一定の希望退職募集への応募を含む)

同じ要領は、解雇予告を受けた後(1年以内に解雇される場合に限る)に自分から辞めた場合も、事業主から直接の退職勧奨があったものとして扱うとしています。「解雇予告をしたら本人が先に辞表を出したので自己都合」という処理は、この基準と合いません。

厚労省のハンドブックも、退職勧奨に応じて退職した場合は自己都合による退職にはならないと明記しています。

重大な理由による解雇(重責解雇)だけは別

例外は、従業員本人の責めに帰すべき重大な理由による解雇です。この場合は特定受給資格者から外れ、自己都合退職と同じく給付制限の対象になります。懲戒解雇なら必ずここに当たる、というわけではなく、該当するかはハローワークが判断します。

離職理由はハローワークが決める

会社は離職証明書に離職理由を書きますが、それで確定するわけではありません。業務取扱要領によると、離職理由が「事業主からの働きかけによるもの」の場合や、会社と本人の主張が食い違う場合は、ハローワークが客観的な資料や本人の申立てを聞いて認定します。

中労委の事例には、会社が自己都合として出した離職票に本人が納得せず、あっせんで会社都合に訂正された例があります。退職の合意書に「本人の申出による」とだけ書いておけば自己都合になる、とは限らないということです。離職証明書の書き方そのものは退職証明書と離職票の記事で扱っています。

基本手当の差は、月給30万円・勤続7年で56.8万円

離職理由で変わるのは、主に次の3点です。

項目自己都合退職退職勧奨・解雇(特定受給資格者)
受給に必要な被保険者期間離職前2年間に12か月以上離職前1年間に6か月以上でも可
給付制限待期7日の後、原則1か月(5年間で3回以上なら3か月)なし
所定給付日数(勤続10年未満)90日年齢と勤続により90〜270日

給付制限は、令和7年4月から原則2か月が1か月に短縮されました。古い資料には2か月や3か月と書かれていることがあるので注意が必要です。

所定給付日数は、特定受給資格者の場合、離職日の年齢と勤続(算定基礎期間)で次のように決まります。

離職日の年齢1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
30歳未満90日90日120日180日-
30歳以上35歳未満90日120日180日210日240日
35歳以上45歳未満90日150日180日240日270日
45歳以上60歳未満90日180日240日270日330日
60歳以上65歳未満90日150日180日210日240日

自己都合退職などの一般の受給資格者は、勤続10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日です。

月給別の試算

令和8年8月1日以降の基本手当日額の計算式で、38歳の従業員が辞めた場合を計算しました。

月給勤続賃金日額基本手当日額自己都合(90日)退職勧奨・解雇(特定受給資格者)差
250,000円3年8,333円5,775円52.0万円86.6万円(150日)34.6万円
250,000円7年8,333円5,775円52.0万円104.0万円(180日)52.0万円
300,000円3年10,000円6,307円56.8万円94.6万円(150日)37.8万円
300,000円7年10,000円6,307円56.8万円113.5万円(180日)56.8万円
400,000円3年13,333円6,744円60.7万円101.2万円(150日)40.5万円
400,000円7年13,333円6,744円60.7万円121.4万円(180日)60.7万円

前提:離職時38歳、月給のみ(賞与・残業なし)。賃金日額=離職前6か月の賃金÷180、基本手当日額は令和8年8月1日以降の計算式(30〜44歳)で円未満切り捨ての概算。所定給付日数は業務取扱要領50301(令和7年4月)。表は scripts/taishoku-kanshou-kaiko-chigai.mjs で再生成できます。

月給が上がっても差があまり広がらないのは、賃金日額が13,490円を超えると給付率が50%に下がり、日額が頭打ちに近づくためです。差を大きく動かすのは月給よりも年齢と勤続で、45歳以上で勤続20年以上なら、自己都合150日に対して330日になります。

この金額は会社が払うものではなく、雇用保険から本人に支給されます。ただ、従業員にとっては離職理由1つで数十万円が変わるため、退職の話し合いでいちばん揉めやすい点でもあります。

会社側の違い:解雇予告手当と助成金

解雇予告手当は、退職勧奨ならかからない

解雇なら、30日前の予告か解雇予告手当が必要です。月給25万円なら手当はおおむね24.5万円になります(計算方法は解雇予告手当の記事)。採用から14日以内の試用期間中の場合の扱いは試用期間と解雇予告の記事にまとめています。

退職勧奨による合意解約は解雇ではないため、解雇予告の規定は適用されません。その代わり、同意を得るために退職金の上乗せなどを提示することは珍しくありません。いくら払うかに法律上の決まりはありません。

助成金は「解雇等」で対象外になる期間がある

見落とされやすいのが助成金です。中労委の事例集も、事業主は解雇等を行っていると雇用保険関係の助成金の受給資格を失う場合がある、と指摘しています。

例えばキャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給要領(令和6年6月17日版)には、次の2つの要件があります。

  • 転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、雇用保険の被保険者を解雇等事業主の都合により離職させた事業主でないこと
  • 同じ期間に、特定受給資格者のうち一定の離職区分で受給資格の決定を受けた人の割合が6%を超えていないこと(その人数が3人以下なら除く)

2つ目の割合の要件には「3人以下なら除く」という例外があるため、小さな会社はほぼ引っかかりません。ところが1つ目の要件には人数の例外がありません。従業員が2〜3人の会社でも、1人を解雇すると、その前後おおむね6か月に行う正社員転換が対象外になり得るということです。

退職勧奨による離職がこの「解雇等事業主の都合」や上の離職区分にどう当てはまるかは、要領の文面だけでは確定できませんでした。助成金の申請を予定しているなら、退職の話を始める前に労働局へ確認しておくのが確実です。要件は年度ごとに改正されるので、申請時点の支給要領を見てください。

一人会社で辞めてもらうときの順番

ここまでをまとめると、手順は次のようになります。

  1. 辞めてもらいたい理由を書き出し、解雇に必要な合理的な理由があるか、話し合いで合意を目指すのかを決める
  2. 退職勧奨で進めるなら、条件(退職日・上乗せ額・有給休暇・離職理由)を準備し、回答期限に余裕を持たせる
  3. 合意できたら合意書を交わし、離職証明書には実態どおり「事業主からの働きかけによるもの」として記載する
  4. 合意できず解雇に進むなら、30日前の予告か解雇予告手当を用意する
  5. 助成金の申請を予定しているなら、その対象外期間に入らないかを確認する

人を雇うと、給与のほかに社会保険料・労働保険料と、こうした労務の判断が会社に乗ります。法人化して従業員を雇う前提で手取りを比べるなら、人件費を経費に入れた条件で一度計算しておくと、規模の感覚がつかめます。判断が僅差なら、個別の事情を社会保険労務士などの専門家に確認する価値があります。

まとめ

  • 解雇は会社の一方的な契約解除で、合理的な理由と30日前の予告(または解雇予告手当)が必要。退職勧奨は従業員の同意による合意解約で、解雇の規制は受けない
  • 勧奨が自由な意思決定を妨げるほど過度になると「退職強要」とみなされる
  • 雇用保険では、退職勧奨に応じた退職も解雇も特定受給資格者。給付制限がなく、38歳・勤続7年・月給30万円なら基本手当は56.8万円から113.5万円に増える
  • キャリアアップ助成金は、一定期間内に解雇等で離職させた事業主を対象外にしており、この要件には人数の例外がない

よくある質問

退職勧奨に応じて退職した従業員の離職票は、自己都合と書いてよいですか?

厚生労働省は、退職勧奨に応じて退職した場合は自己都合による退職にはならないと案内しています。離職証明書の離職理由は「事業主からの働きかけによるもの」に当たり、事業主と本人の主張が違えばハローワークが資料や申立てを聞いて判断します。

退職勧奨なら解雇予告手当は払わなくてよいのですか?

退職勧奨は従業員の同意による合意解約で、解雇ではないため、労働基準法20条の解雇予告の対象ではありません。ただし同意を得るために退職金の上乗せなどを提示するのは自由で、条件は合意書に残しておくのが一般的です。

社長自身が会社を辞める場合も、会社都合の失業手当はもらえますか?

社長などの役員は原則として雇用保険の被保険者ではないため、役員を退任しても基本手当の対象になりません。この記事の区別は、雇っている従業員に関する話です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。